たちどまれるくらいなら
あなたと逢える日までの
永さを感じるはずがない
忘れられるくらいなら
あなたとの愛を
かくしとおすこともない
もし出逢いの日にまで戻ってゆけたとしても
わたしはやはり
あなたから目をそらすことはできずに
重い愛を背負うだろう
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more
わたしがあなたに
気づいた時と
あなたがわたしに
気づいた時の
違い
ワタシの方が先ヨと
少し自慢げにあなたは言う
他からみれば
馬鹿馬鹿しいことが
わたしたちの
楽しい口争いのもとになる
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more
僕が現在いま一番嫌いな言葉は
浮 気
と
うわさ
だ
*
この頃、孤りで飲むことが好きになった。友人たちの遊び話を聞くのが苦痛になった。誰々にもてたとか、海外ではこうだったとか以前は笑いながら聞けた話が、うっとうしくなった。
心になんのかげりもなく、女のひとをただ女としてつき合える友人たちが不思議にも思える。
しかし、心と心の触れあいからそうなっていっても、そうでないに . . . Read more
閉じた瞳のなかに
あなたが座っている
ほっそりとした肩を
すこしおとして座っている
後姿なのは
あなたの悲しげな顔を
知らないせいだ
もの淋しい風景なのに
わたしは
妙にはなやいでいる
わたしはあなたの想いのまんなかに
まっすぐに立っているのだ
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more
あなたの想いを
両掌に包むと
とまどいは諦めきって
どこかへいってしまった
信じられないと呟きながら
わたしはあなたの想いを
そっと心の奥におとした
華やかに彩られた時間に
微笑んで浮かんでいる
あなたが
わたしのためにさざめく波を抱いていた
わたしは心の奥におとした
あなたの想いを
もう一度みつめなおして
夢を信じた
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more
洞くつのなかからみる
夏の朝のように
あなたはきらめいていた
遠くみつめていると
わたしの心のなかに
はるか彼方から戻ってくる
やさしい吐息を感じた
それだけで
満足しなくてはならなかったのに
あなたは
わたしに想いを投げた
あなたはいたずら好きですか
人目につかない路を歩くのが
似合うわたしに
想いを投げたなんて──
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more
同じながさで一日が終わるという
なにげない幸せに気づいたのは
あなたが旅に出るという
手紙を読んだからだ
四日というごく短い時間が
暗い霧のむこうに浮かんでいて
渡ってゆくすべもない哀しみを
心は残してゆきますという
あなたの言葉に深く包みこんで
わたしは
ふりそそぐ光のなかに
いつもよりほがらかな顔をして
真夜中の汽笛を鳴らした
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more
ふたりきりで
せめて一日を渡ってみたいという
希いは
わたしたちの間に
ぽっかりと浮かんだまま
ながい時間をくぐっている
夢とは思いたくない
ふたりの心に
ひとしずくの悲しみをおとして──
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more
アッという間に過ぎてしまうさと
わたしはわたしに<rb>微笑</rb><rp>(</rp>わら<rp>)</rp>った
淋しさは
酒のうえに絶え間なく
浮かんでいるので
わたしはいつも
酒よりも先に
淋しさを飲まなくてはならないので
酔いははるかかなたから
蒼くぶ厚いコートを
わたしの心に投げかけて
横を向いてしまった
. . . Read more
想いが触れ合った瞬間から
暗い森に囲まれた
ひとすじの路を歩かなくてはならないのは
わかっていた
途中で戻ろうと振りむいても
路は
かき消えてしまっていることも
思い出をふやしていくたびに
森は暗さをましてゆく
忘れてしまえばいい
わたしはあなたに
無責任に言う
そのくせ小さな肩を抱く掌に
力をこめながら
ひとすじの路だけは
淡い色彩の花で
うずめてゆこうと
塚原将『愛する人よ-あなたと . . . Read more
書き終えた手紙は
読み返さなかった
生まれてきた想いは
数枚の便箋のなかに
飾ることなく
放り込んでしまった
わたしのなかに
激しく砕けながら
ひとつの人影に向かって
打ち寄せてゆくものが残っていたとは
わたしはまだ
少しは白いのかも知れない
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more
本当は哀しいことなのだ
わたしの言葉が
あなたの心にかげりをおとしたことは
まして雨が
あなたに安らぎを与えたなんて
それなのにわたしは
冷たい雨に濡れながら
五月の風を
思いきりかかえこんでいる
清々しい瞳から
あなたはどんな涙を
わたしのために
流してくれたのだろうか
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more
なにげなく通りすぎることは
できなかった
遠い日の憧憬が
わたしの肩に掌をおいていた
ひとつの想いは
次々にふくらんで
次々にはじけた
そのなかに
わたしは暗い炎をみた
それなのにわたしは
あなたのしぐさのひとひらさえ
忘れ去ることはできなくなっていた
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more
早い朝の公園のベンチで
わたしは手紙を書いた
遠い日はじめて手紙を書いた日のように
わたしの想いは
歳月を素速く駆け戻って
麦わら帽子のよく似合う顔になった
あなたへの言葉は
そんな顔をしたわたしの想いが
呟きつづけた
風が
わたしと
わたしの想いの
顔をみくらべて
笑いながら通りすぎていって
はるか遠くで
哀しみをみせて振りかえった
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more
あなたからの手紙
そして
返事のような詩
*
胸がいっぱいなんです
嬉しかったわ お手紙 また読みかえしています
今日は目がはれています 口紅の色も変えました
外はあなたの好きな雪が降っています
白い色ばかり目に入って 寒さは感じません
私の想いが字にならないんです
どうしたのでしょう
私の心はあなたでいっぱいです
なんでしょう これは 手紙になっていませんね
ごめんなさい
. . . Read more