化学系エンジニアの独り言

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原油の重質化

2006-10-05 | 石油
今週に入って下げを続ける原油価格(WTI)ですが、ついに60ドルを大きく割って57ドルまできました。最も、昨日アメリカの石油精製・販売大手のValero Houston Refで硫黄酸化物ガス漏洩事故があり、製油所が操業停止とのニュースで59ドルまで上がっています。ちなみにバレロはテキサス州を中心に北米に17の製油所を持ち、330万BDの精製能力を持つ会社です。

70年代のオイルショック以降、原油の重質化と重軽価格差の拡大が見込まれたことを背景に、日本の製油所は分解装置、二次装置の増強を進めてきました。これは世界に先駆けた公害(大気汚染防止)対策とも密接に関係していました。しかし、80年代、90年代を通じて原油価格は下落基調にあったため重軽価格差も広がらず、石油代替燃料の開発が進んだことともあいまって、結果として生産される原油は軽中質のものが主でした。

これに対して2000年以降は経済成長、とりわけアジアにおける経済成長により原油需要は大幅に拡大し、生産される原油は重質化の傾向にあるようです。

CGES(the Centre of Global Energy Studies)とい機関が、2000年と2004年の原油生産を比較検討しています。CGESは1990年にサウジのヤマニ石油相によってイギリスに設立された機関ですから、OPECびいきの情報とは思われますが、統計の数値はすなおに見てもよいでしょう。

2000年と2004年を比較するとNon-OPECで生産された原油は中・重質系が23%の増産、軽質油は10%の減産です。このレポートでは軽質原油はAPI比重35以上、重質原油は26以下、中質原油は26から35と定義されています。平均するとNon-OPEC原油のAPI比重は33.2から31.5へと重質化しています。API比重で2変化すると密度(g/cm3)で0.01の変化に相当します。

その理由として以下のことがあげられています。
カナダ、ブラジル、メキシコなどの重質原油の増産
ロシア・ウラル(API比重33、硫黄分1.3%)原油の増産
北海、オーストラリアなどの軽質原油の減産

同様の変化は北米だけを取ってみても起きており、API比重は28.4から27.7に重質化しています。これはWTIが減って、ガルフ産の原油が増えたことによります。

一方、OPEC原油ではベネズエラ等の減産により重質系が80万BD減り、アルジェリア・リビアの増産により軽・中質原油が190万BD増えています。最も、今後も増産の余地を残しているのはサウジの重質原油のみとのコメントも付け加えられています。

Non-OPECとOPECを合計すると、軽質原油は90万BDの減少、中質原油は500万BDの増加、重質原油は70万BDの増加となっており、重質化の傾向が顕著だということになります。

今後の世界の石油需要は量的には一層の増加とともに、現状と同じあるいはより軽質な製品へシフトしていきます。一方原油は重質化をたどることになるので、精製設備と原油性状のミスマッチがこれからの問題となるだろうと指摘しています。