いったりきたり

いつも通りの日をまじめに過ごしながらにっこりしたりきゅんと身にしみたり

テロリストのパラソル

2007-10-22 | Weblog
角川文庫のしおりの一言メッセージに「本の主人公は常にかっこいいか、美人を想像する」とあるけど、今回の主人公はアル中の中年だ。
仕事は一日に2,3組しか客の来ないような小さなバーを開いていて…
日課といえば、酒瓶だけを友人に晴れた日に公園でそのけしからんもんを胃袋の中に流し込み、久しぶりに見る空の青さを「悪くない」と見上げるくらいのもの。
…ミステリーの主人公には到底なれっこないはずの男なのだ。が、この主人公の「島村」という男が素晴らしくイカシテイル。
ひっそりと世の中に背中を向けて生きている人間ほど、ええっと思うような裏側を隠していることが多い。まさにそういう過去をもった男なのである。

「島村」にはご都合主義と思いつきなんかだけでは、決して流れない男の強さと孤独を垣間見ることが出来る。
(この垣間見るってとこが大事でアピールではいかんのです)
それは女の理想の男性像とはちがう抗いがたいトーンで女心の深部をくすぐり、ほーぅっと溜息をつかせる。
この溜息は始末が悪い。どの面からみてもいいところなどありようがない、どうしようもない。それなのに「ああのひとはー」と勝手に恋させてしまう種類のものだからだ。

一般社会の通念では「なんだあの男」とか周りのひんしゅくを買うようなキャラクターが『藤原伊織』の手にかかると、女心を翔ばしてくれるハードボイルになり美学になる。