悪魔がいる。
私がその悪魔と対峙することになったのは、何年前のことだっただろうか。少なくとも高校生の頃に無精髭の生えた顔で、洗面所の歯磨き粉で汚れた銀色の古めかしい鏡を覗き込んだ時にはそいつは、既に口の裂けるみたいな顔で、私のことを見下しているみたいだった。
私はすくなくとも、世の中の半分以上の人間よりは十分に優れた人間であると思っていた。もっと昔のことをいえば、本当に幼い頃は、私だけが特別な存在だと思っていた。いつの間にかすこし、落ちぶれてしまったみたいだ。
私は順調に成長していた。成長と一口にいうではあるが、これは人さまざまな所もあるだろう。具体的にいえば、一流の私立大学を良好の成績で卒業し、一流の企業に就職した。人並み以上の恋愛劇場で、大学でも指折りの彼女を得た。
月並みの表現をするならば、私の人生はまさに順風満帆だった。
ところが、鏡の中の悪魔だけは消えることはなかった。それどころか、日々その姿を怪物じみたものに変容させていった。引きつる目、それに虹彩もどす黒くよどんでいく。
奴が話すようになったのが、ちょうど私が結婚する数日前のことだった。
「お前は幸せになれない」
なんだ貴様は。一体いつまでそこでそうしている。
「お前は幸せにはなれない」
これは幻想だ。こんなことがあるわけはない。寝よう。
「おいおい、ちゃんと俺を見てくれよ」
突然強い力が、私の顔をグイッと鏡に向けさせた。強い力が私の体を強く固定して、ぶるぶると震えた。
「逃げるなよ」
何から。私は何も恐れるものがないと言っても過言ではない。
「まだ分からないのか?」
わからない。貴様は悪魔だ。
私の姿をした醜いくず野郎だ。消えちまえ!!
消えちまえ。
「お望みのままに」
人の心を逆なでするような、上ずった声・・・。私は遂にこぶしを振り上げて、鏡にぶつけた。ひびが入る。鏡の中の怪物もこっちに拳を突き出だしている。
血!?
血・・・だ。
私の血?やつの血?
うわぁぁぁあ。
壊してやる。こんな鏡、壊してやる。粉々に砕いてやる。悪魔め!!
血!
血!!血!!!血ッ!!
私は、徐に台所へ向かった。なんて緩慢な生なんだ。なんて・・・。一体私は・・・なんの為に。いや、もう考えるまい。
私はもう、さようならのだから。鏡よ。鏡よ・・・。私は全てを変えるよ。この世を全てね。変えてやるよ。こんな意味のない世界。
そうして、私は悪魔に身を委ねた。この無価値の世界をコワシテやる為にネ。
私がその悪魔と対峙することになったのは、何年前のことだっただろうか。少なくとも高校生の頃に無精髭の生えた顔で、洗面所の歯磨き粉で汚れた銀色の古めかしい鏡を覗き込んだ時にはそいつは、既に口の裂けるみたいな顔で、私のことを見下しているみたいだった。
私はすくなくとも、世の中の半分以上の人間よりは十分に優れた人間であると思っていた。もっと昔のことをいえば、本当に幼い頃は、私だけが特別な存在だと思っていた。いつの間にかすこし、落ちぶれてしまったみたいだ。
私は順調に成長していた。成長と一口にいうではあるが、これは人さまざまな所もあるだろう。具体的にいえば、一流の私立大学を良好の成績で卒業し、一流の企業に就職した。人並み以上の恋愛劇場で、大学でも指折りの彼女を得た。
月並みの表現をするならば、私の人生はまさに順風満帆だった。
ところが、鏡の中の悪魔だけは消えることはなかった。それどころか、日々その姿を怪物じみたものに変容させていった。引きつる目、それに虹彩もどす黒くよどんでいく。
奴が話すようになったのが、ちょうど私が結婚する数日前のことだった。
「お前は幸せになれない」
なんだ貴様は。一体いつまでそこでそうしている。
「お前は幸せにはなれない」
これは幻想だ。こんなことがあるわけはない。寝よう。
「おいおい、ちゃんと俺を見てくれよ」
突然強い力が、私の顔をグイッと鏡に向けさせた。強い力が私の体を強く固定して、ぶるぶると震えた。
「逃げるなよ」
何から。私は何も恐れるものがないと言っても過言ではない。
「まだ分からないのか?」
わからない。貴様は悪魔だ。
私の姿をした醜いくず野郎だ。消えちまえ!!
消えちまえ。
「お望みのままに」
人の心を逆なでするような、上ずった声・・・。私は遂にこぶしを振り上げて、鏡にぶつけた。ひびが入る。鏡の中の怪物もこっちに拳を突き出だしている。
血!?
血・・・だ。
私の血?やつの血?
うわぁぁぁあ。
壊してやる。こんな鏡、壊してやる。粉々に砕いてやる。悪魔め!!
血!
血!!血!!!血ッ!!
私は、徐に台所へ向かった。なんて緩慢な生なんだ。なんて・・・。一体私は・・・なんの為に。いや、もう考えるまい。
私はもう、さようならのだから。鏡よ。鏡よ・・・。私は全てを変えるよ。この世を全てね。変えてやるよ。こんな意味のない世界。
そうして、私は悪魔に身を委ねた。この無価値の世界をコワシテやる為にネ。