イリアーデの言霊

  ★心に浮かぶ想いのピースのひとかけら★

GENE[ゲーン](1) 天使の涙

2007年03月30日 07時43分27秒 | 小説

 (株)徳間書店キャラ文庫五百香ノエル《GENE[ゲーン]》シリーズは、二千年前に袂を分かった同族チーイン王朝に滅ぼされたラーチョオ王朝の末席であり、天人の血が色濃く顕現した“先祖返り”ゆえに老化の遅延で20代後半になっても10代にしか見えない二形(両性具有の主人公イリ・イン・ラーチョオと、お子様ゆえに…愚父ユンヤミンの歪んだ純粋培養によりイリの身も心も傷つけ、愚行を繰り返したけれどイリに許され愛された6歳年下の“イリの運命の人”ヤンアーチェ・チャンシャンの愛の物語  です。

 文字通り“心も体も裸”にして漸くイリヤンアーチェが心も結ばれ、愛するイリチーイン王朝尻尾を振って〈旧・三国同盟〉セルゲ・ロッサと共に結んで、チャンシャン王国が滅ぼした天空帝国の僅かな生存者の1人であり、ラーチョオ王朝皇室の最後の1人であるという衝撃の真実ヤンアーチェが知った第8巻『心の扉』から完結巻(第9巻)『天使はうまれる』ヤンアーチェ(20歳)と共にチャンシャンに還るまで26歳だったのにイリの回想を記した終章の手前の、完結巻と同じタイトルの“本編の最終章”「天使はうまれる」でいきなり1年後に飛び  いつの間にか結婚  していて、27歳の正妃イリ・イン・チャンシャン(旧姓★ラーチョオ)が愛する夫王ヤンアーチェの息子を産み、次代のチャンシャン王となる世継ぎの君である王子を産んで“母” となっていました。しかし、最後にチョコチョコっという表現だけで済ませて、五百香ノエルは妊娠や出産をなめているのでは

 2005年11月12日の《三十路のBL読書日記》で、山藍紫姫子先生の作品の1つである『幾千の河もやがてひとつの海になる』が紹介されていますが、“恋愛で盛り上がり中の作家が恋愛小説を書けば、おそらくポジティブシンキングなハッピーエンドのお話になるでしょう。そして逆もまたしかり。壮絶なグロシーンと乱雑なストーリーにあぜんとした後で、あとがきを読んだら全てが腑に落ちました。これは今から16年前、作者が出産直後の精神混乱状態で書いた(書きなぐった?) お話だったのです。産後のホルモンバランスの乱れと、初めての育児による肉体と精神疲労による過剰ストレスを、極度に残虐で過激な小説を書くことにより発散していたようです。” との事でした。

 それ程に、妊娠・出産と育児は精神的にも肉体的にも過剰なストレスを齎すものなのに、あっさりし過ぎです。鎖国を徹底して完全に国交を断絶しただけで欠片も罪の無いラーチョオ王朝の皆殺し&天空帝国の殲滅というチャンシャン王国が犯した罪の贖罪も兼ね、末席とはいえラーチョオ王朝の唯一の生きである“イリ・イン・ラーチョオ殿下”との婚儀なのですから、盛大に執り行われた筈なのに省略しないで欲しい。妾妃を整理しただけではなくて、婚姻の儀とイリの正妃(正妻である王后陛下)としての戴冠式までも無いなんて、五百香ノエルの怠慢

 ラカ・チーイン・チーインに唆されたセルゲ公王家第2の祖国《ロッサ共和国》を攻め滅ぼされ養父エルネスト・ヤーゴ・レイダー公爵を失いチャンシャン王国に亡命したイリは、チャンシャンの先の国王ユンヤミン(享年39歳)を誑し込み、傀儡にしようと企んだホークァンにより正嫡の第1王子タオホン(享年22歳)イリ密かに引き合わされ加虐的な情交を強要されました。年始の挨拶ホークァン“異母妹”されて紹介されたイリ“父王の愛妾”だと知りヤンアーチェが挫けた夜、ヤンアーチェとの年始での最悪な引き合わせにユンヤミンとの情交を無意識に避けようとしたイリに、まさか下の息子のヤンアーチェ(13歳)を憎み続けていると思い込んでいたイリ(19歳)が彼を愛しているからだとは想像だにしない中年オヤジは、まだ心の中にレイダー公がいるから気が進まないのだと嫉妬のあまりハッスルしすぎてイリとの情交中腹上死、そして次の国王になる筈だったタオホン13年前にラカの狂気を蝕まれ売国奴に転落してしまい、イリを巡り火花を散らしていたというのが本音ゆえに“妾腹の第2王子であり王位とは無縁”ヤンアーチェが謀殺しました。つまり、ヤンアーチェ一点の穢れも無い名君を装い、王位を簒奪したのです!

 ラクチエ妾太后様、貴女息子の養育に失敗しましたね 簒奪など言語道断と涙ながらにヤンアーチェと決別し、その3年後に幼いヤンアーチェが、チャンシャンを含めた旧三国同盟に祖国を滅ぼされ自由同盟に奴隷売買された13歳のイリに対して犯した罪ラクチエは知らされました。垂れ流しの同情が時には凶器となって人の心を傷つけるのだ!と。まだ7歳の子供だからと許される事ではありません。それでも、ヤンアーチェの罪を息子に代わって謝罪し救ってやって欲しい とイリに懇願しました、ゆえに。ヤンアーチェが己の罪を悟りイリを幸福にするまで、息子を許さなかったけれど。

 しかし、ヤンアーチェの血族の男達と肉体関係にあったイリと進んで仲良くしたいと思わなかったのは、そうあらねば生きる道がない者の苛酷な運命を察せられずイリ捨て駒にしているホークァン・エイリーの戯言をラクチエが真に受けてしまったに他なりません! イリは微塵も悪くありません。何が…誰が悪いのか、を見誤り人を見る目を持てないラクチエの至らなさは、まさしく“この母にして、あの息子あり”です ヤンアーチェを救えるのはイリだけだと救いを求めながら、その裏ではイリを快く思わない腹黒さを隠して謝罪すらしないとは。

 それにしても、勝手にチャンシャンは傾いたのに“傾国の咎”イリを廃園に幽閉するなんて、ヤンアーチェ(15歳)とことん呆れたお坊ちゃまですね。朴念仁で無能の判を押し見限ったユンヤミンに…その死後は秘密裏に同衾させたタオホンにイリを囲わせ思い通りの傀儡にならないと知るやヤンアーチェに乗り換え、タオホン諸共にイリも用済みの道具だからと見捨て、むしろ邪魔なイリを抹殺すべく悪口を吹き込んで憎ませたヤンアーチェ死ぬ自由さえも奪われ、幸か不幸か生き永らえたイリを終身刑の幽閉に追い込んだホークァン最低です

 嘗て、ユンヤミンの後宮第1位の妾妃(しょうき)だった頃のイリが住んでいた宮居(ぐうきょ)〈しずく宮〉を気に入っていたので、タオホン謀殺の時の褒美として貰い受け自分だけは“我が世の春”を満喫していたホークァンが、“清童…つまり童貞君だった ヤンアーチェ(18歳)筆下ろしイリ(24歳)に持ちかけたのには呆れました。

 愛人のアリー・ギソン(♂)を失ったとはいえ、イリを踏み躙り…そしてイリを守ってくれと頼んだバルトを裏切ったホークァンが、謝罪も罪の償いもしないまま、ヤンアーチェが落籍しイリの友人にもなったヨンジャを下賜されて妻に娶り幸福になるなんてそして、愛も友情も犠牲にイリを切り捨て踏み躙ったバルトに世界を救い、その命運を背負える力もなければ、それ以前に資格さえない 世界は、誰一人としてイリに対する仕打ちや犯した罪を償っていません誰も彼もがイリに甘えて、贖罪を忘れている。

 画像はレイトンの《ペルセポネの帰還》です。



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