イリアーデの言霊

  ★心に浮かぶ想いのピースのひとかけら★

天(そら)は赤い河のほとり(1) 悲劇の皇太后ナキア

2007年04月25日 12時35分39秒 | 漫画

 ヒッタイト帝国の台頭により下僕のように顔色を窺わねばならぬ身に貶められた祖国バビロニアの衰退により妾妃としてヒッタイトに娶られるという形15歳の時ナキア皇太后は売り飛ばされました。祖国の為に嫁いだのにバビロニア後見して貰えずに孤独な闘いにより現皇帝カイル・ムルシリⅡ世の実母である先々帝シュッピルリウマⅠ世の第2正妃である皇妃ヒンティを毒殺し、第3正妃たる皇妃となり現在は皇太后の地位にあるナキアヒッタイト帝国への復讐とその皇統の支配を成し遂げようとカイル呪殺する為の生け贄として未来の異国である日本から召喚しながらも、祖国バビロニアに売り飛ばされヒッタイトでも踏み躙られ続けたナキア死を賭してまで尽くし続け、無償の愛を捧げたのは、北方の或る王国の王族の最後の1人として生を受けながら侵略されて国を滅ぼされ、その王に凌辱され王家の血を断絶するために去勢されて宦官となり、ヒッタイトに買われた最愛の側近ウルヒ・シャルマだけでした。

 ヒッタイト帝国では、最後まで誰にも理解されず 最終的には息子のジュダ・ハスパスルピにさえ貞操を疑われ、自分はウルヒとの不義密通の子だろうと濡れ衣を着せられ裏切られたのです。ナキアにあるのは自分を見捨てた祖国バビロニアと祖国にそんな仕打ちをさせた元凶のヒッタイトに対する怨念ウルヒへの生涯ただ一つの愛だけです!側室としてバビロニアの王女として尊重され守られたのであれば、ヒッタイトの為に尽くそうと思ったかもしれません。しかし、現実には踏み躙られ続けたのですから、己の血で元凶であるヒッタイト帝国の皇統の支配を願って何が悪いのよ

 その元凶であり、日本人でありながらカイルの正妃となってタワナアンナの称号を得た主人公ユーリ・イシュタル(本名:鈴木夕梨)&夫帝カイルは自分たちの死後のヒッタイトの行く末を考えない甘ちゃん夫婦ゆえに一代限りの栄華で終わり、衰退してゆき突如としてヒッタイトは滅亡の原因さえ不明のままで、後世に残されず終焉を迎えた それはナキアを踏み躙り彼女に対する贖罪を欠片も考えなかったユーリたちの罪に対する天罰に違いない ユーリは、ナキア皇太后ネフェルティティ王太后(ミタンニ名タトゥーキア)のような、苦しみや哀しみを知らない青臭い子供だけれど彼女たちには出来なかった事を成し遂げてみせよう、カイルの理想の治世を共に創り上げるタワナアンナになろう、と自分が立派な事を言っているかのように心の中で誓っています。

 しかし、ナキア皇太后たちのような哀しみも苦しみも、男たちに凌辱されない方がおかしい状況を作者のご都合主義で免れただけで、苦しんだつもりの甘ちゃんに何が出来る 笑わせないで欲しい 哀しみや苦しみは人生の糧であり、その人間の歴史なのです 祖国から引き離された哀しみはわかっても、祖国に見捨てられる事もなかったユーリに彼女たちの何がわかると言うのか 河惣益巳先生の『火輪』の主人公リーアンのように常に愛され護られて苦労の欠片も味わう事なく生きているユーリに、彼女たち野晒しにされても文句の言えない罪を重ねたとしてもナキア皇太后に尽くしたウルヒ を非難する資格はないのです ネフェルティティ王太后ナキア皇太后のように祖国に売られ、その売られた先のエジプトでも旧ミタンニ王国の王女として尊重されず側室として丁重に扱われなかったどころか“貢ぎ物”に過ぎなかったのです そんなネフェルティティに向かって暴言を吐いたユーリなど地獄に堕ちたに決まっている

 ところで、はずっと『天は赤い河のほとり』の「天」「てん」と読むのだとばかり思っていたけれど、ユーリの台詞のルビにも「そら」となっているように、コミックスの中扉絵+おもな登場人物&あらすじにある「天」をよくよく見てみたら、細かい文字「そら」となっていたし、文庫版の方も中扉絵はそうなっていました。あまりにも細かすぎて見えませんでした 「てん」とした方が良いと、今でもそう思います



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