イリアーデの言霊

  ★心に浮かぶ想いのピースのひとかけら★

黒龍王(2) 孤立無援の恋の闇の彼方に

2007年11月05日 23時35分58秒 | 小説
 宗教上の産物である天帝《虹霓神》の聖なる虹色を有する者が国王or王后になれば天帝の祝福と恩寵が与えられるという伝説が根拠の無い作り話に過ぎないにもかかわらず盲信する各国の王家が色素の淡い配偶者を娶り虹色を有する王子or王女を得ようと躍起になっていた呆れた世界だったのは侈才邏(いざいら)の《黒龍王》羅剛の不幸の始まりでした。金髪蒼眼の父王・皚慈(がいじ)と紅髪緑眼の母后・瓏朱(ろうしゅ)との間には必ずや聖なる虹色を有する世継が生まれるに違いないと当事者たちと重臣どもは確信していました。ところが、生を受けたのは黒髪黒瞳の羅剛だったことから、母后は不義を疑われ自害し周囲は愚かにも何の罪もない幼い羅剛を“呪われた魔の子”と侮蔑し、一応は王太子だからとうそ寒い作り笑顔を張り付けていた愚かな家臣どもですが今では冴紗と引き裂いた罪も悔い改め忠誠を捧げています。しかし、他国の国王や民たちは未だに“下賎な黒の魔王”と蔑んでいるのです。それは侈才邏の霊峰・麗煌山に大神殿を構える虹霓教総本山の神官どもとて同類で黒髪黒瞳であるというだけで理由もなく羅剛を侮蔑して、お前らそれでも聖職者か!と怒鳴ってやりたいほどです。

 10年前、羅剛冴紗に対する溺愛ぶりを“もしや、羅剛様は…”羅剛から続くはずの直系の血筋がたたれることを危惧した永均を始めとする宰相や重臣どもは、たかが虹髪虹瞳であるだけで《虹の御子》と呼ばれる冴紗(9歳~15歳)を自分たちすぐさま渡すのが当然と付け上がり羅剛(13歳~15歳)がいつまで経っても大神殿に渡そうとしないのに不満を抱く神官ども結託し、共同謀議により羅剛冴紗は引き裂かれました。永均を筆頭とする王宮の重臣たちと冴紗を《聖虹使》にしたがっている大神殿の神官どもの利害が一致したのです!一夫一婦制である侈才邏の先の国主である父王・皚慈は唯一の嫡子である羅剛の真名《虹に狂う者》と反国王派に利用された羅剛の母方の従弟・伊諒(いりょう)の真名《次代の王の父》を知り神殿という神殿を叩き潰しての虹霓教弾圧を行い、羅剛には宗教的教育を削除して育てました。それゆえに羅剛は“虹色”が何を意味するか知らなかったのです!重臣どもが冴紗羅剛の側から引き離したかった理由は冴紗の真名が《世を統べる者》だったからです!!羅剛冴紗の真の味方は《花の宮》の女官たちだけでした。

 何か冴紗に特別なモノを与えたがっていた羅剛が“虹色の禁色”が何を意味するかを知る前に、そして、神殿側が預かると見せかけて冴紗を囲い込み《聖虹使》としての既成事実を作って時間を経れば羅剛も諦めるだろうと“銀は王妃の色だから駄目ですが、ならば…”と巧みに“虹霓教《聖虹使》の虹色”をそうとは教えずに冴紗にと吹き込み、羅剛にその色を与えさせ更には軍に入隊を許された冴紗が理性の箍(たが)が外れた獣欲に塗れた兵士たちの間に起居させて無事で済むとは思いますまいな、とまたも永均は助言を装い、神殿に自ら引き渡したのだという既成事実と罪悪感を羅剛の心に植え付けたのです。そうすれば、異性である女性を…侈才邏にとって最も利益となる国の王女を正妃に娶り世継を得て安泰だとそればかりを考え、羅剛の狂おしい恋心を見縊っていた永均は重ね重ねも卑劣な策略を仕掛け、己を父のように慕う羅剛を裏切ったのです。


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