ポーランドからの報告

政治、経済からテレビのネタまで、詳細現地レポをお届けしています!

ポーランドにやってきた新たな移民

2007年04月17日 | 政治・経済

すっかり夏になってしまったポーランドです。オープンカフェに座って、のんびりと粋なひと時を過ごして.. なんていかにもヨーロッパのバカンスといった感じでとても素敵ですが、、実は厄介な問題もあったりします。

何かというと、、、例えばクラクフ中央広場のオープンカフェでお茶を飲んでいると、10分もするとジプシーの一群がやってきて、アコーディオンで演奏を始めたり、カードやお花を買ってくれとせがみ始めるのです。お金を上げない限り頑として動こうとせず、逆にお金を払ってしまうと、次から次へと新しいグループを連鎖的に呼ぶことになり、きりがありません。お金をあげても額が少ないと、はたかれることもあります。特にヨーロッパ人観光客だらけの中で、日本人客は目立つので、すぐにつかまってしまいます。

  

ポーランドも国内にジプシー人口を抱えており、ジプシーによるこういった迷惑行為は、以前から問題になっていましたが、クラクフ市警察によれば、重ねて今年1月にルーマニア・ブルガリアの二国が欧州連合(EU)に新規加盟してから、これらの迷惑行為が目立って増えたと報告されています。

実はルーマニアはその人口の約10~20人に1人がジプシーです。これが非常に厄介な問題で、EU加盟国内ではビザなしで自由な移動が可能なため、ルーマニアのEU加盟以降、ルーマニア国籍のジプシーが、西側からの観光客が多く容易にお金が稼げるポーランドやチェコなどに大量に流出しているのだそうです。当初、言語習得の容易さなどから、EU加盟後、ルーマニア人は、イタリア、フランス、スペインに、ブルガリア人はスロベニアやギリシャに流れるものと予想されていましたが(実際にこれらの国では新規の移民が目立って増加しました)、しかしよく考えてみれば、アコーディオンやバイオリンを弾いてお金をもらうジプシーにしてみれば、現地言語習得の必要はないわけで、これら二国のEU新規加盟以来、ポーランドでも、とりわけルーマニア国籍のジプシーが流入したことに起因すると思われる迷惑行為が、急増しているそうです。

もちろん道端で音楽を奏でたり、花やマスコットを売りつけたりしてお金を取る行為は違法労働にあたるため、警察の取り締まりの対象になりますが、今のところ、パトロールを強化するぐらいしか対策はないそうです。というわけで、あまりにも迷惑行為に遭遇することが多かったら、オープンカフェなど人目につく場所は避けて、店内でゆっくり休むのも得策かもしれません。

ポーランドからの報告


ポーランド人とカトリック ②

2007年04月15日 | 政治・経済

今日4月15日は、カトリックの祝日。クラクフの街は、街南部の巡礼地ワギャヴニキ(Łagiewniki) に集まった世界中からの大勢のカトリック信者でごった返しました。サンクタリウム・ボジェゴ・ミウォセルジャ(Sanktuarium Bożego Miłosierdzia) にて行われたミサでは、クラクフ教区のスタニスワフ・ジーヴィシュ大司教が、命の大切さ、とりわけ妊娠中絶に反対する姿勢を訴えました。

折りしもポーランドでは、中絶を一切認めないように変更する憲法改正案が否決されたばかり。それに抗議する形で、マレック・ユレック下院議長が辞任・PiS党脱退を表明する騒動に発展しています。

そもそもポーランドでは、現在の時点で、いくつかの例外事項を除き、原則として妊娠中絶は認めていません。この例外事項というのは、
  1.妊娠継続により、母体に危険が及ぶ場合
  2.子供に発育異常が認められた場合
  3.犯罪行為により妊娠が成立した場合
のケースで、これらの場合に限っては、現行の法律でも中絶を認めています。

今回の憲法改正案は、中絶を「いくつかの例外を除き、原則認めない」という現行の案から、「いかなる条件であろうとも認めない」へと改正しようとしたものです。右派カトリック政権である与党「法と正義(PiS)」主導で進められていた今回の法改正案は、「命の大切さ」を説くカトリックの教えに基づき、いかなる命の根も摘んではならないとの見方から、妊娠中絶はいかなる場合も認めないように法律を改正しようとしたものです。しかも事前の準備段階では、法改正できるとの大方の見込みがあったようなのですが、それがいざ票決してみたら否決されたため、「法と正義(PiS)」党員の中にも反対票を投じたものが多数いる、つまりPiSが内部分裂しているとの見方もあります。

世論調査では、ポーランド国民、とりわけ女性の多くが、今回の法改正案に反対でした。ですので今回の国会での否決を受けて、今ポーランド人女性の多くが、まずはほっと胸をなでおろしているところカも知れません。しかも、現行の「いくつかの例外を除き、原則として妊娠中絶を認めない」状態も、実際には、望まない妊娠を希望しない女性が国外の病院で中絶手術を受ける例が後を絶ちません。また数年前の一時期、オランダの「妊娠中絶船」なるフェリー形の移動病院がバルト海に停泊し、中絶手術を希望する女性が集まるなど、社会問題化していました。それを法律を改正してさらに条件を厳しくしたら、ますますこの手の裏ビジネスがはびこるであろうことが懸念されています。

ちなみに今後国会で審議予定の議題として、「離婚を一切認めない」という法改正案もあるとかで、掛け金がはずれたかのごとく極右カトリックへと暴走していくポーランド政界の動きに、今後も注目していきたいと思います。

ポーランドからの報告


ワルシャワで教育関係者のデモ行進が行われる

2007年03月17日 | 政治・経済

今日3月17日の土曜日、首都ワルシャワにて、教育関係者らのデモンストレーションが行われました。教師ら学校教育関係者の給料UPと、教育相で副首相であるロマン・ギェルティフ(Roman Giertych)氏の退陣を求め、学校教師や児童の保護者らが、教育省や国会議事堂前で、デモ行進を行いました。

ポーランドの学校教師の給料は手取り800~1000zl(約4万円前後)と、他の公務員同様非常に少なく、仕事は非常にきついのにこんなスズメの涙ほどの給料ではおよそ割りにあいません。教師の職を捨てて、外国で皿洗いや掃除婦、タクシー運転手をしたほうが、まだ稼ぎになるのです。そのため定期的に賃金値上げ要求が行われていますが、一向に解決されていません。先日クラクフでは、放課後に路上で男娼をして稼ぎの足しにしていた女性教師の存在が発覚し、問題となったのも記憶に新しいところです。

またロマン・ギィエルティフ教育相・副首相は、与党第一党「法と正義(PiS)」とともに連立与党を組んでいる、「ポーランド家族連盟(LPR)」の党首で、非常に過激な右派カトリックで知られ、その支離滅裂な政策により、ポーランドの教育現場は非常に混乱しています。昨年の高校卒業資格試験・マトゥーラ(Matura)では、不合格の人を皆合格扱いに繰り上げて、大問題となりました。日本の公立小学校でも、運動会の徒競走で、順位が付かないように、皆で手をつないで走るところがある、という話をきいたことがありますが、それに匹敵するトンチンカンな政策です。

このギィエルティフ教育相は、二世政治家なのですが、親子ともに極右カトリックで知られています。先だってはその父親であるマチェイ・ギィエルティフ(Maciej Giertych)氏が、「ユダヤ人がヨーロッパを破滅させる」という趣旨の著作を書いており、今まさにヨーロッパ中を震撼させるスキャンダルとなっています。このような経緯から、ギィエルティフ教育相とLPRの独走ぶりは、ヒットラーとナチス党にも例えられており、実際にLPR党員内にネオ・ナチ勢力もいるらしいことから、以前から何度にもわたって退陣要求が各方面からでているのですが、本人は一向に応じるそぶりはありません。

ポーランドの政治のすごいところは、どんなに人気や実力のある政治家でも、カチンスキ双子兄弟の勘に触れば、簡単に退陣させられ、逆に双子兄弟に取り入られば、実力や政策とはまったく関係なしに、永久に政界に居座ることができるところです。有権者の声は、まったく届きません。これでは国民の怒りが爆発するのも無理のないことです。

というわけで、今後気候が暖かくなるにつれ、また高校卒業資格試験のシーズンが近づくにつれ、このようなデモがたびたび開催されると予想されますので、旅行者の方はデモ隊に遭遇しても、どうかびっくりなさらないでください!(ワジェンキ公園や日本大使館近辺は、国会議事堂や教育省に近いので、デモに遭遇する確率が高くなります。)


ポーランドからの報告


カチンスキ兄弟-どっちが兄?弟?ゲームが登場!

2007年03月11日 | 政治・経済

ポーランドの大統領と首相の座を独占している、レフとヤロスワフのカチンスキ双子兄弟ですが、なんとその二人を見分けるゲームというのがインターネット上に登場しました。 シロウト愛好家が作った無料ゲームで、20枚の写真がだされ、それぞれ、レフ大統領か、ヤロスワフ首相かを当てるゲームです。
http://www.cda.pl/gry-online/3/kaczki.php

レフ大統領と、ヤロスワフ首相は、一卵性の双子だけあって、顔や背格好がそっくり。 それだけに、2005年12月のレフ大統領就任当時は、ベテラン記者でも二人を見間違えるとの危機感がでていましたが、 良く見てみると、レフ大統領のほうは、鼻の頭の所にほくろがあるので、それで見分けが付きます。(それとヤロスワフ首相のほうが若干ハンサム)。というわけで、私もさっそく遊んでみましたが、さすがに毎日テレビで顔を見ているだけに、95%の正解率でした。(20問中19問正解)

    

[写真]首相就任式でのレフ大統領と、ヤロスワフ首相

ポーランド人にも腕のいいフラッシュ職人が沢山いて、このカチンスキ兄弟を題材にした自作フラッシュは、以前から動画サイトYoutubeなどで、沢山でまわっていました。でもそういわれてみれば、二人の見分けゲームという、至極単純なものがこれまでなかったなあと思いました。でも私も夫も今回遊んでみて馬鹿受けでしたので、今後きっと第二段、第三弾がでくると思います。

それよりこの二人は、顔よりも声がそっくりなんです。しかも時にはポーランド人ですら上手くききとれないほど、もごもごとしゃべるのが特徴です。電話の声だけだったら、それこそベテラン記者も聞き分けられないのではというくらい似ています。

もともと子役として活躍していた二人ですが、 ヴァウェンサ元大統領率いる「連帯」の元で政治活動を続け、気が付いてみたら、大統領と首相にまで出世していました。しかしその院政政治ぶりは諸外国から辛く批判されており、ドイツメディアからは「じゃがいも兄弟」などと例えられたりする始末。最近ではヴァウェンサ元大統領からも、縁切りされています。

しかもレフ大統領はもっぱら飾りゴマにすぎず、すべての実権は、ヤロスワフ首相のほうが握っているとのうわさです。大統領の任期は4年で、レフ大統領は2005年12月に就任したばかり。この先、レフ、レフ、ヤロスワフ、ヤロスワフ、と16年体制になったら嫌だなあ...


ポーランドからの報告


悪事千里を走る

2007年02月18日 | 政治・経済

先日の柳沢厚労相の「女性は子供を生む機械」発言にはビックリですが、夫の両親がそのスキャンダルについて知っていたのには、もっとビックリしました。嫁が日本人だということで、日頃から日本への関心が高い義両親ですが、それにしてもこんなスキャンダルがポーランドにまで知れ渡っていたとは恥ずかしいあまりです。

そうかと言えば「アンジェイ・レッペル副首相のセックス・スキャンダル」が日本の女性週刊誌にまで報道されていたときは、これもたまげました! アンジェイ・レッペル(Andrzej Lepper)副首相とはポーランドの野党「自衛(Samoobrona)」の党首で、このレッペル副首相やスタニスワフ・ウジヴィンスキ(Stanisław Łyżwinkski)党員ら、「自衛」の党員数人が、「自衛」への就職をダシに、アネタ・クラフチックさんら女性政治家に男女関係を強要した疑いがあるというスキャンダルです。 昨年12月に全国紙「ガゼタ・ヴィボルチャ」のスクープにより発覚して以来、現在までポーランドのみならずヨーロッパ中の世論を騒がせています。クラフチックさんは、自分の一番下の子供が「自衛」党員に関係を強制されてできた子供であると主張しており、DNA鑑定での父子鑑定までに持ち込まれる騒ぎに。そのあおりを受けて、「自衛」と連立与党政権を形成している政権与党「法と正義(PiS)」にまで、批判が及びました。

このスキャンダルですが、昨年12月にスクープされて以来、2ヶ月以上経っても一向に解決されず、大分と長引いています。とりわけスキャンダルの中核だったクラフチックさんの子供の父親が誰かという問題は、これまで疑いのある男性を5人もDNA検査したにもかかわらず、いずれも父親と判定されず、当初はクラフチックさんに同情的だった世論も、「父親候補が5人以上とは一体どんな生活をしていたんだ」と次第に眉をひそめるようになってきました。連立与党政権を崩壊させたい野党勢力が、どうやら裏からこのクラフチックさんを操っているとの見方が有力です。

柳沢首相の失言の時は「日本人男性がみんなこういう考えを持っていると思われたら恥ずかしい」と、とても嫌な思いをしたものですが、今回のスキャンダルも、ポーランド人にとって相当恥ずかしいようです。それにしても「悪事千里を走る」とはよくいったものだと思います。


ポーランドからの報告


起業するポーランド人

2007年01月25日 | 政治・経済

先日いただいた 『2010年の日本~雇用社会から、起業社会へ』 野村総合研究所(著) という本を、今日ついに読みおえました。(近江さま、どうもありがとうございます!)

日本でも終身雇用という概念がなくなり、リストラが増え、能力性になったこと、定年退職後の第二の人生としての起業活動の増加などで、起業する人が増え、これから2010年をターニングポイントに、雇用社会から起業社会へ移行する、という話です。アンケート結果など具体例も沢山紹介されており、非常に興味深い一冊です。

  

その中で、ポーランドの起業活動に関する数字が出ていたので、ご紹介します。

2004年の 起業活動指数の国際比較 によると、ポーランドの起業活動指数は8.8と、ニュージーランド(14.7)、アイスランド(13.6)、オーストラリア(13.4)、アメリカ(11.3)、カナダ(8.9)に次いで、世界第6位なのだそうです。これは旧共産主義東欧圏の中ではダントツで首位、ヨーロッパ全体でも、アイスランドについで第2位という数字です。

この 起業活動指数の国際比較 とは、起業家教育で有名なアメリカ・バブソン大学と、ロンドン・ビジネススクールが、毎年各国の起業活動について調査し、生産年齢人口(18歳-64歳)100人当たり何人の人間が、会社の立ち上げに関わったかを推計したものです。ちなみに日本の起業活動指数は1.5で第22位と、起業社会へ移行しつつあるといっても、まだまだポーランドの起業数の方が断然多いのです。ご存知でしたでしょうか?私を含め、意外に思った方も多いのではないでしょうか?

確かに現在のポーランドでは、90年代の体制変換、そして2004年5月のEU加盟を経て、まるで雨のあとのタケノコのように、あちらこちらで新しい会社が生まれています。とりわけ多いのが、不動産事務所と自動車教習学校で、不動産取り扱い資格(日本でいう宅建のようなもの)の資格所得者の数だけ不動産屋があり、通りを見渡せば、各通りに一件ずつ自動車教習所がある(ちょっとこれは言いすぎですが)といった状況です。ラジオ・タクシーなどの大手タクシー会社も、経営形態は、個々の運転手ごとの個人タクシーのフランチャイズ経営扱いのようです(又聞きなので詳細不明。)私の身の周りを見渡しても、義父母や伯母、友人の多くが自営業登録しています。

それもそのはず、ポーランドでは、非常に簡単に個人経営会社を営むことができます。会計事務所に一切合切を頼めば、3・4日で新会社を設立できます。自前の会社を経営したいと思えば、明日にでも起業できるのです。会計や法律関係の細かいことは、会計事務所に外注すればそれでOK、難しい知識は一切必要ありません。

ただ起業活動指数が高いからといって、ポーランドの経済が豊かになったかというと、そうでもなくて、問題点も多く、他国と単純比較できない面もあると思います。まず第一に、ポーランドでは、税収を増やすために、自営業を優遇する方針であるということを聞きました。実際起業してみたものの、税金が払えなくて、2・3年で店じまいをしてしまうケースも後をたたないようです。第二に、ポーランドでは依然として労働者の地位が低いことが背景に少なからずあると思います。大手会社でも、雇用形態が一年契約や二年契約ということが多い上、突如のリストラも横行しており、これではローンも組めません。世界6位という莫大な数の起業数は、雇用状態がどれだけ安定していないかの裏返しに過ぎない面があります。

また本編でも紹介されていた、定年退職者のセカンドライフとしての起業活動というのも、もちろんポーランドでも多いのですが、日本で見られる「まだ現役引退したくない」「ボケ防止のために働きたい」というような前向きな理由ではなく、ポーランドの年金支給額があまりにも少ないため年金だけでは生活できない、という抜き差しならない切実な現実があります。

しかも会社の数が多すぎるのも、消費者にとっては結構やっかいなことに。。例えば先月、今度新しくこちらにくる友人のために、借家を探していたのですが、取り扱い不動産の数に対して、不動産屋が圧倒的に多すぎるためで、探す方としては、効率が悪くてしかたありませんでした。なにせ、~ズローチまで、○平米、~通り付近、などの条件を提示すると、それに合致する物件が、各不動産屋あたり、一・二件しかないのです。(かなり広範囲の条件でもです!)不動産屋を一件訪れて、物件を一件みて、また次の不動産屋を訪れて、またもう一件みて、借家一つ手配するのも、骨折り損のくたびれ儲けでした。


ポーランドからの報告


ポーランド、EU全加盟国の労働者に国境を開く

2007年01月12日 | 政治・経済

今年1月1日にルーマニア、ブルガリアが新規加盟して、欧州連合(EU)は全27カ国となりました。かつての北欧・西欧・南欧・東欧が一つに融和し、ますます国境のない世界になったかというと... たとえば就労に関しては、決してそうではなく、現在の段階では、加盟国間で、相互に自由に就労できるわけではありません。例えばポーランド人が就労できる国は、ポーランド以外では、今のところイギリス、アイルランド、スウェーデン、スペインなどに限られています。EUの大国ドイツとフランスは、すでに国内に大量の労働移民を抱えているため、ポーランド人の労働移民は基本的に許可していません。労働市場を完全に開放しているのは、加盟全27カ国中、現在のところスウェーデン、フィンランドの2カ国だけです。

そのポーランドが、昨日1月11日をもって、EU加盟全27カ国の労働者に対し、門戸を開くことになりました。

   

果たして今回、ポーランドがEU全加盟国の労働者に対して国内での就労を認めることで、ポーランドに新規の労働者がやってくるのでしょうか?ポーランドの賃金レベルは、これまでのEU加盟国25カ国中、残念ながらかなり下の方ですので、今回国境を開放したからといって、西側から労働者が流れ込むことは殆どないでしょう。注目するべきは、新規加盟のルーマニア、ブルガリアからどれだけ労働者が流入するかです。

ついに念願のEU加盟を果たしたルーマニア、ブルガリアでは、二年半前のポーランド同様、これから百万単位の労働者が、国外脱出を計ることが予想されます。もちろん、みな少しでもよい仕事を求めて、賃金の高い西欧・北欧への移住を希望しているはずですが、残念ながら、2004年5月以前の旧加盟国の13カ国では、早くも今回加盟したルーマニア、ブルガリアからの労働者の流入を規制が決定されました。ドイツ、フランスはおろか、当初移民に比較的寛容だったイギリスとアイルランドも、あまりの東欧移民の流入の多さに、ついにルーマニア、ブルガリアに対しては、当面のところ労働移民を許可しない「モラトリアム」措置をとるという方針に変わってしまいました。したがって、ルーマニア人、ブルガリア人が今の段階で無条件で就労できる国は、ポーランド、チェコなど旧東欧8カ国+スウェーデン、フィンランドということになります。(ハンガリー・マルタは一部規制あり)

このうち、ポーランドにどれだけの数の新規労働移民がやってくるか、つまりルーマニア人、ブルガリア人にとって、果たしてポーランドという国がどれほど魅力的な国なのか、ということですが、これも現在の段階では未知数です。一般のポーランド人の頭の中には、ポーランド>>>>>ルーマニア、ブルガリア という物の見方があるのですが、ルーマニア人、ブルガリア人の方では、ポーランドをどう見ているんでしょうか?まあ普通に考えて、まずスウェーデン、フィンランドに行くと思います。加えて、ポーランド語習得が容易なブルガリア人に対し、ルーマニア語を話すルーマニア人の方は、苦労してポーランド語を習得してまでポーランドで働きたいという人は少ないと考えられます。果たしてどうなるでしょうか。

こういろいろ考えあわせると、今回ポーランドがEU全加盟国の労働者に門戸を開いたことで、そうすぐにポーランド人の失業率に変化が現れるということはないように思います。実際、EU圏外のロシア、ウクライナ、ベラルーシなどから常時流入している不法移民労働者の方が、今後も数としては問題となってくるでしょう。

EU加盟からまもなく3年を迎え、ポーランドの政治・経済もそろそろ分岐点に差し掛かるころです。ただでさえ失業率の高いポーランドですが、これからどのように経済が動いていくのか?今後もポーランドの政治・経済の動きに注目していきたいと思います。(写真はチェーシン(Cieszyn)のポーランド・チェコ国境です。写真右端の川が国境)


ポーランドからの報告



ポーランドの勝ち組み・負け組み

2006年12月07日 | 政治・経済

日本では今、所得格差の拡大が深刻な問題となっていますが、ポーランドでも、ここ数年で、格差が急激に広がっています。(以前の記事 でも取り上げています) 勝ち組みは、ワルシャワなど一部の大都市のエリートビジネスマンや、体制変換以降に不動産をうまく売り買いして短期に巨額の富を得た人々。人数比にしたら、国民のほんの数パーセントです。その一方で、負け組みとして切り捨てられている、地方の農民や、年金生活者、失業者、低賃金の国家公務員らがいます。それら負け組みの中には、日々の食料にも事欠く人もおり、一部地域では、学校で欠食児童の増加が深刻な問題となっているほどです。そんな中、キャッシングローンのCMが増えているのと相まって、これら負け組みの低所得者らが、安易なキャッシングを頼るケースが急増しています。

なんというか、最近のポーランドには、思わず「お金を借りなきゃ!」と感じてしまうような、そんな雰囲気が整っています。銀行や消費者金融のキャッシングローンの宣伝は、それこそこちらが感心するくらい多岐にわたっていて、例えば、下の写真のようなビラがポストに入っていて、一瞬「あれっ!お金が入っている!」とビックリするのですが、よく見ればただのビラだったり。

  

テレビをつければ、必ずキャッシングローンのCMが流れていて。 なかでもすごいのが、今年後半あたりから頻繁に流れるようになった、 BPH銀行 の「3000zlまで月々の月賦89zl」というテレビCMです。月々の手数料がたった89zlですよ、とてもお得でしょう!というとても明るいイメージのCMなのですが、しかしテレビ画面をよく見てみると、下の方に、ものすごく小さな字で、「ただし48ヶ月以降は、年利20.23%になります」と書いてあるんです。年利20%以上ってすごいですよね!そしてそれに対抗して最近出たのが、PKO銀行 の、「3000zlまで月賦73zl」、「ただし60ヶ月以降は年利17.23%になります」という商品。3000zl(約12万円)で、クリスマスプレゼントを買おう、一家でスキー旅行に行こう.. etc と、こちらもまた、とても家庭的で明るい未来を描いたCMです。こんなCMを、それこそ毎日見せられたら、思わずお金を借りてしまうと思いませんか?もし手元に現金がなかったら.. 

日本では、アイフルのCMの チワワのくぅーちゃん がかわいすぎるとして規制対象になりましたが、ポーランドでも、同様の規制の必要を痛感します。
(このBPH銀行とPKO銀行というのは、どちらも国内トップ規模の銀行なのですが、それらの有力銀行が、日本の消費者金融なみの金利の商品を宣伝しているというのに、とても驚きました。しかも、この「○○ヶ月以降は~」の注意書きの文字が本当に小さくて、我が家の21インチ型テレビで、目を凝らしてやっと見える大きさです。14インチ型テレビを持つご老人だったら、まず読めません.. )

ポーランドで問題なのは、40歳以上の中高年層の人々が、経済学を知らないことです。学校教育を社会主義の時代に受けているため、自由経済の基本的な仕組み、例えば、投資とは何か、株式会社とは何か、そういう経済の基礎をまったく知りません。もちろん彼らに非はないのですが(時代が時代でしたから)、こういった単利と複利の違いすらいすらわからないような一般の人々が、安易なテレビCMを信じて、後から「騙された」と嘆くケースが後を絶たないという、嘆かわしい状況になっているのです。(この点、同じ元社会主義国家のチェコやハンガリー、スロベニア、クロアチアなどでは、現在どうなっているのか、大変興味深い所です。)

こうして、負け組みは債務が増えてますます負け組みに、勝ち組みは利子で潤ってますます勝ち組みに、と今後さらに、所得格差が拡大していくと予想されます。


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クリスマスプレゼントの時期が近づくにつれ ...

2006年12月07日 | 政治・経済

クリスマスプレゼントの時期が近づくにつれて増えるもの...
それは、キャッシングローンのテレビCMです... 

昔の社会主義の時代こそ、キャッシングのCMはおろか、テレビCM自体存在しなかったポーランドですが、最近すごい勢いで増えているのが、銀行や消費者金融系の会社のCMです。私がポーランドに済み始めた2003年4月の時点では、確かまだキャッシングのテレビCMは存在しなかったように記憶しています。それがいつからか規制緩和されたらしく、昨年あたりから、これでもかというほど耳にするようになりました。

しかも12月は、6日の聖ミコワイの日に、24日のクリスマスイブと、どこの家庭でもプレゼントを買ったり、クリスマスのご馳走の準備をしたりと、財布の紐がゆるむ季節。そんなわけで「キャッシングをして、クリスマスプレゼントを買いましょう!」というCMが、11月辺りから、以前にも増して、ひっきりなしに流れています。ひどいときなど、3本に1本くらいの割合で、キャッシングのCMが流れます。さらには「借金が返せませんか?それならば、うちが貸しましょう」などという、多重債務者になるのを促すようなCMも普通に流れています。

あまりの状況に、テレビのニュースでも、「安易なキャッシングは控えましょう。子供たちへの一番のプレゼントは、親の愛情です」と注意を呼びかけているほどです。


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ワルシャワ市長選は、野党の女性候補が勝利

2006年12月03日 | 政治・経済

先日11月26日に、ワルシャワ、クラクフ、ポズナニ、ビヤウィストク、など全国の大都市で、市長選の決戦投票が行われました。先月11月の上旬から始まった統一地方選挙選では、日本のようにうるさい選挙カーこそないものの、候補者のポスターが街のそれこそ至るところに張られていて、景観を壊していたのですが、これでやっとこさ、決着がつきました。

注目のワルシャワ市長選は、野党「市民プラットフォーム(PO)」の女性候補、ハンナ・グルンキエヴィチ・ヴァルツ女史が、対抗する与党「法と正義(PiS)」のカジミエジュ・マルチンキエヴィチ現職市長を破って、みごと当選し、昨日、市長就任式が行われました。


ところで先日、テレビのお笑い番組で、こんなコントをやっていました。

 A 「今度、バカンスでローマに行くんだ」
 B 「ローマか。いいなあ。ローマには何があるんだ?」
 A 「そうだな、古代の神殿とか、廃墟となったスタジアムとか。」
 B 「廃墟となったスタジアムだって?そんなのワルシャワにもあるじゃないか」


このワルシャワにある廃墟となったスタジアムとは、ご存知、プラガ地区の巨大なスポーツスタジアムのことで、確かに、長いこと使用されないま、もはや廃墟となっています。いつからか、ベトナム人や中国人などのアジア人をはじめ、ロシア人、ウクライナ人、その他世界各国からの移民・難民などがあつまって、露天市を始め、現在では、中欧最大規模の、露天バザールとなっている場所です。安価で実にさまざまな品物が手に入るため、ワルシャワ市民にも人気の、このバザールですが、基本的にはマフィアが仕切る場所のため治安が悪く、また周辺では発砲事件などもあって、このスタジアム周辺を含む、ワルシャワ・プラガ地区は、残念ながらワルシャワの中で、もっとも治安の悪い地域の一つとなっています。

このプラガ地区に、先日ついに再開発の計画が持ち上がりました。廃墟となっていた巨大スタジアムは、2010年までに、7万人を収容する総合スポーツセンターに生まれ変わることになり、またあわせてプラガ地区全体が再開発されることが決まったのです。


実は今回の統一地方選で焦点の一つとなっていたのが、EUからの莫大な額の補助金の利用方法です。2004年5月にEU加盟国となったポーランドでは、各地の地方自治体へ、EUからの補助金が支給されており、加えて、先日、EU非加盟国であるスイスとノルウェーが、ポーランドに対する金銭援助を決定しています。これらの補助金を使って、インフラ完備や新規雇用の捻出につなげるのか、それとも生活保護や社会保障の充実に当てるのか- 今回の選挙戦では、各候補とも、この補助金の利用方法を公約に掲げての選挙となっていました。ことさら、ワルシャワ市長の職は、次期大統領への控え室ともいわれるほど、とても重要なポジションと言われており(現職のレフ・カチンスキ・ポーランド共和国大統領も、元々ワルシャワ市長から大統領になった人物です)、ワルシャワでの政治の動向が、ゆくゆくは国全体の政治動向となっていく流れも考えらることから、選挙選の結果が、各方面から大いに注目されていました。

今回、みごと市長選を制したグルンキエヴィチ・ヴァルツ女史は、中央銀行総裁の経験もあり、政治・経済など多方面に明るい人物といわれています。ワルシャワの新しい顔となったグルンキエヴィチ・ヴァルツ新市長が、再開発が決まったプラガ地区をはじめ、これからワルシャワをどのように変えていくのか、非常に興味深いところです。


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