今年5月にヘルシンキで開催されるユーロビジョン・ソング・コンテスト(Eurovision Song Contest)に向けて、各国で国内予選大会などが行われています。一年に一度の全ヨーロッパの歌の祭典というところで、例年ならうきうきするところですが、今年のポーランド人は、心中穏やかでなくなっています。
なんでも今年のスウェーデン代表選・セミファイナルに出た歌手の歌詞に、「ポーランド人は馬鹿で~」というくだりがあったらしいのです。「その馬鹿げた歌詞を訂正しろ」「駐ポーランド・スウェーデン大使館は謝罪しろ」と、ちょっとしたスキャンダルになっています。
そこで今日は、「ポーランド人は馬鹿なのか?」を考えてみたいと思います。というより、このスキャンダルのせいで夫の機嫌が悪いということもありますので、ポーランド在住者として「ポーランド人は馬鹿ではない!」を主張してみたいと思います。
まず有名なところで、アメリカンジョークでは、ポーランド人は必ず「馬鹿」として登場します。18・19世紀に貧しいポーランド人がたくさんアメリカに移民したときに、英語もろくに話せないプアーホワイトとしての蔑称で、「ポーランド人=馬鹿」という図式が出来上がりました。実際にはこれらポーランド系住民は、二世・三世は弁護士や医者、大学教授などホワイトカラーの職業に付いている人も沢山おり、「ポーランド人=馬鹿」は全然正しくないのですが、ジョークでは、ポーランド人なら馬鹿と決め付け「ポーランド人の医者」といっただけで笑いがとれるとか。(精神科医である我が家の夫が聞いたら激怒しそうですが!)
しかも都合の悪いことに、このアメリカンジョークを通じて、「ポーランド人=馬鹿」の図式が世界的に有名になっています。ポーランド人移民が世界的に広がるにつれ、「ポーランド人=馬鹿」のジョークが世界各地に広がり、ちょっと前までポーランドと一切コンタクトのなかったスウェーデンでさえ、ポーランド人移民が増えるやいなや、歌の歌詞に「馬鹿のポーランド人」が登場。アメリカンジョークは日本でも広がっているようで、当ブログ「ポーランドからの報告」のアクセス解析をみても、「ポーランド人、馬鹿」のキーワードで検索されている方が多数いらっしゃいます。どうやら世界的に固定観念ができてしまっている模様です..
しかしポーランド在住者である私の印象では、ポーランド人は決して馬鹿ではありません。もちろん一口に「ポーランド人」とはいえず、個人差を考慮しなければいけませんが、「非常に賢い」人も多いです。国内には、レベルの高いことで知られるワルシャワ大学、ヤゲウォ大学(クラクフ大学)、アダム・ミツィエヴィチ大学などの名門大学があり、全欧から学生が集まっています。大学進学率は約10%ほどですが、高等学校の教育レベルも高く、例えばマトゥーラ(Matura)と呼ばれる高校終了認定試験の難易度は、日本のセンター試験ほどのレベルです。日本の受験生の全員がセンター試験を受験するわけではないことを考え合わせれば、かなりの高レベルといえます。(ちなみに私が見たのは物理の試験問題ですが、物理IIBまで出題されていました。ただ10年以上前のテスト問題だったので、最近は難易度が変わっているかもしれません。)私の知り合いのポーランド人も、みんな皆勤勉で努力家の人ばかりです。
「ポーランド人は賢い」には、科学的な裏づけもあります。以前の記事(
ポーランド人はヨーロッパで二番目に頭がよい!? )でも取りあげましたが、科学的な調査によれば、ポーランド人は、馬鹿どころか、ヨーロッパで二番目にIQが高いことが証明されています。コペルニクス、キュリー夫人などの偉人を生んだ国であり、加えて民族的にIQが高いことで知られるユダヤ系住民の血が混じっている人も多いことから、この結果は妥当なところといえます。実際、ポーランド人移民が多いイギリスやアイルランドなどでも、ポーランド人の医者や看護婦はレベルが高いとの評判があります。
それでも何かにつけて「馬鹿」といわれるポーランド人... その理由のひとつには、ジョークを言う側に、「ポーランド人は馬鹿だと思いたい」という希望があるように思います。
すべての元凶であるアメリカンジョークが出来た時代、大挙して押し寄せるポーランド系移民は、同時期にアメリカに移民した他の民族にとって、脅威でした。ヒエラルキー社会のアメリカでは、人種の優劣、民族の優劣を決め、すべてにおいて順位付けをしないと安定しないため、何が何でも「ポーランド人=馬鹿」にしたいという時代背景があったのだと思います。
時代は下って近代のヨーロッパでは、2004年5月のポーランドら旧東欧10カ国のEU加盟、2007年1月のルーマニア・ブルガリア加盟で、政治的な東西の壁はほぼなくなりました。そしてこれら旧東欧加盟国のうち、とりわけ人口も多く農業大国であるポーランドは、旧加盟国にとっては驚異的な存在に化ける可能性があります。それを察してか否か、西欧諸国の人々の潜在意識の中に、「何が何でも西>東の図式を作っておきたい」という思惑が見え隠れしているように感じられます。
とりあえず、ユーロビジョン・ソング・コンテストのスウェーデン代表は、まだ決まっていません。3月10日のスウェーデン国内最終選考、
Melodifestivalen 2007 に注目したいと思います。
ポーランドからの報告