旅のウンチク

旅行会社の人間が描く、旅するうえでの役に立つ知識や役に立たない知識など。

バイクという乗り物の持つイメージ

2013年05月14日 | 海外ツーリング
 高校を卒業した春の事。それまでバイクにまったく興味が無かった私は、四輪車と同時教習の方が割安という言葉だけに惹かれてついでに免許を取ろうと思って教習所へ通い、教習所の実技講習でバイクの魅力に目覚め、バイクショップの店頭で見つけた中古の80ccのオフロードバイクを購入たのでした。

 80ccという排気量にファミリーバイクを想像していた私の母はMTX80Rの大きな車体を見て泣きました。私の家族、親せきでバイクに乗っている人間はいませんでしたから、バイク=暴走族、バイク=全員事故死みたいなイメージがあったようで真面目な話母は、自分の息子は事故死する運命になったと信じたそうです。

 さすがに今となっては両親ともバイク=暴走族とは思っていないようですがバイクは危ない乗り物という印象はどうしてもぬぐえないようで、帰省する予定の連絡をすると、その度に”何で帰ってくる?”と確認されます。バイクで帰省するのは未だに心配でならない様子。親にすらそこまで信用されていない私が海外をバイクで走る際に皆さんのリーダー格として走るのは如何なものかという話もありますが、親にとって子供はいつまでも子供なのだと確認させられる出来事でもあります。

 私の親の心配話は横に置いておいても日本の社会全体の中でのバイクに対する印象はバイク=暴走族からそれほど脱却できてはいないでしょう。そして、ライダー側でもバイクの持つ少しアウトローなイメージを楽しんでいる限りバイクに乗らない人たちの持つ印象が良くなることは多分無いのだろうと思います。観光シーズンの観光地周辺の道路渋滞などをすり抜けしていると家族ずれの四輪車などに”悪いライダーを懲らしめるお父さん”が現れて、懲らしめられそうになって危険な思いをすることもあります。1人のライダーとしてこういった事実と向き合う上では、”自分は違う”と懸命に主張するよりも、バイクに乗らない人たちからは”暴走族”と見られているのだという事を受け入れるしかありません。何せ日本は”3ナイ運動”なる差別運動、イジメ運動を国家ぐるみで正々堂々と行ってきた国ですからバイクは全員悪者です。

 バイクの歴史が古く、ある程度文化として確立しているヨーロッパではこういう事はあまりありません。実際バイクの価格や維持費がとても高額なので、バイクが”四輪が買えない人の乗り物”ではないという差も大きいのかと思いますがバイクで旅していても”いい趣味だね”という話が主体です。バイクで旅している人も多いので妙な具合に目立ってしまう事もあまりありません。何となくそこの空気に溶け込んでしまえる印象。

 同じヨーロッパでもイギリスだけは私の印象は少し違います。バイクそのものに対して敵愾心のようなものを感じることはありませんが、キャンプ場に行ってみて何度も入場を断られました。曰く、”バイクは騒音で他のお客さんから苦情が出る””あなたのバイクは静かだけれど、1台入れると、他の人も入れなければならなくなる”という理由でした。後日、サザンプトンという町のモーターサイクリストキャンプで会った地元のライダーのバイクの騒音とマナーの悪さを見るにつけ、なるほど、これでは断られるわけだと少し納得。

 パキスタンやイランやトルコを旅した時は、250ccのオフロードバイクという小型のバイクであっても現地ではとても大きなバイクとして目立ちますから、バイクを停めて食事をとっていたりすると、あっという間に人だかりができて再度出発するのも面倒な具合になることが多々ありました。この事は当時20台前半の青二才だった自分のねじまがった自己顕示欲を痛く刺激して、一時すっかり虜にしましたが帰国する頃にはその反動か、そんな自己顕示欲に溺れていた自分にひどく嫌悪感を感じてしまい、次の旅の手段はもっと地味に”自転車”にしようと固く誓って帰ってきたのでした。


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