旅のウンチク

旅行会社の人間が描く、旅するうえでの役に立つ知識や役に立たない知識など。

パンを焼く

2014年04月01日 | ライフスタイル
 いつの頃からかパンを自宅で焼くようになりました。”元”妻が放置していた食パン型やオーブンレンジを処分する事を考えていた時に、”いっそ処分するより活用してしまおう”と思ったのが直接のきっかけだったと思うので多分パン焼き歴5年前後。それ以前にH.D.ソローの”森の生活”の中にある、"寒い季節に、こうしたいくつもの小さなパンを、まるでエジプト人が卵を孵化させるときのように注意深く見守ったり、ひっくりかえしたりしながら、つぎつぎと焼いていくのは格別の楽しみだった。”という一文が妙に心に残っていて、パンを焼くという事そのものに興味を抱いていたという伏線もありました。

 ソローが"森の生活"の中で焼いていたのは発酵させないパンとの事ですが私は普通に発酵させるパンです。パン教室に通ったわけではないので最初はドライイーストを買った時に付いてきたレシピを見ながらバターロールや食パンを焼いたり、インターネットでレシピを調べて焼いてみたりしたものですが、ここ数年は自分が食べたリンゴの皮を元に育てた自家製酵母を使っています。天然酵母信者ではないのですが、”パンを焼くためにドライイーストを買うなら、パンを買えばよいではありませんか”と言われそうな本末転倒な感じがしたのでこんな事になりました。

 自分で焼くと、美味しいパンになるかというと、残念ながらそんなことはありません。私は最近、食パン1.5斤を週1回焼くというリズムを刻んでいるのですが、レシピは”業務スーパー”で一番安い強力粉を買って、その他は塩、砂糖、水、酵母ダネ、バターだけで焼くレシピですし、教室に通ったわけではないので、時折友人が買ってきてくれる”おいしいパン屋さん”のパンには及びもつきません。それから、失敗して1週間ずっと不味いパンを食べ続ける事もままあります。

 これを読んでいる人の中にパンを焼く趣味の人が居るかどうかわかりませんが、特に天然酵母を使ってパンを焼く場合、今は1年の最高のシーズンである事に同意していただける人も多いのではないでしょうか。気温が10℃に届かない頃には夜こねたパン種は朝になっても全く発酵する気配無く、仕方なく湯たんぽや毛布を使うなどして温度を上げてやらなければなりません。じっとしていても汗が出る頃になると、今度は混入した雑菌の方が早く増えて発酵に失敗する事も増えてきます。その時期になると私はドライイーストを使うようにしています。

 パンを自分で焼くようになってからは、ある時は成功に喜び、またある時は失敗に後悔しながら過発酵してしまった不味いパンを食べ、発酵具合に季節を感じるといったように新しい楽しみと新しい視点を手に入れる事ができたようです。

 思えば”趣味”というのはこういう事なのではないでしょうか。仕事でパンを焼くなら失敗は損失につながりますが、趣味なら後悔と反省程度です。スーパーやパン屋さんで買えば一瞬で手に入る物をわざわざ時間をかけて作る事は時間と労力の浪費ですが、もともと”趣味”と言うのは必要ない事をわざわざやって、時間と労力を無駄にする事でもあります。
 
 時間と労力を無駄にして代わりに手に入る楽しみを感じることができれば、新しい視点を手に入れて人生に新しい彩りを加えることが出来るのだと思います。

 だから私は最近安く手に入るようになったホームベーカリーを買う事も無く、週に1度、20分ほどの時間を”浪費”してパン種をこねます。この20分はH.D.ソローの”格別の楽しみ”と自分なりにシンクロする神聖な20分。ホームベーカリー任せにするにはもったいない大切な時間です。

 旅する事も時間と労力の無駄という意味ではパンを焼く事の比ではありません。パンを自分で焼くのは少しは家計の節約になる可能性がありますが、旅の場合はお金の浪費でもあります。だからこそ、せっかくの機会、代わりに手に入る楽しみを大いに求めていきたいものです。そのためには失敗したパンを食べる覚悟も必要。せっかくの旅を、どんなホームベーカリーで焼けば美味しいパンが焼けるかを調べる事で完成させるのか、美味しいパンが焼けなくても全ての行程を自分で楽しむようにするのかを考えてみても良いと思うのであります。


最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (なんでも好奇心)
2015-06-04 08:47:24
パン焼き初心者です。昨日焼いた、ポリ袋でつくるパンを、今、食べているところです。美味しいのか、うまく焼けたのかわかりません(笑)発酵しきれていない感じもします。ひょっと、ソローが食べていたパンのことを思い出し、検索したら、このページにたどり着きました。趣味は趣味、力が抜けたところがステキに感じました!

コメントを投稿