旅のウンチク

旅行会社の人間が描く、旅するうえでの役に立つ知識や役に立たない知識など。

1月の酔いどれ

2011年04月06日 | 旅行一般
今年の確か1月の事だったとおもいます。もう一つの仕事の方で早番だった私は16時を過ぎた頃、他の職員に軽く挨拶をして、仕事場を後にしました。外は思いのほか寒くて少し気持ちも怯みましたが何分自分の本当の職場までは走れば1分。寒さは我慢できる距離です。住宅街の細い路地を10歩ほど進むと一方通行ではありますが少し広い通りに出ます。角はクリーニング店で、私はこの角を右に曲がるのです。

少し薄暗くなった通りを足早に進み、右に曲がった私は、足元にしゃがんでいる人影を目にしました。クリーニング店の人が何かを道路に落として探しているのだと思った私はその人影の横を抜け、数歩前へ足を踏み出したのですが、その瞬間、クリーニング店の店主が店のシャッターを下ろすために外に出てきました。

クリーニング店の人ではないとすると、歩道にしゃがみ込んでいる人物はかなり不自然な存在だと感じ、私は足を止めて振り返りました。すると、その人物、後ろから見た時は分からなかったのですが、前方に両手を目いっぱい伸ばして、後方へひっくり返りそうになる自分の体のバランスを懸命に維持しているのです。さらに不自然。

私は数歩、その人物の方へ戻って、”どうかしました?”と声をかけました。すると、”うーん、少し飲みすぎて”という返事。どう見ても”少し”ではなく、”だいぶ”飲みすぎていますが、酔っぱらったとき、なぜか人は”酔ってない”と言い張ったりするのですから、自分で”少し酔った”というのは”泥酔しています”という意味なのでありましょう。

一瞬、”なんだ。酔っ払いか”と行き過ぎかけた私ですが、外の寒さとこの人物の薄着振りから、”中野区で凍死。孤独な都会の街角”とか、新聞の好きそうな見出しがふと頭をよぎったのです。

”家はどこですか?歩いていける距離?自分で帰れる?”
尋ねてみると、
”帰れる。帰れる。大丈夫。”
と心強い答えが返ってきますが、見た目はいかにも帰れなさそうな心細い姿。
”それじゃあ、住所を言ってみてください。”
”中野区杉並”
”いや、中野区に杉並は多分ないでしょう。杉並区なの?中野区なの?”
”中野区杉並”
やはりこの人、帰れそうにありません。
”家の人に電話しましょう。電話番号を教えてください。”
”902-xxxxxxx"
"ここは東京ですから、03か、3か5で始まるはずですよ。”
と、どんどん不安要素ばかりが増えていきます。でも、こんなことではめげません。
”最寄りの駅はどこですか”
”鷺宮”
”鷺宮からは歩いて帰れます?”
”歩いて帰れる。大丈夫”

とようやく手がかりをつかんだ私は、この人を鷺宮駅まで送っていくことにしました。といってもお金を持っていなかったので徒歩です。ちょっとした距離があります。

道中でも、いろいろ面白い出来事があったのですがそのあたりは省略。結局、鷺宮駅からも歩いて帰る事も、ご家族に電話することも出来なかったこの人物を鷺宮駅前の派出所へ案内し、派出所の警官に住所、氏名を確認してもらい、送って行ってもらう事で一件落着となりました。

さて、この出来事、翌日、職場でちょっとしたオモシロ話として披露していました。私としては、新橋とか、新宿の繁華街に終電近くになって表れるような酔っ払いが夕方、住宅街の中に存在していたことがオモシロ話の主題だったのですが、話を聞いたほぼ全員が、”あなたは本当に親切だねぇ”とか、”本当に優しいですね″とか、”自分なら絶対そこまで付き合わないな”とか、”自分なら立ち止まりもしない”といった反応なのです。その反応を浴び続けているうちに、まるで自分でも自分が変人に思えてくるほどでありました。

今、この話を偶然目にした人達はいったい、どういう感想を抱いたでしょうか。やはり、”自分なら立ち止まりもしないなぁ”と思ったでしょうか。

では、こういう質問にはどう感じるでしょうか。
”人通りもまばらな住宅街。凍えるような寒さのなかで薄着のまま、すっかり足取りも怪しくなってしゃがみ込んでいる初老の人物を、あなたは見て見ぬふりをして通り過ぎる勇気をもてますか。”

その場に立ってみれば、結局多くの人が同じような行動をとるはずです。だからこそ冬場に酔った人が行き倒れになって命を落とす人が多数発生したりしないのではないでしょうか。

皆、自分が思っているよりはずっと優しく親切な人なのだと思えるのであります。


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1 コメント

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初コメントです (ちょっこぉ@隼TDM乗り)
2011-04-22 21:31:35
どうもご無沙汰してマス。

昨年5月末にE&Gさまにてドイツツーリングを
ご手配頂きました、
ちょっこぉ@隼TDM乗りです。

Blog初コメント入れさせて頂きマス。

全く同感です!

というか、私も以前、地元・練馬にて
同じシチュエーションに遭遇しまして、

相手は女性だったのですが、
泥酔&千鳥足でほっとけなくなり、
その方の目的地をなんとか聞き出して、
連れていった事を思い出しました。

人の心に宿る「親切心」、
私もこれからも大切にしていきたいなと
思っておりマス。



・・あ、全く関係ない話ですが、
また今度、欧州ツーリングにいける
チャンスが来ましたら連絡しますので、
ご手配よろしくお願いしまッス!!

(只今渡航資金稼ぎ中!!)
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