2025年7月 京都童心の会 通信句会結果
【選評】
○金澤ひろあき選
特選 天 57 パパ暑いよ 逝れた夫(ひと)に愚痴を云い 蔭山辰子
一番身近だった人に、今でもぽろっと本音や愚痴をつい云う。その人が亡くなった今でも。二人が作り上げて来た大切な時を思う。
地 40 衣替え老舗の暖簾も浅葱色 松村芳子
季節の変化と共に衣服をかえ、部屋のしつらいをかえる。暮らしやすい機能も大切だが、その中に、楽しみや美を加える。少しでも生活の中に、喜びを見いだそうとしている。
人 75 待ちに待った初なり琵琶の夢の末 三村須美子
「琵琶」は「枇杷」かなと思ったが、文字の通り「琵琶」で読んでみた。
職人が磨き上げ、美しく仕上げられた正倉院御物の琵琶を思った。
作り上げられた美しい琵琶は、貴人の前で演奏する前に、試奏する。その「初鳴り」の音で、感動にひたっているという、天平の頃のドラマを心に描いてみた。その夢の末が、正倉院のような気がする。
他、印象に残る句。
3 生きてゆけ 迷惑かけてありがとう 遠藤修司
「迷惑かけてありがとう」。いいセリフだと思う。
迷惑をかけずに生きていけるとは思っていない。しかし、「迷惑かけてありがとう」という心境には、なかなかなれないもの。つい、情けなく、怒りそうになるし。
6 自分の想ひ かえる季(とき)か衣更 遠藤修司
季節の変わり目もあるし、人生観、価値観などを変えていかなければならない節目のような時もある。
しみじみとした自己観照になっている。
33 主役になれず 苗のまわりのアメンボー 塩見すず子
雨の多い季節に、水辺に集まるアメンボー。ふわふわしているし、確かに主役になりそうにない。でも、生きている。主役にならなくても、自分なりに。
36 ゴルフ場ナイターショット蛍光る 松村芳子
ゴルフ場の体験、しかもナイターゲームの体験を詠んでいる。独特の素材に心引かれた。そこに飛ぶ蛍との取り合わせも面白い。
41 田植え終えドブロク一杯老若も 松村芳子
昔の田植えは地域総出の一日仕事。重労働だった。それを終えた後の安堵感。ドブロク一杯にその思いがこもっている。
43 毎日前進体操水馬 野谷真治
「水馬」の動きを「前進体操」と見立てたところ、面白みがある。茶人などが道具を色々なものに見立てるのと同じ、すき心とでも言うものだろうか。
48 幻灯へ列を引きずる蟻の群 河本美子
幻灯に集まる蟻達。ドライに描写したことによって、雰囲気を伝えてくる。
52 胸にあったあいうえお空に飛ばす 生嶋節子
「あいうえお」は、五十音の最初の行。一番最初の言葉の行を胸にためていた。一番言いたかったこと、想いを放つ。それが詩なのだろう。
66 サクランボ頬赤くして店並ぶ 野原加代子
黄色や赤、確かにサクランボはきれいにお化粧して並んでいるように見える。味もだが、色も楽しめる。
78 夏椿今日はゲストのチェックアウト 三村須美子
夏椿を私達は沙羅双樹とも言っているが、本来は別のもののようだ。しかし、沙羅双樹のおもかげ、別れや無常のおもかげを心に思い浮かべつつ、ゲストの旅立ちを思うと、一つのドラマのようでもある。
82 大泣きの頭から湯気捕まり立ち 三村須美子
赤ちゃんの成長というのは、本人にしてみれば夢中で大冒険なのだろうと思う。つかまり立ちして自分で歩けるようになると共に、心も大きく揺れたりしているのだろう。大泣きで訴えようとしている何かが、とても重大なことなんだと思う。
○松村芳子特選
34 いきなりに過去もとおのき風薫る 塩見すず子
少しむずかしい句です。風薫るだから、いきなりいい思いが良かったですネ。
○野原加代子特選
77 マリーゴールド力漲るビタミン色 三村須美子
私の好きな花はマリーゴールドです。あいみょんという名の若い女性歌手がマリーゴールドと言う歌を歌ってます。
今年初めてマリーゴールドをプランターに植えて眺めています。花の色は確かに濃い色で力みなぎっています。そして確かに生きる力の湧く花です。
○野谷真治特選
52 胸にあったあいうえお空に飛ばす 生嶋節子
「胸にあったあいうえお」とは、なにか。「空に飛ばす」とは、なにか。印象的で気になった作品です。
○遠藤修司特選
30 晴れやかに田の水満ちて立ち話 塩見すず子
しっかり準備、余裕の立ち話ですね。しかし、水不足の人は、悩ましい日々。不公平感あり、日本列島、様々です。
○塩見すず子特選
52 胸にあったあいうえお空に飛ばす 生嶋節子
絵本を見ているようです。私なら、
胸にあついあいうえおお空に飛ばす
としてみたいところです。
他に好きな句
44 小雨のハエ寝ている足裏 野谷真治
小雨の日のハエと人間の足裏の対比。
9 人も蛍もにごった所に住めません 遠藤修司
清き水があこがれです。
29 蛍にもカメラ目線があるかもな 金澤 ひろあき
蛍を対象としてみるのでなく、蛍自身になりきっているので好き。
○三村須美子特選
6 自分の想いかえる季か衣替え 遠藤修司
私自身もはっとしました。何かにつけて亡くなった夫の事を思い出し、涙ぐむ日が続いています。もう半年が経ちました。人はいろんな事に左右され、何かと影響を受け続けて日常を過ごしている。作者の想いを変える事と衣替えが上手く噛み合っていると思いました。
○蔭山辰子特選
42 断捨離に屋敷広々風薫る 松村芳子
片付けて広々としたお部屋に、なかなか思うようにできないです。
他
46 いわゆるひとつの星背番号3 野谷真治
長嶋茂雄さん、さようなら。
33 主役になれず 苗のまわりのアメンボー 塩見すず子
アメンボーにもアメンボーの人生あり。
81 家の家事プランこなせず大昼寝 三村須美子
思いは同じです。42番さんがうらやましいです。
○岡畠真理子特選
25 衣更マンネリ脱いでみる機会 金澤ひろあき
マンネリはある意味ラクなのですが、時には思い切って変えてみることも大切ですよね。服に限らず。
【ネット選】
ネット上で、市忠顕様が選句をいただきましたので、ご紹介致します。
○市忠顕選
特選は20 よく聞けば恋の呼びかけ田植え歌 金澤ひろあき
選評 作者の「新しい発見に対する喜び」が感じられる。
10 常夏の人には無縁か衣更 遠藤修司
13 田植え前水面に映る夏の空 同
21 ヨガポーズ田植えの合い間伸ばす腰 金澤ひろあき
25 衣更マンネリ脱いで見る機会 同
27 風薫る趣味中心の日曜日 同
29 蛍にもカメラ目線があるかもな 同
30 晴れやかに田の水満ちて立ち話 塩見すず子
35 蛍飛び鬱気の夕暮れ晴れさせる 松村芳子
37 和服着て襟足白く風薫る 同
40 衣替え老舗の暖簾も麻葱色 同
61 知らぬ間に梅雨が明けたか蝉の声 蔭山辰子
62 田植にて母を想いて一呼吸 野原加代子
66 サクランボ頬赤くして店並ぶ 同
76 梅豊作アプリで探す活用術 三村須美子
お知らせ
8月句会
日時 8月21日(日)午後2時
場所 阪急長岡天神駅東口 喫茶 アーバンにて
投句 毎月第2週まで 10句前後ですが、少なくても可です。
110円切手3枚同封下さい。
選評 来月第1週までに頂けるとありがたいです。
京都童心の会 年会費 3000円
月句会参加の方は句会で頂いておりますので、不要です。
※記念号、第1校が終了しました。9月中に発行の予定です。
【お便りから】
○平岡久美子様
暑中お見舞い申し上げます。
いつもご活躍感謝しています。通信句会報ありがとうございます。
頂いてばかりで恐縮です。・・中略・・
京都の句会はさすが雅ですね。雅楽が近くで見られるなんて羨ましいです。良くはわからなくても長い歴史の中の所作には血がさわぐ気がします。
坪内さんの講演も聞いてみたかったです。“皆さんの俳句”とはどのあたりを指しているのかわかりませんが、「そんな事はわかっている」と思います。でも作っていきたいのが人だと・・・
暑くなります。お体大事にして下さい。