管内で塗料を剥離すると、今度はそれを処理しなければならない。
私は土手を歩くと、水処理ユニットに近づき、後藤に声を掛けた。
「どうっすか、後藤さん!」
「うん、今のところは順調ですよ、おおっ?来ますよ、来ますよ!」
突然、バキューム装置から伸びているφ65ミリのサクションホースから、大量の汚水が吹き出して来た。
「ゲェバぼぉおおおお!どぼぉ、どぼぼぼぼぼぼぼぼ!」
サクションホースから吹き出す茶褐色の液体には、大量の塗膜片が含まれている。
「おおっと、おおっとぉ!」
後藤はホースの先端をしっかりと押さえ、ザルの中心に汚水が入るように調整する。とは言っても、汚水にはかなり勢いがあり、大量の塗膜片が、ザルの外に飛び出し、受水槽の中に溜まって行く。
「ショぼぉおおぁああアアァァ…」
まるで酔っ払いが、胃の中のものを大量に吐き出してスッキリしたかの様に、バキューム装置は汚水の吐出を停止した。
「木田さん、あのバキューム装置、どういうタイミングで汚水を吐き出すのかね?」
後藤は樹脂製の柄杓で、槽内の塗膜片を集め、土嚢袋に入れ始めた。
「ああ、あれは中のタンクに水位センサーが入っていて、上限レベルまで汚水が溜まると、下限レベルのセンサー位置まで排出する仕組みなんですよ」
「へぇー」
理解したのかどうかは分からないが、後藤は素直に頷いている。
実はこのバキューム装置、そんなことよりも、タンク内の汚水の吐出を、負圧を掛けたまま行える事の方が凄いのだ。つまりそれは、
『掃除機で掃除をしながら、中に溜まったゴミを排出する』
という行為を行っているのだ。
もちろんそんな掃除機は一般的には存在しないが、F社のバキューム装置は、それが可能なのだ。
しかし、そのシステムは驚くほど単純で、実際に見てしまうと、
「はぁ、なるほどね…。配管に二つの圧縮弁を持っていて、交互に開閉して負圧を維持したまま吐出する訳やね…」
という程度のものだった。それでもこの装置、少なくともBMWの7シリーズを二台は買える程のお値段の、超高級なマシンだった。
「ごめんね、ウチの『バキュームフェラ子ちゃん』が、こんなにゲロゲロしちゃって」
私の冗談に、後藤も笑っている。
「ギュボォオオオウ、ズベズベズベぼぼぼぼ!」
いきなり受水槽の吸い込みポンプが異音を発して、汚水を汲み上げなくなった。
「おぉ?」
驚く私を尻目に、後藤は落ち着いて吸い込みポンプを配管パイプごと揺すった。
「ギュボルルルル、ボォうしゅぼぉー!」
再びポンプが汚水を吸い上げ始めた。
「あれ?こんな状態なの?」
「ええ、初日からこんな感じですわ」
後藤は私の問いにさらりと答え、吸い込みポンプの周りの塗膜片を、どっさりとすくい上げる。
「なるほど、これじゃあザルが無きゃ仕事にならないよね。で、昨日買って来たこのザルの使い心地は?」
「ちょっと深さが浅い気もするけど、まあこれで十分凌げますよ」
後藤はまたしてもさらりと答えると、塗膜片で一杯になった土嚢袋を、樹脂製の箱の中に置き、水切りを始めた。
私は水処理ユニットの受水槽に針金でぶら下がる、ステンレス製のザルを見て複雑な気持ちになった。
「渡さんも、東正産業も、読みが甘いんだよなぁ…」
もちろんこの装置を作った当時は、自分も完全な素人だったし、こんな事態は予想出来なかった。しかし、これだけの量の塗膜片が出るとなると、やはり受水槽の手前にスクリーン(水処理におけるゴミ取り装置)が必要になって来る。
「完全自動のスクリーンが欲しいなぁ…」
私は六個に分割された水処理ユニットに、七個目の装置が追加されるのを妄想して、少し楽しい気分になった。
私は土手を歩くと、水処理ユニットに近づき、後藤に声を掛けた。
「どうっすか、後藤さん!」
「うん、今のところは順調ですよ、おおっ?来ますよ、来ますよ!」
突然、バキューム装置から伸びているφ65ミリのサクションホースから、大量の汚水が吹き出して来た。
「ゲェバぼぉおおおお!どぼぉ、どぼぼぼぼぼぼぼぼ!」
サクションホースから吹き出す茶褐色の液体には、大量の塗膜片が含まれている。
「おおっと、おおっとぉ!」
後藤はホースの先端をしっかりと押さえ、ザルの中心に汚水が入るように調整する。とは言っても、汚水にはかなり勢いがあり、大量の塗膜片が、ザルの外に飛び出し、受水槽の中に溜まって行く。
「ショぼぉおおぁああアアァァ…」
まるで酔っ払いが、胃の中のものを大量に吐き出してスッキリしたかの様に、バキューム装置は汚水の吐出を停止した。
「木田さん、あのバキューム装置、どういうタイミングで汚水を吐き出すのかね?」
後藤は樹脂製の柄杓で、槽内の塗膜片を集め、土嚢袋に入れ始めた。
「ああ、あれは中のタンクに水位センサーが入っていて、上限レベルまで汚水が溜まると、下限レベルのセンサー位置まで排出する仕組みなんですよ」
「へぇー」
理解したのかどうかは分からないが、後藤は素直に頷いている。
実はこのバキューム装置、そんなことよりも、タンク内の汚水の吐出を、負圧を掛けたまま行える事の方が凄いのだ。つまりそれは、
『掃除機で掃除をしながら、中に溜まったゴミを排出する』
という行為を行っているのだ。
もちろんそんな掃除機は一般的には存在しないが、F社のバキューム装置は、それが可能なのだ。
しかし、そのシステムは驚くほど単純で、実際に見てしまうと、
「はぁ、なるほどね…。配管に二つの圧縮弁を持っていて、交互に開閉して負圧を維持したまま吐出する訳やね…」
という程度のものだった。それでもこの装置、少なくともBMWの7シリーズを二台は買える程のお値段の、超高級なマシンだった。
「ごめんね、ウチの『バキュームフェラ子ちゃん』が、こんなにゲロゲロしちゃって」
私の冗談に、後藤も笑っている。
「ギュボォオオオウ、ズベズベズベぼぼぼぼ!」
いきなり受水槽の吸い込みポンプが異音を発して、汚水を汲み上げなくなった。
「おぉ?」
驚く私を尻目に、後藤は落ち着いて吸い込みポンプを配管パイプごと揺すった。
「ギュボルルルル、ボォうしゅぼぉー!」
再びポンプが汚水を吸い上げ始めた。
「あれ?こんな状態なの?」
「ええ、初日からこんな感じですわ」
後藤は私の問いにさらりと答え、吸い込みポンプの周りの塗膜片を、どっさりとすくい上げる。
「なるほど、これじゃあザルが無きゃ仕事にならないよね。で、昨日買って来たこのザルの使い心地は?」
「ちょっと深さが浅い気もするけど、まあこれで十分凌げますよ」
後藤はまたしてもさらりと答えると、塗膜片で一杯になった土嚢袋を、樹脂製の箱の中に置き、水切りを始めた。
私は水処理ユニットの受水槽に針金でぶら下がる、ステンレス製のザルを見て複雑な気持ちになった。
「渡さんも、東正産業も、読みが甘いんだよなぁ…」
もちろんこの装置を作った当時は、自分も完全な素人だったし、こんな事態は予想出来なかった。しかし、これだけの量の塗膜片が出るとなると、やはり受水槽の手前にスクリーン(水処理におけるゴミ取り装置)が必要になって来る。
「完全自動のスクリーンが欲しいなぁ…」
私は六個に分割された水処理ユニットに、七個目の装置が追加されるのを妄想して、少し楽しい気分になった。