どんぴ帳

チョモランマな内容

はくりんちゅ239

2008-07-17 16:00:32 | 剥離人
 工事業者に騒音は付き物である。しかし、その騒音の発生を最大限押さえ込まなければならない。

 私は本村組の若い衆に、ハスキーとコンプレッサーの周りと、発電機の周りに、遮音壁を設置するように指示をした。
 本村組の若い衆は、慣れた手つきで単管パイプを運び、どんどん組み上げて行った。

 私は、他人に指示を出すだけで無く、自分のこともしなければならない。急いでコンプレッサーのラインにフィルターを設置すると、20メートルのエアホースを伸ばし、マンホールに向かって引いて行く。
「木田君、先にエアホースを引くよ!」
 マンホールから出て来た小磯が、こちらに歩いて来た。
「ロボットを組むのに、エアーが欲しいってさ」
「あ、それはそうですよね」
 やはり部品のエアブロー(圧縮空気でのゴミ掃除)も必要だろうし、何よりもエアシリンダーを装備しているロボットだ。すぐにエアーは必要になるだろう。
「50メートルホースって、作ったよね」
「ええ、三巻買ったのがありますよ」
「一気に引いちまうか!」
 小磯は、ハルと一緒に50メートル巻きのエアホースを一巻ずつ担ぎ、私も一巻担いで後に続いた。
「ハル、俺が先に下りるから、ロープで降ろせよ」
 小磯が先にマンホールの梯子を下りた。
「小磯さん、面倒臭えから、投げるよ!」
「投げんなよ、ハル!」
「冗談だぉ、ハイ、降ろすからね」
 ハルはホースにロープを括り付けると、ゆっくりと降ろし始めた。ホースが半分まで降下した時だった。
「あっ!」
 ハルが声を上げると、ロープがスルスルと走り、ホースが小磯の前に、
「ボウん!」
 と落ちた。
「あっ、危ねぇだろう!」
「ひゃひゃひゃひゃ、ゴメン小磯さん、ちょっとハルちゃんの手が滑っちゃったみたいよ」
「いや、ハル、お前、ワザとだろう!」
「失礼しちゃうなぁ、ハルちゃんがそんな事すると思ってるの?」
「うん、思ってる」
「ちゃあ、そんなこと言うんなら、木田さんと交代するからね!」
 私はハルと交代し、ロープを手に持った。
「じゃ、小磯さん、次のホースを降ろしますよぉ」
 小磯はやや、体を半身に引きながら、上を見ている。
「木田さん、落として、落として!」
 ハルが小声で囁く。
「くはははは!」
 思わず手が弛み、一気にロープが走った。
「ボウんっ!」
 管の中に再び、ホースの落下音が響いた。
「がはははは、お前ら絶対にワザとだろう!」
 飛び退いた小磯が、顔を真っ赤にして叫んでいる。
「うひひひひ、違いますって、ハルさんが笑わすんだって!」
「違うよ、木田さんね、小磯さんを狙ってたぉ!」
「がはははは、もうお前らは信用しねぇからな!」
 三人で馬鹿笑いをしていると、佐野が水管橋の奥からやって来た。
「おーい、エアホースはどうなったぁ?」
「ひひひひ、今降ろしてる最中ですよ」
 私は笑いながら佐野に答えた。
「木田さん、ハイ、三本目!」
 ハルがヘラヘラとしながらホースをマンホールの縁に乗せる。
「うほほほほ、小磯さん、三本目だおぉ」
 ハルはさらに笑いながら、ホースにロープを括っている。
「行きますヨォ…」
 私は抜け掛けた腕の力を振り絞り、ホースを管内へ降ろす。
「クヒヒヒヒっ!」
 何故か笑えて来て、急に脱力し、一気にロープが走り出し、ホースが、
「バおうンっ!」
 と管内へ落ちた。
「くひゃひゃひゃひゃ!」
「うほほほほほ!」
「ぐひひひひひ!」
 三人で何故か笑い転げる。
「どうした?まだ塗装もやってねぇのに、シンナーでラリったか?」
 佐野も異様な雰囲気に釣られて笑っている。
「ひひひひ、いや、大丈夫です。すぐに引きますからぁ」

 五分後、水管橋内では、ハルと小磯の、
「そーれ、そーれぇ!」
「がはははは!」
 という大声と、ホースを持って爆走する二人の姿があった。