いつのまにか、日は地平線に近づき、辺りの空気も次第に冷えて来た。立ち上がろうとするホアキンにもう一度座るようにヨアヒムは促し、これまでとは打って変わった表情で話し始めた。
「あなたがエレンとの旅から帰ってくると、事態が急に動きそうな予感がする。ヴァルナが完全に目覚めつつある事。私が君の代わりに出かける事になっていたから知っているのだが、ガーゴイルとそれより遥かに重要な人を竜骨に向かい入れるのが今回の旅の目的だ。ガーゴイルが竜骨に入ってくる事自体前代未聞だが、それ以上に重要な人物となるとミトラその人である可能性がある。
もしこの私の推測が正しければ、もう一人のお方スールヤもまもなく舞台へと上がってくるはずだ。
そうなれば事態は一気に加速するはず。あなたとゆっくり話す機会もなくなるかも知れない。
だから私が持っている疑問をあなたに伝えて置きたいのだ。無視してしまう事も含め、それをどう解釈するかはあなたに委ねる。ただ私が息災である限りは君の胸の内に留めて置いて欲しい。
戦いの最中に私が倒れたならば、その後の扱いはあなたに委ねる事としたい。
スールヤ、ヴァルナ、ミトラの別名がヴィーダ、ソフィア、アスラである事はあなたも承知の事と思う。
事はその名に関わる。
ご存知の通りわが一族の歴史は古い。概ね対立していた事が多いとはいえ、わが一族からは異端審問庁の幹部や沈黙騎士団の総長も出ている。彼等は教団の内部に関わる秘事を少なからず残している。
わが家に伝わるそのような秘事によれば、異端審問庁の目的は知識の抑圧ではなく、知識の制御。言わば知識と言うプールの水源管理人なのだ。
末端の隊員はイザ知らず、厳密な二重階層制を引く異端審問庁の中心会員(アビゲイル会と呼ばれている組織の構成員)の目的は会の創設以来、知識の保存と漸進的かつ時宜を得た開示にあった。言い換えればエニカ教本体による知識の破壊を最小限に食いとどめると同時に、一般社会における知識の暴走を抑圧する役目を担い続けたと言って良い。
皮肉な事に異端者として火刑に処せられたものより、異端審問官の方が、異端とされた知識について深い知識を持って居た事往々にしてあった。
そしてこうした中心会員の祭神は、知識の象徴であるソフィアとよばれている。
これが偶然の一致であるかどうかは知らぬが、もしそうでないとするならば、ソフィア様の行動には計り知れぬ部分がある事となる。一方では地のエンジェルを使い閉鎖空間において科学研究を押し進め、もう一方では異端審問庁と沈黙騎士団を使って、この世界の大多数を占めるエニカ教徒の世界に於ける科学研究を極めて歩みののろい物に抑えようとしている事となる。
近来の事態の推移をみると、竜骨の攻撃を行っている沈黙騎士団の行動も解せぬものとなる。少なくとも従来の路線の上に立つ限り異端諮問庁が、毒ガスまで使って竜骨攻撃を命じる事など極めて考えがたい。
教皇庁なり中西部連合政府の命令があったとしても、おざなりな攻撃でお茶を濁すのがこれまでの常であった。
異端審問庁の中枢部で何かが起こって居ると見るべきであろう。
今私が、あなたに話せる事はこれだけだ。どう扱うにせよ、当分はあなたの胸の内にとどめておいて欲しい。
さあ、日も落ちてきた。砦に下りよう。」
そう言うとヨアヒム師はホアキンを残して砦の中へと降りていった。
小半刻ほどヨアヒム師の言葉を反芻した後、入日の残照に光る岩稜を一瞥すると、ホアキンもエレンとの集合場所へ向かって降りていった。
「あなたがエレンとの旅から帰ってくると、事態が急に動きそうな予感がする。ヴァルナが完全に目覚めつつある事。私が君の代わりに出かける事になっていたから知っているのだが、ガーゴイルとそれより遥かに重要な人を竜骨に向かい入れるのが今回の旅の目的だ。ガーゴイルが竜骨に入ってくる事自体前代未聞だが、それ以上に重要な人物となるとミトラその人である可能性がある。
もしこの私の推測が正しければ、もう一人のお方スールヤもまもなく舞台へと上がってくるはずだ。
そうなれば事態は一気に加速するはず。あなたとゆっくり話す機会もなくなるかも知れない。
だから私が持っている疑問をあなたに伝えて置きたいのだ。無視してしまう事も含め、それをどう解釈するかはあなたに委ねる。ただ私が息災である限りは君の胸の内に留めて置いて欲しい。
戦いの最中に私が倒れたならば、その後の扱いはあなたに委ねる事としたい。
スールヤ、ヴァルナ、ミトラの別名がヴィーダ、ソフィア、アスラである事はあなたも承知の事と思う。
事はその名に関わる。
ご存知の通りわが一族の歴史は古い。概ね対立していた事が多いとはいえ、わが一族からは異端審問庁の幹部や沈黙騎士団の総長も出ている。彼等は教団の内部に関わる秘事を少なからず残している。
わが家に伝わるそのような秘事によれば、異端審問庁の目的は知識の抑圧ではなく、知識の制御。言わば知識と言うプールの水源管理人なのだ。
末端の隊員はイザ知らず、厳密な二重階層制を引く異端審問庁の中心会員(アビゲイル会と呼ばれている組織の構成員)の目的は会の創設以来、知識の保存と漸進的かつ時宜を得た開示にあった。言い換えればエニカ教本体による知識の破壊を最小限に食いとどめると同時に、一般社会における知識の暴走を抑圧する役目を担い続けたと言って良い。
皮肉な事に異端者として火刑に処せられたものより、異端審問官の方が、異端とされた知識について深い知識を持って居た事往々にしてあった。
そしてこうした中心会員の祭神は、知識の象徴であるソフィアとよばれている。
これが偶然の一致であるかどうかは知らぬが、もしそうでないとするならば、ソフィア様の行動には計り知れぬ部分がある事となる。一方では地のエンジェルを使い閉鎖空間において科学研究を押し進め、もう一方では異端審問庁と沈黙騎士団を使って、この世界の大多数を占めるエニカ教徒の世界に於ける科学研究を極めて歩みののろい物に抑えようとしている事となる。
近来の事態の推移をみると、竜骨の攻撃を行っている沈黙騎士団の行動も解せぬものとなる。少なくとも従来の路線の上に立つ限り異端諮問庁が、毒ガスまで使って竜骨攻撃を命じる事など極めて考えがたい。
教皇庁なり中西部連合政府の命令があったとしても、おざなりな攻撃でお茶を濁すのがこれまでの常であった。
異端審問庁の中枢部で何かが起こって居ると見るべきであろう。
今私が、あなたに話せる事はこれだけだ。どう扱うにせよ、当分はあなたの胸の内にとどめておいて欲しい。
さあ、日も落ちてきた。砦に下りよう。」
そう言うとヨアヒム師はホアキンを残して砦の中へと降りていった。
小半刻ほどヨアヒム師の言葉を反芻した後、入日の残照に光る岩稜を一瞥すると、ホアキンもエレンとの集合場所へ向かって降りていった。
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