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pride and vainglory -澪標のpostmortem(ブリッジ用語です)-

初歩の文書分析と論理学モドキ(メモ)

アポカリプス 第十章 旅の仲間⓴

2021-10-10 06:52:16 | ψευδεπιγραφία
 私達が知る限り母星文明が宇宙に乗り出すレベルまで達した際には必ずと言っていいほど、母星文明の全面崩壊、言い換えれば惑星レベルでのジェノサイドが発生していた。
 勿論殖民星との宇宙戦争だった場合もあれば、母星を舞台とした惑星規模の熱核戦争だった場合もある。
 所がこの星の場合はその寸前の所で、母星の文明が緩やかな(勿論ジェノサイドによる壊滅に比べればの話だが)崩壊を始め、宇宙空間においては殖民星が母星とはほぼ独立して文明を維持する事が出来た。
 その原因としては、エニカ熱と言う致命的な熱病が文明の崩壊に介在した事。映像でお見せしたように人間の亜種とも言えるエンジェルが発生した事が上げられる。
 特に亜種の発生と定着は、私達が経験した長い円環の繰り返しの歴史の中でも始めて発生した事だ。
 ミュータントの発生自体はそれほど特筆すべき事ではない。円環の繰り返しの中では何度となく発生した。しかしその大半は極めて不安定であったり、致死遺伝子を伴ったりするものだった。そうでも無い場合も必ずしも既存の人に比べて競争力があるとは限らなかった。
 そして極めて例外的な場合、言い換えれば既存の人より何らかの意味において競争力のある亜種が発生した場合は、人の持つ残忍さがいかんなく発揮された。
 芽の内に摘み取られたのだ。
 エニカ熱の発生による社会の崩壊と遺伝子改変技術による人為的亜種とも言えるバイオサイボーグの存在が、亜種の定着を可能としたと言える。

 そしてその背景にはこの世界の成り立ちの特異性がある。この世界に先立つ世界は極めて科学文明の発達した世界だった。とりわけ遺伝子改造技術は、私達の長い生涯を通じても特筆すべきレベルだった。
 異形とも言えるサイボーグや生体兵器や細菌・化学兵器そう言った物の氾濫の中でその世界は崩壊した。その崩壊は稀に見るほど徹底した物であり、我々はある星系のラグランジュポイントにある人工コロニーを救出するのがやっとだった。
 通常新たな世界に生き延びたものは、前の世界の崩壊となった原因を嫌悪して無意識の内に封印する。
 そうでなくても文明と言う物は複合的かつ総合的な物だ。サバイバルに要する数世代の内に身の丈を超えた技術は忘れ去られ、必要な物だけが残る。
 鋤や鍬、頚木や車輪・滑車が必要とされる状況に置いては、理論的には可能でも、工業製品化が不可能な高分子化学やセラミック技術などは容赦なく捨て去られる。前の世界から持ち込んだ文物が使い果たされるともっと身の丈に会った代替物に切り替えられ、理論もやがては失われて行く。
 そうして又緩やかな発展が始まる。それが円環の歴史の常だった。

 所がこの世界では様相が異なっていた。私達は重力制御装置を使用してこの星に人工コロニー自体を移転させるしかなかった事が始まりだった。
 勿論この大陸の中央高地に着地させた人工コロニーは厳重に封印し、不本意ながら人々の記憶からも改変した。しかし彼等の内に対記憶改変耐性を持ち、私達のスキャニングからそれをカモフラージュ出来る者が存在していたのだ。
 数世代の後、コロニーの封印は破られ、私達のクローンが生まれたのだ。多分私達以上に私達を信奉し、文化神としての我々に対して過大な期待を持つが故に何もしない私達に苛立ち、3人のクローンを密かに作成し、私達に変えようとした。
 こうして、ヴィーダ・ソフィア・アスラと呼ばれる者たちが生まれた。
 これも又面白い。そう考えた私達3人は引篭もる事を決め彼らに私達の役目を委ねる事とした。
 エニカ熱やエンジェルの発生自体、こうして始まったこの世界の文明の当然の帰結と言えるかも知れない。
 そして…」
 その時何らかの異変を伝える物と思われる警報が鳴った。

 高亮がそれまでの話を止めると同時に、ジョンが弾かれたようにドアを開け、ライブラリーを出て行った
 「思ったよりも早く向うで何か始まったようです。話の続きは又の機会にしたいと思います。では忙しくなる前に、ジョディ君に掛けて置いた暗示を解く事にします。」
 高亮がジョディの鼻先で指を鳴らすと、ふと我に帰ったようにジョディは二三度首をふった。
 そして高亮を見つめ一言。
 「ルシッド。」とだけ言うと失神した。

 崩れ落ちるジョディを抱きかかえた高亮は、思わず問いかけそうになったヴィヴィアンの機先を制して答えた。
 「勿論私はルシッドではありません。ルシッドは私のクローンであるヴィーダあるいはその又クローンです。
 ジョディの話と私とジョンが感じた力から見て、ヴィーダではなくその又クローンである可能性が高いとは思います。
 いずれにせよ今回の事件の鍵となる人物だと思います。
 これまではいらぬ恐怖を与えぬ為、ジョディ君には催眠術を掛けてありました。いずれじっくりと説明する時間があると思ったからです。しかし、事が始まった以上荒療治ですが、急がなくてはなりませんでした。もう少しして、目覚めたら手早く説明する事にします。」

 壁際にあるソファーにジョディを横たえ終わるとほぼ同時にジョンがドアを開け入ってくると、高亮に二言三言囁いた。
 話を聞き終わった高亮はヴィヴィアンに向かって手短に話しかけた。
 「アスラがソフィアの領域に入ったようです。我々がコロニーに設置しておいたセンサーが感知しました。
 しかし、我々が予定しているコロニーと此方との転送リンクが作動するにはまだ時間が有りそうです。今の内に休んでおいてください。 明日からはとても忙しくなると思いますから。
 私達はこれからまだすこし機器の最終チューニングを行いますし、ジョディ君の方は私達で面倒を見ます。これから鎮静剤を処方しますから、彼が今度起きるのはいずれにしても明日の朝になります。」
 そう言うとヴィヴィアンに寝室に引き取るよう促した。

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