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pride and vainglory -澪標のpostmortem(ブリッジ用語です)-

初歩の文書分析と論理学モドキ(メモ)

アポカリプス 第十章 旅の仲間⓰

2021-10-02 07:33:37 | ψευδεπιγραφία
 お腹がくちくなったのか、退屈そうにすわりながらうとうとしかけているダークワンの頭を左手でなでながら、ビリーの鼻先でビスケットを一枚取りぽりぽりと齧ると(ビリーの食べ方の見事な真似になっていた。)、すこし焦らす様にお茶を一口啜ってジョンは再び話始めた。
 「君の指摘自体は事実の指摘としてはそう間違っているとは思わないが、価値の判断においては大きくポイントをはずして入ると思う。
 たしかに人と動物との差はまず規模の問題と言うのが妥当だろう。只規模の違いが空間だけではなく時間にもある事が大きなポイントだと思う。
 そしてそれを齎すのが言葉とそれが形作る概念。もっと直裁に言えば記憶と歴史と呼んでも良い。

 言葉により永遠の現在から脱出する事となったが、その代わり記憶の蓄積が臨界に達すると振り出しに戻る永劫回帰の世界に入る事となってしまった。
 確かに記憶の澱が溜まるにつれ人は進歩とか正義とか言う概念を生み出す。そしてそれが持ちきれないほどに膨らむと崩壊を生み出す事になる。
 しかしそれを諸悪の根源と言った価値判断で評価する事自体が、進歩とか正義とか言う概念に深く閉じ込められている事だと考える。

 考えてもみてごらん。一つのサイクルの中でも崩壊期に直面する物はごく僅かだ。その他の時期の者に取って文明の発達は恩恵と言って良い。
 副作用があるからと言って否定してしまうとしたら、ある種の傲慢と言っても言いすぎではない。」


 ジョディは一瞬鼻白んだ顔をしてから、直ぐ返答を返そうとして思いとどまり、すこし考え込み始めた。
 そうそうこなくちゃ。そうやすやすとジョンの手品に乗ってしまっては面白くない。ヴィヴィアンはそう思いながら、ビスケットをまだ食べようとするビリーを抱き寄せ、
 「お馬鹿さん。腹も身のうちよ。あんまり食べてばかりいると、ジョンにまたからかわれるわよ。」とすこし援護射撃を送った。

 「僕達、人は、知識と言う食物を必要としながら、適切にコントロールする事が出来ずついには身を滅ぼす。しかし知識と言う食物を拒否すれば、育つ事も出来ず餓死してしまう。そう言う事ですか。
 しかし永劫回帰の繰り返しの内でいつかその円環から抜け出す事が出来る。言い換えれば人は知識の制御にいつか成功する。そう思う事はないのですか。」

 「勿論その可能性はある。しかしそれは急ぐべきものではない。ましてや知識の追求の果てに、円環からの脱出を求める事は無理だろう。」
 ジョンの言葉を聴きながらく、るくると頭を回転させて居る様に見えたジョディは、一瞬眼を瞑った後、思い切って口調で話し始めた。
 「ではあなた達の目的は何なのですか。私にはあなた方がとても傲慢に思えてなりません。とてつもなく卓越した知識を持ちながら何もしないで居るなんて。」

 ここまで沈黙を守っていた高亮が、一口お茶を啜るとテーカップをテーブルに置いて話し始めた。
 「何もしない事、たしかに傲慢と言われればその通りだろう。しかしその対極に、もう一つ傲慢も対置しうるのだよ。曰く人を導く。
 長い旅の中で私達は色々な経験、もっと率直に言えば失敗を重ねて来た。その中から得たものをすこしお話しよう。
 まず一つは人の欲と言うものは底無しと言って良い事だ。
 なにもそれは野望・征服欲・支配欲などと言ったものだけではなく、崇高・献身・探求と言った往々にして評価される物も含まれる。更には怠惰・依存・放棄と言った通常は欲とは把握されない物を含んでの事だ。
 たしかに直接に世界を崩壊に導くのは野望・征服欲と言ったものだ。しかしそれでけでは所詮一時的で、永続するものではない。人を破壊に導くのは剥き出しの欲望ではなくそれなんらかの“崇高”な概念にコーティングされた時だけなのだ。曰く“平等な社会の実現”、“戦争をやめる為の戦争”、“停滞と抑圧からの開放”。いやそれだけではまだ不十分だ。
 それに仕上げをするのが、概念に身を委ねる事による判断の放棄。もっと言えば勝ち馬に乗ることによる便益の確保と、勝利した概念への帰依による正当性の確保。これが重なると運命の車輪は廻り始める。
 そして、そのような車輪が廻った所で、最後の最後になるまではやり直しが可能と言う事だ。今回がうまく行かなくても、やり直しが効く。野望を持つ者は最悪の結果からでもなんらかの収穫を引き出し、概念を持つ者は、失敗を手段の性にし概念の救出・純化を計る。 そして身を委ねる者は、失敗の責任も他者に委ね、新たな正当性を求める。このような仕掛けが機能し続ける限り知識などなんの役にも立たない。
 そして、」

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