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pride and vainglory -澪標のpostmortem(ブリッジ用語です)-

初歩の文書分析と論理学モドキ(メモ)

アポカリプス 第十章 旅の仲間⓮

2021-09-27 08:47:13 | ψευδεπιγραφία
 <西方高山地帯>

 どのような仕掛けか分からぬが、凍るような外気から遮断された岩棚のテラスから眺めは一面の銀世界だった。
 北西方向に連なる連峰だけではなく眼下にひろがる丘陵帯も雪に覆われていた。つい先日までは薄紅色に辺りを染めていた葉を落としたブナ林も白色に染まっている。
 あちらこちらに点在する針葉樹の森と雪を寄せ付けぬ岩壁だけが、白一色の世界に緑灰色の彩りをつけている。
 岩棚から稜線へと繋がる崖をへつって、ジョンとリッキー一族が帰って来た。
 リッキーの後ろにリンクス、スマイス、ダークワンが続いている。メリンダ母さんとマイアはお留守番のようだ。尻尾を高々と上げたダークワンの様子から見てなかなかの豊猟のようだ。相変わらず分かりやすい奴だ。
 その後ろから団栗を一杯に頬ばったビリーがとことこと着いてくる。あらあいつ狼が怖かったじゃなかったかしら。こいつも別の意味で分かりやすい奴だわね。思わずヴィヴィアンは微笑んだ。 
 ふともう一人、知恵熱を出して寝込んでいる、分かりやすい奴の事が頭に浮かんだ。
 ジョンが崖のどこかを弄ると一瞬冬の凍てつく外気が流れ込み、彼等がテラスに入ってきた。

 「新鮮な空気と新鮮な肉が狼には必要だ。それに知恵熱を出して寝込んでいる誰かさんと不眠不休でなにやらやっている高亮にもね。」
 「私には良いの。」
 「勿論ぼくとヴィヴィアンの分もだよ。とても豊猟だった。リッキー一族も大満足さ。」
 「別の意味で、ビリーも満足そうね。」
 「こいつは枯葉の中から団栗を見つけ出すのが大好きさ。甘えん坊なのは確かだが、根っ子は君と同様自主独立なのさ。」
 「有難う。でも呆れてるの。私が鈍感なので。」
 「いや違うよ。あんな話を聞かされたらジョディみたいに寝込むのが普通さ。君たちの世界が始まる前から生きている奴がいるなんて事を聞かされたらね。まず考える事は僕らが狂っている。それが一番簡単な結論さ。
 でもそれではここの設備やそれを使いこなす僕らの能力を説明出来ない。かと言って僕らの説明を受け入れれば、自分達の無力とある意味では将棋の駒扱いされた歴史を認めざるをえない。僕らも含めたある意味ではむごい者の存在をね。
 でも君は違う。僕らの存在を認めた上で、卑下する事も無く自信喪失に陥る事もなく、しっかりと立っている。」

 「私が単に知識欲の塊であるからにすぎないわ。あなた達の話を聞いた上で猛然と知識欲に駆られただけの事。それに理論だけとはいえ、あなた達の知らなかった世界に一歩だけでも私が到達していた。その自尊心がかろうじて私を支えているに過ぎない。現実面で何一つお手伝いできないのなら、いっそジョディみたいに寝込んでしまった方が楽だったのにと思うこともある。」
 「それが勁さ。」
 そう言うとジョンは腰に廻していた獲物とリッキーとリンクスの首にかけ、先に行くように言いつけた。スマイスは父と兄に従ったが、ダークワンとビリーはまだ遊び足りなそうにテラスに残り、あちこちをうろうろしている。本当に分かりやすい奴らだ。
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