ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

令和6年度税制改正大綱が公表された

2023年12月15日 07時00分00秒 | 国際・政治

 2023年12月14日の午後、自由民主党のサイトに令和6年度税制改正大綱が掲載されました。

 地方自治総合研究所の仕事をするようになって、毎年、与党の税制改正大綱と政府の税制改正大綱を入手し、読んでいます。そのため、読み比べなども行います。

 これからじっくりと読んでいくことにしているのですが、今回は「第一 令和6年度税制改正の基本的考え方」に25頁も割かれており、今後の課税のあり方などに関する記述がかなり多くなっている点に気付きます。

 たとえば、個人所得課税については「私的年金等に関する公平な税制のあり方」、「人的控除をはじめとする各種控除の見直し」および「記帳水準の向上等」が検討課題としてあげられています。

 また、「沖縄の復帰に伴う激変緩和措置として設けられた揮発油税及び地方揮発油税の軽減措置」については、その「適用期限を3年延長する」とともに、「次の適用期限の到来時に、本措置の趣旨、地球温暖化対策の観点、県内離島のガソリン価格への対応及び「強い沖縄経済」の実現に向けた沖縄振興策との関係などを踏まえ、そのあり方について検討する」と述べられています。地方交付税法附則第9条に定められる沖縄県についての特例も検討の対象になるのでしょうか。

 私が気になっている点の一つが外形標準課税であり、令和6年度税制改正でも外形標準課税の適用対象法人についての改正が行われることとなっていますが、「今後の外形標準課税の適用対象法人のあり方については、地域経済・企業経営への影響を踏まえながら引き続き慎重に検討を行う」としており、さらに拡充の方向性に進むのでしょう。

 新聞やインターネットの記事でよく報じられていたのが所得税の扶養控除の改正です。これについては機会を見つけて論じようと思っています。ただ、「扶養控除の見直しについては、令和7年度税制改正において、これらの状況等を確認することを前提に、令和6年10月からの児童手当の支給期間の延長が満年度化した後の令和8年分以降の所得税と令和9年度分以降の個人住民税の適用について結論を得る」と書かれていることには注意を向けておく必要があるでしょう。

 そして、やはり何かと報じられてきた「防衛力強化に係る財源確保のための税制措置」です。令和6年度税制改正大綱の25頁では次のように述べられています。

 「防衛化強化に係る財源確保のための税制措置については、令和5年度税制改正大綱に則って取り組む。なお、たばこ税については、加熱式たばこと紙巻たばことの間で税負担の不公平が生じている。同種・同等のものには同様の負担を求める消費課税の基本的考え方に反って税負担差を解消することとし、この課税の適正化による増収を防衛財源に活用する。その上で、国税のたばこ税率を引き上げることとし、課税の適正化による増収と合わせ、3円/1本相当の財源を確保することとする。」

 「あわせて、令和5年度税制改正大綱及び上記の基本的方向性により検討を加え、その結果に基づいて適当な時期に必要な法制上の措置を講ずる趣旨を令和6年度の税制改正に関する法律の附則において明らかにするものとする。」

 ここで、令和5年度税制改正大綱も取り上げておきましょう。21頁から22頁にかけて「防衛力強化に係る財源確保のための税制措置」として、次のように書かれています(長くなりますが、引用します)。

 「わが国の防衛力の抜本的な強化を行うに当たり、歳出・歳入両面から安定的な財源を確保する。税制部分については、令和9年度に向けて複数年かけて段階的に実施することとし、令和9年度において、1兆円強を確保する。具体的には、法人税、所得税及びたばこ税について、以下の措置を講ずる。

 ①法人税

 法人税額に対し、税率4〜4.5%の新たな付加税を課す。中小法人に配慮する観点から、課税標準となる法人税額から500万円を控除することとする。

 ②所得税

 所得税額に対し、当分の間、税率1%の新たな付加税を課す。現下の家計を取り巻く状況に配慮し、復興特別所得税の税率を1%引き下げるとともに、課税期間を延長する。延長期間は、復興事業の着実な実施に影響を与えないよう、復興財源の総額を確実に確保するために必要な長さとする。

 廃炉、特定復興再生拠点区域の整備、特定復興再生拠点区域外への帰還・居住に向けた具体的な取組みや福島国際研究教育機構の構築など息の長い取組みをしっかりと支援できるよう、東日本大震災からの復旧・復興に要する財源については、引き続き、責任を持って確実に確保することとする。

 ③たばこ税

 3円/1本相当の引上げを、国産葉たばこ農家への影響に十分配慮しつつ、予見可能性を確保した上で、段階的に実施する。

 以上の措置の施行時期は、令和6年の適切な時期とする。」

 令和5年度税制改正大綱において予告がなされていた訳ですが、そこでは法人税、所得税、たばこ税が財源の候補としてあげられていました。「防衛力強化に係る財源確保」との関係を見出しがたい記述もありますが、これは配慮の意味を持たせたものなのでしょう。そして、令和6年度税制改正大綱においては「防衛力強化に係る財源確保のための税制措置」として、或る意味では予想通りにたばこ税だけがあげられたのでした。すぐに、私が大東文化大学法学部で担当している「法学特殊講義2A」においてたばこ特別税を取り上げていることを思い出しました。このブログでも「講義内容を公開します たばこ税その1」においてたばこ特別税について述べていますのでお読みください。或る意味で、政治的に厄介な問題についての財源として最も使い易いのがたばこなのです。所得税や法人税であれば反対意見が多くなるのに対し、たばこ関係の租税であればそれほど強力な反対意見が出ないということが推察できます。たばこ特別税は、日本国有鉄道に由来して日本国有鉄道清算事業団に引き継がれた長期債務の償還のため、国有林野事業特別会計の累積債務の解消のために導入されたものです。

 この他に、例年の税制改正大綱と同様に、令和6年度税制改正大綱の最後に検討事項が列挙されています。何年も掲げられている事項もありますが、私が特に関心を持ったのは次の点です。

 「いわゆる『老老相続』や相続財産の構成の変化など相続税を取り巻く経済社会の構造変化を踏まえ、納税者の支払能力をより的確に勘案した物納制度となるよう、延納制度も含め、物納許可限度の計算方法について早急に検討し結論を得る。」

 ここで少しばかり。物納許可制度、延納制度の検討も必要ですが、むしろ相続時清算課税を含め、相続税と贈与税との一本化、あるいは贈与税の基礎控除の引き上げなど、贈与税の見直しが先決でしょう。物納や延納を検討したところで「老老相続」などの問題には十分に対処しえないでしょう。

 「自動車関係諸税の見直しについては、日本の自動車戦略やインフラ整備の長期展望を踏まえるとともに、『2050年カーボンニュートラル』目標の実現に積極的に貢献するものでなければならない。その上で、自動車の枠を超えたモビリティ産業の発展に伴う経済的・社会的な受益者の広がりや保有から利用への移行、地域公共交通へのニーズの高まり、CASEに代表される環境変化にも対応するためのインフラの維持管理・機能強化の必要性等を踏まえつつ、国・地方を通じた財源を安定的に確保していくことを前提に、受益と負担の関係も含め、公平・中立・簡素な課税のあり方について、中長期的な視点に立って検討を行う。その際、電気自動車等の普及や市場の活性化等の観点から、原因者負担・受益者負担の原則を踏まえ、また、その負担分でモビリティ分野を支え、産業の成長と財政健全化の好循環の形成につなげるため、利用に応じた負担の適正化等に向けた具体的な制度の枠組みについて次のエコカー減税の期限到来時までに検討を含める。また、自動車税については、電気自動車等の普及等のカーボンニュートラルに向けた動きを考慮し、税負担の公平性を早期に確保するため、その課税趣旨を適切に踏まえた課税のあり方について、イノベーションへの影響等の多面的な観点も含め、関係者の意見を聴取しつつ検討する。」

 ここでも少しばかり。地域公共交通への言及がある程度で終わっているのは非常に残念です。自動車戦略も重要ですが、偏っているように思えます。今後の中長期的な見通しとして、日本においては自動車、とくに乗用車の台数が増えることが想定しにくいでしょう。むしろ、公共交通機関の需要が多少とも増え、維持・発展のための財源こそが必要になります。自動車関係諸税の税収の一部を公共交通機関の整備などのための財源にすることなどを目指した検討が行われなければなりません。

 今後も、令和6年度税制改正については、機会を見つけて記していくつもりです。


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