ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

講義内容を公開します たばこ税その1

2020年07月01日 00時33分09秒 | 法律学

 私が大東文化大学法学部で担当している「法学特殊講義2A(消費税)」の講義内容の一部を公開します。煙草も立派な講義の対象物です。

 

 1.たばこ税の概要

 〔1〕専売制度からたばこ税法の制定まで

 現在のたばこ税は、日本において比較的新しい税目の一つである。

 1876(明治9)年、税収確保のために煙草税が導入された。煙草税は煙草営業税および製造煙草税から成っていたが、製造煙草税について採用していた印紙による納税方式が不正を招くなどして期待されたほどの税収を上げることができず、密造や密売を防ぐこともできなかった。そこで、1896(明治29)年に葉煙草専売法(明治29年3月28日法律第35号)が制定され、政府が葉たばこの先買権を有することなどとされた。そして、1904(明治37)年に煙草専売法(明治37年4月1日法律第14号)が制定され、輸入たばこを含めた完全な専売制に移行した。これにより、たばこの製造から販売まで国が管理することとなった(担当は大蔵省専売局)。背景には日清戦争および日露戦争があり、戦費調達の目的があった。

 なお、1903(明治36)年には「粗製樟脳、樟脳油専売法」(明治36年6月17日法律第5号)により樟脳および樟脳油の専売制度が、1905(明治38)年には塩専売法(明治38年1月1日法律第11号)により塩の専売制度が、1937(昭和12)年にはアルコール専売法(昭和12年3月31日法律第32号。2001(平成13)年4月1日廃止)により工業用アルコールの専売制度が始められた。

 阿片も専売制の対象とされた。但し、このことを明文で定める法律は存在しなかったようである。

 日本国憲法が施行されてからも、たばこ、塩および工業用アルコールについては専売制が継続された。すなわち、たばこ専売法(昭和24年5月28日法律第111号)および塩専売法(昭和24年5月28日法律第112号)は、たばこおよび塩について1949(昭和24)年設立の日本専売公社に専売事業を引き受けさせた。一方、工業用アルコールについては、通商産業省(現在は経済産業省)の事業として専売事業を継続した。

 たばこ専売法第2条:「たばこ種子の輸入、葉たばこの一手買取、輸入及び売渡、製造たばこの製造、輸入及び販売並びに製造たばこ用巻紙の一手買取、輸入及び販売の権能は、国に専属する。」

 同第3条:「前条の規定により国に専属する権能及びこれに伴う必要な事項は、この法律及び日本専売公社法(昭和23年法律第255号)の定めるところにより、日本専売公社(以下「公社」という。)に行わせる。」

 同第4条:「たばこは、公社又は第8条第1項若しくは第26条第1項の許可を受けた者でなければ耕作し、又は試作してはならない。」

 同第5条第1項:「公社は、第18条第3項の規定により廃棄するものを除き、公社の許可を受けてたばこの耕作をする者(以下「耕作者」という。)の収穫したすべての葉たばこを収納する。」

 同第2項:「前項の収納の価格は、毎年公社が定めて、あらかじめ公告する。」

 〔2〕国税としてのたばこ税

 1980年代に中曽根康弘内閣の下で進められた行政改革の一環として日本国有鉄道、日本電信電話公社および日本専売公社の3公社が「民営化」されることとなった。日本専売公社は1985(昭和60)年4月1日に廃止され、日本たばこ産業株式会社法(昭和59年8月10日法律第69号)によって日本たばこ産業株式会社が設立される。これにより、たばこの専売制度は廃止されたが、たばこ事業法(昭和59年8月10日法律第68号)により、日本たばこ産業株式会社によるたばこ製造の独占が認められる。また、同社は塩専売法(昭和59年8月10日法律第70号)により、引き続いて国の専売事業とされた塩の買い取り、輸入、販売などを担当した〈塩専売法は1997(平成9)年4月1日に廃止された。これとともに塩の専売制度も廃止された〉

 たばこの専売制度が廃止されたことにより、たばこ消費税法(昭和59年8月10日法律第72号)が制定され、国税としてのたばこ税が導入された。施行は1985年4月1日である(同附則第1条)。なお、「所得税法等の一部を改正する法律」(昭和63年12月30日法律第109号)により、法律の名称がたばこ税法に改められた。これは消費税法の制定に伴うものである。

 たばこ税は、間接税の一種である消費税(消費課税)のうちの間接消費税に属する。但し、名称が示すように個別消費税であり、この点において酒税と共通する一方、「消費税」および地方消費税と異なる。

 なお、たばこ税は2014(平成26)年度まで地方交付税の財源の一つとされていたが、2015(平成27)年度からは外されている。

 〔3〕たばこ特別税

 1980年代に廃止された三公社のうち、膨大な赤字が解消されないままに廃止されたのが日本国有鉄道である。その長期債務を償還するなどの目的のため日本国有鉄道清算事業団が1987(昭和62)年4月1日に発足したが、同事業団は長期債務の償還を果たすことなく、1998(平成10)年に解散した。結局、日本国有鉄道に由来し、日本国有鉄道清算事業団に引き継がれた長期債務は「日本国有鉄道清算事業団の債務等の処理に関する法律」(平成10年10月19日法律第136号)によって国の一般会計に債務として引き継がれることとなった。

 また、国の特別会計の一つとして国有林野事業特別会計が存在していたが、1970年代から収支が悪化し、1998年における累積債務は3兆8,000億円ほどに膨らんでいた。そこで「国有林野事業の改革のための特別措置法」(平成10年10月19日法律第134号)に基づいて、国有林野事業特別会計における累積債務のうち、2兆8,000億円ほどを一般会計に繰り入れることとされた。

 これらの債務を一般会計に受け入れることは、国民の負担によって日本国有鉄道および国有林野事業の長期債務・累積債務を償還することを意味する。そのための財源として注目されたのがたばこであり、「一般会計における債務の承継等に伴い必要な財源の確保に係る特別措置に関する法律」(平成10年10月19日法律第137号)によってたばこ特別税が新設されることとなった。この法律の第1条は次のように定める。

 「この法律は、最近における一般会計の収支が著しく不均衡となっている状況において、日本国有鉄道清算事業団の債務等の処理に関する法律(平成10年法律第136号)の規定により日本国有鉄道清算事業団の長期借入金に係る債務等を一般会計において承継すること及び政府の同事業団に対する無利子貸付金に係る同事業団の債務を免除すること並びに国有林野事業の改革のための特別措置法(平成10年法律第134号)の規定により国有林野事業特別会計の国有林野事業勘定(国有林野事業特別会計法の一部を改正する法律(平成18年法律第9号)による改正前の国有林野事業特別会計法第2条の2に規定する国有林野事業勘定をいう。)の負担に属する平成7年9月29日までに借り入れられた借入金に係る債務等を一般会計に帰属させることに伴い一般会計の負担が増加することにかんがみ、平成10年度から平成14年度までの間における郵便貯金特別会計からの一般会計への繰入れの特例措置を講ずるとともに、たばこ特別税を創設しその収入を国債整理基金特別会計の歳入とすること等の措置を定めるものとする。」

 同第3条ないし同第23条がたばこ特別税の課税要件(納税義務者、課税物件、課税標準、税率など)に関する規定であるが、たばこ特別税の基本的構造がたばこ税と同じであることが示されている。

 そして、同第24条は「各年度におけるたばこ特別税の収入は、当該各年度の国債整理基金特別会計の歳入に組み入れるものとする」と定め、同第26条は「第24条の規定によりたばこ特別税の収入を国債整理基金特別会計の歳入に組み入れる場合においては、当該組み入れられた金額に相当する金額が特別会計に関する法律(平成19年法律第23号)第42条第1項の規定により一般会計から国債整理基金特別会計に繰り入れられたものとみなす」と定める。

 〔4〕道府県たばこ税

 地方税法第74条〜第74条の29に定められる。普通税である。

 〔5〕市町村たばこ税

 地方税法第464条〜第485条の5に定められる。普通税である。

 

 2.たばこ事業法の目的、および同法によるたばこ類の定義

 たばこ事業法第1条は「この法律は、たばこ専売制度の廃止に伴い、製造たばこに係る租税が財政収入において占める地位等にかんがみ、製造たばこの原料用としての国内産の葉たばこの生産及び買入れ並びに製造たばこの製造及び販売の事業等に関し所要の調整を行うことにより、我が国たばこ産業の健全な発展を図り、もつて財政収入の安定的確保及び国民経済の健全な発展に資することを目的とする」と定める。

 その上で、同第2条はたばこに関する定義規定である。これによると、たばこは「タバコ属の植物」であり(同第1号)、「葉たばこ」は「たばこの葉」を言い(同第2号)、製造たばこは「葉たばこを原料の全部又は一部とし、喫煙用、かみ用又はかぎ用に供し得る状態に製造されたものをいう」(同第3号)。

 

 3.たばこ税法および地方税法によるたばこ類の定義

 たばこ事業法第2条第3号を受ける形で、たばこ税法第2条は「定義及び製造たばこの区分」という見出しの下で製造たばこの定義および区分を定める。次のとおりである。

 「この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

  一 製造たばこ たばこ事業法(昭和59年法律第68号)第2条第3号(定義)に規定する製造たばこをいう。

  二 保税地域 関税法(昭和29年法律第61号)第29条(保税地域の種類)に規定する保税地域をいう。

 2 製造たばこは、次のように区分する。

  一 喫煙用の製造たばこ

   イ 紙巻たばこ

   ロ 葉巻たばこ

   ハ パイプたばこ

   ニ 刻みたばこ

   ホ 加熱式たばこ

  二 かみ用の製造たばこ

  三 かぎ用の製造たばこ」

 また、地方税法第74条第1項第1号および同第464条第1項第1号は、製造たばこを「たばこ事業法(昭和59年法律第68号)第2条第3号に規定する製造たばこ(同法第38条第2項に規定する製造たばこ代用品を含む。)をいう」と定義する。そして、地方税法第74条第2項および同第464条第2項は、製造たばこの区分についてたばこ税法第2条第2項と同じ区分を採用する。

 

 4.たばこ税の課税主体および納税義務者

 〔1〕国税としてのたばこ税

 たばこ税(およびたばこ特別税)の課税主体は国である(国税の場合には課税主体を明示しない)。

 次に、たばこ税の納税義務者は「製造たばこの製造者」(第4条第1項)または「製造たばこを保税地域から引き取る者」(同第2項)である。「製造たばこの製造者」は、たばこ事業法第8条によって日本たばこ産業株式会社に限定されているので、結局、たばこ税の納税義務者は日本たばこ産業株式会社および輸入製造たばこの輸入者である。同第5条〜第8条も参照されたい。

 たばこ事業法第11条により、輸入製造たばこの輸入者は財務大臣の登録を受けなければならない(小売販売者については同第22条)。

 〔2〕道府県たばこ税

 道府県たばこ税の課税主体は都道府県である(地方税法第4条第2項第5号。都については同第734条第1項)。

 次に、道府県たばこ税の納税義務者について、地方税法第74条の2第1項は「たばこ税は、製造たばこの製造者、特定販売業者又は卸売販売業者(以下この節において「卸売販売業者等」という。)が製造たばこを小売販売業者に売り渡す場合(当該小売販売業者が卸売販売業者等である場合においては、その卸売販売業者等に卸売販売用として売り渡すときを除く。)において、当該売渡しに係る製造たばこに対し、当該小売販売業者の営業所所在の道府県において、当該売渡しを行う卸売販売業者等に課する」と定める。また、同第2項は「たばこ税は、前項に規定する場合のほか、卸売販売業者等が製造たばこにつき、卸売販売業者等及び小売販売業者以外の者(以下この節において「消費者等」という。)に売渡しをし、又は消費その他の処分(以下この節において「消費等」という。)をする場合においては、当該売渡し又は消費等に係る製造たばこに対し、当該卸売販売業者等の事務所又は事業所で当該売渡し又は消費等に係る製造たばこを直接管理するものが所在する道府県において、当該卸売販売業者等に課する」と定める。

 これらの規定から、実際には、道府県たばこ税の課税主体は、原則として、たばこ小売販売業者の営業所が所在する都道府県であることとなる。但し、卸売販売業者等(製造たばこの製造者、特定販売業者、卸売販売業者)が消費者等に対して売渡または消費等を行った場合には、その卸売販売業者等の事務所または事業所でその売渡または消費等に係る製造たばこを直接管理するものが所在する都道府県が課税主体である。

 特定販売業者は、輸入製造たばこを販売する業務を営む者として財務大臣の登録を受けた者である(地方税法第74条第2号、同第464条第2号、たばこ事業法第14条第1項、同第11条第1項)。

 そして、道府県たばこ税の納税義務者は製造たばこの製造者、特定販売業者または卸売販売業者である。

 〔3〕市町村たばこ税

 市町村たばこ税の課税主体は市町村および特別区である(地方税法第5条第2項第4号。特別区については同第736条第1項)。

 次に、市町村たばこ税の納税義務者について、地方税法第465条第1項は「たばこ税は、製造たばこの製造者、特定販売業者又は卸売販売業者(以下この節において「卸売販売業者等」という。)が製造たばこを小売販売業者に売り渡す場合(当該小売販売業者が卸売販売業者等である場合においては、その卸売販売業者等に卸売販売用として売り渡すときを除く。)において、当該売渡しに係る製造たばこに対し、当該小売販売業者の営業所所在の市町村において、当該売渡しを行う卸売販売業者等に課する」と定める。また、同第2項は「たばこ税は、前項に規定する場合のほか、卸売販売業者等が製造たばこにつき、卸売販売業者等及び小売販売業者以外の者(以下この節において「消費者等」という。)に売渡しをし、又は消費その他の処分(以下この節において「消費等」という。)をする場合においては、当該売渡し又は消費等に係る製造たばこに対し、当該卸売販売業者等の事務所又は事業所で当該売渡し又は消費等に係る製造たばこを直接管理するものが所在する市町村において、当該卸売販売業者等に課する」と定める。

 これらの規定から、実際には、市町村たばこ税の課税主体は、原則として、たばこ小売販売業者の営業所が所在する市町村または特別区であることとなる。但し、卸売販売業者等(製造たばこの製造者、特定販売業者、卸売販売業者)が消費者等に対して売渡または消費等を行った場合には、その卸売販売業者等の事務所または事業所でその売渡または消費等に係る製造たばこを直接管理するものが所在する都道府県が課税主体である。

 そして、市町村たばこ税の納税義務者は製造たばこの製造者、特定販売業者または卸売販売業者である。


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