ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

JR北海道の路線で残るのは……

2019年06月09日 11時58分30秒 | 社会・経済

 仕事の関係で遅くなりましたが、このブログでJR北海道の話を何度も取り上げている以上は、無視する訳にもいかないということで、記しておきます。

 6月5日9時44分付で朝日新聞社のサイトに「岐路の鉄路)8線区維持へ計2億円」(https://www.asahi.com/articles/CMTW1906050100006.html)という記事が掲載されました。JR北海道の鉄道路線を維持するかしないかという問題は、何も北海道だけに限定される話ではなく、今後の日本全国にも波及する可能性もある事柄であるからです。

 JR北海道が、自社だけでの維持が困難であるとしたのは10路線13区間です。2016年11月15日22時52分03秒付の「JR北海道が単独での維持を困難とするのは10路線13区間」で記しましたが、ここで再掲しておきます〔カッコ内の数字は2015年度の輸送密度(日高本線のみ2014年度)/およその赤字額〕。

 1.札沼線の北海道医療大学〜新十津川(79人/4億円)⇐2020年5月7日に廃止予定。

 2.石勝線の新夕張〜夕張(夕張支線)(118人/2億円)⇐当時、既に廃止で合意済み。2019年4月1日に廃止。

 3.根室本線の富良野〜新得(152人/10億円)

 4.留萌本線の深川〜留萌(183人/7億円)⇐同線の留萌〜増毛は2016年12月5日に廃止。

 5.日高本線の苫小牧〜鵡川(298人/4億円)

 6.日高本線の鵡川〜様似(298人/11億円)⇐長期運休中

 7.宗谷本線の名寄〜稚内(403人/25億円)

 8.根室本線の釧路〜根室(通称「花咲線」)(449人/11億円)

 9.根室本線の滝川〜富良野(488人/12億円)

 10.室蘭本線の沼ノ端〜岩見沢(500人/11億円)

 11.釧網本線の東釧路〜網走(全線)(513人/16億円)

 12.石北本線の新旭川〜網走(全線)(1141人/36億円)

 13.富良野線の富良野〜旭川(全線)(1477人/10億円)

 さて、2019年に戻りましょう。以上の13線区のうち、宗谷本線の名寄〜稚内、釧網本線の全線など8線区については、沿線自治体(合わせて40市町村)がJR北海道へ財政支援を行うこととなっています。2019年度予算に支援のための支出を盛り込んでいるのです。北海道も、JR北海道への支援などを盛り込んだ補正予算を、今月20日に提出する予定であるとのことです。

 財政支援を受けた上で存続する方針の8線区は、次の通りです(括弧の中は2017年度における営業赤字の額)。

 A.宗谷本線の名寄〜稚内(27.33億円)

 B.根室本線の釧路〜根室(通称「花咲線」)(11.1億円)

 C.根室本線の滝川〜富良野(12.7億円)

 D.室蘭本線の沼ノ端〜岩見沢(12.33億円)

 E.富良野線の富良野〜旭川(全線)(9.98億円)

 F.釧網本線の東釧路〜網走(全線)(14.97億円)

 G.石北本線の新旭川〜網走(全線)〔新旭川〜上川は9.82億円、上川〜網走は32.61億円〕

 H.日高本線の苫小牧〜鵡川(4.26億円)

 一方、JR北海道が鉄道路線を廃止してバス路線に転換する方針を示しているのは、次の3線区です。

 a.根室本線の富良野〜新得(7.05億円)

 b.日高本線の鵡川〜様似(7.60億円)

 c.留萌本線の深川〜留萌(7.32億円)

 しかし、A〜Hの8線区だけでも、2017年度における赤字は、合計で135億円を超えます。これに対し、支援は、北海道が1億4千万円、市町村が6千万円(いずれも1年あたり)でしかありません。実際のところ、それ以上の負担は無理であろうと思われますが、記事の表現を借りるならば「緊急的かつ臨時的な支援」と言えるかどうかもわからないような程度のものです。

 一方、国はどうなのか、ということですが、2018年7月に、2019年度および2020年度に合わせて400億円の財政支援を行うこととなっています。但し、「貨物列車と共用する線路の修繕や、青函トンネルの維持管理などに使われるもので、8線区を存続させるための支援は含まれていない」とのことです。また、A〜Hの8線区に関する国の支援については決まっておらず、国、北海道、沿線市町村が同程度の水準を負担するというだけです。しかし、沿線市町村が負担額を増やせるかどうかはわかりません。おそらく無理でしょう。地方交付税で面倒をみてもらう方法も考えられますが、限度があります。あとは「ふるさと納税」にでも頼るしかないでしょう。勿論、使途をJR北海道の鉄道路線維持と明示します。寄付額の3割以下であれば返礼品等も認められますから、蕎麦でもジャガイモでもラベンダー畑でも何でもよいのでおまけを限度いっぱいにつければお金も集まるでしょう。

 それにつけても、JR北海道問題を見ていて思うのは、国がいかなる方針をもって臨んでいるのかがよくわからないということです。宗谷本線、根室本線の花咲線の部分を残す方針ということから、JR北海道の意向、さらにその株主である国の意向が、何となくは見えてきます。しかし、明確であるとも言えません。

 単純に黒字か赤字かで存廃を決めることも一つの選択肢ですが、A〜Hの8線区を残すということは、道路と同じように国の物流等のネットワークを維持するということでしょう。国防上の理由ということも考えられます(否、考えるべきです)。阪神・淡路大震災、東日本大震災などで得られている教訓は、緊急物資の輸送などの観点からすれば高速道路や新幹線は役に立たず、一般道路網や在来線網がいかに重要であるかということです(その意味でも、リニアモーターカーは論外です)。2018年9月の北海道胆振東部地震でも同じことが妥当したのではないでしょうか。

 もとより、莫大な赤字額を抱える鉄道路線を維持するとなれば、現在に留まらず、将来も負担を続けるということになります。見方を変えるならば、ツケの一部を将来に先送りすることとなります(さらに皮肉な言い方をすれば、将来の世代に対して一種の親孝行をさせることとなります)。黒字化する見込みがあるならばよいのですが、皆無とは言わずとも稀薄とは言わざるをえませんので、相当の覚悟を必要とします。

 また、非常に気がかりなのは、地元市町村の意向が本当に住民の意向などを反映しているかどうかという点です。北海道もモータリゼイションが深化した地域でしょうから、(除雪の問題などがあるとは言え)鉄道路線を残したところで利用する人は少なく、また減る一方ではないかと考えられます。そうであれば、残す意味がなくなります。口では残せという人が行動で示さないということも少なくないようです。建前ではなく本音を、口ではなく態度を捉えるべきです。

 ★★★★★★★★★★

 私がJR北海道やJR九州の問題についてこのブログで書く理由の一つに、私自身が「交通政策基本法の制定過程と『交通権』—交通法研究序説」という論文を大東法学68号(2017年3月)において公表したことがあります〔この論文については、門野圭司編著『生活を支える社会のしくみを考える 現代日本のナショナル・ミニマム保障』(2019年、日本経済評論社)も参照してください〕。交通政策基本法が2013年の第185回国会で成立して公布・施行され、同法に基づく交通政策基本計画も既に策定されているとは言え、あまり関心を持たれていないようにみえることが気がかりでした。

 また、国鉄分割民営化が行われてから既に30年以上が経過していますが、一時期(しかも長い間)各路線毎の経営状況が公表されなくなるなど、民営化されたことで経営状態などがかえって不透明になった部分もあります。このことからの教訓は、民営化したからと言って透明化、最近の言葉では「見える化」を意味しない、むしろ民営化は「見えない化」を意味しうる、ということです(当然のことと言えます)。不透明になったことで、地方交通線(および一部の幹線)の経営状況の悪化が進行したのにもかかわらず、全く沿線住民などの目にさらされず、判明した頃には手遅れであったという訳です。これでは病気と変わりません。

 さらに言えば、幹線と地方交通線との区別に問題が残っています。1980年代前半、国鉄改革のために、国鉄の各路線を輸送密度などを基準として幹線、地方交通線、特定地方交通線に分類し、特定地方交通線を廃止していったのでした(第三セクターなどに移管された路線も、国鉄線・JR線としては廃止になったことに変わりはありません)。実はこの分類にも問題があったのではないかと思うのです。

 特定地方交通線から除外され、廃止を免れた路線は全国で50を少し超えるのですが、よく見ると1990年代以降に廃止された路線、そして現在存廃が議論されている路線が多いのです。上記の10路線13区間では宗谷本線、石北本線、富良野線、札沼線、釧網本線、留萌本線、日高本線が該当します(当時は路線単位で分類されたので、区間毎になっていません)。もっとも、これらの路線が特定地方交通線から除外されなければ、1980年代後半から1990年代前半にかけて国鉄・JR北海道の路線としては消滅し、第三セクター鉄道かバス路線のいずれかになったことでしょうが、第三セクター鉄道になっていたら21世紀に入ってから廃止されていた可能性が高いでしょう。実際に、特定地方交通線から除外された深名線は1995年9月に廃止されています。また、同じく、特定地方交通線から除外された江差線の木古内〜江差が2014年5月に廃止されました(残りの五稜郭〜江差は北海道新幹線の並行在来線ということで、2016年3月、道南いさりび鉄道に移管されています)。また、北海道における特定地方交通線では、池北線のみが第三セクター化され、北海道ちほく高原鉄道ふるさと銀河線となりましたが、2006年4月に廃止されています。

 そればかりか、以上の分類は一度も見直されていません。つまり、30年以上も続いているのです。北海道で言えば、札沼線の桑園(札幌)〜北海道医療大学は地方交通線に留まるのでしょうか。逆に、石勝線夕張支線は幹線に位置づけられたまま廃止されましたが、後の状況からすれば早めに地方交通線に再分類されるべきであったと考えられます。根室本線と室蘭本線についても同様でしょう。同じ路線でも区間が違えば輸送量も違うからです。このまま分類を維持することが日本の交通政策にとってプラスになるとは思えません。


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