今週、オーストラリア、イギリス、アメリカの首脳が揃って、ACUSなる枠組みの構築を発表した。
BBCの記事はこれ。
イギリス、アメリカ、オーストラリアの3カ国は15日、安全保障の特別な枠組みを構築したと発表した。最新の軍事技術を共有するもので、中国への対抗が目的とみられる。
英米豪、新たな安全保障の枠組みを構築 中国に対抗
で、具体的にはオーストラリアに原潜を作らせるらしい。
この協力体制により、オーストラリアは初めて、原子力潜水艦の製造が可能になる。
という言い方をBBCはしている。「可能になる」って、勝手にUS/UKが可能にする。核不拡散問題が絡むから当然に国際問題になるが、ともあれ、アングロはそう言っている、と。
原潜8隻を予定していて、最初の1つの就航は2036年を予定している模様。
As a part of the agreement, Canberra is planning to construct at least 8 nuclear submarines, the first of which will enter service in 2036, and to re-equip its armed forces with US cruise missiles using American and British technology.
言い訳は、もちろん、こんな感じ。
3カ国は、インド太平洋地域において中国が影響力と軍事的存在感を増していることを懸念している。
中国は、当然反発のコメント。地域を不安定化させるような試みはとても無責任だ、と。
‘Extremely irresponsible’: China slams new security pact between US, UK & Australia to arm Canberra with nuclear submarines
さらに、原潜をUS/UKが作らせることになったため、従来型の原潜プログラムを受注して、大きな契約を結んでいたフランスがはじき出されることとなり、猛然と抗議している。
日本のフランス大使館がtweetしてた。
フランスは、オーストラリア政府がアタック級次期潜水艦プログラムの中止、および原子力潜水艦に関わる米国との協力開始の決定を発表したことを確認しました。
— フランス大使館 (@ambafrancejp_jp) September 16, 2021
これは、豪州の防衛産業・技術基盤の発展や、政治的信頼関係に基づく仏豪協力関係の理念と精神に反する決定です。https://t.co/5t9LBCUHNg
これは上品に書いてるけど、外務大臣あたりはもっと激怒していて、誰か大物が、stab in the back(背中を刺された → 不意打ちされた、裏切られた)と言い出していたりもする。
潜水艦契約破棄は「裏切り」 仏が豪米を非難
(「裏切り」に「」が付くのもへんな気がする。欧州言語圏では、"stab in the back"、「背中を刺された」とセリフが見出しにもってくるからカッコ付きになってる。裏切りか否かの判別がつかないからカッコがついているのではない)
さらに、フランスは駐米、駐オーストラリアの大使を召還した。
仏、駐米・駐豪大使の召還を決定 潜水艦開発計画の破棄で
他方、EUは、そもそもこの「AUKUS」とかいう安全保障ブロックの成立を知らされていなかった模様。
EU Was ‘Not Informed’ on AUKUS
■ アングロ
アメリカ、イギリス、オーストラリアは言うまでもなくアングロチーム。これにもう2つのイギリスの子どもである、カナダとニュージーランドを加えると、これが要するに「ファイブ・アイズ」と呼ばれる連合。
で、オーストラリア等は、平時においては英連邦コモンウェルスの仲間国家として、それぞれの首長は英王室に忠誠を誓う恰好になっている。総督という、英王室の代理人が各国にいて、その人が各国の議会の開催時にご挨拶したりする。日本の天皇と議会の関係は、このスタイルをまったく味気なく真似たものでしょう。
オーストラリア等は、平時は、イギリスの伝統が~とかいう話で盛り上がるための仕組みがいくつも用意されている。実際問題、使ってる言語も米語ではなく、英の方言みたいなもの。法律や国の作りの作法、言語も、アメリカとは異なる。同じEnglishの語で書いてあるけど、そもそもの国家の作りが異なるので指し示す範囲が異なる場面もままある。
だがしかし、安全保障まわり、つまり軍が絡む話においては、WWII以降、オーストラリアに選択肢はないとみえる。
(カナダはイラク戦争反対をいう首相が2000年代にさえ出たことがあるが)
■ 東アジアの米プレゼンス
で、今般のアングロさんチームによる「AUKUS」は何を目指しているんだろうね。
私は、ここに日本を間接的に組み込むことによって、極東NATOの実現なんじゃないか、と一応言っておきたい。
70年以上前に組めなかった極東NATOを今ようやく完成してみました、みたいな?
だけどそういうことを言うと騒ぎになるし、日本国民もオーストラリア国民も真っ向から反対してくる確率は大きいので、間接的に動けなくする方法を作っているのではないのかしら。
6月には、新大西洋憲章なるものを発表していたけど、これはUKとかアングロの体面を取り繕ってる側面もあるんじゃないのかな。
新大西洋憲章だそうだ & 不実のアルビオン
私たちは同族だから仕方ないでしょ、とオーストラリアを取りに行く。
しかし、オーストラリアは人口も限定的だし、技術力もないので、主に資源を使って誰かと商売をしないと金がない。これまで潤ってきたのは、もって中国との貿易だったわけだけど、原潜を導入するわけだし、これまでの関係を維持することは多分もう無理。(通常潜水艦は一般に防衛用としてみなされるが、原潜は攻撃用)
この資源を日本に買わせ、その金でオーストラリアに原潜等の攻撃型の装備品一式を順次買わせて、支払先のアメリカに落とす、という循環でしょうか。サウジでやってるのと同類。
同時に、オーストラリア、日本、米英が揃って演習する、攻撃プランを考える云々とやっていくうちに、日本も足らないものがあるね、そうだね、これだあれだとお買い物リストが広がる。
だけど、この海域だけじゃ、日本人にアピールするものがないので、インドを含めて、インド太平洋を守るという話に加工してる、って感じ? インドだと食いつきいいんだよな、みたいな。
といった感じ?
これに対して、中国はなかなか面白い手を打ってきた。
中国、TPP加盟を正式申請 アジア貿易主導権狙う
このあたりの、中国 vs アングロは、一朝一夕で終わる話ではないので今後も時に敵対、時に融和、みたいなことが長く続くんだろうと思う。
■ 属国民には強い
で、どうしてこのへんな動きがあるのかというと、まず、アフガニスタン撤退に見られるように、イギリスの100年越しの外交方針である湾岸地区死守が崩れている、とはいわないが、圧倒的でもなくなってしまっていることから、中東はそれはそれなりに変化していくしかなくなっている、という点が挙げられるでしょう。
反対側の東地中海も、フランスはレバノンに残ると思うし、シリアはロシアと離れないから、東地中海におけるアングロの出先機関であるイスラエルという存在は、過去50年、60年のようなわけにはいかなくなる。難しい話だけど。
また、NATOは東方拡大したことによって、政治的には巨大ユニットになったが、軍事的には弱い国を入れてロシアにかかっていくという、おバカなスキームなので、使えない政治ユニット化していく。その点EUも同様かもしれない。
他方、今やってるけど、SCO(上海協力機構)は地道に連絡機構としての有効性を発揮している。
SCO nations urge early approval of convention on fight against global terrorism
ということで、30年前との比較において、西側の優位性は劣化した。
だがしかし、
アメリカは、ロシア、中国に対して圧倒的な力は振るえない、弱体化した、とロシア人とか中国人が言う分にはその通りなんだけど、アメリカは属国群に対しては強い。
ここが問題なんですよ、私たちにとっては。
総じていえば、尖閣、ウクライナを使って、その前10年ぐらいはどこの国もそれなりに上手くいっていた、対ロシア、対中国の関係にくさびを入れて、冷戦的対立に持ち込んで(各国の親米派以外を破壊して)、その中で、属国内のリソースを米に有利なように配分している、ということなんじゃないかと思ってる。それでも上手くいくかどうかはいろいろ疑問なところが、全体としての西側の凋落で、こちらには掛値はないと見える。