DEEPLY JAPAN

古い話も今の話も、それでもやっぱり、ずっと日本!
Truly, honestly, DEEPLY JAPAN!

マネーの拡大、最高税率、社会の変容

2020-09-19 15:00:41 | 太平洋情勢乱雑怪奇

ふとZerohedgeをちらちら見ていたら、ニューヨーク市の富裕層の3人に1人が引っ越しを考えているという記事が目に留まった。

More Than One Third Of All NYC Residents Consider Leaving

https://www.zerohedge.com/personal-finance/more-one-third-all-nyc-residents-consider-leaving

どうもそうらしいとは聞いていたが、本当にそんな感じなのかぁと思いつつ最後までざっと読んだら、最後に面白いセクションがあった。

現代の所得税は1913年に始まり、最初は1%

1918年までに77%となり、それでWWIの戦費を賄った

ルーズベルト大統領は、$25,000以上の収入に対して100%課税を主張。

WWIIの頃は、$200,000以上の収入に対する課税率は94%

このレートが70%に下がったのが1964年

 

The Modern Income Tax started in 1913 at a modest 1% rate.

By 1918  it was 77% to finance WWI which the US should never have been involved in.

In the name of "fairness" President Franklin D. Roosevelt idiotically proposed a 100% tax on all incomes over $25,000.

In the wake of WWII marginal rates got as high as 94% on incomes above $200,000.

Rates have generally been falling since 1964 when the top rate was lowered to 70%.

 

私はだいたいこれは知ってた。

これこれ。wikiだとここ

米国における最高(青)と最低課税率の歴史で、一番左が1910年、一番右が2018年

 

で、一目見てわかるように、上昇に向かって一旦下がって、直線的に上昇するのが1932年。

そこから上限付近に張り付くのが1940年あたりから。

 

アメリカ経済はよく知らているように大恐慌から抜け出せずに、ルーズベルトがニューディール政策をはじめて、そのまま第二次世界大戦に突入したが、終わってもまだ最高税率は上限付近にあった。

おお、ルーズベルトめ、やっぱり社会主義者かとかいって喜ぶ人がいそうだが、しかし他の金持ち諸国も負けていなかった。US、UKは共に90%近傍で1950年を迎えている。

plot of chunk figF14.1

http://hochanh.github.io/cap21/chapter14/

 

■ どのぐらいお金持ちなのか

さてしかし、この上限付近の収入の多さというのはどのぐらいなのか。

そこがわからなかったので、今日はちょっと調べてみた。

平均収入の歴史とかあるといいんだけど見当たらないので、このへんで考えてみる。学術データっぽい。1938年から2009年の米国の最低賃金。

History of Federal Minimum Wage Rates Under the Fair Labor Standards Act, 1938 - 2009

https://www.dol.gov/agencies/whd/minimum-wage/history/chart

 

これによれば

1938年 $0.25

1939        $0.30

1945      $0.40

 

とある。1時間30セントとして、8時間働いて2ドル40セント。

25日働いて60ドル。12カ月で720ドル。

 

最低賃金近傍の人がどれぐらいいたのか不明なので、大ざっぱな話ではあるけど、最低賃金よりちょっとは暮らしやすいです、というレベルが仮に年収1000ドルだとして、

ルーズベルトが100%課税を提案した25,000ドルというのは、25倍

実際に最高課税率94%が適用された200,000ドルというのは、200倍

 

現在で考えると、年収300万の人に対して 7500万

        同じく   6億円

といった見当になる。

 

■ 誰なのそれ

で、そういう稼ぎ方をしていた人たちはどういう人なのか。

想像するに、普通人の200倍稼ぐ人というのは、多分フォードの社長さんとかいう製造業レベルではなくて、大ざっぱにいえば投資家さんという層だと思われる。

25倍は製造業でもあり得そうだけど、200倍は当時のことで、大ヒット曲のライセンス収入とかもなさそうだし、いわゆる投資家層、とりわけ証券売買による利益を得ている人ではなかろうか。

さらに、1913年にアメリカ独自の中央銀行制度ができるわけだけど、ここにもまたインサイダー的(というかそれそのもの)の集団が出来ていた。アメリカ人が呪ってやまない the bankersって人たちですね。

最高税率が問題になる人たちというのは、これらの関係者なのではあるまいか。控え目に言っても、大多数の、それこそ99%の庶民には関係がない人たち。

 

■ 考え方の問題

そういうことで、過去のデータから見てわかることは、少なくとも1930年代、40年代には、お金でお金を生ます的な収入に対して当局者がかなりスゴイことをしていた。背景として、これらの人たちに対する世間の見方はきつかったといってもいいんじゃないかと思う。

別の言い方をすると、昔の人は、人の200倍もの所得などというのは、正業じゃないから一定以上は全額国庫に入れさせろと言っていたようなもの。

今こんなことやったら、個人の経済活動の自由に対する侵害であると言われて、共産主義者のレッテルを貼られると思う。

だがしかし、共産主義というのはもっと別のストラクチャで、そもそもそうした投資家を介入させないで生産行為を行うが特徴でしょう。だから、不労所得に似た所得をあらまほしくないと考える考え方を共産主義というのはとても間違ってる。

実際ソ連が大恐慌の影響をほぼ受けなかったのは、証券市場に関係がなかったからといわれる。

 

また、その直前には帝国とか王国が多く残存していて、そこの王様とその金融指南を通じた大金持ち集団というのがいるはずだから、その人たちにしてみたら、国民国家を盾に全額没収されるよりは、国法に従って大儲け部分は捨てる(納税する)方がまだましだ、という発想もあったでしょう。

ハプスブルク法よりはどれでもマシだ、みたいな。

新自由主義とオーストリア・ハンガリー帝国

勿論、全部取られてその上殺されるロシアのロマノフ家は最悪のパターン。ドイツのウィルヘルム2世は、混乱の最中財産を貨車何十台かに乗せてオランダに逃げた。日本の天皇が終戦末期にスイスだかどこかに何か送ったとかいう話はここから着想したのかしらと思ったりもする。

大ざっぱにいえば、日本の華族制度の廃止、財閥解体、農地解放ってのもこの流れで、であれば資産家たちは、物納して終わりにしよう、全部没収よりまし、みたいいに思ったから逆らいもしなかったということなんでしょう。

 

こうやって並べてみると、世の中変わったんだなぁとしみじみ思う。

過去100年ぐらいで国家と国民の在り方もいろんなところで変わって、さらに、過去60年ぐらいの間には社会と税に対するコンセンサスが非常に異なったものとなった。

しかし私たちはあまりよくわかっていないのではあるまいか。わかっていないのに足元の土台が変わっていた、みたいな感じだろうか。

 

■ オマケ:ルーズベルト

ルーズベルト大統領は、戦後一貫してアメリカでは偉大なる大統領という地位を失うことはなかったが(大恐慌時代を知ってる人たちが生きていた限り、かもしれないけど)、他方で、共産主義に甘かった、だから悪い奴 OR ユダヤ人に甘い悪い奴、みたいな感じで悪玉にしようとする流れが非常に強く存在していたし、今もしている。

だけど、そういう話じゃなくてもっとずっと金融屋とかお金持ちクラス内部でのバトル的要素の方が大きかったのではないのだろうか。ここらへんは、中央銀行設立から2度の大戦に至った経緯を含めてちゃんと整理できたらいいのにね。いやそれはそれで大変なことだろうけど(笑)。

 

■ オマケ:Ascent of Money

過去200年(あるいは400年)ぐらいの話を貫くものはまさしく、Ascent of Money、マネーの上昇。

前にも紹介したけどこのニーアル・ファーガソンの「 The Ascent of Money」という本は、古代から現代にいたる金融史を紐解いたものなんだけど、とりわけマネーの急拡大の説明が詳しかった。

2008年の金融危機を受けて社会混乱になっている中で売り出され、丁寧に作られた映像版はアメリカ公共放送によって連夜放送されていた。

明らかに金融危機破裂の前に用意していたものに見えた。これは一体どういうつもりだったのだろうかと、時々思い出す。

大分遅くなってから出版された日本語版はこれ。マネーの「進化」・・・なんだろうかとは思うものの、でもascentが訳しづらいというのは理解する。

 


 

コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ワイマールからヒトラーへ v.... | トップ | アサンジの引き渡し問題&エ... »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
アメリカのエリートのセクト対立は税制対立 (ローレライ)
2020-09-19 20:07:56
アメリカエリートの対立利害関係は税制対立に現れる。庶民よりも階級的対立意識はエリートが大きい。
返信する
財団の闇&ホームレスと星条旗 (セコイアの娘)
2020-09-23 04:27:23
大変興味深い考察、ありがとうございます。
アメリカの場合、財団の闇問題を忘れてはなりません。
1%は財団運営に熱心ですが、これは社会貢献の隠れ蓑をかぶった相続税対策に他なりません。
又、財団に寄付してしまえば、個人の所得税の大幅な節税になります。なので、いくら富裕層に対する所得税率を上げたところで、連中にとっては痛くもかゆくもないわけです。
富を所得税、相続税で減らすことなく、子孫に継がせるためにひねり出された方法なのです。
ザッカーバーグが、財産を100%財団に寄付したと賞賛されましたが、噴飯物。
錦織圭が、引退後の夢をきかれ、「財団設立」と答えてましたが、何のことはない、税金を払わず富を
残したいってことです。
こうして、1%は、未来永劫ファミリーが1%でありつづけるわけです。
ヒラリーのメール疑惑で、クリントン財団の闇が暴かれましたが、概してこれら財団の社会貢献が如何なるものなのか、ビル&メリンダ財団然り。

近所のホームレステント村に星条旗がたっていた。
これを何と解する。

返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

太平洋情勢乱雑怪奇」カテゴリの最新記事