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ロシア弱体化という願望

2016-05-06 01:57:50 | 参考資料-昭和(前期)

昨日、現在のアメリカの様子はまるで関東軍を抱えていた大日本帝国のようじゃないかと書いたけど、ふと思えば状況も似てた。ロシアが復活しちゃうじゃないか、という危機感が横溢しているこの状況そのものも同じだと思う。

満洲事変に至るまでの議論の中であんまり目立たないけど重要だったのは、このまま行くと革命で弱体化したロシアが力を取り戻してしまう、という危機感の末にこの行動があったってことじゃないかと思う。

革命の混乱が修正され国力が向上する前にロシアを叩いて、取れるところ取ってしまえという考え方があった。どうしてこんなことを考えるようになったかといえば言うまでもなくそれは一回自らがシベリア出兵なる大規模な介入を行って、ロシア領内から領土を切り取るか、どんな方法であっても極東部分を日本のコントロール下に置こうというかなり壮大なことを考え行動を起こしたから。

で、一般に北進論といわれている人のグループには、後になるまでもこのシベリア出兵に出ていた軍人さんが散見できる。シベリア出兵の撤兵が1922年で満洲事変が1931年なので、実はそんなに離れてないから当然といえば当然。1939年のノモンハン事件の時の植田謙吉関東軍司令官は浦塩派遣軍の参謀だった人だったりする。

当然のことながら、撤兵後のソ連の対日警戒感は強かっただろうし、そんな呑気な言い方でなく極東方面に住んでた個々のロシア人は極めて強い反日になっていたと考えるのが普通でしょう。で、これが陰に陽に圧力となってくる。そこから、もろもろあって、最終的に満洲事変に繋がる、と書いていいんだろうと私は思う。

現在は、シベリア出兵を盛大に無視して歴史を書くので、一体何でそんなに満州が重大だったのかの意味をひとつ落としている。

満州は凶暴なるソ連の南下に備える拠点なのだ、とか言うわけだけど、間違えてはいけないのは、しっかりと相手国領内に入って軍事行動を起こしたのはソ連から日本ではなくて、日本がソ連(ロシア)内に、なのね。

その上、満州を領有化したもののそこで落ち着かず華北方面、モンゴル方面に工作をしかけていったわけだから、ソ連側の警戒心が消えるわけもなく、その意味で満州領有化が安定のために寄与しなくなった、というあたりが非常に問題だっただろうと思う。(大陸の紛争においてはバッファゾーンをつくる、というのは非常に有効なのにあの糞広い満州をすみからすみまで領有化したら国境をびっちり接してしまう)

さらにいえば、シナ方面に対するソ連の工作も(どれぐらいだったかはさておいて)、こうして考えればある意味当然そうくるだろう、という作戦。日本軍の背後を不安定化させようって話だから。コミンテルンを持ち出して共産主義拡張を目的としてとか言わずとも理由はあった。

 

ただし、当時はそんなに簡単にこんな倒錯した話は通せない。シベリア出兵には在野でも軍でも反対の人がいた。石橋湛山なんかもそうだった。そうそう、5年も居座ったあげくに何の益もなく撤兵した時には加藤高明外務大臣が帝国議会で、莫大な国費を使いなにひとつ国益をもたらさなかった、外交上まれに見る失敗だ、と言ったという記録が残るんだそうだ(私は孫引きでしか知らないが)。

試しにwikiを見たら、(シベリア出兵

加藤高明は日本のシベリア出兵について、「なに一つ国家に利益をも齎すことのなかった外交上まれにみる失政の歴史である」と評価している[21]。

と言う一文があった。で、参考文献を当たると『太平洋戦争への道』という日本国際政治学会が1962~63年にまとめた本であるようだ。
 

■ ロシア、復活させてなるものか

話は戻って、現状との類似点に戻ると、今回もまたボロボロになったロシアが再生しちゃう、これは大変だ、ってな状況なわけですね。

しかし、前回は主に日本とドイツがその当時者だったけど、今回はこれをアメリカがやってる。

しかも、自ら進んでウクライナでクーデターを起こして、そこを先途に最終的にロシアで内部かく乱してまたまたロシアを西側の下僕にしようとしていたのにそれが失敗しちゃった、という点も、シベリア介入失敗の日本と重なるやん!

しかもしかも、自分で突っ込んでいって失敗したのをパブリックには伏せて、ロシアはバルト三国を攻撃する、危険だとか言うのも、自らのことは口を拭って、ロシア共産主義の南下を食い止めるには、とか言ってた日本の軍と似てる。


■ ロシアはどうせ弱い

もう一つあった。

関東軍は、満州とソ連の国境紛争をどう処理するかのガイドラインとして「満ソ国境紛争処理要綱」を策定していて、この辻、植田のガイドラインが強硬だったため不要不急の紛争に入ってしまった、と一般に説明されていたりする。

強硬かどうかより私がこのガイドラインを巡る記述で最も衝撃的だ~とか思うのは、その対ソ観。半藤一利さんの「ノモンハンの夏」で引用されていたのでご存じの方も多いはず。昭和8年の「対ソ戦闘要綱」なる極秘資料にはこうあったという。

ノモンハンの夏 (文春文庫)
半藤 一利
文藝春秋

 

ソ人は概して頭脳粗雑、科学的思想発達せず。従って事物を精密に計画し、これを着実かつ組織的に遂行するの素性および能力十分ならず。また鈍重にして変通の才を欠くところ多し」(p46)

ネット上で引用されている方がいらしたので、お借りします。(ノモンハン事件についてとても分かりやすい素晴らしいサイトですね。

 

まぁ、これって、後のソ連赤軍の行動を見ると、まるっきり逆じゃないの、って感じだし、そもそもソ人(ソ連の人)≒ロシア人だと思うけど、ロシアを科学的思考の発達しない国、nationと考えるって、あんたら何を見ていたんでしょう、って感じ。メンデレーエフって帝政ロシアの人だよ。こういう人は偶然出るものではないでしょう。

 

と、そういう見通しにもならない見通しでいた我が関東軍なわけですが、最近の西側勢のロシアはダメだ、ロシアは弱い、ロシアはバカだ、という所見とも言えない所見と同じだなとしか思えないっすね。


■ 歴史ある「ロシアは弱い」

しかし、こうなったのは何も日本とアメリカだけではなくて、ロシアは弱いと嘲笑して後にエライことになった人は過去にも結構いる。著名なところはこんな感じ。

(1) 18世紀初頭
スウェーデン カール12世  「ロシアなど取るに足らない。私が跪かせてみせる」

(2) 1759年
プロシア フリードリッヒ  「後進ロシアなど私が征服してみせる」

(3) 1814年
フランス ナポレオン    「ロシアは脆い巨人だ」

(4) 1941年
ドイツ ヒトラー      「今年の終わりまでにはソ連に勝つ」 

 

これは別に私が今探したのじゃなくて、2014年3月にオバマが、Russia is only a regional power(ロシアは単なる地域の強国に過ぎない)と語った時に、ネット民がおおお、これはひょっとして新たな一行かと笑い話にしてたので当時メモしておいたものを日本語にしただけ。

でも、この時の私は、日本のも混ぜて!と言うべきだった???

せっかくだから上の原文を書いておこう。何かの役に立つ??

(1) Russia is a dwarf - I'll put her on her knees.

(2) I will conquer backward Russia.

(3) Russia - a colossus with feet of clay.

(4) I will win the USSR by the end of the year.


■ 一体これは何なのか

 別に何か難しいことを考えようとしているわけではないけど、ロシアを攻める西ヨーロッパ各国は共通して、まずなめてかかってから行くのが習わしらしいってことなんでしょうね。後進地域だから俺らが勝つに決まってる、と。しかしいずれも大敗を喫したのは攻めていった側だったというのが歴史。懲りないねー。

そう考えると、ゴルバチョフを安心させて自ら武装解除させたも同然のレーガンの手腕が光る、とか書くとレーガンに悪意があったようになるけど、戦略的にはそうでしょうね。

しかし、それを利用してネオコンが跳ね上がってくるようになると、あんなの弱いやっちゃ、と再びロシアは弱い派が来る。

であれば、ロシアから見た時、ロシアは弱いと言わせない状態こそ望ましいって話になるんだろうなぁとも言えそう。

 

日本の陸軍のケースは、私が思うに陸軍が独自にそう判断したというより、この人たちはドイツの真似をしていたんじゃないでしょうか。ドイツ人がロシア人を侮蔑しているのを見て、俺も俺もとなった、と。

しかし、ヒトラーのドイツは工業生産力の点でソ連をバカにしてもまぁいいかなというところはあったが(しかしヒトラーが自分で言うほど圧倒的でもなかった)ので多少恰好が付くけど、日本は工業力、生産力、運用力等々についてソ連を上回るものはなかったので何を言ってるんだいだったわなぁってところがこのお話の悲しいところです、はい。

■ まとめ

現在のアメリカは、ロシア再生を危惧し、西ヨーロッパ伝統の「ロシアは弱い」モードに入っていると考えることができる。

しかし、ロシアは弱い、ロシアは崩れる、ロシアはもうダメだ、と言っている時はロシアは多分潰れないのではなかろうか。

なぜなら、そういう外圧があるとそれを察知して強いリーダーの下に団結するのがロシアだというのも歴史の教訓といえそうだから。
 


 

ノモンハンの夏 (文春文庫)
半藤 一利
文藝春秋

 

そして、メディアは日本を戦争に導いた (文春文庫)
半藤 一利,保阪 正康
文藝春秋

 

 


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4 コメント

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『悪意に鍛えられたロシア』 (ローレライ)
2016-05-06 05:13:52
『悪魔に鍛えられた』のがロシアの歴史『アレキサンダーネフスキー』の映画そのまま。
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対露報道の仕方について(2) (slavs watcher)
2016-05-06 06:24:40
おはようございます。そしてお久しぶりです。

確かにこの数年、欧米と日本の主要メディアのロシア報道を要約すると「ロシアは原油安や経済制裁、人口減少などで明日にでも滅亡しそうなのをプーチンの恐怖政治とウクライナ侵略で無理矢理生かされている国」というイメージに落ち着きますよね。ウクライナ以前からもロシアに関しては基本的に否定から入る報じ方(イスラム圏に関しても同様)が殆どでしたが。ロシア国内の実情を正確に得られるメディアは主に何がありますか?
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鍛えられすぎ (ブログ主)
2016-05-06 20:57:11
考えてみればノブゴロド時代からずっとサバイバルのための戦いの歴史だったりするわけで、面白いですね。なんでそんなに鍛える場を与えてるんだよ、みんなして、って気もしますが ^^;
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意外に多いのでは? (ブログ主)
2016-05-06 21:02:29
slaves watcherさん、こんにちは。お久しぶりです。

おっしゃる通りで実はウクライナ以前から既に基調は始まってましたので、むしろウクライナはそのピークという気もします。

国内情勢を正確にというメディアは多分タス通信ではないかと思ってみたりもしますが(笑)、どうなんでしょうか。意外に、米、英紙のbloombergにしてもfobesにしても、見出しと解釈のところを飛ばしてみると、興味深いロシア情勢とか統計、経済指標など、実はよく出ているというべきじゃないのか、とか思います。

そういう意味で、偏向が完全なのはそこから解釈だけ抜いてくる日本が突出しているのではなかろうか、など思います。
お答えにならずにすみません。またよろしく!
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