夜がしらじらと明けた早朝6時半頃。
窓際の鉢に植えた朝顔に水をやっていると
お?
下腹部に何やら懐かしい感じが押し寄せたのである。
どよ~ん~~きゅ~~~っ。どよよ~~ん。
今日は39週と0日。産まれてきてもおかしくない頃ではあるが
2~3数週間前から前駆陣痛たるものを何度も経験し、
その度、ちっ、フェイクかよ。
っといった経過を何度もたどっているだけに
今回の下腹部痛に対してもなんだかどうも信用度が薄いのである。
しかも、痛み方も第一子の時に経験した痛みに比べたら
蚊にさされた程度ぐらいのもので激痛にいたっていないのである。
が。しかし。私は経産婦なのである。
初産とは違って経産婦の場合はお産が早く進むというのが定番らしく、
悠長に構えていると下手をすれば病院に間に合わないなんてこともあると、
既に出産を経た友人経産婦の地獄の体験談をさんざん聞かされていた手前、
とにかく分数の間隔を計ってみることにしたのである。
時間は7時。先ほどから30分しか経過していない。
どよ~ん~~きゅ~~~っ。どよよ~~ん。
ちっちっちっちっ.......
どよ~ん~~きゅ~~~っ。どよよ~~ん。
.....へ?既にこの時点で規則的にも4分間隔。
そして脳裏に走る友人経産婦の一言。
『はやくいけ~~いますぐいけ~~~』
病院についたのは8時過ぎだった。
俄然、痛みもそんなに感じず
余裕ぶちかましでトライアージルームにて着替えをすまし
当直らしきドクターが子宮口チェック。
『既に7センチひらいてるよ。痛くないの?』
....
人間不思議なもので痛くないのか?と聞かれたら
突然痛みが襲ってくるものである。
『いた~い~~、いた~い~~』
とりあえず叫んでみた。
すると、目の前にあの”ヨーダ”そっくりのナースが立っていたのである。
『ほら、アホみたいに叫んでないで
LDRにうつるから、さっさとベッドから早くおりなさい』
『あの...車椅子は...?』
『そんなものはない。歩いていくわよ』
その風貌もさることながらかなり口の悪いヨーダ..。
第一子の時は、着替えまでナースが手伝ってくれたいたれりつくせり状態だったのに、
この違いはなんなんだ...。
ヨーダの背中に向かって日本語でブツブツ文句を言いながらも、
確かに歩けないほどの痛みもないし余裕があるのは否めない。
仕方なくヨーダにうながされるまま歩いてLDR室にうつったのである。
すると、部屋に移るや否や麻酔師がやってきたのである。
どことなく孫悟空に似ている。
その昔。堺正章が熱演したあの孫悟空に..
...まちゃあき悟空の麻酔師か。西田敏行の猪八戒よりはましか..
などと余計な事を脳裏に浮かべながらも
前回、麻酔が間に合わなかったというニガイ経験がある為、
悟空麻酔師におそるおそるきいてみたのである。
『前回子宮口9センチで間に合わなかったんですけど、
今日は、エピドゥラル(麻酔)、間に合うんでしょうか..?』
『大丈夫です。まだ7センチですから』
おお~~~~~~~!!!!!!
思わずガッツポーズをふりかざし雄叫びをあげた私である。
エピドラルを投入後は多少体が痒くなるという現象がおこるらしいのだが
そんなものは痛みに比べれば屁みたいなものだ。
そして、悟空麻酔師による夢のようなエピドゥラル(局部麻酔)が背中からプスっと
投入され、私は前回みたあの地獄のような陣痛の痛みから解放されたのである。
しかも痛みがないのにも関わらず陣痛の波は
まるでマッサージ椅子に座ってるかのような振動で伝わってくるのである。
当然、オシッコ用につっこまれるキャセドラルのチューブも痛くない。
すばらしい。初の体験だけに私はかなりハイテンションになっていた。
無痛分娩ばんざ~~い。
が。
陣痛の痛みはなくなったといえども
エピドゥラルのもうひとつの特徴として通常の陣痛の進み具合よりも
遅くなるらしく、3分間隔になった時点から
一向にお産が進まなくなってしまったのである。
こういう場合、促進剤を使ってお産の進行を早めるという手もあるらしいのだが
私の場合、喘息持ちの為、促進剤投与は禁じられているので
自然な流れに身をまかせるしかないのである。
この時点で既に時間は2時間経過。
退屈である...
ひっじょーに退屈きわまりない。
この間、My son繋がりの友人達に生中継電話を数本いれてはみるものの
長電話などできる環境でもない為、
とりあえず、私はMy sonの退屈しのぎように購入しておいた
任天堂のDS『読みきかせソフト』をとりだした。
これでしばらくは繋げるだろう。
3匹のこぶた~~~~
はじまりはじまり~~~
......
所詮、幼児用ソフトである。
物語はあっというまに終わってしまった。
つまらん...
そこで次に私は陣痛の波を数えつつも退屈そうにしている
ナースヨーダいじりを試みることにしたのである。
無表情でそこはとなく底意地の悪そうなヨーダ相手に
かなりの冒険だがこの際、場つなぎの為だ。
とりあえず、無難な路線から質問してみることに。
『ヨーダさん(仮名)はどこ出身なんですか?』
『プエルトリコ』
『お米、おいしいですよね』
『まあね』
......続かない..
相手を間違えたようである。
っと、その時、気まずい空気をうめるがごとく、
本日の出産ERドクターが颯爽と現れたのである。
『ハ~イ~~』
カ...カール?
私は目を疑った。
その風貌は、麦わら帽子をかぶせれば間違いなく
あのカルビー製菓のメインキャラクター、リアルカールおじさん
そのものだったのである。
ナースのヨーダに続き、悟空の麻酔師、そしてERのドクターまでもが....
>今回はファンタジー系かよ
本来ならば、私の担当医でもあり、
第一子をとりあげてくれたドクターサンドラが
今回も取り上げてくれる予定になっていたのだが
今日に限ってサンドラは出張中だとか。
ヨーダとはうってかわって人のよさそうなドクターカールは
その事をしきりと申し訳なさそうに説明してくれるのだ。
カール..いい人だ。
今回はあなたにおまかせするわ.
それから約1時間後、子宮口が全開になり
オケツのあたりにプレッシャー(圧力)を感じるようになった為、
ファンタジー系ERスタッフに囲まれながら
経産婦momaはいよいよプッシュを開始したのである。
第一子の時の教訓からいけば、ここ一番の時の合図は
”ウンコでそ~~”であるはずだ。
が。
下半身に麻酔がばりばりきいている為、
ウンコでそ~~なあの感じがまったくつかめず
イキミ方もこれであってるのかどうかもわからず
おまけに足までつるハメにいたってしまったのである。
>プチパニッ~~~ク。
するとその時ヨーダの一言。
『あっ、いぼ痔。疣痔がでたわ。もうすぐだわよ』
.........
いいんだか悪いんだか、とりあえずイキミ方はあっているようだ。
『そうそう。ヘモ~~~(疣痔~~)。ヘモ~~(疣痔~~)いい感じよ~~。』
ヨーダ... ああ~~ヨーダ,,,
励ますにも何か他に言い方があるだろうに...
その数分後。
疣痔~~疣痔~~と呪文のように唱えるヨーダに手を握られ、
ドクターカールのそのあまりにも田舎チックな風貌にまけじおとらぬ
非常にのんびりかつ、絶妙な出産ペースの呼吸法指示に従い、
頭がみえる瞬間、顔がでてくる瞬間、
そして、体を回転させながら肩がゆっくりでてくる様子を垣間みつつ、
私は疣痔を全快で勃発しながらも第2子をゆっくり産み落としたのである。
これもエピドラルを使った醍醐味なのだろうが、
第一子の時のスピード出産とはまた違った、
精神的に余裕しゃくしゃくの出産経験をしたわけである。
しかしながら。余裕の出産劇を繰り広げたものの、
退院後、疣痔、恥骨痛、プチ乳腺炎、そして重度の授乳時の後陣痛を勃発し、
毎日、地獄のような痛みとの戦いの日々を送っている今日この頃だ。
>毎日、陣痛...
>>疣痔、ひっこまない....ヘモヘモ...(泣)
こういう時にこそ、もう一度エピドラルをうって欲しいものである。
悟空~~~カムバ~~ック~~。
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*前駆陣痛とは、陣痛かと思ったのに不規則で強くなったり弱くなったりして、 結局は痛みが遠のいてしまうこと
*後陣痛とは、分娩終了後の数日間にみられる産褥(さんじょく)初期の子宮収縮に伴う疼痛のこと。特に経産婦の場合、痛みがひどくなる傾向にある。
*疣痔は英語でhemorrhoids(ヘモロイド)
*エピドラル(epidural)とは陣痛の痛みを止める麻酔薬です。背中に注射を刺して硬膜に注入します。陣痛の痛みが和らぐ変わりに、いきみが難しくなるので、陣痛中期(active labor)から 後期(transition)手前までに施されるのが一般的です。
2008年8月7日生まれ(6lb14oz)