MOMOSE'S DOOR Day book in New York

NY在住のシンガーソングライターが『自称シンプルライフ』を語ります。ぷぷっと笑ってホロっとなるよなDay book.

ハンバーグ

2007-02-26 13:32:46 | 食にまつわるお話
雪だ。

窓の外は雪が降っている。

そう。

雪が降ると思いだすのである。

その昔。
何かの番組でとある外国人横綱がそれは上手そうにハンバーグを
食らいついてる姿を見た際、
アメリカにいけば本場の肉汁ダラダラハンバーグを
食べれるものだと信じてやまなかった私は
アメリカ本場とやらのハンバーグを食べるべく期待に胸膨らませ、
踊る鼓動と共に空かした腹を抱え、
ドカ雪の積もった冬のマンハッタンを
86丁目からダウンタウンに向かって
それらしき店をみつけるべく徒歩で南下していたのだ。

しかし。

歩けど歩けど”ハンバーガー”たるものを売っている店は
至る所に軒並み店を連ねているくせに、
いざそれらしきレストラン、カフェなどに入ってみると
メニューには『ハンバーグ』がないのだ。
ステーキはある。
テリヤキステーキなんてアジアを意識したメニューをおいてある
店もあった。でも『ハンバーグ』だけがないのだ。

なぜだ

~それはね~~
~NYには所謂『ハンバーグ』文化がないからだよ~~~~~

あの時。親切な誰かがこう教えてくれさえすれば...。

~そうか。NYには所謂『ハンバーグ』文化がないのか~~   
~なるほどね~~~。
~文化なのか。そうか。そうか。それは仕方ないね~。

と、疲れた足を引きずることにもどこかで諦めもついたであろうし、
コーヒーだけでハシゴしてたせいで
半ば気持ち悪くなっていた胃にキャベジンを流し込むような
事もしなくてもすんだのであろう。
が、当初は血の気も多く食い意地だけはひと数倍誇示した
20代前半。しかも。渡米前に見たあの外国人力士は、
最高級神戸牛のテリヤキてりてりハンバーグとやらを
あごのないアゴでまるで本物の牛のように租借をしながら、
こう言っていたのだ。

ソウダネー。アメリカノ~”オニク”ノハンバーグは~イチバンネ~

..あいつ、まちがいなく日本人を敵にまわすタイプだな。

そうつぶやきながらブラウン管の中で不適な笑みを浮かべた
あのいかつい力士を脳裏に思い浮かべながらも
私はそのイチバンとやらのお肉を使ったハンバーグを求め、
諦めずに更に雪の中を南下し続けた。

”アメリカにはあの力士が言うイチバンのオニクがある。
そして当然そのイチバンのニクを使ったハンバーグがどこかにある。
ニューヨークはアメリカなのだ。しかもなんでもある大都会だ。
あるはずだ。ないわけがない。”

...はずなのだ。

そして。
日も暮れかかってきた頃だったろうか。
気がつけばバッテリーパーク近くまで南下していた私の
足はもう棒切れのようにガチガチになって感覚がなかった。
私は寒さと軽い飢えに打ち震えながら倒れるように
いきあたりばったりの店のドアを開けた。
何やらプチ高級感を醸し出すアンティーク超家具の揃った
レストランカフェだった。
入り口には大きな姿見があった。
その姿見をふと見るとそこに映った姿は

”あんた、この時期にどこでひと泳ぎしてきたの?”

と言われてもおかしくない出で立ちだった。

...しまった。場を間違えたか。

と、一瞬躊躇するものの初老のウエイターが
コートはこちらへといいながら、
褐色がかったオレンジ色の椅子があるテーブルに
気よく案内してくれた。

疲れきっていた私は、どこかでもうハンバーグなどどうでもよくなっていたのだが、メニューに
『バーガー』とだけ書いてある項目をみつけた私は
がっくりしながらもこれを最期にしようと心に決め、
メニューを指差しながらこう訪ねたのだ。

『なぜ。なぜだ。なぜ、肉をパンに挟んでいるのだ』

すると、
その初老のウエイターはにっこり微笑みながらこう応えたのだ。

『パンはお嫌いですかな?』


そうじゃないだろー


っと、思い切り叫びたかったのだが心身共に疲れていた私は
無言のままそのメニュー内の
一押し”ハンバーガー”とやらをオーダーした。
窓の外をみると雪がまた降ってきたようだった。

もはやこれまでか。

その雪をぼんやり眺めながら一服していると
初老のウエイターがフォーク&ナイフセットと共に、
ハンバーガーをのせたお皿を運んできた。

『よければパンはお持ち帰りください』

見ると、ケチャップらしきソースがかかった
トマトとピクルスを載せた分厚いヒキニクの固まり。
そして、ポテト。そして、重なったパンという順番で
左から旬に皿の上に奇麗に並んで載っていた。

この客はパンがキライなのだろうと
勝手に憶測した年期のはいったウエイターの
ちょっとした気配りのつもりだったのであろう。
本来、パンにぎっちり挟まってでてくるはずのひき肉のかたまりは
パンが皿の右ハジに存在しないと見なせば
『ハンバーグ』に見えないこともない。
いや、フォークとナイフを使って食べれば、
それはみごとなまでの『ハンバーグ』なのだ。

おおーーーーーーーーーーー!!!!

私はとっさに雄叫びをあげながらフォークとナイフをつかって
無我夢中でニクをざくっと切った。

じゅるる~~~~

で...

でたーーーーーーーーーーーーーーー!!
ニク汁でたーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!

私は感動のあまり日本語で叫んでいた。
初老のウエイターがちょっぴり嬉しそうにしつつも、
まわり構わず日本語でギャーギャー叫ぶ私の後頭部に鋭い視線を
浴びせ倒していたのは言うまでもないのだが、
私は、そのセルフハンバーガーというべき
とうとう夢にまでみたアメリカハンバーグとやらを
口に入れる事ができたのである。

モドキだったが。

ちなみに、
そのモドキことアメリカンセルフハンバーグ。

合い挽き肉と言われる”豚”の存在しないハンバーグに
食べ慣れていないキッスイの庶民派日本人の舌には、
もともと大降りな牛肉100パーセントを受け入れる体勢が
整っていない為、
どこかクリープをいれないコーヒーのような違和感を受けたのである。

要するに。

まずかったのである。

その時。

ふとくちずさんでしまったのは、忘れもしない。
この歌。



”まっちのあっかりぃんが~
とてもぉきれいねえ~~よっコはっまぁ~~
ブル~ライト~~ヨッコハマ~~~”

だった。 

私にとってのアメリカ肉汁は

なぜかやけにせつない昭和歌謡ブルースだったのだ。

しかも、ヨコハマ。

マンハッタンにいるにも拘らず。

ここが自分でもよくわからないのだが。
まあ、それはさておき。

それ以来。

私はハンバーグは合い挽きと決めているのだ。

豚の存在しないハンバーグはハンバーグではない。

なのにだ。

ここにきて。
またもや、このNYにてだ。
ウチの近所のスーパーには豚のひき肉がないのだ!!
スーパーだけじゃない。
巷でいう肉専門店にも豚ひき肉がないのだ。
いや。豚ヒキどころか豚そのものがないのだ。

どうなっとるんだーーーーーーー!!
この地区はーーーーーーーーー!!!


っと、叫んだところで
これもある意味、宗教感の違い。
そして文化の違いからくる現象なのである。

これが俗にいう”ミクスチャー”たるNYの落とし穴なのである。

さて。

外は雪だ。
明日、雪が降り積もる中。
極上で、しかも安くてとろけるような豚肉を求め
マンハッタンを北上するつもりである。

なぜなら。

こんなカンジのハンバーグが食べたいからである。



おろしポンズ醤油でさっぱりと。

...長い一日になりそうだ。


<本日の出来事>

アカデミー賞、助演女優賞ウィナーの
”ドリームガールズ”のジュニファーハドソンは
3年前、アメリカンアイドルで惜しくも
審査員のサイモンにケチョンケチョンに言われて
落選した知るヒトゾ知る実力派娘です。
してやったりのジェニファー。
これぞ実力主義のアメリカンドリーム垣間みた、きもちー夜でした。
about jenniferhudson
http://www.jenniferhudson.net/
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