歩くたんぽぽ

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ボブ・ディランのミラクル・ドロップ

2014年04月02日 | 音楽
今日ボブ・ディランのコンサートに行ってきた。
天の邪鬼の私ではあるが、この人は素直に好きである。

大学生の頃から部屋に貼っているポスターは、陽に当たり黄色く焼けてしまった。


そのポスターと今回のチケット。

高校生のときに初めて聞いたのが1965年の「Highway 61 Revisited」。
「Like a Rolling Stone」はもちろんだけど、
10分間以上もある「Desolation Row」は意味も分からず何回も何回も聞いた。

今までボブ・ディランを生で見たいなどという願望を持ったことがなかった。
なぜなら自分の中で偉大すぎるが故に遠い存在で、そういった望みにはリアリティがなかったからだ。

それが同居人Kの卓越したアンテナにより、あっさり見ることを許されてしまった。
今日は朝からなんだかよく分からないふわっとした感情が私の中でごろごろしていたのだった。


整理番号待ちの時間にマジックアワーを迎えた。

私はライブやコンサートというものによく行く。
今年に入ってからボブ・ディランを含め既に5公演行っている。

私はライブに行くたびに心がけていることがある。
それは、音楽を「過去」で聞かないこと。
言い方を変えると、「今」聞こえる音楽を聞くということである。

もちろん皆さん好きなアーティストでも好きな曲やそうでもない曲というものがあるだろう。
しかし、ライブではそんなことはどうだっていいのだ。
偏見やもともとあるイメージで曲を聞いてしまってはもったいない。

なぜそんなことを心がけるのかというと、生で聞いていることを少しでも実感したいから。
歌っている人が目の前に見えても、そこで歌っていることを実感することはとても難しい。
そもそも実感出来るのかと聞かれれば分からない。
これは単なる願望の話だ。

音には実体がない。
もちろんミクロの話をすれば音も小さな粒子という話になるだろうが、
それも小さすぎて手にとることすら出来ない。

しかし稀に実体と認めることが出来るほどの大きな音の粒子が現れることがある。
私の行ったライブでも数回見たことがある。
初めて見たのが忘れもしないフジロック2012のRadiohead。
赤や黒が混ざった楕円形の雫がとてつもないスピードで飛んできて、
野外にも関わらず見渡す限りを音の粒子で埋め尽くした。

その他にも同じくフジロック2012のGALACTIC with Special Guests Corey Glover 、
くるりワンマンライブツアー2012の日本武道館、
サマソニ2013のEarth, Wind & Fire、
先日のDiane Birch。

それは本当に珍しい現象だ。
アーティスト、観客、会場、音響、照明、天気と様々な要素が絶妙なバランスで織り成す奇跡的な瞬間。
ステージから観客の方に、直径1cmから5cmほどのツルツルの雫が無数に飛んでくる。
皆見えていなくとも無意識的にその雫を取ろうとして手を上に延ばす。
私と同じように皆その時間を自分のものにしたいのだな。
もちろん私は誰よりも大きく手を延ばして、「今」を手に入れた気になる。

今日も突然その時がやってきた。
14曲目の「Spirit On The Water」だ。
会場は一気に優しい空気に包まれ、ボブ・ディランがピアノを弾いている右端の方からぶわーっと雫が飛んできた。
それは会場全体にまんべんなく行き届くのだ。
私は胸の前当たりで手を広げて待ち構えているのだが、彼の雫は簡単に指の間をすり抜けていく。

あ、そっか、ボブ・ディランの音楽を私のものにしようってのがそもそもの間違いなんだな。

彼の歌の掴めない優しさが心地よくて、なんだか嬉しくてしょうがなかった。

ださいのだけどその雫を奇跡の雫ミラクル・ドロップと名付けようと思う。
ボブ・ディランのミラクル・ドロップは虹色だった気がする。
妄想の話だけど、妄想だけの話でもないんだな。


ボブ・ディランがいたステージを皆名残惜しそうに眺める。

感想を文章に書くとその言葉が記憶に残ってしまうので書くのはやめておく。
優しくてかっこよくて幸せな時間をありがとう。
あなたがいた時間を私は忘れません。


今回のツアーのパンフレット。年をとってもかっこいい。
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