歩くたんぽぽ

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パラサイト 半地下の家族

2020年02月13日 | 映画
初めて観た韓国映画は『猟奇的な彼女』だけど、

初めて韓国映画と出会ったのは大学生の頃観た『オールドボーイ』だ。

隣国の映画が放つ圧倒的なエネルギーにすっかり当てられた。

描かれる強烈なバイオレンスと人間の闇にカルチャーショックを受け、

3日ほど立ち直れなかったのを覚えている。

その後韓国映画に対する衝撃は『殺人の追憶』で期待に変わり、

『母なる証明』『息もできない』『サマー』で確信に至った。

韓国映画は素晴らしい!

最近では村上春樹『納屋を焼く』が原作の『バーニング』がよかった。



多くの韓国映画に共通する独特の生々しさは一体なんなのか。

湿度が高く登場人物が人間臭い。

まさにそこ!

出てくる人々がこれでもかというくらい人間臭いのだ。

登場人物はストーリーを描くためのキャラクターなどではなく、

人間そのものがテーマであり物語なのだ。

私が観てきた面白い韓国映画は、物語が人間を追い越すことはない。

とはいえ本当の人間の姿なんて見極められないから描かれた世界が真実かと問われればわからない。

ただそれ自体が映画の根幹にあり、全力で人間に向き合っているのが伝わってくるから、

それこそ映像作品におけるリアリティなのだと納得させられるのだ。



先日、韓国映画への興味を後押ししてくれた『殺人の追憶』のポン・ジュノ監督最新作を映画館に観に行った。

2019年のパルムドールに輝いた『パラサイト 半地下の家族』だ。

感想を書こう書こうと1週間うんたらかんたらしているうちに、

いつのまにかアカデミー賞作品賞までとってるんだからこりゃ驚いた。



パルムドールと違いアカデミー賞というのはアメリカによるアメリカのための映画賞だった。

それが近年その慣習をひっくり返すように多様性を主張しはじめ、

人種差別の問題を扱った映画などが多く賞をとるようになった。

昨年受賞した『グリーンブック』は最高だった。

それに加え最近の欧米の映画におけるブームはアジアなんだとか。

NetflixではBBCが作った日本人主役の『GIRI/HAJI』が話題になっているし、

4月にロードショーのディズニー最新作『ムーラン』は随分前から大々的に宣伝している。

これは一部の記事に書いてあっただけなのであくまでそういう側面もあるということだと思うけど、

そういう多少なりともの流れがありつつ、

それにしてもアジア映画が外国語映画賞ではなくメインの作品賞をとったことは感動に値する。

アメリカのプライドを見た気がしてアカデミー賞も捨てたもんじゃないなと思った。

アジア映画といってもあくまで韓国映画だ、今の日本映画と一緒にしてはいけない。

やはり世界基準で考えているのは韓国映画なんだと思う。

自分の好きなもの、しかも世界的にはまだまだマイナーなものが、世界一派手な賞をとるっていうのは、

理屈抜きに再っっっっっっっっ高の気分だね!



と前置きが長くなったけれど、以下ネタバレありなのでご注意を!

ポン・ジュノ監督曰くネタバレ厳禁らしいので。





『パラサイト 半地下の家族』

監督:ポン・ジュノ
脚本:ポン・ジュノ
   ハン・ジンウォン
製作:クァク・シンエ
   ムン・ヤングォン
チャン・ヨンファン
出演者:ソン・ガンホ
    イ・ソンギュン
チョ・ヨジョン
チェ・ウシク
音楽:チョン・ジェイル



全員失業中で、その日暮らしの生活を送る貧しいキム一家。

長男ギウは、ひょんなことからIT企業のCEOである超裕福なパク氏の家へ、

家庭教師の面接を受けに行くことになる。

そして、兄に続き、妹のギジョンも豪邸に足を踏み入れるが...

この相反する2つの家族の出会いは、

誰も観たことのない想像を超える悲喜劇へと猛烈に加速していく――。
(https://filmarks.com/movies/83796より引用)



この映画がネタバレ厳禁だと考えたときに一番言ってはいけないのはどこなのだろうと考える。

わかりやすいどんでん返しでもないし、物語は二転三転するので的を絞るのは難しい。

このビックリ箱の中にはコメディーやサスペンス、ホラー、バイオレンスにそれから社会問題までが詰め込まれている。

そのぎゅうぎゅう詰めの箱がギリギリのところで破綻せず、

むしろ絶妙な相乗効果を生んでいるという点にまず見た人は驚くのではないだろうか。

たった2時間12分にどれだけの奥行きがあるのかと。

「こんな映画観たことない!!」とこれほど思ったのは『パラサイト』が初めてかもしれない。



この映画を引き立てる登場人物の構図はまれにみるわかりやすさだ。

高台に住む裕福な社長一家と半地下に住む皆失業中の主人公一家、さらに地下に住む秘密の家族。

この貧富の対比が最後までうまく機能している。

半地下家族の長たる父は『殺人の追憶』主演のソン・ガンホが演じている。

彼が演じる貧乏くさいおやじと、

チョ・ヨジョンが演じるいかにもお金持ちの人のいい綺麗な奥様はなんだか強烈だった。

自分でも意外なのは一番印象に残っている登場人物がその綺麗な奥様なこと。

なんたって昨日その奥様と友達になる夢まで見たくらいだからね、嫌がられたけど。

彼女はお金持ちだったというだけで何の落ち度もなかったのに結果一番の不幸に見舞われた。

いや、もしかしたら貧困にあまりにも無関心だったということが相当罪深いことだったのかもしれない。

それにしたってあまりに酷い仕打ちだ。



躊躇のない暴力描写はやはり韓国映画。

気持ちいいくらい残酷だ。

コメディーにいきなりのバイオレンス登場で観客数人が「ヒャッ!」と声を漏らしたのは印象的だった。

キャンプで外出中だったパク一家が大雨で急遽帰ってくることになり、

宴会状態だった散らかった家の中を大急ぎで片付けるキム一家。

どさくさに紛れパク家に助けを求めようとする元家政婦を階段から突き落とすキム家の母。

そこで死を予感させるガツッという鈍い音がなり、観客数人が声をあげた。

その一音で映画の、ひいてはシアター全体の空気がガラッと変わった。

一旦そうなるとその後の軽妙で笑えそうな場面もやけにジメジメして見えるようになるから不思議だ。

この映画には一瞬で見え方が変わる装置がいくつも設置してあって、

まるで様々な分岐でガチャンガチャンと突然進路切り替えされるジェットコースターみたいだ。

めまぐるしく変わる温度、湿度、速度に目が回る。

びっくり箱にしてジェットコースターってこの映画めちゃくちゃだな。



この映画にどれだけ多くの要素が盛り込まれていても、私は最後の衝撃が一番恐ろしかった。

ホラーでもバイオレンスでもなく格差という動かし難い社会の壁に叩きのめされる。

長男ギウは父を救う手立ては自分がお金をたくさん稼いで高台の家を買うことなんだと思い至る。

その後頑張ってそれを実現するという急激なハッピーエンドを連想させる描写が流れ、

観る者はひとまずホッと胸をなでおろす。

そこはファンタジーでもいいよ、

2時間あれだけ走り抜けたのだから君たちは貧困から、現実から解放されていいんだよ、と。

しかしその幸せな妄想はオープンニングと同じアングルの半地下のロールアップとともに現れるギウの半泣き顏で、

圧倒的な現実に引き戻されるのだ。

あ〜あれは妄想で、今からその途方のない戦いが始まるのか、

いや、あの情けない顔はきっともう心折れているのではないだろうか。

苦しい、、、。

しかし、そのラストがあるからこそこの映画は特別な作品たり得る。

至極のエンターテイメントでありながら厳しすぎる現実を叩きつけ、社会に問いを投げかけているのだ。



そしてやけに爽やかなエンディング曲が流れる。

歌詞は重いのに曲調が軽いのは最大の皮肉かもしれない。

それでもその明るさに救われるのはラストがあまりに辛かったから。



音楽もよかったなぁ。

面白かった。

ものすごかった。

観終わった後私があーだこーだ言っている横で夫は両肩を下げ完全にしょげていた。

「面白かったけど、すごく疲れた〜。」

↓ED

コメント (4)
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