人間は新しいものや見慣れないものを恐れたり嫌うことが多い。その代わりに慣れてしまえば危険なものでさえ大して気にしなくなる。日本でモチを喉に詰まらせて死ぬ人がいくらいても、モチを恐れる日本人はまずいない。オーストラリアではしばしば人がサメに喰われるが、日本で人がサメに噛まれたら大騒ぎになるだろう。しかし、スズメバチに刺されて死ぬ人はニュースにはなるが騒いだりはしない。慣れているからである。もしオーストラリアに日本のスズメバチが繁殖して、それに刺されて死亡者が出れば「殺人バチ」として大騒ぎになるはずである。オーストラリアにはそんな危険な八チなどいないからである。サメには慣れていても「人を殺すハチ」にはゾッとするだろう。
欧州でジャガイモは最適の農産物だった。高山植物なので寒冷で瘠せた土地でも育ち、地下で芋が育つから戦乱で踏み荒らされても穀物のように全滅しないしカロリーも穀物より高い。穀物より狭い土地で貧しい人々が腹いっぱい食べられるようになったのである。しかもジャガイモにはビタミンCが多く含まれていて、澱粉に守られて熱を加えても残るのである。冬には野菜や果物が不足して壊血病に苦しんだ欧州の特に貧しい人々には、正に天からの授かり物であった。
しかしそんなジャガイモが長い間忌み嫌われていたのである。見た事もない作物だったからである。日本では里芋や山芋を食べていたから、ジャガイモやサツマイモが自然に受け入れられた。耕作の都合でサツマイモが中心となったが、一部ではジャガイモも栽培され喜ばれていた。それに引き換え欧州では芋を栽培して掘り出して食べるという習慣が全く無かったのである。地中で育つ芋は見るからに気味が悪くて、カトリック教会は聖書にも載っていない「悪魔の植物」とまで言ったのである。ジャガイモの芽や青い皮には毒があるから知らずに食べると中毒を起こす。それで「ジャガイモは毒だ」という偏見も長い間はびこった。それらの偏見を賢い人々が消していったのである。有名なのがプロイセンのフリードリッヒ大王である。啓蒙専制君主と呼ばれた彼は、首都ベルリンの広場中央に茹でたジャガイモをのせたテーブルを置き、大勢の市民が見守るなかを椅子に座ってジャガイモの皮をむいて食べ続けたのである。ジャガイモが毒ではないと自ら「啓蒙」したのである。そして軍隊を農村に派遣させて命令どうりにジャガイモを植え付けていない農家には、兵隊がそこの主人の顔に銃剣を突き付けて「今度来た時植えていなければ鼻をそぎ落とすぞ!」と脅したのである。まさに「専制君主」である。こんなに呼び名がぴったりの人もめずらしい。
フリードリヒ大王が川内博史衆院議員にどんな態度をとるのか、一度見てみたいなぁ。
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