大工風の道

仮設住宅ってわけでもないけれど、
ま、しばらくここで様子みようっと。

ナイスなキャッチコピー

2006年10月17日 | 不思議
今日は友人の大工T山氏の現場、棟上の応援。
「あ、しまった、掛合(かけや=大きな木槌)忘れた…」という私に、即答するT山氏。
「材料、あんなん(写真→)やから、掛合、いらんよ」。
なにか、ちょいと投げやりだ。

「…」
言葉を失う。

鉄骨と木造のコラボレーション、M下電工が開発した「木造鉄骨混構造」による軸組み。
なるほど、これは掛合はいらんね。
しかも、“ナイス”なキャッチコピー、「もうすぐ完成、木の家の進化形」と来たもんだ。
M下電工の担当さんに、「『もうすぐ完成』ってことは今は未完成なんですか?」と聞くと、返事に困っていたが…。

このシステムは、いわゆる「大手ハウスメーカー」が建てる家とは異なり、地域の工務店がM下電工開発の構造体を発注し、それを使って自社で独自の建築をするというもので、パ○ホームとも全く関係がない。
つまり、M下電工が責任を持つのは、骨組みの部分だけで、全体としては元請である地域の工務店になるわけ。
T山氏は、その工務店の下請けの大工として、この家の「大工工事を請けた」形だ。

ともあれ、建て方が進むにつれ、目からウロコウロコウロコ…。
構造材同士を組む部分を「仕口(しくち)」というのだけれど、これがすべて金物接合なのは良いとして、実はこの金物用の穴あけが、大工の仕事。
どういう意味かというと、ここまでシステム化された軸組み構造で、大工が一本一本寸法をとって刻むわけだ。
柱の刻み方は、端をまっすぐ切って、金属のダボを入れるための穴を木口にあけ、さらにそれを固定するためのピン(いわば「込み栓」)用の13?の穴をあけるだけ。
「だけ」というものの、通常の大工の刻みとは全然違うし、もちろんかなりの精度が要求されるわけで、T山氏に頭がさがる思いだ。

そうやって工場で「手で」刻んだ柱を、今日応援の大工たちで組み上げるわけだが、普段の大工仕事とは、全く違う仕事に新鮮さを感じつつも、次第に、一緒に応援に来たM井氏がキレはじめた。



「こんなん、大工の仕事じゃねえ!、こんなんだったら○○に○○たらええんや!」と。
しまいには、材料に貼られたシールの表示まで、「え?○○○○○○?」とイチャモンをつけ始め、とうとう、壊れてしまった。
写真(→)=柱の仕口を眺め、混乱状態のM井氏。

「たしかにこりゃ大工がやる仕事じゃないな…」の私らの言葉に、
「大体、他所では大工が2人くらいと『鳶(とび)』さんで組んでますよ」とM下電工の担当さん。



そりゃそうだろうよ。
適材適所ってもんがあるだろうなと、私も思った。
大工は大工の仕事をし、鳶は鳶の仕事をすればいい。
それが職業ってもんだ。

もっとも、適材適所といえば、私なんぞは、M井氏の踏み台でちょうどいい。
(写真→)





マニアックなネタついでに、踏み込むと、ここでものすごい「仕口」を初体験した。
写真(→)は、柱に梁が取り付く部分。
写真だけではわかりにくいが、これは「組んだ材木を金物で補強した」のではなく、「金物だけで留まっている」。
みんなが「エッチな金物」と呼ぶ、この金物で側面を留め、下からL型の棚ウケ金物のようなもので受けた。
たしかに、この梁はツナギだけの意味で、荷重を受けるわけではないが、頭のいい人の計算によると、これで充分なんだそうだ。




「だんだん仕事すんのが馬鹿らしくなってきた」と私までどんどん沈んでいく。
今度は梁の上で私も頭を抱え考え込んでしまった。


自分の知らない世界には、学ぶものは多い。
合理化は大事だとは思う。
ただ、「大工以外のひとが見た合理的な建築」と、「大工が考える合理的な建築」との狭間で、結局決定的な答えはでない。

ただ一つ言えるとしたら、
「施主さん、どんな家建てるにしても、高い買い物だから、自分でよ~く考えて、充~分
に納得して、工法や、工事業者を選んでね」ってことかな。
自分が住む家だもの、積極的に関わってほしいと思う。
これからここで暮らすんだよ。毎日ここで飯食って寝るんだよ…。

さて、日の暮れるのが早くなった。
一応構造体は組みあがったものの、屋根垂木を打ちかけたところで、タイムアウト。
みなさんお疲れさん。


今日は、と~っても勉強になりました。
念のために言っておくと、この構造体は、実績も多く、耐震性の優れたものなんだそうです。(現場監督談)
なにせ「木の家の進化形」ですから…。