一般の方は「感染対策を十分しているはずの病院で、なぜクラスターが発生するのか?」疑問に感じることでしょう。
確かに、完全防備(N95マスク・フェイスシールド・キャップ、ガウン、手袋)をして、一人の患者さんの診療・看護・介護が終わる度にそれを着替えて別の患者さんに相対すれば、まず発生しないでしょう。
でも、それができないから発生してしまうのです。そこにはどんな事情があるのでしょう。
扱った記事(「旭川の教訓、大規模院内クラスターはなぜ起こるのか」JBPress, 2020.12.30)を参考に、リスク因子を挙げてみます;
▢ 入院患者の医療・看護自体がそもそも接触感染・飛沫感染のハイリスク行為である。
・一般の生活では直接他人と接触することは大部分避けられます。握手をしないとか、ハイタッチをしないとか・・・そしてマスクと手洗いで感染対策を行えば、まず感染しません。クラスターが発生するのはマスクを外して会話する状況+三密状態です。実際、満員電車は三密に近いものの、会話をしないのでクラスター発生のリスクは低いですね。
・入院患者の医療・看護はそうはいきません。患者さんと接触することが必至です。かつ、ハイリスク処置があります。とくに介護が必要な患者さんの食事介助・気道吸引(痰吸引)・抱きかかえての移動やリハビリは避けることのできないハイリスク行為ですし、さらにマスクをつけても外してしまう認知症の方もいます。
▢ 油断
・医療機関といえども、人間誰しも身近に患者発生が無ければ“対岸の火事”的発想で気が緩むことは否めません。もちろん、基本的な感染対策はしているものの、少しの気の緩みで開いた隙間から新型コロナは進入してきます。
・現在、病院内に入るにはPCR検査で陰性を確認してから、という条件付けをする病院が多くなりました。しかしPCR検査は偽陰性率が30%、つまり陽性患者であっても30%は見逃してしまう検査ですから、陰性といっても油断できません。
・スタッフの休憩室や更衣室では、その“オフ感覚”からついつい気が緩んでマスクをせずに会話しがち。
▢ 初動の遅れ
・院内でPCR陽性者が出ると、濃厚接触者をトレースして検査が行われてきましたが、これでは追いつかない事例が発生しています。PCR検査対象者はより拡大して徹底的に行われるべきでしょう。
▢ 準備不足
・ふだんから「スタッフの健康観察・体調管理」「体調不良の時は申告・休みやすい雰囲気」「PCR検査の拡充」など、いざというときの準備を怠らないこと。体調不良を言いにくい雰囲気は大きなマイナス点ですが、ギリギリの人数で回している病棟などでは言いにくい&休みにくい傾向があります。その頑張りが逆にハイリスクになるという悲しい現実。
▢ 入院患者との面会・入院患者の外出/外泊制限の緩和
・夏の第二波後、上記を緩めた施設があり、それらの関与も疑われます。
▢ 冬の“換気”問題
・寒くなると“暖房をつけながら窓を開けて換気しましょう”と指導されるものの、北海道など寒い地方では窓を開ければ凍えてしまい、それだけで健康を害するリスクがあります。
記事の締めくくりは以下の文章です;
「感染を疑う患者やスタッフ、濃厚接触者が出た場合には、すぐに隔離や自宅待機にし、対象を十分に広くしたPCR検査を即座に、かつ潜伏期間を十分に考慮し複数回行う、また、厳密な健康観察を継続してもらうことが極めて重要です。」
以上、院内クラスターの発生リスクを挙げてみました。
年が変わって2021年、当院でも気持ちを引き締めて新型コロナに対峙していきたいと思います。
みなさんも基本の感染対策(マスク、三密回避、換気、手洗い、体調が悪かったら外に出ない)の徹底をお願いします。