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小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

ジカ熱(2017年5月現在のまとめ)

2017年05月14日 06時24分17秒 | 感染症
 昨年、とくにリオデジャネイロ・オリンピックの際に話題になったジカ熱。
 情報がある程度揃ってきたので、この辺でもう一度まとめておきたいと思います。

 私が特徴あるいはポイントと感じるのは以下の通り;
1.本人は軽症で済むが、妊婦が感染するとお腹の赤ちゃんに小頭症が発症する。これは風疹(本人は軽く済むが妊婦が感染すると胎児に「先天性風疹症候群」を発症する)と似ている。
2.蚊を媒介する感染症であるが、ヒトーヒト感染もあり得る。それも症状がなくなったあとも精液中にはしばらく出るため、性交渉は危険である。日本脳炎ウイルスも蚊を媒介とするが、ヒトーヒト感染はないところが異なる。
3.「ジカ熱」という病名から高熱が出るとイメージがあるが、微熱あるいは無熱のこともあるので「熱が出ないから大丈夫」とは言えない。
4.確定診断は症状・一般検査ではできない。ジカ熱を疑った場合は保健所を介して検査を依頼する。ウイルス分離・遺伝子検出には急性期は血清、急性期以降は尿(および精液)が適切である。
5.現時点では特効薬・ワクチンはない。

 参考にした資料は、忽那賢志(くつなさとし)先生( 国立国際医療研究センター 国際感染症センター)の書いた以下のHPです;
・「感染症解説〔II〕 ジカ熱」忽那賢志(アステラス製薬)
・「話題の感染症・ジカ熱」忽那賢志(モダンメディア、2016)
今日の臨床サポート「ジカ熱」忽那賢志
感染症TODAY「ジカ熱ウイルス感染症」忽那賢志(ラジオNIKKEI)
・「蚊が媒介する感染症について」忽那賢志の講演スライド

 なお、下線は私が引いたものです;


<ジカ熱>

 ジカ熱はフラビウイルス科のジカウイルスによって起こる蚊媒介性感染症である.ジカ熱を媒介する蚊は主にネッタイシマカヒトスジシマカである.ジカ熱は2013年のフランス領ポリネシアを経て,現在は中南米で400万人規模といわれる大流行を起こしている.
 妊婦がジカ熱に感染すると胎児の小頭症発症のリスクが高くなることが関連付けられており,2016年2月1日,WHOは国際的な公衆衛生上の脅威となる緊急事態を宣言した.
 ジカ熱の潜伏期は2~7日であり,微熱を含む発熱,頭痛,関節痛,筋肉痛,眼球結膜充血,皮疹などの症状を呈する.診断は,血液・尿等からのウイルス分離や,RT‐PCR法によるウイルス遺伝子検出,ペア血清によるIgM抗体あるいは中和抗体の陽転化または抗体価の有意の上昇を用いる.ジカ熱の合併症として,罹患後にギラン・バレー症候群を発症する症例が報告されている.

I.病原体
 ジカウイルスはフラビウイルス科フラビウイルス属に属する.同じくフラビウイルス科に属するウイルスとして,デングウイルス,黄熱ウイルス,日本脳炎ウイルス,ダニ媒介性脳炎ウイルスなどがある.デング熱のように複数の血清型はなく,単一の血清型のみである.

II.感染経路
 ジカ熱を媒介する蚊は,主にネッタイシマカ(Aedes aegypti )とヒトスジシマカ(Aedes albopictus )である.日本にはネッタイシマカは生息していないが,ヒトスジシマカは青森県~北海道を除いた日本全土に分布している.このため,日本国内でも輸入例を発端とした流行が起こりうる
 性交渉によって男性から女性,男性から男性に感染したと思われる症例も報告されている.当初,性交渉による感染例は全体のごく一部であると考えられていたが,決して稀ではないようである.回復から2カ月経過した患者の精液からもジカウイルスが検出されたという報告もあり,現時点ではいつまでジカウイルスが精液中に残存するのか不明である.無症候性感染者から性交渉で感染したと考えられる事例もあり,症状がない患者も流行地から帰国後は8週間性交渉をしない,あるいは性交渉時にコンドームを使用することをCDCは推奨している.また輸血による感染例も報告がある.

III.疫学
 ジカウイルスは,1947年にウガンダのジカ森林のアカゲザルから初めて分離され,ヒトからは1968年にナイジェリアで分離された.実際のジカ熱症例は2007年までにウガンダ,ナイジェリア,カンボジア,マレーシア,インドネシアからの報告があった.2007年ミクロネシア連邦のヤップ島でジカ熱の最初の大規模なアウトブレイクがあり,約300名の感染者が出た.2013年9月よりフランス領ポリネシアで始まったジカ熱の大流行は,ニューカレドニア,クック諸島にも波及し,感染者は3万人以上にも上ると推計されている.2015年6月にブラジルで渡航歴のないジカ熱症例が報告され,その後,急激に中南米で流行が広がった.現在,東南アジアや中南米を中心に世界46カ国がジカ熱の流行国としてWHOに指定されている.
 日本ではこれまでに9例の輸入例が報告されている.PHEICが宣言される以前には2013年12月および2014年1月の症例はフランス領ポリネシアから帰国後の症例と,2014年8月のタイのサムイ島から帰国後の症例であった.PHEIC宣言以後は,全て中南米からの帰国後の症例である.
 また,中南米以外にもタイ,インドネシア,マレーシア,ベトナム,フィリピン,モルディブでもジカ熱の症例が報告されており,これら日本人観光客の多い南アジア・東南アジアの地域にもジカウイルスが潜在しているものと考えられる.

IV.臨床症状
 ジカウイルスに感染した場合,約80%が不顕性感染であると考えられている.ジカウイルスに感染した者のうち,約20%の患者が2~7日の潜伏期間を経て症状を呈する.ジカ熱の臨床症状として頻度が高いのは,微熱を含む発熱,関節痛,皮疹(紅斑・紅丘疹),眼球結膜充血である.これ以外にも頭痛,筋肉痛,後眼窩痛などの症状がみられることもある.ジカ熱の臨床症状を表1に示す.



 ジカ熱という疾患名ではあるが,発熱は微熱程度のことが多く,全く発熱を呈さないこともある.発熱がないからといってジカ熱を除外することはできない点に注意が必要である.
 一般的に軽症例が多く,入院を要することは稀である.これまでにジカ熱が原因で死亡した例は報告されていない.またデング熱のように重症化して出血症状を呈することもない.ジカ熱の症状は通常1週間以内に消失する.

V.合併症
 稀にジカ熱罹患後にギラン・バレー症候群(GBS)を発症することがある.フランス領ポリネシアでは,2013年から2014年のアウトブレイクで3万人以上がジカ熱に感染したと推計されるが,42人のジカ熱感染後のGBS症例が報告されている.この42例では,ジカ熱と思われる症状が出てからGBSの症状が出現するまでの期間は中央値6日であった.またGBS発症から症状のピークに達するまでの期間も中央値6日であった.29%の症例で人工呼吸管理を要した.その他,ジカ熱の合併症として髄膜脳炎や脊髄炎を呈した症例が報告されている.

VI.鑑別診断
 ジカ熱と同じ蚊媒介感染症であるデング熱とチクングニア熱に臨床像が似ている.また,近年は流行地域もこの2つの感染症と大部分が重複しており,デング熱やチクングニア熱を疑った際には,ジカ熱も鑑別診断として考慮する必要がある.デング熱,チクングニア熱とジカ熱との臨床像の違いを表2に示す.



 ジカ熱は熱帯・亜熱帯で流行している感染症であることから,これらの地域で流行しているマラリア,腸チフス,リケッチア症,レプトスピラ症,住血吸虫症,A型肝炎などの発熱疾患も,同様に鑑別診断として考慮すべきである.

VII.検査・診断
 ジカ熱に特徴的な検査所見はない.本邦の輸入例3例のうち2例では,軽度の白血球減少・血小板減少が確認されているが,海外での報告は少ない.
 ジカ熱の確定診断はPCR法によるジカウイルス遺伝子の検出,またはペア血清によるIgM抗体あるいは中和抗体の陽転化または抗体価の有意の上昇を確認することによる.
 発症早期であれば血清からのPCR法による遺伝子の検出が可能であるが,ジカ熱の発熱期間はデング熱に比べて短く,血清から遺伝子が検出される期間も短いと考えられている.血清から遺伝子が消失した後も尿や精液からはより長期間遺伝子が検出されるため,急性期を過ぎた症例では血液検体と同時に尿検体も採取することが望ましい.抗体検査は急性期と回復期のペア血清で4倍以上の上昇を確認する.2~3週間隔での採取が望ましい.
 これらの検査は行政検査として行われる.ジカ熱を疑った場合には,保健所を介して検査を依頼する.

VIII.治療
 現在のところ,ジカ熱に対する特異的な治療はない.それぞれの症状に対し対症療法を行う.デング熱との鑑別ができていない時点では,NSAIDsの使用は避けた方が良い.

IX.予防
 現在のところ,ジカ熱に対するワクチンはない.ジカ熱の流行地域では防蚊対策を徹底することが重要である.具体的には以下のような対策がある.

・ 肌の露出が少ない服を着る(長袖・長ズボン・帽子).
・ 蚊が嫌う成分であるペルメトリンを含有した服を着用する.
・ DEETを含有した忌避剤を使用する(日本にはDEET含有の忌避剤は最大で12%のものしかないため2時間毎に塗り直す必要がある).
・宿泊時は蚊帳を使用する.

 男性から女性への性交渉で発症しうると考えられているが,どのくらいの期間精液にジカウイルスが残存するかは,現時点では不明である.発症から62日後も精液からジカウイルスが検出されたという事例もある.アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は,ジカ熱に関連して性交渉について以下のように推奨している.

ジカ熱流行地域に渡航した男性の女性パートナーが妊娠する可能性がある場合は,無症状であれば流行地域から帰国後8週間経過するまで,ジカ熱に合致した臨床症状がある,またはジカ熱と確定診断された場合には,流行地域から帰国後6カ月経過するまで性交渉をしない,もしくは性交渉の際にコンドームを使用すること.
・ ジカ熱流行地域に渡航した男性の女性パートナーが妊娠している場合は,妊娠中は性交渉をしない,もしくは性交渉の際にコンドームを使用すること.

X.ジカ熱と小頭症との関連
 2015年末頃からブラジルで小頭症の新生児の増加が報告されるようになり,ジカ熱の流行との関連が疑われるようになった.死亡した小頭症の胎児の脳組織からジカウイルスが検出された事例や,ジカ熱に感染した妊婦のうち29%でなんらかの胎児の異常が認められたという報告などが続き,CDCは妊婦のジカ熱感染と小頭症との関連があると正式に声明を発表した.
 Laviniaらは,ジカ熱との関連が疑われる小頭症の新生児35人の特徴について報告している(表3).



 この報告によると,60%は1st trimester,14%は2nd trimesterのときに妊婦がジカ熱に感染していたと考えられる.小頭症の中でも重症例(頭周囲長<-3SD)に該当する症例が71%であった.また先天性内反足(14%),先天性関節拘縮(11%),網膜異常(18%)などを認めたほか,半数で神経学的検査異常(49%),全例で神経画像検査異常を認めた.
 フランス領ポリネシアでの流行における解析では,非流行時には1万人の新生児出生当たりの小頭症新生児の出生は2人であるのに対し,ジカ熱に感染した妊婦が小頭症の新生児を出生する頻度は1万人当たり95人と算出された.すなわち,妊婦がジカ熱に感染することによって新生児が小頭症となるリスクはおよそ50倍となる.

風邪に短期間ステロイド使用(?)の功罪

2017年05月03日 05時27分49秒 | 感染症
 風邪にステロイド薬を投与することは、小児科では滅多にありません。
 免疫反応を抑制する薬剤なので、免疫反応の暴走を和らげる効果が期待できる一方で、免疫力抑制により感染症が悪化する危険もあるからです。
 私が処方する場合は、喉頭炎(クループ症候群)に1日分するくらいでしょうか。

 まずは風邪にステロイド薬を投与して効果があったという報告を紹介します。
 急性咽頭痛(=風邪の初期)患者さんに強力なステロイド薬(デキサメサゾン)を単回投与した場合、48時間後の咽頭痛消失率が27%から35%へ8%増加した、という内容です。

■ 急性咽頭痛、デキサメタゾンで有意に改善/JAMA
2017/04/27:ケアネット
 急性咽頭痛で抗菌薬の即時投与を必要としない成人患者に対し、経口デキサメタゾンの単回投与が、48時間後の症状完全消失に効果があることがわかった。なお24時間後の症状完全消失については、有意な改善はみられなかったという。英国・Nuffield Department of Primary Care Health SciencesのGail Nicola Hayward氏らが、英国プライマリケアベースで565例を対象に行った、プラセボ対照無作為化二重盲検試験で明らかにしたもので、JAMA誌2017年4月18日号で発表した。急性咽頭痛はプライマリケアで最も多い症状の1つで、それに対する不適切な抗菌薬投与も少なくないのが現状だという。
◇ 24時間、48時間後の症状完全消失の割合を比較
 研究グループは、2013年4月~2015年4月にかけて、南・西イングランドのプライマリケア診療所42ヵ所で、急性咽頭痛の症状があり、抗菌薬の即時投与を必要としない成人患者565例を対象に試験を行った。被験者を2群に分け、一方には経口デキサメタゾン10mgを、もう一方にはプラセボをそれぞれ投与し、28日間追跡した。
 主要評価項目は、24時間後に症状が完全消失した人の割合。副次評価項目は、48時間後に症状が完全消失した人の割合や、中等症・重症症状の持続期間などだった。
◇ 抗菌薬の遅延処方有無にかかわらず、デキサメタゾンが2日後症状完全消失に効果
 被験者の年齢中央値は34歳(範囲:26.0~45.5歳)、女性の割合は75.2%だった。
 結果、24時間後に症状が完全消失した人の割合は、プラセボ群が17.7%(277例中49例)に対し、デキサメタゾン群は22.6%(288例中65例)と、両群で有意差はなかった(相対リスク[RR]:1.28、95%信頼区間[CI]:0.92~1.78、p=0.14)。
 一方、48時間後の同割合は、プラセボ群が27.1%(277例中75例)に対し、デキサメタゾン群は35.4%(288例中102例)と有意に高率だった(RR:1.31、95%CI:1.02~1.68、p=0.03)。抗菌薬を遅延処方されなかった人についても、48時間後の同割合はそれぞれ27.2%、37.6%と、デキサメタゾン群で高率だった(RR:1.37、95%CI:1.01~1.87、p=0.046)。
 その他の副次評価項目には、両群で有意差はなかった。

<原著論文>
Hayward GN, et al. JAMA. 2017;317:1535-1543.

 次に、風邪にステロイド薬を投与するリスクを解析した報告を紹介します。
 米国では5人に1人と、結構安易に処方されているようです。
 その結果、短期間の投与にもかかわらず、敗血症他のリスクが非投与例の2-5倍に高まるという内容です。怖いですね〜。

■ 経口ステロイド​の短期投与で主要有害事象が約2~5倍に/BMJ
2017/04/24:ケアネット
 米国の民間保険加入の成人患者では、約5例に1例が経口副腎皮質ステロイド薬の短期投与を処方されており、主要有害事象である敗血症、静脈血栓塞栓症、骨折のリスクが、非投与例の自然発生率の約2~5倍に高まることが、米国・退役軍人省臨床管理研究センターのAkbar K Waljee氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2017年4月12日号に掲載された。経口副腎皮質ステロイド薬の慢性的な使用は、心血管、筋骨格、消化器、内分泌、眼疾患、皮膚、神経系への広範な作用などの合併症をもたらす。一方、その短期的な使用と関連するリスクの特徴は、十分には知られていないという。
◇ 3年間に約150万例の約20%に処方、有害事象をSCCSで評価
 本研究は、米国における経口副腎皮質ステロイド薬の短期投与の処方状況を調査し、主要有害事象(敗血症、静脈血栓塞栓症、骨折)との関連をレトロスペクティブに評価するコホート試験および自己対照ケースシリーズ(SCCS)である(米国退役軍人省などの助成による)。
 民間の保険金請求の全国的なデータセットを用いて、2012~14年に登録された成人(18~64歳)のデータを収集した。30日未満を短期投与と定義し、経口副腎皮質ステロイド薬の投与例と非投与例の有害事象の罹患率を調べた。さらに、薬剤導入後30日以内および31~90日の有害事象の罹患率比の解析を行った。
 154万8,945例が調査の対象となり、このうち32万7,452例(21.1%)が、3年間に1回以上の短期投与の外来処方を受けていた。ベースラインの平均年齢は、投与群が非投与群に比べ高齢で(45.5[SD 11.6] vs.44.1[SD 12.2]歳)、女性(51.3 vs.44.0%)、白人(73.1 vs.69.1%)、合併症数が多かった(すべてp<0.001)。また、使用率は太平洋側地域(12.4%)が最も低く、東南中部(29.4%)や西南中部(27.6%)が高かった。
◇ 20mg、6日投与で、30日時の敗血症リスクが5倍以上に
 投与群の投与日数中央値は6日(IQR:6~12日)で、7日以上の投与を受けたのは47.4%(15万5,171例)だった。プレドニゾン換算1日用量中央値は20mg/日(IQR:17.5~36.8mg/日)で、40mg/日以上の投与を受けたのは23.4%(7万6,701例)だった。70.5%が1コース、20.7%が2コース、8.8%が3コース以上の投与を受けた。
 投与群の最も頻度の高い症状は、上気道感染症、椎間板障害、アレルギー、気管支炎、(気管支炎を除く)下気道疾患で、これら5症状が全体の約半分を占めた。また、処方を行った医師は、家庭医と一般内科医が最も多く、救急救命医、耳鼻咽喉科医、整形外科医による処方も多かった。投与群で1,000人年当たりの発生頻度が最も高かったのは骨折(21.4件)で、次いで静脈血栓塞栓症(4.6件)、敗血症による入院(1.8件)の順であった。
 SCCSの結果、非投与群と比較して、すべての用量の投与開始から5~30日に、敗血症による入院が5.3倍に増加し(プレドニゾン換算用量中央値:20mg/日、投与日数中央値:6日、罹患率比:5.30、95%信頼区間[CI]:3.80~7.41)、静脈血栓塞栓症は3.33倍(17.5mg、6日、3.33、2.78~3.99)、骨折は1.87倍(19mg、6日、1.87、1.69~2.07)に増加し、いずれも統計学的に有意な差が認められた(すべてp<0.001)。また、3つの有害事象はいずれも31~90日に罹患率比が低下したが、有意差は保持されていた(敗血症による入院:2.91、2.05~4.14、静脈血栓塞栓症:1.44、1.19~1.74、骨折:1.40、1.29~1.53)(すべてp<0.001)。
 プレドニゾン換算用量が<20mg/日、20~39mg/日、40mg/日以上の場合(投与日数中央値:5~7日)も、投与開始5~30日には、3つの有害事象はいずれも有意に頻度が高く(罹患率比:1.77~7.10、40mg/日以上の敗血症[p=0.004]を除きp<0.001)、31~90日の罹患率比は40mg/日以上の敗血症(5~30日の4.98[p=0.004]から31~90日に5.20[p=0.003]へ上昇)を除き低下した(罹患率比:1.40~5.20)が、<20mg/日の静脈血栓塞栓症(p=0.10)を除き有意差は保たれていた。
 著者は、「低用量(<20mg/日)でもほぼ同等のリスクがみられ、至適な使用法を同定するためにさらなる検討を要する」とし、「これらの薬剤の処方および有害事象のモニタリングにいっそう注意を払うことで、患者の安全性が改善される可能性がある」と指摘している。

<原著論文>
Waljee AK, et al. BMJ. 2017;357:j1415.

 この報告の投与期間は中央値6日間でした。
 なお、3日以内なら免疫力抑制を考慮しなくてよい、というのが小児科医の一般知識であることを申し添えておきます。

「帯状疱疹・水痘〜予防時代の診療戦略」

2017年03月20日 06時54分33秒 | 感染症
帯状疱疹・水痘〜予防時代の診療戦略
監修:新村眞人Dr.、総編集:本田まりこDr.、2016年、Medical Tribune社

 水痘ワクチンの資料を探し求めてたどり着いた本です。
 まさに私の目的にドンピシャ。
 私が調べたことのほとんどが記載されており、知識のアップデートにはもってこいの内容。
 字も大きくて図表もカラーでとてもわかりやすい(^^)。
 オススメです。

 備忘録を書こうとしましたが、今までの記事と重複する内容が多いのでやめました(^^;)。

The Shozu Herpes Zoster Study(小豆島スタディ)

2017年03月19日 20時45分44秒 | 感染症
 前項の「なぜ水痘ワクチンが帯状疱疹を予防するのか?」という疑問に答えてくれるのが小豆島スタディです。
 対象年齢の住民の70%以上が参加したというのも驚きですが、この研究の優れているところは、水痘に対する体液性免疫と細胞性免疫を評価しているところだと思います。
 その結果、加齢とともに水痘・帯状疱疹ウイルスに対する「細胞性免疫は低下」「体液性免疫は増強」することが判明し、帯状疱疹発症には体液性免疫より細胞性免疫の関与が大きいことが示唆されたのでした。

■ VZV特異的細胞性免疫の低下が帯状疱疹を招く
 〜大規模前向き疫学調査,小豆島スタディの知見から
2015.12.08:メディカル・トリビューン
 帯状疱疹と帯状疱疹後神経痛(PHN)は激しい痛みをもたらす疾患だが,高齢化の進行で患者数が増え続けており緊急の対策が求められている。米国では高齢者の帯状疱疹予防に高力価の水痘ワクチンが用いられており,日本でも水痘ワクチンの適応拡大が申請中である。水痘と帯状疱疹は同じウイルス(varicella -zoster virus;VZV)によって起こるとはいえ,病態の異なる2疾患がなぜ同じワクチンで予防可能なのか。その理論的背景として,香川県の小豆島で行われた大規模前向き疫学調査The Shozu Herpes Zoster Study(以下,小豆島スタディ)があった。同調査のフィールドワークを中心的に担った阪大微生物病研究会観音寺研究所所長の奥野良信氏に,調査結果の概要と帯状疱疹予防の展望を聞く。

◇ 小豆島スタディ;50歳以上の島民の72%が参加!
 小豆島スタディは,小豆島の50歳以上の住民を対象に,2008年4月〜13年3月にかけて実施された。調査に協力の意思を示した12,522人は,同島の50歳以上人口のなんと72.3%に当たる。登録者をA調査の6,837人,B調査の5,320人,C調査の365人(60歳以上)に振り分けた。調査期間は登録時より3年間で,月1回,帯状疱疹症状の有無などを尋ねる電話調査を全例で行い,B調査では登録時の皮内テスト,C調査では登録時および1,2,3年後の皮内テストと血液検査を追加した。
 皮内テストとは,水痘抗原「ビケン」0.1mLを皮内接種し,48時間後に接種部位の紅斑,浮腫の大きさを測定するもの。VZVに対する細胞性免疫を調べるため行った。VZV特異的細胞性免疫の測定には,ELISPOTアッセイが国際的に行われるが,多数例の検討は容易ではない。これに対して皮内テストは,安全で,特別な機材や高度の技術を要しないため,大規模疫学調査に適した方法だと奥野氏は語る。ただし,皮内注射と判定は皮膚科医の訓練を受けた看護師2名が専属で行った。一方,採血施行例(C調査群)では抗体価を測定,液性免疫を調査した。

◇ 小豆島スタディ/結果1;帯状疱疹の年間発症率は1.07%
 調査を行った3年間の帯状疱疹発症者は396人,年間発症率は1.07%だった。これは米国のOxmanらの報告に近似した数値である。PHNの発症者は56人で,帯状疱疹からの移行率は14.1%だった。性別では,男性137人(年間発症率0.83%),女性259人(同1.27%)と,女性の発症が多かった。年齢層で検討すると,男女とも70歳代にピークがあり,80歳以上で低下していた。
 皮内テストで紅斑長径を測定できたのは5,527例で,平均値は14.24mmだった。男女間で差はなかったが,年齢上昇にしたがって紅斑は有意に小さくなっていた。また,過去の帯状疱疹罹患歴で比べると,「なし」例で有意に小さかった。奥野氏はこれらの結果から「VZVに対する細胞性免疫は加齢で弱まり,帯状疱疹罹患で増強する」とした。
 一方,C調査群では対照的な結果が得られた。gp ELISA法,IAHA法,NT法でVZV特異的液性免疫を評価したが,いずれの検査法でも60歳代<70歳代<80歳代と,加齢に伴い液性免疫が有意に強まっていたのである。C調査群ではELISPOTアッセイによるVZV特異的細胞性免疫の評価も行ったが,皮内テストの結果と同様,加齢による低下が見られた。すなわち,VZVに対する細胞性免疫は加齢で弱まるが,液性免疫は増強することが確認された。

◇ 結果2;皮内テストの紅斑長径は帯状疱疹の発症リスクを予測する
 登録時の皮内テストで紅斑長径を測定した5,527人からは,期間中に170人が帯状疱疹を発症した。この発症の有無で平均紅斑長径を比較すると,発症者の8.411mmに対し未発症者は14.425mmと発症者の紅斑が著明に小さかった。両者の差は,性,年齢,帯状疱疹罹患歴を共変数とする共分散分析でも有意であった(P<0.0001)。PHNについて検討を行うと,発症者29人の平均紅斑長径は5.788mm,未発症者は14.285mmと,帯状疱疹と同様の結果が得られた。
 そこで,全例(5,527例)を紅斑長径5,10,15,20,25mmで6群に分け,帯状疱疹の発症率を比較した。すると,全例の発症率は1.03%だったが,5mm未満例は2.49%,25mm以上例は0.33%と,紅斑が小さいほど発症が多いことが確認された。同様に,PHNの発症率は全例では0.17%だったが,5mm未満例では0.61%と著明に高い値だった。この成績から,VZV特異抗原を用いた皮内テストが,帯状疱疹発症を予測するマーカーとなりうることが示されたと,奥野氏は指摘する。
 さらに,帯状疱疹発症者の皮膚症状と痛みの重症度をスコア化した検討からは,重症度と皮内反応(紅斑,浮腫)の強さが逆相関することが確認された。

◇ 水痘ワクチンは皮内反応を増強する−見えて来た帯状疱疹予防の道筋
 以上の結果は,VZV特異的細胞性免疫の低下が,帯状疱疹の発症と重症化,PHNへの移行に強く関わることを示唆している。加齢に伴い帯状疱疹の発症が増えることは広く知られ今回の研究でも確認されているが,VZVに対する細胞性免疫は加齢で低下し,液性免疫は逆に増強することが見いだされた。液性免疫が重要な水痘とは異なり,帯状疱疹の発症には細胞性免疫の低下が決定的である点が示されたのである。
 この点からは,帯状疱疹予防におけるVZV特異的細胞性免疫増強の重要性が見えてくる。2003年に高橋らは,50歳以上の被験者に水痘ワクチン(岡株,微研)を接種。前後で皮内テストを行った結果,接種前に陰性(紅斑長径5mm未満)であった被験者の88%が陽転し,66%が10mm以上になったと報告した。すなわち,水痘ワクチンがVZV特異的細胞性免疫を増強する点は確認されている。
 奥野氏は,小豆島スタディと高橋らの成績から,水痘ワクチン接種が高齢者の帯状疱疹予防に有用であることが推測されるとする。「小豆島スタディは,地域の医師会のみならず,行政や自治会など多数の市民の協力なしにはなしえなかった。帯状疱疹予防の道筋を拓くことで,その貢献に応えたい」と述べている。

水痘患者全員に抗ウイルス薬を使用すべきか?

2017年03月19日 16時36分23秒 | 感染症
 水痘には抗ウイルス薬であるアシクロビル(ACV)とバラシクロビルがあります。
 日本では習慣的に処方されますが、諸外国では事情が異なり、全員に処方する必要があるかどうか、以前から議論されてきました。
 その内容をうかがい知れるセミナー記事を紹介します。
 結論から言うと・・・水痘ワクチン定期接種化以降は水痘に罹っても軽症で済むようになるため、抗ウイルス薬の投与は必要なくなりそう、というもの。

■ 健常小児水痘に抗ウイルス薬を使用するべきか?
小児感染免疫 Vol.26 No4, 2014
・アシクロビル投与により免疫反応として水痘の高値賛成派阻害されない。
・米国では1993年に「12歳以下の健常小児水痘に対するルーチン投与はしない」と米国小児科学会が声明を出している。
・2005年の Cochran review でも、アシクロビル投与群はプラセボ投与群より有熱期間が1.1日短くなり、皮疹最大数が76こすくなくなるが、合併症の発症には有意差がなく、効果は限定的であるとの結論。

・水痘ワクチン接種後罹患では、水痘の診断自体が困難になると考えられるため、24時間以内にACVを投与できる可能性は少なくなり、さらに皮疹自体が減少するため、健常小児水痘に対するACVの優位性は失われる。重症化因子を有する小児以外は、抗ウイルス薬の投与は不要となるかもしれない。


(新型)インフルエンザと学級閉鎖(CDC Watch No.22, 2009年より)

2017年03月14日 07時53分27秒 | 感染症
 2009年に新型インフルエンザが流行した際、学級閉鎖・学校閉鎖が相次ぎました。
 その基準については「生徒の約10%が休んだとき」(季節性インフルエンザでは20%?)というのが一般的で、決めるのは学校長、学校医は相談に乗るというスタンスです(現在は「学校の設置者」として教育委員会も関与するようです)。
 ただし、学級閉鎖の基準は明確には存在しません。

「感染症流行時の臨時休業の決め方」(日本学校保健会HP)
■ 「学校感染症による出席停止について」(同じ内容です)
■ 「学校において予防すべき感染症の解説」(文部科学省)・・・p15に記載がありますが、概念だけで具体的な数字は皆無。
■ 「学級閉鎖・学校閉鎖|どのようなときに閉鎖になるのか」(ブログ:学校管理職試験研修所)
■ 「インフルエンザ学級閉鎖の基準まとめ!文部科学省の見解は?」(ブログ:季節お役立ち情報局)・・・ここには都道府県の情報がありました。東京都では10%(これは新型の場合で季節性では20%という情報もありました)、大阪府では15-20%、北海道では20%を目安としているようですね。

■ 新型インフルエンザと学級閉鎖CDC Watch No.22, 2009
 米国ではCDCが指針(Questions and answers about CDC guidance for state and local public health officials and schoo administrators for school(K-12) responses to influenza during the 2009-2010 school year.)を出しています。
 その中で、いくつかに分類しています。

school closure」・・・学校を閉鎖して全ての生徒と職員を帰宅させる。学校の機能は停止。
school dismissal」・・・生徒は家に留まるが、職員は出勤してもよい。さらに3つに再分類される;
1.選択的学校閉鎖:すべての、もしくはほとんどの学生が「インフルエンザに感染すると合併症を呈する危険性が高い生徒」である場合に実施される。
(例)医学的に脆弱な小児の学校、マタニティースクールなど
2.反応的学校閉鎖:多くの生徒及び職員が病気となって、学校に来ることができない場合に実施される。
3.先制攻撃的学校閉鎖:多くの生徒や職員が感染する前に、インフルエンザの拡大を減らす目的として流行早期に実施される。早期というのは「人口の1%が感染する前」ということである。インフルエンザ流行のピークの低減および医療システムへの負荷の軽減に大変有効である。この学校閉鎖は重篤なインフルエンザが流行するような場合に実施されるが、そうでなければ実施されることはない。

 日本で行われている学級閉鎖を、上記米国のシステムと比較するとどうでしょうか。
 著者(矢野邦夫Dr. 浜松医療センター)による分析・解説は以下の通り;

 学級生徒の10%が休んだ場合に閉鎖される→ 「先制攻撃的学級閉鎖」ではない。「反応的学校閉鎖」でもない。「選択的学校閉鎖」でもない。
 現在実施されている学級閉鎖は「10%に到達した」というだけの「数字的学級閉鎖」である。
 学級閉鎖は抗ウイルス薬やワクチンを用いた介入よりも14倍、21倍のコストがかかる。そして医療システムに破壊をもたらす。医療従事者も親であり、学校に子どもを送り出しているため、学級閉鎖されると出勤できなくなるからである。さらに、子どもたちのケアに動員された高齢者が感染し、その死亡率が上がることになる。
 学級閉鎖を実施するときは、経済的及び社会的ダメージについて十分に考慮しなければならない。決して、数字が10%に到達したからという根拠であってはならない。


<参考>
「インフルエンザ流行期の学級閉鎖」考(2011年12月23日:当院ブログ)
■ 「新型インフルエンザ流行時における学校閉鎖に関する基本的考え方」東北大学医学系研究科微生物学分野 神垣太郎・押谷仁(平成 21 年度厚生労働科学研究)

医療従事者における麻疹・水痘・風疹・ムンプスの就業制限(CDC Watchより)

2017年03月14日 06時45分41秒 | 感染症
 医療従事者は件名の感染症に対する免疫が要求されます。
 その理由は、本人が感染した場合、患者さんにうつす可能性があるからです。
 患者さんの中には、病気や治療のために免疫抑制状態にある人もいます。そのような患者さんにうつると命に関わるのです(特に麻疹や水痘)。
 そして医療機関は、感染症患者が集まる場所ですから、そのリスクが一般の職場よりも高い傾向があります。
 もちろん、本人自身が罹らない目的もありますし、罹った場合に一定期間仕事に穴をあける(就業制限)ことも問題です。

 しかし、日本には「就業制限期間」のルールがありません。
 米国ではCDCが1998年にガイドライン(Guideline for infection control in health care personnel)を出しています。
 下記はその紹介記事です;CDC Watch(メディコン)No.17, 2009年5月






 筆者(矢野邦夫Dr.、浜松医療センター)は「常にマンパワーが不足している日本の医療機関では、CDCの推奨通りの暴露後就業制限はできない。従って、ワクチンを接種して就業制限をしなくても住むようにするのが望ましい。」と結んでいます。

風疹&ワクチン関連記事拾い読み(2017)

2017年03月13日 07時49分17秒 | 感染症
 日本は現在、「2020年度までに風疹を排除」することを目標にしています。
 しかし2012-2013年に流行し、先天性風疹症候群(CRS)が45例発生したことは記憶に新しいところ。
 それ以降、妊娠可能年齢の女性を対象に風疹抗体価検査や風疹ワクチン費用補助などをしていますが、それで十分なのでしょうか。

 否!

 流行の母体となっているのは、日本のワクチン行政の谷間にはまった30-50歳代の男性達です。
 この世代のみ、抗体保有率が低く(78%)、集団免疫率に到達していません。
 しかし社会で一番活躍する年代でもあり、仕事を休んで抗体検査をしたり自費でワクチン接種するのはハードルが高いのが現実です。
 そのハードルを越えるためには、社内での集団接種および費用公費負担しかないと私は考えています。
 でも厚生労働省はそのような方策をとることなく、相変わらず「2020年までに風疹排除」と謳っているだけ。
 妊婦中心の対策にとどまっていては風疹排除は不可能であり、成人男性をも対象にする方針転換が今、必要なのです。

 さて、風疹ワクチンに関する2013年のCDCの記事を紹介します。
 生ワクチンの免疫持続期間が1回接種と2回接種で分けて記載してあるデータを初めて見ました。
 表の「免疫の持続期間-2回接種」の項目は、「2回目接種後の期間」という意味です。


■ 風疹ワクチンと免疫CDC Watch 2013年8月


■ 先天性風疹症候群(CRS)CDC Watch 2013年6月
・米国において1964-1965年にかけて風疹の流行があり、約1250万件の風疹が発生し、11250件の人工妊娠中絶または自然流産があり、2100件の新生児死亡と20000件のCRS合併児が発生した。
・2004年に全米ワクチンプログラムが実施されていこう、米国においては風疹の流行は駆逐された。しかし、輸入症例は後を絶たない。
・咽頭スワブから検出された風疹ウイルスの遺伝子配列を調べると、そのウイルスの由来が判明する(紹介されている3症例はすべてアフリカ出身の母親、ウイルスもアフリカ由来のものであった)。


<参考>
□ 「2020年度までの風しん排除のために、実効ある施策を要望します」(日本産婦人科学会ほか、2017)


 次に国立感染症研究所発行の病原微生物検出情報(Vol.37 No.4, 2016年4月)からの記事を抜粋。
 成人男性対象の風疹対策、具体的には30-50歳代男性のワクチン接種を東京都が企業と医師会と連携して具体的に取り組み始めた事業が紹介されており、今後他地域へ広がるモデルケースになる可能性を感じました。


■ <特集>麻疹・風疹/先天性風疹症候群 2016年3月現在
・成人男性を中心とした2012-2013年の風疹流行の患者報告数は、2012年2386例、2013年14344例、2014年319例、2015年163例であった。年齢群別に見ると2012/2013年には成人がそれぞれ83.4/87.8%を占めた。


 予防接種歴は接種歴不明が多く、接種歴2回の割合は少なかった。2015年を見ると、未接種22.1%、接種歴不明54.6%、1回接種18.4%、2回接種4.9%であった。

 CRSは2012年4例、2013年32例、2014年9例、2015年0例であった。

・2015年に17都道府県で風疹感受性調査が行われ、風疹抗体価測定は赤血球凝集抑制法(HI法)で評価した。2歳以上30代前半まで男女ともほとんどの年齢群で90%以上の抗体保有率(抗体価≧1:8)であったが、30代後半-50代前半の年齢層の抗体保有率は男性では78%と低かった(女性では97%)。

・CRS患者では風疹ウイルスが排除されにくく、時に1年以上ウイルスを保有することがある。

海外での風疹対策の現状
・2012年の世界保健大会では「2015年までにWHO6地域のうち少なくとも2地域で風疹の排除を達成し、さらに2020年までには少なくとも5地域において排除を達成すること」を目標に掲げた。結果としては、アメリカ地域のみ排除を達成したものの、他の地域では目標を達成できる見込みがほとんどない。
・風疹の排除の定義:よく機能したサーベイランス制度の下で、ある地域において12ヶ月以上にわたって土着の風疹ウイルスによる伝播が認められず、その伝播に伴ったCRSの発生が認められないこと。
・2016年1月時点で接種プログラムに風疹ワクチンが導入されているのは194カ国中147カ国(75.8%)。2014年の対象年齢群における風疹ワクチン接種率は全世界で46%(2005年24%、2010年41%)とまだ不十分である。WHO地域ごとの接種率は、アフリカ10%、東地中海42%、南東アジア12%、アメリカ92%、ヨーロッパ94%、西太平洋91%と地域格差がある。
・日本の所属するWHO西太平洋地域では、これまで風疹の“制御”を目標にしてきたが、2014年に“排除”へ切り替えられ、2020年を排除目標年とすることが推奨された。

職場で始める!感染症対応力向上プロジェクト

・2015年10月に開始した東京都、東京商工会議所、東京都医師会が連携した企業の感染症対策を支援するプロジェクト。
A)コースⅠ 感染症理解のための従業者研修
 従業者1人1人が感染症の予防、まん延防止ができるよう、自習教材を活用して必要な知識を習得する。教材は択一式問題50題と解説書で構成し、風疹に関する設問は必須問題としている。
B)コースII 事業所単位での感染症BGP(業務継続計画)の作成
 職場での感染症予防、蔓延防止を目的に業務継続計画を作成することにより、企業のリスク管理と職場を感染症から守る取り組みを計画的に実施する。業務継続計画で想定する主な感染症は、身近な感染症である季節性インフルエンザ、ノロウイルス、働く世代における対応が課題となっている風疹。
C)コースⅢ 事業所単位での風疹予防対策の推進
 集団免疫の理解を図り、事業所単位での従業者の風疹抗体保有率の向上を促す。東京都医師会は地域ごとに「予防接種等協力医療機関」を確保した。
・達成基準(↓)。達成基準を満たした協力企業を「達成企業」とした。2016年3月時点で協力企業は142、達成企業は9。


2020年度の風疹排除に向けて
・2013年の感染症発生動向調査によると、20-60歳代の男性風疹患者のうち、感染経路判明例の68.5%が職場で感染、一方の女性の感染経路は35.2%が職場、33.5%が家族となっている。
・2014年3月に国立感染症研究所が「職場における風疹対策ガイドライン」をとりまとめた。その中で「就業時間中に予防接種を受けに行くというのは労働者にとってもハードルが高い」と記載されている。その状況への対応として、厚生労働省医政局長通知「医療機関外の場所で行う健康診断の取り扱いについて」が2015年3月31日付で改正され、医療機関外の場所で行う予防接種のうち、一定の要件を満たすものについては新たに診療所開設の手続きを要しないものとされた。
・経済産業省次世代ヘルスケア産業協議会は2015年3月に東京証券取引所と共同で「健康経営銘柄」22業種22社を選定した。その調査の中で「健康診断時の麻疹・風疹などの感染症抗体検査の実施」が項目として記載されている。
<参考>「風しんに関する特定感染症予防指針」(厚生労働省、2014年3月)

感染経路からみた妊婦の風疹罹患予防
・2013年に報告された20-60歳女性風疹患者中感染経路判明例で最も多かったのが「」。妊婦の抗体価スクリーニングはされているが夫の抗体価は調べられていない。自治体によってはパートナーへも風疹ワクチン接種の補助を行っているところもあるが、抗体価が低い夫のみという自治体も多く、平日に抗体検査とワクチン接種をするに至っていないパートナーは少なくないと思われ、家族内感染を断つのは難しい
 次に多かったのが「同僚」。職場内での風疹感染に対する意識の低さも問題視されるべきであろう。



 次は同じく国立感染症研究所「病原微生物検出情報」(Vol.36 No.7, 2015年7月)より;


■ <特集>風疹・先天性風疹症候群 2015年6月現在




・出生時にはCRS症状がなくても、その後難聴、白内障が顕在化する場合があるので、風疹に罹患した或いはその疑いがある母親から生まれた児の注意深い観察が必要である。
・CRS児の10-20%は生後1年を経ても風疹ウイルス(rubella virus, RV)を排泄するという報告がある。

(東京都の取り組み)
・東京都健康安全研究センターが2013-2015年に都内で発生したCRS児12例(東京都で発生した総数は、2013年13例、2014年3例の合計16例)の調査を行った結果、RV排泄状況は以下の通りであった:
 生後3ヶ月時点:91.7%(12例中11例)、生後6ヶ月:33.3%(4/12例)、生後9ヶ月:16.7%(2/12例)、生後12ヶ月:8.3%(1/12例)。最長は13ヶ月。

(大阪での取り組み)
CRS発症予防では妊婦対策が中心であったが、風疹排除を目的とするならば妊婦以外にも目を向ける必要がある
・とにかく成人男性が問題:風疹感染は一般的に症状が軽いため見落とされやすく、20-40代の男性では両要求かを取得せずに仕事を続ける場合も多く、結果的に職場内で感染が拡大する傾向がある。男性の未婚率は30代で40%、40代で25%であり、現在行っている風疹抗体検査およびワクチン助成の対象者とならない男性の割合が高い。

産婦人科医から見た2012-2013年の風疹流行の課題
・過去の風疹予防接種施策の問題:定期接種の機会がなかった、あるいは移行措置で施策がなされたにもかかわらず結果的に低接種率に帰した年代と、風疹患者数の多い年齢とが見事に一致している(↓)

・接種率向上を図るポイント:
1.接種無償化(定期接種)
2.個別通知
3.接種確認と未接種者への繰り返し通知
4.休日や職場での接種機会の提供
5.接種率の低い都道府県の公表
・CRS45例の公開情報「先天性風しん症候群(CRS)の報告(2014年10月8日現在)
 ワクチン接種歴あり:9例、妊娠中風疹罹患なし:4例、双方の相当:2例が存在する。
(例1)妊娠中に発疹と発熱を認め医療機関を受診したが、風疹の診断に至らず、出生した児がCRSだった。
(例2)第1指分娩後に風疹ワクチンを受けたが今回HI8倍、妊娠中風疹症状なし、出生した児がCRSだった。
 結局、妊娠早期にはっきり風疹と診断された例以外にCRSは予測できない。風疹の排除こそが唯一の解決方法である

先天性風疹症候群(CRS)の子にみられる難聴
・CRSのほとんどの臨床症状は妊娠8週までに罹患した場合に出現する症状であり、それ以降での罹患では出現率は低下する。しかし、難聴は8週以降の感染でも発症する頻度が高く、CRSの80-90%に認められる。
・CRS児の50%は出生直後に何も臨床症状がない。
・補聴器使用開始は生後半年以内が理想的であるが、CRS児の開始年齢は遅くなる傾向がある。ウイルス排泄による二次感染が懸念されるため、地域の母湯院や訪問看護の受け入れが悪いことも一因である。
・CRS難聴の特徴:
 ウイルスの血管障害による基底膜、血管条と球形嚢の変性、その他あぶみ骨の固着などが報告されており、伝音難聴/感音難聴のどちらも生じる。
 聴力レベルも軽度から重度まで、左右聴力レベルも非対称で一側性難聴のこともある。
 出生直後の聴力が正常であったとしても、2-3歳までに遅発性難聴を生じるため、たとえ新生児聴覚スクリーニングで正常判定でも、3歳までは3-6ヶ月ごとの聴力評価が必要である。
・療育の問題点:
 ウイルス排泄がとまるまで集団の中に入れることができないため、地域の聾学校や療育施設での指導・介入ができず、医療機関でさえも受診抑制せざるを得ない。
・潜在的CRSの可能性:
 重度難聴児の眼底検査を行ったところ、CRSに特徴的な眼底所見を有する児が既報告以上に認められ、さらに風疹流行時期・地域に一致していた(Tamayo ML, et al., Int J Pediatr Otorhinolaryngol 77: 1536-1540, 2013)。出生時期に何も症状がなければCRSであることがわからず、原因不明の難聴児として対応されている可能性がある。

職場における風疹対策
・2012年度の感染症流行予測調査によると、風疹に対する免疫を持たない20-49歳の成人は475万人で、そのうち男性が397万人と8割以上を占めている。
風疹感染の最大の懸念はCRSの発生であり、従業員直接の危険ではないため、感染リスクの高い20-50代男性で当事者意識を持つものは限られる
・予防接種歴の調査は難しく、母子手帳の記載を確認できるのは20-40代の成人のうち36%にとどまる(Hori A, et al., PLOS ONE 10: 0129900, 2015)。
・風疹罹患者のウイルス排出期間、つまり他人へ感染させ得る期間は、発疹などの症状出現の前後1週間とされる。症状が出たら自宅待機という対策では不十分である。感染に気づかない男性が、職場や家庭、地域で妊娠出産年齢の女性へ感染させるケースが最も危惧される。
・企業の安全配慮義務に対して、従業員には自分の健康を自己管理する事故保険義務がある。

ノロウイルスの免疫持続期間は4〜8年(CDC Watch)

2017年03月13日 07時31分24秒 | 感染症
 子どもが感染性胃腸炎になった際、子どもだけで終わるとロタウイルス、感染が拡大して家族全滅するとノロウイルスが怪しい、と私は説明しています。
 つまり、ロタウイルスは子どもの頃に罹ると免疫が獲得されるけど、ノロウイルスでは一生涯有効な免疫を獲得しにくいと云うこと。

 ではノロウイルスに一度罹ると、どれくらい免疫が続くのか?

 という素朴な疑問が発生します。
 その答えはこちら;

■ ノロウイルスの免疫持続期間CDC Watch 2014年 3月号
・従来、ノロウイルスの免疫は6ヶ月〜2年程度続くと信じられてきた。しかし過去の実験で用いられた細菌数はとても多く、実情を反映していないのではないかという反論があった。
・Kirstenらは数学的モデルによって刺虫感染ノロウイルスへの免疫期間を推定し、4-8年程度であろうとの結論を得た。

米国における水痘ワクチンの効果報告(2017年3月)

2017年03月13日 06時52分42秒 | 感染症
 CDC Watch(メディコン)の記事から。

■ 水痘ワクチンの2回接種の効果CDC Watch 2016/12

米国の水痘対策の経緯
・水痘ワクチン導入以前は、年間400万人の患者、11000-13500人の水痘関連入院、100-150人の水痘関連死亡が発生していた。
・1996年:水痘ワクチンプログラム(1回接種)が導入され、それ以降の10年で水痘発生率を90%減少させた。
 しかし、その後もアウトブレイクは続いた。
・2006年:2回接種(生後12-15ヶ月および4-6歳)を実施するに至る。

水痘ワクチン2回接種後のデータ
・1回接種の最後の年(2005年)から2回接種開始の早期の年(2006-2010年)までに、水痘発生が全米で72%減少した。
・「症例に基づく水痘サーベイランス」が40州(2014年)から報告され、年間水痘発生率は人口10万人あたり25.4件(2005-2006年)から3.9件(2013-2014年)へと有意に減少した(マイナス84.6%)。
・水痘ワクチンプログラムが開始される前からCDCに毎年水痘症例を報告している州(イリノイ、ミシガン、テキサス、ウエストバージニア)においては、水痘発生率は1993-1995年から2013-2014年までで、平均97.4%の減少が見られた。
・2013-2014年のデータによると、患者の水痘ワクチン接種状況が約60%で入手可能であり、それらのうち約55%は少なくとも1回接種、そのうち56%は2回接種していた。

まとめ
・水痘の発生率は、水痘ワクチン導入前と比較すると、1回接種導入後(2005-2006年)90%減少、2回接種導入後(2013-2014年)97%減少した。
・2013-2014年の全水痘症例の55%が水痘ワクチンを接種した人で発生していた。