徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

「インフルエンザ流行期の学級閉鎖」考

2011年12月23日 10時06分09秒 | 小児科診療
 インフルエンザ流行期になるとあちこちで学級閉鎖のニュースが飛び交います。
 この学級閉鎖の目的・効果を再考してみました。

 学級閉鎖の権限は学校長にあります(学校保健法、学校教育法)。
 学校長および学校設置者(市町村長)が学校医の意見を参考にして決定する流れが基本です。

 新型インフルエンザが発生する前までは、その期間は1~4日間とバラバラでした。新型発生後は短期(1~2日間)は減って、週末を絡めながら長期(3~4日間)休む例が増えてきている印象があります。

 なぜ閉鎖期間が一律ではないのでしょうか?
 「流行の阻止」を目的とするならば、病気の潜伏期間は最低休ませ、皆が発症しきってから再開する必要があるはず。

■ 「集団かぜによる学級閉鎖の基準」(CLINICIAN, 1986年)

 すると、季節性インフルエンザの場合は潜伏期が2~3日間ですから、4日間以上の学級閉鎖が望まれ、実際に疫学シミュレーションでもそのような結果が出ています。

■ 「学級閉鎖は欠席者が10%を超える前に4日間必要」(出席停止期間で登場した廣津先生の報告)

 でも、学級閉鎖期間中に塾や習い事で生徒同士の接触があると潜伏期間者が増加・潜在し目的が達成されません。さらに兄弟がいても移し合ってしまいますね。

 一方、学級閉鎖の負の面として「経済的損失」があります。
 学級閉鎖期間中、親は仕事を休む必要が出てきます。閉鎖が長期間になるほど、回数が多くなるほどマイナス面が大きくなります。

 このようなバランスの中で、従来は感染対策としてはやや中途半端な短い学級閉鎖が繰り返し行われてきました。
 しかし、新型インフルエンザ登場後、科学的なメスが入り、データに基づく学級閉鎖が提唱されるようになりました;

■ 「新型インフルエンザの学級閉鎖の基本的考え方」(厚生労働省、2009年9月)

 この中で、学級閉鎖を「消極的学級閉鎖」と「積極的学級閉鎖」に分け、従来の手法を「消極的」、新型インフルエンザ発生初期に大阪で取られた広範囲な学級閉鎖・行動制限を「積極的」と位置付けています。

 当初強毒性と考えられた新型インフルエンザを封印するには、「1週間の地域全体の学校閉鎖」かつ「生徒の自宅待機・行動制限」を厳密に行う必要があり、期待される効果が得られました。予想通り、経済的損失もありましたが。

 上記報告を読むと、季節性インフルエンザ対策に学級閉鎖措置を取る日本は世界の中では例外的位置付けのようです。

 実は1週間以上の学校閉鎖を日本は昔から毎年行ってきました。
 「冬休み」という名の下に。
 12月に流行り始めたインフルエンザが年末年始に一旦途切れることを皆さん実感されてますよね。
 しかし「初詣で」という大規模な人の移動・接触があるために再度流行が始まり、1月中旬以降にピークを迎えることは、医師にとっては年中行事のようなモノです。

 思い起こせば、新型インフルエンザが流行し始めたのは「夏休み」という名の学校閉鎖期間中。しかしながら「部活動などスポーツ大会」の接触で広がりました。やはり人の動きも制限しなければ、流行阻止は困難なようです。

 その後、日本全国の学校は繰り返される学級閉鎖に悩まされました。これはその地区で一旦沈静化しても、人の移動により他の地域から持ち込まれるからです。
 流行の第二波・第三波がやってきて、結局みんなが罹るまでエンドレスだったような気もします。授業数が足りなくなり、学校の先生は困り果てたことでしょう。

 人の流れが制限できない条件下の学級閉鎖の意義は、流行のピークを分散させて医療機関を麻痺させないという程度にとどまるとの指摘もあります。
 確かに頷けます。

 日本のインフルエンザ対策を医師の目から見ると、予防措置であるワクチンは任意接種で中途半端、一方医療は突出(タミフル使用量世界一)というアンバランスな印象が拭えません。経済的損失も計上したコストはワクチンの方に軍配が上がることは明らかなのに、不思議な国です。
 まあ、社会的にはインフルエンザ流行のダメージと経済的ダメージを絶妙なバランスでしのいでいる、と見ることもできるのかもしれませんが。
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