goo blog サービス終了のお知らせ 

小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

喜田宏Dr.による講演「インフルエンザウイルスの生態」(2014年)

2017年03月12日 11時15分14秒 | 感染症
第三回神戸アニマルケア国際会議基調講演「インフルエンザウイルスの生態〜鳥インフルエンザとパンデミックインフルエンザ対策のために〜」(2014.7.19)
演者:喜田宏(北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター)

 たまたま目にとまった講演内容がとても興味深く勉強になったのでメモメモ。
 喜田先生は常々「新型インフルエンザ対策よりも季節性インフルエンザ対策を」と唱えているオピニオンリーダーです。反語的に「季節性インフルエンザ流行をコントロールできない国が、新型インフルエンザを征圧できるはずがない」とも読み取れます。
 一読してみて、やはり正確な知識は大切だな、思い込みは危険、とあらためて感じた次第です。
 とくに「高病原性鳥インフルエンザ対策に鶏に対するワクチンは逆効果であり、“見えない感染”を広げてしまう」という指摘には目からウロコが落ちました。


【備忘録】

・伝播性と病原性は別問題、混同せぬよう
 新型インフルエンザが日本で流行したら64万人の死者が出るなんてあり得ない。病原性と伝播性の混同が混乱を招いている。パンデミックインフルエンザは新しいHA亜型のウイルスが起こす大流行であり、人には新しいHA亜型の免疫がないので世界中に広がる。
 2009年のH1N1パンデミックウイルスは、3ヶ月後には世界中に広まった。だけど、15ヶ月後に世界中で亡くなった人は2万人に満たない事実。これは季節性インフルエンザの被害の1/100である。

・インフルエンザウイルスは人を敵だと思っていない
 インフルエンザウイルスは人間を責めるためにこの世にいるわけではなく、ただ、自然界に存続してきた、最小の微生物に過ぎない。
 インフルエンザウイルスの起源は、自然界でカモが持っている病原性のないウイルス。
 毎年異なる株のインフルエンザウイルスが流行するが、これはウイルスが自発的に変異を起こすのではなく、人々の間で毎年流行が起こるから、流行ウイルスに対する抗体が産生され、その抗体により抗原変異ウイルスが選択されると考えるべきである。

・タミフル耐性は抗インフルエンザ薬で造られた、というのは勘違い
 ウイルスが変異してタミフル耐性ウイルスが新たに出てきたのではなく、インフルエンザウイルス集団の中の1万個に1個は既にタミフル耐性である。だからタミフルを与えると、タミフル存在下でも増殖できる変わり者が優性になる、それが耐性ウイルス。
 耐性ウイルスが話題になっても、臨床では「タミフルが効いていて問題ない」との声を聞く。
 なぜかというと、タミフル存在下で選択されたウイルスは、タミフル存在下で増えることができるが、タミフル服用をやめるとタミフルという圧力がなくなるので野生株が優勢になる、すなわちタミフル感受性の野生ウイルスに戻ると考えられる。

・痘瘡は根絶されたが、インフルエンザウイルスは無理
 痘瘡は人から人にしか感染・伝播でず、感染したら必ず症状が出るから撲滅できた。インフルエンザは人畜共通感染症なので根絶は無理。

・2009年の新型インフルエンザ騒ぎの時の「水際作戦」「発熱外来」はナンセンス
 発熱者のみを患者として扱うこれらの対策は、不顕性感染者(自分は症状がないけど人にはうつす)が考慮されておらずすり抜けてしまうので、意味がない。

・香港風邪(1968年)のインフルエンザウイルスの由来
 夏の間、シベリアに巣を営んで、秋になると南中国まで飛んできたカモのウイルスがアヒルを介してブタに感染し、ブタには当時人の間で流行していたアジア風邪のウイルスも同時感染してできた遺伝子再集合ウイルスのうちの一つが香港風邪のウイルスになった。

・急性感染しか起こさないインフルエンザウイルスがなぜ地球上で存続できたのか?
 インフルエンザウイルスはヒトの体に1週間程度しかおらず、急性感染しか起こさない。慢性感染・潜伏感染はしない。
 しかし、毎年シベリアからカモが運んでくる。どこに潜んでいるのか?
 答えは「凍結保存」。
 カモとインフルエンザウイルスは、人類が地球上に現れる前から共生関係を築いて、カモに危害を及ぼさないで存続してきた。カモは夏に営巣するシベリア、アラスカの湖の水にウイルスを排泄して、その湖の水は冬の間凍るので、ウイルスは凍結保存される。
 カモの体内ではインフルエンザウイルスは腸管で増える。呼吸器にはいない。

・ブタにカモのウイルスがどうやって伝播するのか?
 アヒルやガチョウが中間宿主。
 カモーアヒルーブターヒト。
 シベリアからカモが中国南部の農家の池に持ち込んだウイルスが、そこでアヒルに感染・増殖して池の水を汚染し、ブタがその水を飲んで、人からも同時にアジア風邪のウイルスに感染してできた遺伝子再集合ウイルスの一つが香港風邪ウイルス。

・カモから分離されたインフルエンザウイルスを実験で鶏に感染させようとしても感染しない
 自然界のカモから分離されたウイルスを鶏に感染させるべく、目から入れたり鼻から入れたり口から入れたりお尻から入れても感染しない。
 ところが、ウズラなどの陸鳥とアヒルなどの水鳥が一緒に飼われているところでウイルスが感染・伝播すると、それがときに鶏にも感染することも起こり、その鶏が農場に持ち込まれて鶏から鶏へ少なくとも半年以上受け継がれると、あるとき100%の鶏が死ぬことで気づく。
 陸鳥と水鳥を一緒に飼っているところは、生鳥市場。

・高病原性鳥インフルエンザウイルス「H5」と「H7」
 このH5とH7に限って、鶏から鶏に継代されているうちに、一つずつ塩基性のアミノ酸がHAに挿入変異を起こす。その中で全身感染するものが出現し、鶏集団のなかで全身感染して激しく増えるウイルスが選ばれ、優勢になっていく。
 今、このH5N1高病原性鳥インフルエンザが逆コースをたどって野鳥に行ってしまい、野鳥が死ぬ事態が発生した。
 これは一大事である。
 この逆感染により62カ国にウイルスが広がってしまった(トップ4は中国、ベトナム、インド、エジプト)。
 H5N1に感染した水鳥が着たに飛んでいって、ウイルスが北の営巣湖沼に持ち込まれたら、そこで他の野鳥に広がって、秋になるまでそれが野鳥の間で受け継がれたら、秋に高病原性鳥インフルエンザをカモが持ってくることになる。
 2010年10月にシベリアから元気に飛んできたカモからH5N1高病原性鳥インフルエンザウイルスが分離された。このウイルスは、その前の年の春先にモンゴルで分離されたウイルスと同じ。だから、北の営巣湖沼に行ってカモからカモに受け継がれ、それが秋に日本にも持ち込まれたということになる。

・鶏へのワクチン接種は高病原性鳥インフルエンザ対策にならない
 ワクチンは元々感染を防ぐためではなく、重症化だとか死亡だとか発症を抑える免疫を誘導するのが目的であり、感染を防ぐ免疫は誘導しない。
 ワクチンを接種された鶏は、感染しても症状を出さないために感染源になる。
 ワクチンを使った結果、見えない流行が広がる。
 正しい対策はワクチンを使わず、移動制限と消毒を徹底することである(摘発淘汰)。
 鳥インフルエンザ対策の基本は、鳥インフルエンザを家禽だけにとどめ、野鳥に逆感染させないことである。

・パンデミックが始まったら、早めに罹ってしまった方がよい?
 こうコメントしたら「不謹慎発言」だとお叱りを受けた(心の中で「だって本当だもん」と答えた)。
 その主旨は、人々にH7HAに対する免疫がないので、伝播性は高いが、初期は個々のヒトに対する病原性は低い。これがヒトからヒトに感染を繰り返すうちに、ヒトの体内で増殖力が高いウイルス(=病原性が強い)が優勢になる。すなわち、このウイルスが季節性インフルエンザを起こすまでにワクチンを用意すればよいことになる。




「自然炎症」の基礎

2017年03月11日 15時15分00秒 | 感染症
 引き続き「新しい免疫入門」(審良静男/黒崎知博著、講談社ブルーバックス、2014年発行)より。

 「自然炎症」
 ・・・微妙なネーミングです。
 よいものか、わるいものか、どっちなの?
 でもこの言葉、まさに「旬」なのです。

 免疫システムは外来の病原体を異物と認識してそれを排除しようとする波状攻撃。
 しかし、認識する対象は病原体だけではなく、例外的に自己成分も認識することがあり、これが元になって「自然炎症」という病態を形成するらしいの。
 この考え方により、今まで不明だった病気のメカニズムが次々と判明し、さらに治療に結びつく可能性があると考えられ、現在盛んに研究されています。

【備忘録】

・「自然炎症」の登場
 TLRが病原体に共通する特定の成分を認識していることがわかり、自然免疫に対する見方が180度変わったのは21世紀直前のことだった。
 しかし、さらにその先があった。
 TLRなどのPRRs(パターン認識受容体)が認識する成分は、病原体由来のモノだけではなく、私たちの体の自己成分の一部(内在性リガンド)を認識することがわかってきた。内在性リガンドの登場により、免疫研究の様相は一変したと言っても過言ではない。
 そうなると、マクロファージ、好中球などの食細胞は、病原体だけでなく内在性リガンドを認識して活性化し、炎症を起こすことになる。病原体が引き起こす炎症に対して、病原体が関わらないこの炎症を「自然炎症」という。

・アポトーシスとネクローシス
 体の中で細胞が死ぬパターンとして二つの様式がある。
1.アポトーシス:
 細胞膜に包まれたまま内容物が分解され、最後は食細胞が丸ごと食べて処理する。
2.ネクローシス:
 細胞膜が破れて、内容物が分解されずに飛び散る。外傷や火傷、薬物、放射線などが誘因となる。

 アポトーシスで細胞が死んだのであれば、DNAやRNAなどはすぐに分解されてしまうので、食細胞のPRRsが感知することはない。しかし、ネクローシスで細胞が死んだ場合、それも大量に死んだ場合は、分解されない大量のDNA、RNAなどが食細胞のPRRsまでたどり着いてしまう。こうして食細胞は活性化して炎症が起こる。
 自然炎症が何のために起こるのか、まだはっきりとわかっていないが、組織の修復に関わっているという考えが有力だ。
 今、自然炎症に注目が集まっているのは、自然炎症がさまざまな疾患(痛風、アルツハイマー病、動脈硬化、糖尿病など)の原因になっている可能性が出てきたからだ。
 
・痛風はマクロファージが起こす自然炎症だった
 原因となる尿酸は細胞の老廃物で、増えすぎると結晶化して関節に付着し、これを食細胞が取り込むと炎症が起こる。
 細胞内PRRsのひとつにNLRP3がある。NLR(ノッド様受容体)の仲間で、NLRP3が病原体の感染によるストレスを感知すると、インターロイキン1β(IL1β)という強い炎症を起こす作用のあるサイトカインが放出される。
 食細胞の細胞質にはNLRP3があり、食細胞が尿酸結晶を取り込むと、細胞が刺激されてIL1βが放出される。痛風の炎症はこうして放出されるIL1βが起こしていたのである。

 食細胞が尿酸結晶を細胞内に取り込むと、尿酸結晶の刺激でミトコンドリアが損傷する
  ↓
 SIRT2という酵素の働きが低下する
  ↓
 細胞内の輸送路である微小管にアセチル基という分子が付く
  ↓
 損傷したミトコンドリアが微小管の上に乗り、細胞の中心部の小胞体まで移動する
  ↓
 小胞体のNLRP3とミトコンドリアが持つ部品ASCが揃い、さらにカスパーゼという部品も加わって複合体(インフラマソーム)が組み上がる
  ↓
 インフラマソームはIL1βをマクロファージ内で成熟させて外に放出する
  ↓
 強い炎症が起こり激痛が走る

 痛風の特効薬としてしられるコルヒチンは、微小管を壊すことでミトコンドリアを移動させず、IL1βの放出を阻止することがわかった(しかし細胞内輸送を担う微小管を壊してしまうことによる副作用もある)。

・NLRP3
 痛風で注目されたNLRP3は尿酸だけでなく、結晶のような構造をとる物質を食細胞が取り込んだときに活性化し、炎症を起こすことがわかってきた。
(例)アスベスト(石綿)→ 塵肺、シリカ→ 珪肺
 脳に沈着したβアミロイド繊維も炎症を起こしてアルツハイマー病を引き起こすと考えられている。脳ではマクロファージや好中球の代わりにミクログリアという細胞が免疫の働きをしており、βアミロイド繊維を食べたミクログリアからは同じようにIL1βが放出され、炎症が起これば脳神経細胞が失われる。
 コレステロールも結晶化するので、血中の食細胞が食べて同じようにIL1βが放出され、こうしておこる炎症が動脈硬化の原因ではないかと考えられている。
 一般的に、どのような物質であれ、体内で結晶化したものは食細胞が消化しきれずに死んでしまい、結晶が体内に残ってしまう。それを処理しようと新しい食細胞がまた食べに来て食べきれないという状態が繰り返され、どんどん炎症が起こる。つまり、消化・分解できない結晶は、自然免疫系を過剰に活性化させてしまうのである。



“Microtubule-driven spatial mitochondria arrangement promotes NLRP3-inflammasome activation”
邦文タイトル:「微小管を介したミトコンドリアの空間配置調節は NLRP3 インフラマソームの活性化を促進する」雑誌:Nature Immunology

「腸管免疫」の基礎

2017年03月11日 08時08分48秒 | 感染症
 ふたたび、前出「新しい免疫入門」(審良静男/黒崎知博著、2014年、講談社ブルーバックス)より抜粋です。
 スルーしようとしましたが、ワクチンには「粘膜免疫」の知識が欠かせないことがわかりましたのですから(^^;)。

 腸管免疫のポイントは、

・「経口免疫寛容」といって、入ってきた異物をすべで排除するのではなく、異物なのに人畜無害と判断するとスルー(見て見ぬ振り)するという高度な仕分け作業ができること。
・産生される抗体がIgAであり、全身の粘膜にばらまかれて病原体の侵入を防ぐこと


 でしょうか。
 その特殊性、複雑さを知るたびに、人間の免疫システムの奥深さを実感させられます。

【備忘録】
※ わかりやすいイラストはこちらから拝借:「粘膜バリア〜病原体と戦うシステム」手塚 裕之、東京医科歯科大学 難治疾患研究所 生体防御学分野

・腸管には、体全体の免疫細胞の50%以上が存在する。

・全身免疫と腸管免疫の決定的な違い
<全身免疫> 異物を有害なものとして排除することが基本
<腸管免疫> 有害な異物は排除するが、無害な異物は見て見ぬふりをする

・・・この「見て見ぬふりをする」という表現がたまりませんねえ(^^;)。





・M細胞とパイエル板
 小腸粘膜にはM細胞が分布する台地状の部位が点在し、その台地の下にパイエル板というリンパ組織が存在、パイエル板には樹状細胞、T細胞、B細胞などの免疫細胞がいる。
 M細胞は特殊な受容体を腸管内に出していて、食物と一緒に流れてきた細菌やウイルスをくっつけてポケットに取り込み、ポケットでは樹状細胞が待ち構えていて、取り込まれた細菌やウイルスを受け渡され、免疫応答が始まる。樹状細胞はパイエル板のナイーブヘルパーT細胞に抗原提示を行い、活性化したヘルパーT細胞が誕生、このときパイエル板のナイーブB細胞も独自にB細胞抗原認識受容体にくっついた抗原を食べて少し活性化していて、活性化ヘルパーT細胞との相互作用により完全に活性化し、クラススイッチ、親和性成熟を経て、プラズマ細胞の前駆細胞へと分化する。





・プラズマ細胞の旅と帰還(ホーミング)
 プラズマ細胞の前駆細胞は、パイエル板からリンパ管経由で出ていって血流に乗り、再び腸に戻ってきてプラズマ細胞と成、IgAを腸内に向けて放出するようになる。
 どうせ腸管に戻ってくるなら、なぜ全身を巡る必要があるのかと思われるかもしれないが、これには意味がある。
 パイエル板を出たプラズマ細胞の前駆細胞は、腸管の他に鼻や喉、肺の気管支、生殖器など、体中の粘膜に辿り着いてプラズマ細胞となる。腸管でキャッチした病原体は体中の粘膜から侵入する可能性があるので、まんべんなく配置して水際で阻止すると云うことであり、腸管免疫が粘膜免疫とも呼ばれる所以である。



・IgGではなくIgA
 腸管免疫が全身免疫と異なるのは、最終的な抗体のクラスがIgAであること。活性化B細胞の抗体のクラスが、IgMから、IgGでもIgEでもなく、IgAにクラススイッチすることがパイエル板での免疫応答に特徴的である。その仕組みはまだよくわかっていない。
 腸の表面には厚い粘液層があって、その粘液層にIgAが溶け込んでいる。IgAは抗原特異的に細菌やウイルスなどの病原体にくっつき、中和作用により機能を停止させ、病原体ともども体外に排出される。
 IgAにはオプソニン化作用がないので、食細胞の食欲をむやみに増すことがない。もしオプソニン化作用があったら、食細胞がどんどん寄ってきてすぐに炎症騒ぎになってしまう。間断なくIgAが放出されている腸管において、無用の炎症を起こさないことは重要である。

・経口免疫寛容
 口から入ってくるたんぱく質に対しては、免疫反応が抑えられる現象。
 食物に含まれるたんぱく質は、私たちにとって異物であり抗原性があるが、経口免疫寛容のおかげで生きている(経口免疫寛容のしくみはよくわかっていない)。
 経口免疫寛容が成立しているたんぱく質に対しては、口からの摂取でなくても免疫反応が起きない。ウルシ職人が手のかぶれを避けるために、少量のウルシを食べるという話は有名である。

・腸内細菌が免疫に関与
 無菌マウスでは経口免疫寛容が成立しない。
 腸管の粘膜固有層には、17型の活性化ヘルパーT細胞が圧倒的に多い。活性化17型ヘルパーT細胞への分化を強く促しているのが特定の腸内細菌であることが突きとめられた(セグメント細菌)。セグメント細菌がなんらかの関わりを持つことで、ナイーブヘルパーT細胞から誘導される抗原特異的な活性化ヘルパーT細胞のタイプが、1型や2型ではなく17型になっている。
 活性化17型ヘルパーT細胞は、好中球を集積したり、抗菌ペプチドの分泌を促進したりすることを特徴とする、細胞外細菌向けの活性化ヘルパーT細胞である。
 さらに、ナイーブヘルパーT細胞ぁら制御性T細胞への分化に、特定の腸内細菌が関わっていることも突きとめられた(クロストリジア属の第46株)。この細菌は主に大腸に存在し、大腸における制御性T細胞への分化に重要な役割を果たしている。
 活性化17型ヘルパーT細胞は腸管免疫のアクセル、制御性T細胞は腸管免疫のブレーキとも言える。アクセル・ブレーキとも、腸内細菌の影響下にあることが明らかになった。

「新しい免疫入門〜自然免疫から自然炎症まで」(審良静男/黒崎知博著)

2017年03月08日 15時14分19秒 | 感染症
2014年発行、講談社ブルーバックス

予防接種/ワクチンのことを調べていたら、「アジュバント」というキーワードができてました。
その有無がワクチンの効果に大きく影響すると。
しかし、フローチャートを見ても、知らない物質の羅列で理解不能状態。
・・・TLR、PAMPs、DAMPs、リガンド、etc。

どうやら、私が学生時代に勉強した「免疫学」はもう古いらしい。
知識のアップデートに適当な入門書はないか探しているときに見つけたのが本書です。

著者の審良静男(あきらしずお)Dr.はトル様受容体(TLR)発見の功績でノーベル賞候補にもなった大阪大学の教授。
「自然免疫応答」で検索すると、彼の名前がたくさんヒットします。

さて、一読してみると、私の知りたいことが網羅された内容で、どストライクな本でした。
著者の云いたいことは「20世紀までは獲得免疫が免疫学の中心であり、21世紀に入ると獲得免疫に加えて自然免疫も重要視されるようになった。そして今、免疫と炎症が大きな学問分野を形成しようとしている。」

と同時に、著者の免疫学に対する“愛”を感じました(^^)。
免疫細胞を擬人化したり・・・文章もわかりやすく好感の持てる本。
ただ、専門用語がたくさん出てくるので、一般の方が読破するには集中力と少しの執念が必要かな。
一気に読み進めないと頭の中でいろんな細胞が絡み合って収拾が付かなくなります(^^;)。

自然免疫〜獲得免疫システムがp87に要約されてますので一部抜粋:

侵入した病原体に、まず食細胞が対応する。
食細胞は病原体を認識して活性化する。
食細胞だけで手に負えないようなら、仲間の樹状細胞が抗原提示のためリンパ節に向かい、抗原特異的にナイーブヘルパーT細胞を活性化する。
平行してナイーブB細胞がB細胞抗原認識受容体にくっついた抗原を食べて、先に誕生した活性化ヘルパーT細胞に抗原提示する。
活性化したヘルパーT細胞は抗原特異的にB細胞を活性化し、活性化B細胞はプラズマ細胞となって抗体を作り放出する。
抗体による中和作用が働き、病原体が排除されていく。
末梢に出ていった活性化ヘルパーT細胞は食細胞を活性化し食細胞は最強になっているところでオプソニン化(抗原に抗体がくっついて食細胞の食欲をそそること)が生じる。

・・・以上のように、免疫システムは最初に自然免疫が対応した後に獲得免疫が始動するという単純なものではなく、自然免疫と獲得免疫は相互にかつ複雑に助け合って病原体を排除している。そして最後を締めくくるのは自然免疫である。



【備忘録】
※ イラスト/シェーマは本から引用できないので、類似の物を他から拝借しました(^^;)。

・自然免疫とは
生体防御の最前線で病原体を食べてやっつける食細胞の働きは「自然免疫」と呼ばれている。自然免疫は、下等動物から高等動物まで共通に持つ基本的な免疫の仕組みで、主として食細胞が担当している。
 食細胞(マクロファージ/好中球/樹状細胞)は「相手かまわず何でも食べるだけの原始的な細胞」ではなく、その一部は「免疫の司令塔」の役割を担う大切な細胞である。

・食細胞の活性化とサイトカイン放出
 食細胞が病原体を食べると活性化(消化能力/殺菌能力アップ)し、警報物質(サイトカイン)を放出する。サイトカインには、インターロイキン(IL)、インターフェロン(IFN)、TNF、ケモカインなどのグループがある。
 ケモカインは仲間の免疫細胞を呼び寄せ、呼ばれた食細胞は現場に駆けつける。
 ケモカイン以外のサイトカインは、主として周囲の食細胞の活性化を促す(気合いを入れる)。
 サイトカインの作用により、病原体が侵入した現場には、食細胞が続々と応援に駆けつけて活性化する(炎症)。
 最初に立ちはだかるのはマクロファージで、真っ先に応援に駆けつけるのが好中球、応援のマクロファージは少し遅れて駆けつける。
 好中球は数が多く、強い殺菌作用を持っており、働き出すとマクロファージより強力だが、寿命は2-3日と短い。

・トル様受容体(TLR,Toll-like receptor)とは
 食細胞は病原体を感知するセンサーを持っていて、食べた相手が病原体かそうでないかを認識している(この発見で2011年のノーベル生理学・医学賞受賞)。そのセンサーはトル様受容体(TLR)といい、これに特定の物質(リガンド)が結合することにより細胞内でシグナルが伝わり反応が起きる。
 TLR9は病原体のDNAのCpG配列を認識するが、自己のDNAと病原体のDNAを区別できる。これは、人のCpG配列は「メチル化」されているが、病原体のCpG配列はメチル化されていないからである。





・TLR以外の受容体
RLR(RIG-I like receptor):リグアイ(RiG-I)様受容体。細胞質中に存在し、ウイルスのRNAを認識する。
CLR(C-type Lectin receptor):Cタイプレクチン受容体。細胞膜に存在し、真菌の細胞壁を構成する糖鎖を認識する。
NLR(NOD like receptor):ノッド(NOD)様受容体。細胞質中に存在し、細菌やウイルスの成分を認識する。
cGAS:受容体ではなく酵素。細胞質中に存在し、細菌やDNAウイルスのDNAを認識する。
TLR、RLR、CLR、NLRなどを総称してパターン認識受容体と呼ぶ。食細胞はパターン認識受容体を使って、食べた相手が所属するチームのユニフォームを認識していると考えるとわかりやすい。相手の個人名まではわからないが、チーム名ならわかるというレベル。


( 「自然免疫とウイルス感染」北海道大学 遺伝子病制御研究所 分子生体防御分野 髙岡晃教Dr. より)


・樹状細胞は食細胞でもあり「免疫の司令塔」でもある
樹状細胞は食細胞ではあるが戦いの前線にはあまりいない。少し引っ込んだところにいて、戦いが局地戦で終わってしまいそうなときは出番がない。自然免疫だけで病原体を退治できそうにないときが、樹状細胞の出番である。樹状細胞は獲得免疫を始動する役割を担っている。
 樹状細胞のもともとの姿はマクロファージとそれほど変わらない。基本的には食細胞としてマクロファージや好中球と同様の働きをしており、パターン認識受容体で病原体を大づかみに認識できる。そのうえ「抗原提示」能力が著しく高いので「免疫の司令塔」としてがぜん注目を浴びる存在となった。

・自然免疫と獲得免疫
 自然免疫は、食細胞が相手構わず何でも食べて、その結果進入した病原体も食べてしまうシステム。しかし全ての病原体の撃退は難しく、人体は次のステップとして病原体をピンポイントで強力に叩く「獲得免疫」を備えるようになった。
 生まれた後、抗原(獲得免疫のターゲット:細菌、ウイルス、真菌、細菌が出す毒素、細菌が死んで出す毒素など)の刺激を受けて初めて獲得される免疫という意味である。
 獲得免疫は「抗原特異的」(抗原に対して個別にピンポイントで対応)である。

・樹状細胞の働き
 抗原となる病原体を取り込んだ樹状細胞は活性化し、細胞内の酵素の力で、病原体の体を構成するたんぱく質をペプチドとよばれる断片にまで分解する。一つのたんぱく質分子は会い量のアミノ酸が何千個、何万個とつながったもので、それが分解されてアミノ酸が2個以上の断片になった物をペプチドと呼ぶ。
 一部のペプチドはMHC(Major histocompatibility complex)クラスIIという分子と結合して細胞の表面に提示される。病原体をまるごと提示するのではなく、病原体のたんぱく質を断片化したペプチドを提示するのがポイントである。
 病原体を食べて活性化した樹状細胞はもよりのリンパ節へ移動する。活性化した樹状細胞は数日しか生きられない。なにかを食べることも一切やめ、確実に訪れる士の足音を聞きながら、抗原提示のためにリンパ節へと急ぐ。
 抗原提示の相手は「ナイーブT細胞」である。

※ T細胞は大きく二つに分けられる;
ヘルパーT細胞(CD4陽性T細胞)
キラーT細胞(CD8陽性T細胞)
・・・まだ抗原に出会ったことがないものをナイーブT細胞と呼ぶ。
 MHCクラスII分子を介した抗原提示の相手は、ナイーブヘルパーT細胞
 MHCクラスⅠ分子を介した抗原提示の相手は、ナイーブキラーT細胞


・ナイーブヘルパーT細胞
 その表面にT細胞抗原認識受容体を持っており、これが樹状細胞の表面に提示された「MHCクラスII+抗原ペプチド」と結合する。
 T細胞抗原認識受容体は、ほとんどのナイーブヘルパーT細胞で異なる形状をしていて、その種類は全部で1000億以上もある。一方、同じ形状のT細胞抗原認識受容体をもつナイーブヘルパーT細胞は数えるほどしかおらず、全身で100個程度。なお、一つのナイーブヘルパーT細胞の表面には1種類のT細胞抗原認識受容体しか発現しておらず、たくさんあっても皆同じ形状である。
 ポイント二つ;
1.T細胞抗原認識受容体の形状は1000億種類以上もあるので、樹状細胞がどのような病原体を食べたとしても、それにピタッとくっつくT細胞抗原認識受容体をもつナイーブヘルパーT細胞が必ずいる可能性が高い。
2.樹状細胞が自己細胞の死骸を食べても、それにピタッとくっつくT細胞抗原認識受容体をもつナイーブヘルパーT細胞はほとんどいない。

・補助刺激分子、CD80/86、CD28
 ナイーブヘルパーT細胞の活性化には「MHCクラスII+抗原ペプチド」とそれに合うT細胞抗原認識受容体だけでは足りない。補助刺激分子と呼ばれる、樹状細胞のCD80/86とナイーブヘルパーT細胞のCD28の結合、さらには活性化した樹状細胞から放出されるサイトカインが必要である。
<まとめ>
 ナイーブヘルパーT細胞が正常に活性化されるために必要なことは次の3点:
1.T細胞抗原認識受容体が樹状細胞の「MHCクラスII+抗原ペプチド」にピタッとくっつく。
2.補助刺激分子の結合(樹状細胞:ナイーブヘルパーT細胞=CD80/86:CD28)
3.サイトカイン
・・・1は獲得免疫の反応であるが、自然免疫のチェックの結果である2と3の条件が揃わないと、ナイーブヘルパーT細胞は活性化しない。活性化したヘルパーT細胞の誕生には、自然免疫と獲得免疫のダブルチェックが必要なのである。

・活性化したヘルパーT細胞の行方
 活性化したヘルパーT細胞は増殖をはじめる。ある形状のT細胞抗原認識受容体をもつナイーブヘルパーT細胞は全身で100個ほどしかないが、合致する樹状細胞と出会うと1000〜10000倍に増える(一方で免疫の過剰反応を避けるために余命が設定される)。
 増殖した活性化したヘルパーT細胞の一部はリンパ節に残り、多くはリンパ節を出て末梢組織に向かう。
 末梢組織(感染の現場)では、病原体を食べて活性化し、MHCクラスII+抗原ペプチドを提示したマクロファージがたくさんいる(マクロファージも抗原提示能力があるが、樹状細胞に比べて低く、感染部からリンパ節への移動もほとんどできない。なお、好中球に抗原提示能力はない)。

・末梢組織での活性化したヘルパーT細胞と活性化したマクロファージの出会い;
 感染の現場にいた活性化マクロファージの表面に提示されたMHCクラスII+抗原ペプチドに、リンパ節からやってきた活性化したヘルパーT細胞が抗原特異的に結合する。さらにマクロファージ上の補助刺激分子CD80/86が活性化したヘルパーT細胞のCD28に結合して刺激を入れ、すると今度は活性化したヘルパーT細胞のCD40LがマクロファージのCD40に結合して刺激を入れる。
 その結果、活性化していたマクロファージはさらに活性化し、相当強力な消化能力と殺菌能力を手にする。
<まとめ> 
 マクロファージが活性化したヘルパーT細胞によりパワーアップされる3つの条件:
1.T細胞抗原認識受容体がマクロファージの「MHCクラスII+抗原ペプチド」にピタッとくっつく。
2.補助刺激分子の結合(マクロファージ:活性化ヘルパーT細胞=「CD80/86:CD28」と「CD40:CD40L」)
3.サイトカイン

・サッカーに例えれば、自然免疫でユニフォームを、獲得免疫で個人の顔を認識する
 食細胞はユニフォームを見て敵(病原体)か味方(自己)かを認識している。それに対してT細胞は、敵(病原体)とみなすべき無数の相手の「顔型」を備えて、相手の顔を認識している。そして、ユニフォームを見ても敵、顔を見ても敵である場合に限り、獲得免疫システムが始動する。

・B細胞は「抗原そのもの」を食べる
 B細胞はT細胞と異なり、ヘルパーとかキラーの種類はない。
 リンパ節にあるナイーブB細胞は、表面のB細胞抗原認識受容体にピタッとくっついた抗原を食べる。
 B細胞抗原認識受容体の形状は1000億個以上もあるので、どのような抗原が流れ着いたとしても、それにピタッとくっつくB細胞抗原認識受容体をもつナイーブB細胞が必ずいる可能性が高い。
 自己細胞の死骸がリンパ節に流れ着いた場合はピタッとくっつくB細胞抗原認識受容体をもつナイーブB細胞はほとんどいない。これはT細胞抗原認識受容体と同じであるが、大きな違いは、T細胞抗原認識受容体は「MHCクラスII+抗原ペプチド」とくっつくが、B細胞抗原認識受容体は「抗原そのもの」にくっつく点である。
 抗原を食べた後にB細胞がすることは樹状細胞と似ている。抗原を構成するたんぱく質を酵素の力でペプチドにまで分解し、MHCクラスII分子に乗せて細胞の表面に提示する。
 B細胞が抗原提示する相手は誰か? ・・・答えは(リンパ節に残っている)活性化ヘルパーT細胞である。
 抗原を食べた時点でB細胞抗原認識受容体から刺激が入り、B細胞は少しだけ活性化している。さらに完全に活性化するために活性化ヘルパーT細胞に出会いたいのだ。

・B細胞抗原認識受容体は抗体が細胞膜に発現したものである
 B細胞の役割は、B細胞抗原認識受容体にピタッとくっつく抗原の侵入を感知後、その抗原に対する抗体を大量生産して体中にばらまくこと。
 樹状細胞は自分が活性化して抗原提示を士、ナイーブヘルパーT細胞を活性化する。
 一方、B細胞は少しだけ活性化した状態で抗原提示を士、活性化ヘルパーT細胞に完全に活性化してもらう。
 活性化ヘルパーT細胞によりB細胞が活性化されるための条件3つ:
1.T細胞抗原認識受容体がB細胞の「MHCクラスII+抗原ペプチド」にピタッとくっつく
2.補助刺激分子の結合(マクロファージ:活性化ヘルパーT細胞=「CD80/86:CD28」と「CD40:CD40L」)
3.サイトカイン
・・・これは樹状細胞がナイーブヘルパーT細胞を活性化したときと同じ構図である!

・B細胞とヘルパーT細胞は抗原の違うところを見ている
 B細胞抗原認識受容体は抗原そのもののどこか特定の構造を見ている。
 T細胞抗原認識受容体は抗原を構成するたんぱく質が分解されたペプチドとMHCクラスII分子のセットを見ているのであり、抗原そのものを直接見ているのではない。
 両者はまったく違うものを見ていながら、同じ抗原を認識している。

・活性化したB細胞はプラズマ細胞になる
 活性化したB細胞は増殖して数を増やし、「プラズマ細胞」と呼ばれる抗体産生細胞になる。一部はプラズマ細胞にならず「記憶B細胞」になる。
 活性化B細胞が、最終的にプラズマ細胞になって抗体を大量に放出するまでには、「親和性成熟」と「クラススイッチ」が必要である。

・B細胞の親和性成熟は突然変異による
 B細胞抗原認識受容体と抗原の結合力は弱〜強までさまざまである。親和性を増すためにワンステップが必要であり、それがB細胞抗原認識受容体の突然変異である。
 活性化B細胞は増殖して数を増やすときに、B細胞抗原認識受容体の抗原結合部位に突然変異を起こす。
 結合力を判定するため、リンパ節には抗原(流れ着いた病原体の破片)のショーウインドウがある(濾胞樹状細胞:FDC, follicular dendritic cells)。
 B細胞抗原認識受容体の抗原結合部位に突然変異を起こしながら増えた活性化B細胞は、抗原のショーウインドウに行って判定を受ける。このとき、抗原にピタッとくっつくB細胞抗原認識受容体をもつ活性化B細胞だけが、プラズマ細胞(抗体産生細胞)になることを許される。

・B細胞のクラススイッチ
 抗体(免疫グロブリン:Ig, Immunoglobulin)のクラスが変わることをクラススイッチと呼ぶ。
 B細胞の細胞膜に発現している抗体はIgMであり、プラズマ細胞になったとき産生する抗体はIgGに変わっていることが多い。抗原に対する効果は圧倒的にIgG>IgMである。しかし最初はIgMでないと、B細胞がどうも上手く成長できないらしい。
 親和性成熟とクラススイッチを経て、活性化B細胞はプラズマ細胞(抗体産生細胞)になる。一部のプラズマ細胞は骨髄に移動し、大量の抗体(IgG)をつくって、体中に放出しはじめる。このとき、病原体の侵入からは1週間以上経っている。

・抗体(IgG)の働きは「中和」と「オプソニン化」
1.中和
[毒素の中和]・・・抗体が細菌毒素に結合すると毒素の形や性質が変わり、毒性がなくなる(受容体に結合したり、細胞に取り込まれたりしなくなる)。最終的には、抗体が毒素に結合したものを食細胞が食べて処理する。
[ウイルスの中和]・・・抗体がウイルスに結合すれば、ウイルスは細胞表面に上手く吸着できなくなり、もぐり込むこともできない。最終的には抗体がウイルスに結合したものを食細胞が食べて処理する。
2.オプソニン化
 IgGのY字形の根元のFc領域に、食細胞が表面に持っているFc受容体が結合する。すると、抗体を介して食細胞と抗原が結合する形になるので、食細胞は激しく抗原を食べるようになる。抗原にたくさん抗体が結合すれば、食細胞はたくさんの箇所で抗原と結合でき、食欲が増す。この作用を抗体によるオプソニン化という。

・細胞に感染したウイルス、細胞に寄生する細菌(クラミジアやリケッチア)の担当はキラーT細胞
 これらの病原体に対して、抗体は無力である。
 ヒトの体は感染した細胞をまるごと破壊する戦略をとった。担当するのはキラーT細胞である。
 樹状細胞が食べたものをMHCクラスⅠ分子のお皿に乗せてナイーブキラーT細胞に抗原提示する。
 抗原提示からナイーブキラーT細胞が活性化するまでの話は、ナイーブヘルパーT細胞が活性化するまでの話とほとんど同じであるが、2点だけ異なる。
1.ナイーブヘルパーT細胞のT細胞抗原認識受容体の結合部位が「MHCクラスII+抗原ペプチド」であるのに対し、ナイーブキラーT細胞のT細胞抗原認識受容体の結合部位は「MHCクラスⅠ+抗原ペプチド」である。
2.その活性化のために活性化ヘルパーT細胞がサイトカインを浴びせる。

・活性化キラーT細胞の活躍
 活性化したキラーT細胞は増殖して数を増やし、感染を起こしている組織に向かう。
 活性化キラーT細胞は2つの方法で感染細胞を破壊する;
1.特殊なたんぱく質を放出して感染細胞に穴を開ける。次にその穴から酵素を投入し、感染細胞にアポトーシス(細胞の自殺)を誘導する。
2.相手細胞が出しているアポトーシスのスイッチを直接押してアポトーシスを誘導する。
 以上のように感染細胞を木っ端微塵に破壊するのではなく、アポトーシスを起こさせることがポイントであり、アポトーシスを起こした細胞はまるごと食細胞が処理してくれる。

※ MHCクラスとそのお皿に載るペプチドの大きさの違い;
MHCクラスⅠ分子にのるペプチドはアミノ酸が8-11個くらい。
MHCクラスII分子に載るペプチドは10-30個くらい。


・NK(ナチュラルキラー)細胞
 キラーT細胞の働きを補完する自然免疫細胞。
 NK細胞は次の2つの条件が揃ったときに相手の細胞を破壊する;
1.病原体の感染をTLRなどが完治したり、あるいは病原体のタンパク質合成のために細胞にストレスがかかったりして、細胞の表面にCD80/86やNKG2Dリガンドなどが出ている。
2.病原体が邪魔をして、MHCクラスI分子が細胞の表面に出ていない。
 NK細胞が感染細胞を破壊する方法は2つあり、これらはキラーT細胞と同じである(どちらも感染細胞にアポトーシスを誘導する)。

・ヘルパーT細胞は3種類(1型/2型/17型)ある
1型:ウイルスと細胞内寄生細菌の排除
2型:寄生虫の排除
17型:細胞外細菌と真菌の排除
に働く。

[1型]
3つのことを行う:
1.末梢組織に行って、抗原特異的にマクロファージをさらに活性化する。
2.抗原特異的にB細胞を活性化し、IgGを放出させる。
3.ナイーブキラーT細胞が活性化するのを助ける。
・・・活性化1型ヘルパーT細胞を起点とする免疫反応は、最終的に食細胞や活性化キラーT細胞、NK細胞が中心となりッ病原体の排除にあたる。そのため「細胞性免疫」と呼ばれる。

[2型]
3つのことを行う:
1.抗原特異的にB細胞を活性化し、IgGを放出させる。 → 「中和」「オプソニン化」
2.抗原特異的にB細胞を活性化し、IgEを放出させる。 → マスト細胞(肥満細胞)の表面に結合する。寄生虫の排除の役割があるが、その誤作動がアレルギー疾患である。
3.好酸球を活性化する。 → これも寄生虫の排除の役割。
・・・活性化2型ヘルパーT細胞を起点とした免疫応答は、ほとんどの場面で抗体が関わっており、抗体が体液中に溶け込んでいることから「液性免疫」あるいは「体液性免疫」と呼ばれる。

[17型](21世紀に入ってから見つかった)
末梢組織に行ってサイトカインを放出し、ケモカインの発言を誘導して好中球を集積させる。
活性化17型ヘルパーT細胞のサイトカインは、腸管の上皮細胞に働いて、細菌に対する防御物質である抗菌ぺくちどを腸管内に向けて放出させる。

・3種類のヘルパーT細胞の働きはオーバーラップする
 ウイルス感染の場合、感染細胞を排除する活性化したキラーT細胞が出動するには1型を起点とする免疫反応が必要、しかし細胞から飛び出したウイルスを中和する抗体を放出するには2型を起点とする免疫応答も必要である。
 17型がまだ発見されていなかった頃は、1型と2型のバランスで全てが説明されていた。1型に偏りすぎると自己免疫疾患が発症し、2型に偏りすぎるとアレルギーを発症すると言われていた。17型の発見により、バランス理論で説明されていた疾患の多くが17型の亢進で説明可能となり、バランス理論は衰退しつつある。

・制御性T細胞
 坂口志文らにより発見された。
 自己反応性のナイーブT細胞と競合的に働いて反応を抑制する細胞。
 制御性T細胞はCD4陽性のT細胞であり、競合する相手はCD4陽性のナイーブヘルパーT細胞とCD8陽性のナイーブキラーT細胞である。制御性T細胞はCD4陽性T細胞全体のおよそ10%を占める。
 制御性T細胞は自己抗原(「MHCクラスII+自己ペプチド」)に対する結合力が強い。
 制御性T細胞は自己抗原に結合するだけでなく、免疫応答を抑制的にコントロールする働きを持っている。制御性T細胞表面のCTLA4という分子は、活性化した樹状細胞が出している補助刺激分子CD80/86に非常に強く結合し、樹状細胞に対して抑制性のシグナルを送る。すると樹状細胞の表面での補助刺激分子の発言が減るので、自己反応性でないナイーブT細胞の活性化も抑えられる。さらに制御性T細胞はIL2と強く結合する受容体を発現しており、活性化T細胞の誘導に必須のIL2を競合的に奪い取ってしまう場合もある。

スイスで麻疹流行が続く(2017年3月)

2017年03月05日 08時04分26秒 | 感染症
 日本は2000年代前半まで「麻疹輸出国」と揶揄されてきましたが、2006年にMRワクチン2回接種法を導入後は漸減し、2015年にWHOから「麻疹排除国」と認定されました。

 先進国はすべて達成していると思いきや、スイスではまだくすぶっているようです。
 原因はただひとつ「ワクチン接種率の低さ」に尽きます。
 麻疹流行を制圧するためには、ワクチン接種率を下表の集団免疫率(あるいは集団免疫域値)以上に保つ必要がありますが、スイスの一部(ドイツ語圏)ではそれが達成されていなかったのですね。




■ はしか、スイスで流行続く
Veronica DeVore, Duc-Quang Nguyen
2017-03-03 SWI
 スイスでは今年、はしか(麻疹)の発症数がここ数年で最も多く、予防接種を受ける人の数が増えている。政府は先日、はしかの撲滅計画が失敗したことを認めた。
 連邦内務省保健局は1987年、はしか対策として予防接種計画を発表。2000年までに、はしかを排除できるとしていた。その予定の年から17年過ぎた今、スイスでのワクチン接種率は87%となっており、世界保健機関(WHO)が排除対策の目標に掲げる95%に達していない。
 連邦内務省保健局のダニエル・コッホ感染症課長は「予防接種を受ける人の数は増加しているが、まだ我々の目標に届いていない」と言う。
 スイスでは過去数十年にわたり、はしかが約4年おきに流行している。06年から09年には流行が長期間続き、感染件数は4371件と欧州で最高を記録した。
 州別に見ると、現在までに95%のワクチン接種率に達した州はジュネーブ州だけだ。フランス語圏およびイタリア語圏の州では全般的に、ドイツ語圏の州に比べ、ワクチン接種率が増加し、感染件数が減少している。コッホ氏はその理由として、数十年前にドイツ語圏を中心に行われた反ワクチン運動の影響を挙げる。
 そして「若い成年に対し、医者に行き予防接種を受けるよう促すのは難しい」と同氏は言うものの、若い人世代のワクチン接種率は12年の77%から15年には87%に上昇した。
 はしかは人が患う感染症の中で感染力が非常に高い。はしかに特効薬はないが、ワクチン接種は1960年代から可能になっている。この病気により2000年には世界中で70万人以上の命が奪われたが、各国のはしか対策の向上により10年には死亡者数は16万人まで減少した。
 しかし、はしかが世界各地で発生していることから、この病気は今もなお世界中の国々に影響を与えている。



「感染症に正しく備える」(岡部信彦先生)

2017年02月04日 17時44分00秒 | 感染症
 引き続きNHKラジオ第一放送「健康ライフ」から。
 元国立感染症研究所長(現在は川崎市健康安全研究所長)の岡部信彦先生による感染症のお話です。
 感染症全般に対する「ご意見番」の登場;

■ 「ジカ熱を考える」
・症状は軽く(デング熱よりも軽症)、発熱と皮疹が特徴。
・最近現れた感染症ではないが、軽症のため注目されてこなかった。
・ブラジル、ポリネシアで大流行した際、感染した妊婦から生まれた赤ちゃんに異常が発生することが判明して問題になった。
・胎児異常の発生率;風疹(妊娠初期)は50〜100%、ジカ熱は1%。
・数年前に風疹が日本で流行した際にCRS(先天性風疹症候群)が50名弱発生した。
・風疹はワクチンで予防可能。
・麻疹も減ってきたがなくなってはいない。

■ 「ワクチンの効果をどう計るか?」
・赤ちゃんのB型肝炎ワクチンが定期接種化。日本では以前からお母さんがキャリアーの赤ちゃんに対して予防措置(免疫グロブリン&ワクチン接種)が行われ、子どもの患者は減ってきたが、水平感染(家族・集団生活)が残り、その対策として定期接種化された。
・B型肝炎ウイルス感染症は慢性肝炎、肝硬変、肝がんの原因になり得る。長い目で見た予防措置である。
・ヒブ(Hib)ワクチンの対象疾患は細菌性髄膜炎(年間1000人発症、300人が重症化)。誰でも罹る流行する病気ではないが、ワクチンを接種することによりこの1000人/300人がゼロに近くなる。
・ヒブと肺炎球菌ワクチンによる細菌性髄膜炎減少が小児救急の仕事内容を変えた。

■ 「戦争と感染症」
・ポリオが撲滅できない国は「貧困」「紛争」「戦争」という問題を抱えている。
・「ポリオデー」を作り停戦して予防接種行うこともあったが、予防接種が戦争に利用された事実も無視できない。オサマ・ビン・ラディン暗殺はポリオ予防接種に伴う情報収集・スパイ活動が背景にあった。逆にポリオ予防接種を担当するスタッフが殺される事件もあった。
・派遣先の戦地から耐性菌、新興感染症を本国に持ち込むパターンもある。受け入れ体制の整備が必要。

■ 「公衆衛生と感染症」
・日本人の公衆衛生感覚は国際的にレベルが高い。
・自然災害ではふだん問題にならない感染症に注意。
熊本地震(2016年4月)ではノロウイルスの小流行があったのみ。
東日本大震災(2011年3月)では、肺炎、ノロウイルス、インフルエンザの小流行があったのみ。
・インドネシアではケガによる破傷風の死亡例が多かった。東日本大震災では高齢者のみの少数例発症で、小児例はいなかった。これはワクチンの成果である。
・日本は先進国の中でも耐性菌が少ない国である。
・家畜に対する抗菌薬使用の管理も耐性菌対策に重要。

■ 「限られた社会資源をどう生かすのか」
・災害時の避難所生活では閉鎖空間での集団生活のため感染症のリスクが高くなる。
・災害時は衛生研究所の人手が足りなくなり、水質検査などが優先され感染症の検査が手薄になる。
・岡部Dr.が中心に、14種類の感染症が短時間(2時間程度)に検査できるキットを開発し、熊本の避難所で役立った。


風邪を引いたら抗生物質?

2016年11月23日 05時43分52秒 | 感染症
 もう20年くらい前になるでしょうか。
 某テレビ局で「抗生物質(=抗菌薬)乱用は耐性菌発生を助長するのでよくない」という内容の番組を作ろうとしたところ、番組スタッフ内で「え?抗生物質ってかぜ薬でしょ」という認識が根強く、作成に至らなかったという話を耳にしました。

 その後、徐々に「抗生物質の適正使用」という考え方が普及・浸透してきましたが、現在でも当院の周囲では風邪を引いて受診すると咳鼻水止めの他に抗生物質、果ては抗アレルギー薬まで“全部入り”のセット処方がなされる医院が少なからず存在します。

 紹介する論文は、抗菌薬処方を減らしても気道合併症がわずかに増加するものの、全身性の重症合併症リスクは増加しなかった、という内容です。
 解析対象はなんと4550万人!

■ 気道感染症への抗菌薬処方を減らした影響は?/BMJ
ケアネット:2016/07/14
 気道感染症に対する抗菌薬処方が減っても、肺炎と扁桃周囲膿瘍の発症リスクがわずかに増大するものの、乳様突起炎や蓄膿症、細菌性髄膜炎、頭蓋内膿瘍、レミエール症候群の合併症リスクは増加しなかった。英国キングス・カレッジ・ロンドンのMartin C. Gulliford氏らが、英国内610ヵ所のプライマリケア診療所を対象に行ったコホート試験の結果、示されたもので、BMJ誌オンライン版2016年7月4日号で発表した。

◇ 延べ4,550万人年の患者について前向きに追跡
 Gulliford氏らは2005~14年にかけて、英国内のプライマリケア診療所610ヵ所で診察を受けた患者、延べ4,550万人年について調査を行った。
 気道感染症で診察を受けた患者のうち、抗菌薬を処方された割合を診療所別に調べ、肺炎や扁桃周囲膿瘍、乳様突起炎などの合併症発生リスクとの関連を検証した。

◇ 抗菌薬投与率を10%引き下げで、肺炎患者は1年に1人増加するのみ
 英国全体の傾向としては、2005~14年にかけて、気道感染症で診察を受け抗菌薬を処方された人の割合は、男性は53.9%から50.5%へ、女性は54.5%から51.5%へと減少した。また、同期間に新たに細菌性髄膜炎、乳様突起炎、扁桃周囲膿瘍の診断を受けた人の割合も、年率5.3%、4.6%、1.0%それぞれ減少した。一方で肺炎については、年率0.4%の増加が認められた。
 診療所別にみると、年齢・性別標準化後の肺炎と扁桃周囲膿瘍発症率は、気道感染症で抗菌薬を投与した割合が最も低い四分位範囲(44%未満)の診療所において、最も高い四分位範囲(58%以上)の診療所に比べ高かった。
 気道感染症への抗菌薬投与率が毎10%減ることによる、肺炎発症に関する補正後相対リスク増加幅は12.8%だった(95%信頼区間:7.8~17.5、p<0.001)。扁桃周囲膿瘍発症についての同補正後相対リスク増加幅は、9.9%(同:5.6~14.0、p<0.001)だった。この結果は、登録患者7,000人の平均的な診療所において、気道感染症で抗菌薬を投与する割合が10%減った場合に、1年間で肺炎発症が1.1人、10年間で扁桃周囲膿瘍が0.9人増加するにとどまるというものだった。
 そのほか、乳様突起炎、蓄膿症、細菌性髄膜炎、頭蓋内膿瘍、レミエール症候群の発症率についてはいずれも、気道感染症への抗菌薬投与率の「最低四分位範囲の診療所」と「最高四分位範囲の診療所」で同等だった。
 これらの結果を踏まえて著者は、「抗菌薬処方がかなり減っても、関連する症例の増加はわずかだった。ただし、高リスク群では、肺炎のリスクについては注意が必要だろう」とまとめている。


<原著論文>
Gulliford MC, et al. BMJ. 2016;354:i3410.

2016年3月までの「ジカ熱」情報

2016年03月20日 07時52分41秒 | 感染症
 情報が飛び交うジカ熱。
 最近の情報を読売新聞の記事を中心にピックアップしました。
 ジカ熱とギラン・バレー症候群、小頭症との因果関係が証明されつつあります。
 まずは基礎知識を;

■ ジカ熱はこんな病気…注意点と予防法
2016年2月26日 読売新聞
Q ジカ熱はどんな病気か?
A ジカウイルスを持ったネッタイシマカやヒトスジシマカに刺されることで感染する。妊婦の胎内での母子感染も確認されている。輸血や性交渉による感染の報告もある。主な症状は軽い発熱や目の充血、発疹。症状がない人も8割いる。今は蚊が活動する時期ではないので、国内で感染がすぐに広がる心配はない。
Q 注意点は?
A 流行中のブラジルでは、生まれつき頭の小さい「小頭症」の子どもが相次いで生まれている。感染者の中には、急激に筋力が低下するギラン・バレー症候群を発症したケースもある。妊婦は感染流行地への渡航を控え、渡航者は蚊に刺されないことが大切だ。蚊が活動を始める5月以降、国内でも広がる危険性がある。雨水がたまりそうな物を撤去するなど、蚊の発生を防ぐ対策が必要だ。


<参考>
ジカウイルス感染症(東京都感染症情報センター)
ジカウイルス感染症とは(国立感染症研究所)
渡航時におけるジカウイルス感染症への注意について(厚生労働省検疫所)
視点・論点「ジカ熱への備え」(NHK:2016.2.12)

ジカ熱と小頭症との関係;

■ ジカ熱の妊婦、3割に胎児異常…米研究者らブラジルで調査
2016年3月7日 読売新聞
 中南米などで流行するジカウイルス感染症(ジカ熱)の妊婦で、約3割に胎児の異常が見られたとの研究成果を4日、ブラジルとアメリカの研究チームが発表した。
 流行が広がるブラジルでは頭が小さい「小頭症」の子供が多く生まれており、ジカ熱との関連が疑われているが、研究チームは「ジカウイルスと妊婦の異常との関連を示す結果」と説明している。
 研究チームは、ブラジルでジカ熱に感染した妊婦42人の超音波検査を行い、約3割にあたる12人で異常が見つかったという。このうち5人の胎児は小頭症を含む発育不全で、脳血流などに異常のあるケースも見つかった。
 異常が見つかった12例で、出産に至ったのは6例。うち2例は死産だった。小頭症が1例、発育不良が2例あった。1例は羊水の異常で帝王切開したが回復して健康だという。


■ ジカ熱、胎児の1割小頭症…妊娠初期感染の場合
2016年3月18日 読売新聞
 中南米を中心に流行しているジカウイルス感染症(ジカ熱)は、妊娠初期に感染すると、少なくとも10人に1人の割合で頭の小さい小頭症の子供が生まれる恐れがあるとの研究結果を、東京大の西浦博准教授の研究チームがまとめた。欧州感染症専門誌に18日発表される。
 研究チームは、小頭症の子供の出産が多数報告されている2015年のブラジル北東部のデータを調べた。発熱や頭痛、関節痛などを訴えて医療機関を受診した人数や感染時に受診する割合から、ジカ熱の感染者数を推計、妊婦や小頭症の子供の人数などからリスクを計算した。
 その結果、妊娠12週までに感染すると、小頭症の子供が生まれるリスクは、ジカ熱に感染した妊婦を多く見積もると14%、少なく見積もると47%だった。
 ジカ熱に感染した妊婦については、ブラジルと米国の研究チームが、約3割に胎児の異常が見られたと報告している。世界保健機関は今月上旬、妊婦はジカ熱の流行地域への渡航を控えるよう勧告した。西浦准教授は「パニックになるような結果ではないが、少なくとも妊娠初期に流行地域に渡航しない判断は妥当だ」と話している。


ジカ熱とギラン・バレー症候群との関係;

■ 手足まひの難病と関連濃厚 ギラン・バレー症候群発症者に抗体
2016.3.5:産経新聞
 ブラジルなど中南米諸国で感染が広がるジカ熱が新生児の小頭症だけでなく、手足のまひなどを伴う難病ギラン・バレー症候群の発症とも関連がある可能性が最新の研究で濃厚になってきた。世界保健機関(WHO)も懸念を強めており、感染国・地域の住民に注意を呼び掛けている。
 フランスのパスツール研究所などのグループが2月29日の英医学誌ランセット電子版に発表した研究結果によると、2013~14年にジカ熱が流行したフランス領ポリネシアでギラン・バレー症候群を発症した42人全員がジカウイルスの感染を示す抗体を持っていた。またギラン・バレー症候群の発症率は10万人当たり1~4人程度なのに対し、仏領ポリネシアでジカ熱が流行した当時は24人程度に急増したという。


WHOの見解;

■ ジカ熱流行地域、妊婦の渡航自粛を勧告…WHO
2016年3月9日 読売新聞
 ブラジルなど中南米を中心に流行しているジカウイルス感染症(ジカ熱)について、世界保健機関(WHO)のマーガレット・チャン事務局長は8日、妊婦は流行地域への渡航を控えるよう勧告する声明を発表した。
 妊婦のジカ熱感染と胎児に小頭症などの症状が表れることの関連性は最終的には確認されていないが、WHOは、感染した妊婦の羊水からウイルスが検出されたことなどを重視。チャン氏は、「ジカウイルスに、脳や神経に影響を及ぼす性質があるのは確かだ」と明言した。
 また、ジカ熱は主に蚊が媒介すると考えられてきたが、声明は「性交渉による感染がこれまで考えられたより多い」と指摘した。
 WHOは2月1日、ジカ熱の感染拡大を受けて「国際的な公衆衛生上の緊急事態」を宣言した。

<参考>
ジカ熱発生エリアの女性に体を覆い隠し安全な性行為を行うようWHOが促す(2016-02-10 Reuters Health)
ジカウイルス感染症のファクトシート(2016.3月:WHO)

えっ、性交渉で感染?

■ ジカ熱、性的接触での二次感染疑い例が14件…米国
2016年2月24日 読売新聞
 米疾病対策センター(CDC)は23日、中南米で流行する感染症「ジカ熱」を巡り、米国内で性的接触による感染が疑われる例が新たに14件見つかったと発表した。
 いずれも流行地から帰国した男性が、パートナーの女性にウイルスを感染させたとみられる。見つかった事例の中には、妊婦が感染したケースも数件含まれているという。
 ジカ熱は、感染した妊婦と、頭が小さい「小頭症」の子供との関連が疑われている。CDCは、流行地から戻った男性からの感染を防ぐためにコンドームを使うことを勧めている。
 米国本土では性的接触による二次感染がすでに1例確認されているが、蚊の媒介による感染例は報告されていない。


日本での状況;

■ ジカ熱「感染拡大リスク極めて低い」…厚労相
2016年2月26日 読売新聞
 川崎市の10歳代の男性がジカウイルス感染症(ジカ熱)に感染したことを受けて、塩崎厚生労働相は26日の閣議後記者会見で、「国内は現在、感染を媒介する蚊の活動期ではないため、感染が拡大するリスクは極めて低い」と冷静な対応を呼び掛けた。
 ジカ熱は昨年来、ブラジルなど中南米で流行し、厚労省は空港などの検疫所で入国者の体温をチェックするなど「水際対策」を強化した。今回ブラジルから帰国した男性は蚊に刺された記憶が定かでなく、帰国時には熱が下がっていたため、検疫所のチェックに引っかからなかった。


■ 愛知の女性がジカ熱感染…ブラジルから帰国
2016年3月14日 読売新聞
 厚生労働省は11日、ブラジルから帰国した愛知県の30歳代の女性がジカウイルス感染症(ジカ熱)に感染したと発表した。
 症状は軽く、自宅で療養中という。国内で感染が確認されたのは5人目。昨年来の中南米での流行後では2人目。


妊娠中の女性が感染すると、胎児に問題が発生する感染症は、医学的にはTORCH症候群が有名です。皆さん、もう風疹と先天性風疹症候群をお忘れですか?
新見先生のコメントを紹介します;

■ ジカ熱と似ている?もっと恐ろしい風疹
2016年2月12日 読売新聞
 今日は、ジカ熱と風疹のお話です。ジカ熱と風疹は似ているところと、似ていないところがあります。まず両疾患とも命に関わることはありません。そして共に症状は風邪と似ていて、微熱、頭痛、関節痛、皮疹などが見られます。そしてなにより困ることは、妊婦がジカ熱に罹かかると小頭症の子供が生まれる可能性が高くなると思われ、また妊婦が風疹に罹ると先天性風疹症候群を引き起こすことがあります。先天性風疹症候群は難聴、白内障、先天性心疾患などを胎児に引き起こします。

感染経路は違うが…
 風疹は、別名を「三日はしか」といって、風疹ウイルスが原因の病気です。感染症法では第五類感染症に指定されています。感染は飛沫感染または直接感染します。咳せきやくしゃみによって飛び散る飛沫に含まれる病原体が口や鼻の粘膜に触れて感染するということです。つまり直接人から人に感染します。ですから大流行する可能性があります。一方でジカ熱は蚊を介して感染します。ジカ熱に感染した人の血を吸った蚊が、別の人を刺すときに感染が広がるのです。これが一般的で基本的には人から人に感染しません。蚊が大量に存在する環境では、蚊に刺されることは日常茶飯事ですので、感染は広がりますが、病気を媒介する蚊が駆除されれば感染の広がりはコントロールできると考えられます。ジカ熱感染には例外が報告されていて、それは精液にジカ熱のウイルスが認められ、明らかに精液の接触で感染した例が数例あります。また唾液や羊水にもジカ熱ウイルスが認められたといった報告もあります。つまり、ごく希まれに人から人に感染することがあり得るということです。

妊婦に感染すると危険
 風疹もジカ熱も直接風疹ウイルスやジカ熱ウイルスを殺す作用を持つ薬剤はありません。つまり感染すれば、症状を和らげる対症療法を行って、自分の免疫力でウイルスを退治することを期待するしか方法はありません。しかし、命に関わる疾患ではないので、感染すれば仕事を休んでのんびりと過ごせば自然軽快します。問題は風疹もジカ熱も妊婦に感染すると生まれてくる子供に障害が残る可能性があることです。

風疹、なぜ大流行の可能性?
 では、次は発症予防のワクチンに関してのお話です。風疹はワクチンが開発され、日本では昔は当たり前のようにみんなが感染していた「三日はしか」を見ることは少なくなりました。しかし、2012年から2013年にかけて大流行しました。風疹ワクチンは日本では1977年から女子中学生を対象に風疹ワクチンの集団接種が開始されました。1994年からは満1歳から7歳半までの男女、そして中学生の男女に接種が始まりました。2006年からは満1歳と就学前年に麻疹ワクチンと一緒に風疹ワクチンの2回接種が開始されました。この風疹ワクチンの効果は一生続くものではなく、その効果は年々減少することがわかっています。昔は、風疹は一度罹ると二度と罹らない病気でした。それは実際に子供の頃に感染して風疹に対する免疫が作られ、その免疫力は年々低下していきますが、そんな時に、風疹の患者に接触すると感染はするが症状を呈しない不顕性感染を時々経験することで、また免疫力が上がり、そして終生風疹に感染しない状態になったと思われます。つまり不顕性感染が一生にわたる免疫力の維持には必要であった可能性が高いのです。風疹の免疫力の測定は、血液中の風疹に対する抗体の力(抗体価)を測定するとわかります。風疹ワクチンの効果が永続的ではないというのは、現在の日本で、風疹ワクチンを接種したにも拘かかわらず、大人になって風疹抗体価を調べると感染防止の基準には届いていない人がすくなくないということです。ですから、大流行の可能性があるのです。

外国でのワクチン接種は…
 さて、世界の現状はどうでしょう。国立感染症研究所のHPに記載があります。少し古い報告ですが、とても参考になります。カンボジア、パプアニューギニア、ソロモン諸島、バヌアツ、ベトナムでは風疹ワクチンは導入されていないそうです。ポーランドやルーマニアでは大流行が認められるそうです。アフリカ諸国では46か国中2か国でのみ風疹ワクチンがワクチン接種スケジュールに組み込まれているそうです。そして「風疹が流行していると考えられるが、その実態は不明である」と記されています。つまり、世界では風疹は希な病気ではないのです。飛行機の発達が進み、またコストも安くなりました。そんな風疹が流行している国からの人をすべて入国制限することもできません。そう考えると、ほとんどが病気の人を刺した蚊からしか感染しないジカ熱にビクビクするよりも、飛沫感染をして大流行の可能性が否定できない、その上抗体価が減少している人が沢山たくさんいる日本では、風疹の海外からの持ち込みにもっともっとビクビクしたほうがいいとも思えますね。つまり風疹は大流行する可能性があると想定して、妊娠可能年齢の女性は風疹抗体価を検査し、そして抗体価が低ければ、風疹ワクチンの接種をすることが最良の自衛策と思います。

「あなたの中のミクロな世界」by NHK

2015年08月28日 08時20分41秒 | 感染症
 「あなたは一人ではない
 というフレーズで始まるこの番組。「絆」とかを連想させますが、意味がちょっと違います。
 「あなたは微生物の集合体である
 と目から鱗が落ちる発想なのです。

□ 「あなたの中のミクロの世界」 
第1回 体は微生物の宝庫
第2回 ヒトは微生物との集合体

2015年7月7日 NHK-BS
 人間の体の表面や内部に棲む微生物の多様性と働きを徹底解剖するサイエンス番組。人類とともに進化した微生物は、私たちの生命の維持にも深く関わっている。
 バクテリア、ウィルス、原生動物、菌類、ダニ、シラミ―人間の皮膚や毛髪、あるいは体内に生息する微小な生物。その数は人間の全細胞の10倍にのぼると言われる。こうした微生物の驚くべき生態と人間との知られざる関係を、特殊な撮影技術やCGで描き出していく。前編では、身体の思いがけない場所に住み着くミクロな生物たちを紹介。地球上の生物多様性と同じで、生物は身体の様々なパーツにバランスを保ちながら生息している。

 原題:LIFE ON US
 EPISODE TWO SUPERHUMAN
 制作:Smith & Nasht/Mona Lisa (オーストラリア/フランス 2014年)



 他にも私にとっての新たな知識がたくさんありました。
 「免疫系は病原体を退治するシステムと考えられてきた」
 その通り。
 免疫学のテキストには
 「免疫とは自己と非自己を認識して非自己を排除するシステムである」
 と記載されています。
 しかし、最新科学ではこうなります。
 「免疫は感染症をコントロールするシステムではなく、微生物によりコントロールされるシステムである
 
 その根拠を、近代の清潔志向が発達して新たに発生してきた病気が、逆に細菌(便微生物移植やエムバッキー)や寄生虫(鉤虫など)を体に入れることにより治ってしまったことに求めています。
 炎症性腸疾患(クローン病など)、結節性硬化症、アレルギー疾患、等々。


<メモ>
 自分自身のための備忘録。

□ 大気の薄い層が地球を守っているように、皮膚表面の微生物の層は人体を病原体の侵入から守っている。

□ ヒトは生まれた後、その90%は微生物で構成されるようになる。ヒトの体は多くの微生物が調和を保つ一つの生態系である。様々な環境に適合した生物が適所に分布し、肉食生物や寄生生物など多様である。自然の生態系を保つために多様性が必要なように、ヒトの体を健康に保つためには微生物の多様性が必要である。

□ 微生物は免疫系を制御している。腸内細菌が豊富であれば免疫系が暴走しにくい。

□ 母乳中には赤ちゃんの腸内細菌叢を形成するための微生物が含まれている。

□ 腋窩は不思議な場所。アポクリン汗腺から微生物のエサになる物質(無臭)を分泌している。キツネザルは同様の分泌腺が前胸部に帯状に分布しており、一族かどうか識別すること(=近親交配を避ける)に役立っている。他の動物では肛門や性器周囲のみに存在する。ヒトは二足歩行するようになったため、上部に移動したと考えられている。

□ 臍(ヘソ)には多様な微生物がいる。深海の熱水噴出口に生息する微生物(耐圧性放線菌)も発見された。60人の臍ぬぐいサンプルを検査すると、2300種類が検出されたが、60人すべてに共通した細菌はゼロだった。数百種類検出されたヒトや6種類しかいなかったヒトもいた。少ないと不健康の傾向あり。

□ 人の皮膚1㎠には10億以上の細菌がいる。死んだ皮膚細胞(角質、年間2kg!)がエサになっている。

□ 細菌はたんぱく質を利用して一種の会話をすることができ遺伝情報のやり取りも可能。

□ 劇症型溶連菌感染症(人食いバクテリア症)は、世界で年間16万人が犠牲になり死亡している。1980年代にアメリカのロッキー山脈周囲で集団発生した。バクテリオファージというウイルスがレンサ球菌の遺伝情報を書き換えて強毒性になった。

□ トキソプラズマ(通称ゾンビ虫)。寄生されると危険を感じにくくなりリスクの高い行動を取るようになり、交通事故に遭う確率が2.6倍になる。

□ アタマジラミ。飛ぶことも歩くことも這うことも出来ない。髪の毛がくっつきそうなほどの接触があると飛び移る。シラミなどの虫を減らし、それらが媒介する感染症を避けるためにヒトは体毛を失ったという説がある。体毛を失ったために気候に応じて皮膚色も多様になった。

□ 陰毛のヒミツ。体毛を失う際に残ったのではなく、成熟の証として集中させたという説が有力。ちなみにチンパンジーには陰毛はなく体毛より薄い毛があるのみ。

□ 虫歯。人骨の分析では狩猟採集時代は虫歯はほとんどなかった。農耕生活をするようになり虫歯で出現した。口内細菌は産業革命以後多様性を失った。唾液1的中には1億以上の細菌がいる。悪玉菌は酸を作りエナメル質を溶かす。善玉菌は酸が苦手で死んでしまう。

□ ピロリ菌は悪玉菌と善玉菌の中間的存在である。胃酸の中でも生きられるのは、アンモニアを産生して酸を中和できるから。胃がんや胃潰瘍の原因になるが、寄生虫(蟯虫など)がいるとピロリ菌がいても潰瘍にはならない。欧米で行われている抗菌薬によるピロリ菌除菌は、アレルギーや喘息の増加を引き起こすことが問題になっている。

□ ヒトの腸に住み着く寄生虫はもともと深海に生息していた。ヒトの腸・内臓にもぐり込んで陸上に進出した。

□ 寄生虫は近年、医学的に利用されつつあり、多発性硬化症、クローン病、セリアック病の患者の一部に有効であることが確認されている(治験レベルでアメリカでは現時点で違法)。寄生虫は人体に入ると、ヒトの免疫系はそれを排除するために働き炎症が惹起される。すると寄生虫は排除されないようにヒトの免疫系をコントロールして炎症を起こさせないようにする。これを利用して炎症性疾患も沈静化することが可能。ヒトの免疫系は寄生虫のような刺激物を必要としているのである。

□ 便微生物移植。健康な人の腸内フローラ(腸内細菌叢)を病気のヒトの腸に入れることにより、病気を治療する方法。欧米風の食生活、ジャンクフードは悪玉菌を増やす毛香がある。悪玉菌が毒素を出すと免疫系が激しく反応し、それが炎症を引き起こし病気(炎症性腸症候群、多発性硬化症、クローン病、アレルギーなど)の原因となる。抗菌薬や炭水化物の過剰摂取が腸内フローラを味方から敵に変えてしまった。
※ ヒトは生涯に4トンの便を排出する。
・ファーミキューテス:脂肪の吸収を促進する働きのある細菌
・アッカーマンシア・ムシニフィラ:脂肪吸収を抑制する働きがある細菌
・エム・バッキー(アフリカで発見された細菌):ハンセン病のワクチンとして開発されたが、接種によりレイノー病が治ってしまった。癌が消えたり、乾癬が治った例もある。現在はうつ病の治療に応用すべく研究されている。

□ 免疫系は病原体を排除するシステムと考えられてきたが、実際には細菌によりコントロールされてきたと考えるべきである。生活環境から細菌がいなくなると炎症性疾患が増加する。

□ ボルバキアという細菌は昆虫界に広く分布し、体内にボルバキアを有する昆虫は他の微生物が侵入するのを防ぐことができる。蚊の虫体にボルバキアを注入するとデング熱を媒介できなくなることを期待して、オーストラリア北部で実験が行われ、見事デング熱を終息させることが出来た。

麻疹罹患による免疫抑制は「最大3年」続く恐れがある

2015年05月09日 20時23分42秒 | 感染症

 麻疹(はしか)に罹った後は約1ヶ月間、免疫力が抑制されると教科書に書いてあります。
 そしてこの病態は、予防接種も麻疹罹患後1ヶ月の間隔を開ける根拠となっています。
 ところが、この一過性免疫抑制状態は、より長期間続くというニュースが流れました;

■ はしかの免疫抑制、最大3年続く恐れ
(2015年05月08日:AFP)
 麻疹(はしか)が免疫系に及ぼす悪影響は最大3年にわたり持続する可能性があるとの研究結果を7日、米プリンストン大学(Princeton University)などのチームが発表した。病気から回復した後でも、この期間は、他の感染症や命にかかわる疾患リスクが通常より高くなるという。
 はしか感染により体の自然防御機構の免疫系が数か月にわたり抑制される恐れがあることは、これまでの研究ですでに明らかになっていた。だが、米科学誌サイエンス(Science)に発表された論文によると、ワクチンで予防可能な病気のはしかが、免疫記憶細胞を死滅させることで、その脅威をはるかに長期間持続させることを今回の研究結果は示しているという。免疫記憶細胞は、肺炎、髄膜炎、寄生虫症などの感染症から体を守る働きをする。
 「つまり、はしかに感染すると、以降3年間は、通常では死因にはならないと思われる何らかの病気で命を落とす恐れがあるということだ」と、論文共同執筆者のプリンストン大のC.ジェシカ・メトカーフ(C.Jessica Metcalf)助教(生態学・進化生物学・公共問題)は説明する。
 感染症の中で伝染性が最も高いものの一つであるはしかは通常、発疹や発熱を引き起こす上、肺感染症、脳腫脹、けいれん発作などの危険な合併症の原因となる恐れがある。
 はしかワクチンが約50年前に導入されて以後、欧米では、はしかの死亡率が低下し始め、それとともに他の感染性疾患による死亡例も減少傾向を示したと研究チームは指摘する。
 論文によると、ワクチン接種の開始前と開始後とで欧米の子どもの死亡例を詳しく調査した結果、「はしか感染後の平均約28か月に及ぶ『遅延期』を考慮すると、はしかの罹患(りかん)率と他の病気による死者数との間に非常に強い相関関係がある」ことが見て取れたという。
 論文主執筆者で米エモリー大学(Emory University)医学部学生のマイケル・ミナ(Michael Mina)氏は「はしかワクチンは、はしか自体の予防だけにとどまらない恩恵をもたらすことを、今回の研究は示唆している」と述べ、「これは、世界の健康のための、費用的にも最も効率の良い医療行為の一つだ」と続けた。同氏はプリンストン大で博士課程修了後の研究者として今回の研究に取り組んだ。


 やはり、怖い感染症なのですね。
 日本では現在、MR(麻疹・風疹)ワクチンを2回接種することが予防接種法で推奨されていますので、小児に流行する可能性は皆無です。
 ただ、中年以降で予防接種の器械がなかった人達には数年単位で小流行がいまだに話題になります。