小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

スギ花粉症の「舌下免疫療法」が効かない人/受けられない人

2014年12月31日 07時15分38秒 | 花粉症
 何かと話題のスギ花粉症舌下免疫療法(シダトレン®)。
 寄せられる期待は大きいのですが、残念ながら万能ではありません。

花粉症さん待望の「舌下免疫療法」、受けられない人って?
(2014.12.29 11:00 Excite Bit コネタ:田幸和歌子)
 大雪被害が各地で報じられるなか、早くも春の訪れを日々望む人もいるだろう。まだまだ遠い春。でも、花粉症に悩む人は、そろそろ準備に取り掛かる時期でもある。
 そんななか、花粉症患者にとって待望の「舌下免疫療法」が、今年10月8日から公的保険適応になっていることをご存じだろうか。
 花粉症治療には「薬物療法」「手術療法」「アレルゲン免疫療法」があり、アレルゲン免疫療法は、対症療法ではなく根治が期待できる方法として注目されてきた。
 なかでも、古くからあった皮下注射法と違い、舌の下に毎日少量ずつスギ花粉を原料としたエキス(シダトレン)を服用する「舌下免疫療法」は、副作用の心配がより少なく、注射の苦痛がないこと、自宅で投与できるのが大きな魅力。ただし、これまでは保険外だったことが唯一のネックでもあった。
 保険でできるならと喜び勇んで調べてみたものの、現時点では都内で受けられる病院・医院はまだわずかのよう。
 しかも、花粉が飛び始める前に治療開始しないといけないため、各クリニック等では「12月初旬までに」「12月中旬頃までに初診を受けるのが必要」とされており、今年度分の予約はすでに終了しているところも多数。そんななか、12月半ばに今年度分を受けられる医院を見つけ、受診したのだが……。
 結果から言うと、残念ながら自分は治療前の血液検査を受けるまでもなく、「治療対象外」となってしまった。「舌下免疫療法」を受けられない人はどんな人なのか。医師の説明と資料類から以下にまとめてみたい。

<舌下免疫療法を受けられない人>
〇「スギ花粉症」と明確に診断されない人
……治療開始前に採血検査を行う。その結果、スギの特異的IgEが上昇し、かつスギ花粉の時期に症状が強い人でないと、適応にならない。
〇舌下アレルゲンエキスの服用を毎日継続できない人
〇2週間に一度受診できない人(発売1年以内。その後も少なくとも1カ月に1度は受診が必要)。
〇β阻害薬(インデラル、セロケン、テノーミン、アーチストなど)を使用している人
〇気管支喘息を合併している人
〇全身ステロイド薬の連用や抗がん剤を使用している人
〇妊娠中の人
〇引越しの予定があり、継続的に通院することができない人
〇アナフィラキシーの前兆に気づけない人(視覚異常、視野狭窄、不整脈等)


 必ず知っておきたいのは、エキス剤は2~3年間シーズン外でも毎日投与する必要があること、治療を受けた患者の7~8割は症状が軽減し、1割は症状がなくなるものの、誰にでも効果があるわけではないということだ。
 また、治療不可ではないが、この治療法はあくまでスギ花粉に対するものであり、他のアレルギーを持つ人にはあまり意味がない可能性もあると言う。
 ちなみに、自分が治療NGになってしまった理由は眼科の病気を持っているから。アナフィラキシーが起こった場合、視野狭窄などになる可能性があるのだが、眼科の病気を持っていると重大な副作用が起きていることに気づかない可能性があるというのである。
 実は耳鼻科薬の多くは、眼圧が上がる可能性があるため、これまで自分はもともと強いクスリが飲めず、弱い内服薬+点鼻薬でしのいできた。
 だからこそ、待ちに待った舌下免疫療法だったのだが、現状として最良の方法を聞くと、「弱い内服薬と点鼻薬を併用して、マスクを必ずつけること」とのこと。
 スギ花粉症患者は、種々のアレルギー持ちの可能性もあり、また、喘息患者のケースもあるだけに、残念ながら万能ではないのだ。
とはいえ、受けられる人にとっては夢のような治療法であるのは事実。今年度分の治療はもう難しいかもしれないけど、興味がある人は一度検討してみては?


 私自身もスギ花粉症患者ですので舌下免疫療法を受けたいと期待してきたのですが、上記の「受けられない人」の項目に当てはまってしまい、適応外となっています。
 残念。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

花粉症緩和米/治療米~ご飯を食べるだけで花粉症治療ができる時代が来る?

2014年12月30日 06時29分23秒 | 花粉症
 この秋からスギ花粉症に対する「舌下免疫療法」がはじまりましたが、今度は「米を食べて治す方法」が登場しそうです。
 近年、「口から入ると免疫寛容」「皮膚から入ると感作」という説がメジャーとなり、これを利用した治療の開発が進んでいますね。

花粉成分含んだ米、毎日食べると花粉症が緩和?
(2014年12月28日:朝日新聞)
花粉症緩和米をつかった臨床研究
 スギ花粉の成分を含ませたコメを毎日食べると、花粉症を起こす体の免疫反応が抑えられた、とする研究を東京慈恵会医科大などがまとめた。免疫細胞が少しずつ花粉に慣れ、花粉を「異物」と認識しなくなった可能性があるという。研究チームは、コメから抽出した成分を薬として実用化することを目指している。
 このコメは農業生物資源研究所や日本製紙、サタケが遺伝子組み換え技術を使って開発した「花粉症緩和米」。慈恵医大の斎藤三郎・分子免疫学研究部長らは昨年12月から今年5月まで、花粉症患者30人を対象に効果を調べた。
 この結果、緩和米80グラムを毎日食べた人は花粉の飛散が始まってもスギ花粉に反応する免疫細胞がほとんど増えなかったのに対し、普通のコメを食べた人は、研究開始時に比べ3~4倍に増えていた。副作用は特になかった。
 アレルギーの原因となる物質を少しずつとり、体を慣れさせて体質改善を目指す治療法は減感作療法と呼ばれる。スギ花粉を原料とする薬も発売されている。
 農業生物資源研究所ではさらに効果を高めた「花粉症治療米」を開発した。コメのままでは安定して保管しにくく、薬局にも置きにくいことなどから、研究チームは、この米を原料にした花粉症の薬の開発を目指している。高野誠・遺伝子組換え研究センター長は「来年度にも治験を始めたい」と話す。
 国立病院機構相模原病院の海老沢元宏アレルギー性疾患研究部長は「血液中の免疫細胞の増殖が抑えられても症状が抑えられるかどうかはわからず、この点の検証が必要だ」と話している。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「シダトレン®」の錠剤が治験中。

2014年12月03日 08時04分47秒 | 花粉症
 スギ花粉症舌下免疫療法「シダトレン®」、当院では現在2人の患者さんに使用中ですが、問題なく継続できています。
 いずれシダトレン®の錠剤が発売されるらしい、との噂を耳にしていましたが、啓蒙書の紹介文にその記載を見つけました;

 今回発売されたシダトレンは,液剤であるが,舌下錠剤も開発されている。現在,スギ花粉症に対して5歳以上を対象とした治験が始まっている。
 また,シダトレンとは別にダニ(ハウスダスト)アレルゲンに対する舌下錠剤も12歳以上のアレルギー性鼻炎を対象に2015年に発売予定となっている。そして,5歳以上を対象とした治験が2015年から予定されている。


 う~ん、治験中でまだ発売時期は未定のようですね。
 発売元の鳥居薬品のHPを見ても同じ事しか書いてありません。

 それより驚いたのは「ダニ(ハウスダスト)アレルゲンに対する舌下錠剤」が発売予定!?
 これが有効なら通年性アレルギー性鼻炎の患者さんには大きな福音になるはず。
 一年中鼻閉がつらくて薬が欠かせない患者さんにお勧めしたいですね。

 さて、2015年春の花粉症予想です;

スギ花粉飛散ピーク、西~東日本は3月上~中旬-2015年地域別スギ・ヒノキ花粉飛散傾向
(2014年12月01日:QLifePro)
◇ 飛散開始は平年並みか平年よりやや早い予想
 株式会社ウェザーニューズは11月27日、2015年春シーズンのスギ・ヒノキ花粉の飛散傾向を発表した。2015年の花粉シーズンは、九州や西日本では2014年よりも少ない飛散量となるものの、関東を中心とする東日本(太平洋側)で2014年シーズンの2~3倍になると予想されている。
 花粉の飛散開始時期は、九州と関東が最も早く1月末~2月はじめにかけて、以降、2月中旬に東海や西日本、2月下旬には北陸・東北でも飛散が始まる模様。スギ花粉の飛散がピークとなる時期は、九州では2月末~3月はじめに、西日本、関東、東海では3月上旬~中旬に、北陸では3月中旬~下旬に、東北では3月下旬~4月上旬となる見通しとしている。
◇ 関東では前年比2.5倍を超える花粉が飛散すると予想
 花粉が多く飛散した翌年は飛散量が少なくなったり、少ない年の翌年は多くなったりと、花粉の飛散量は交互に増減する傾向がある。2015年の花粉シーズンは、東北~中国、四国(瀬戸内側)では、前年よりも飛散量が多くなる傾向。また、北海道や九州、四国(太平洋側)では2015年春は前年よりも飛散量が少なくなる傾向と言えるが、近年は特に九州や北海道では飛散量の増減がやや不明瞭になる傾向があり、東日本エリアと比べると、飛散量の増減に対しては、夏の天候の影響が大きいと考えられる。

県別に見た前年比の花粉飛散量予想では、関東エリアが最も高く、東京都の295%を筆頭に、関東の1都6県すべてで前年度の2倍以上の花粉が飛散すると予測されている。一方、中国四国の一部と九州では、前年を下回っており、徳島県と高知県では前年の約半分の飛散量と予測されている。
▼外部リンク
株式会社ウェザーニューズ プレスリリース
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「舌下免疫療法~小児への適応拡大」(大久保公裕 著)

2014年08月31日 13時07分48秒 | 花粉症
先日届いた日本小児アレルギー学会誌(Vol.28, No.3 2014)に表題の論文が掲載されていました。
著者は日本医科大学耳鼻咽喉科の大久保公裕先生、アレルギー関連学会では花粉症治療のご意見番です。

2014年10月に発売予定の「シダトレン®スギ花粉舌下液」の適応年齢は12歳以上となっていますが、現在5歳以上の臨床試験の準備が進められているそうです。

免疫療法は花粉症/アレルギー性鼻炎にはほぼ確立された治療法ですが、喘息では有効/無効の両方の報告が混在し、アトピー性皮膚炎では評価されていないようですね。

今後も適応拡大の動向に注目したい治療法です。

メモ
自分自身のための備忘録。

□ 皮下免疫療法(subcutaneous immunotherapy: SCIT)と舌下免疫療法(sublingual immunotherapy: SLIT)
 SCITは100年以上の治療経験があるがアナフィラキシーの可能性や施行法が煩雑等いくつかの欠点があり日本では標準治療になっていない。これを解決すべくSLITが開発され、安全で実用化が近い方法である。

□ SCITの有効率
・国際的にHD/ダニで80%の主観的有効率
・米国におけるブタクサの治療では90%以上の有効率
・日本におけるスギ花粉症に対する効果は70%の有効率
・内科領域では中等症以下のアトピー型喘息に対して80-90%の有効率
・皮膚科領域では一般的にSCITは効果がないと考えられており、ガイドラインでも標準的治療には取りあげられていない。
・小児科領域では、喘息/アレルギー性鼻炎共に有効であるとのエビデンス、花粉症に対するSCITが喘息の発症を抑制したデータが存在する。しかし小児では成人よりアナフィラキシー様の過剰免疫反応の頻度が高いことが報告されている。

SLITの安全性
 SLITは欧州で高い有効性を示し、これを評価した二重盲検比較試験のどれをとってもアナフィラキシーの報告はない。
 しかしアナフィラキシーが生じないと断言することはできない。

□ SCIT vs SLIT
・ダニに対する喘息+通年性アレルギー性鼻炎合併症例36例をランダム化して評価し、SCITとSLITはどちらも鼻炎症状は減少させたが、喘息症状はSCITのみで改善した(1999年)。症例数が少ないのが難。
・シラカバ花粉症58例をランダム化してSCIT19例、SLIT14例、プラセボ15例に分けて検討し、SCIT、SLITとも改善し、またプラセボに対しての優位性が確認されている。症例数が少ないのが難。

□ SLITの有効性
・Wilsonらのコクラン共同メタアナリシスで明らかにSLITに効果があることが証明された。
・現在もっとも新しい評価として再びメタアナリシスを用いた評価研究では、その評価方法や否定的な論文は発表されないことなどの問題点(発表バイアス)をつき、有効だと報告している論文のいくつかSLITの試験でも状況によっては有意な有効性がないと判断されている。

□ 小児科領域でのSLITの有効性
小児のスギ花粉症に対してもSLITの効果が検証されているが、まだエビデンスはない。
・軽症/中等症の喘息小児を対象とした試験では、ダニに対するアレルギー反応を有意に抑制したにもかかわらず、SLITの追加的有用性は証明されなかった。
・喘息の症状は抑制できなかったが、花の抗原反応性は変化させたとの報告あり。
・最近の論文では小児のダニ通年性アレルギー性鼻炎に対して有効との報告。
・喘息に関しては、成人ではその有用性に関して不安視されているが、システマテェックレビューでは小児の喘息で有用であるとの報告もなされている。

□ 外国のSLIT使用状況
国際的には小児では5歳以上の適応が通年性アレルギー性鼻炎にある。その一方で、喘息に関しては小児での効果はまだ国際的に共通のコンセンサスが得られていない。
・Stellergenes社(フランス):ダニ抗原エキスによる12歳以上のアレルギー性鼻炎
・ALK ABELLO社(デンマーク):12歳以上のアレルギー性鼻炎(喘息に対しては開発中)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「(スギ花粉)舌下免疫療法講習会」に参加してきました。

2013年12月01日 07時52分37秒 | 花粉症
 近年、アレルギー分野では「免疫療法」がトピックス。
 免疫療法とは、アレルゲンを避けるのではなく、積極的に取り込むことによりアレルギー疾患を治す治療法です。

 約5年前に登場した食物アレルギーの「経口免疫療法」はインパクトがありました。
 それまでの食物アレルギーの治療法は、自然に治る(耐性獲得)まで原因食物除去を続ける消極的な方法しかありませんでした。
 そこに登場した経口免疫療法は「食べさせて治す」という真逆の発想。
 食べて治すって・・・食べたら症状が出ちゃうでしょう?
 と考えますよね。
 そのとおりです。
 ただ食べればよいと考えるのは早計で、危険を伴います。
 その食べる量の決定やスケジュール管理には専門的な知識が必要なのです。
 とくに「急速経口免疫療法」と呼ばれる方法は原則入院治療、症状が出ないあるいは軽症症状にとどまるレベルの極微量から始め、日単位でどんどん増量していき、数週間~数ヶ月の間に食べられるようにするという荒療治。
 全国の主要アレルギー医療機関から重症食物アレルギー患者に適用して目を見張る効果が報告されました。
 それ以降、症例数が多くなる過程で各施設でバラバラだったプロトコール(治療スケジュール)が整いつつある一方で、アナフィラキシー・ショックなど重篤な症状が発生するリスクが排除できず、また治療失敗例・副作用例も報告されるようになりました。
 これらの事情を鑑み、日本小児アレルギー学会は「現時点では一般診療として推奨しない」との見解を発表しています。

 さて、「舌下免疫療法」とは、舌の下にアレルゲンエキスを含ませることにより耐性を獲得させ、アレルギー疾患を治す方法です。
 これは従来行われてきた「減感作療法」と呼ばれる治療法の変法です。
 減感作療法はアレルゲンを皮下に注射する方法ですが、副作用のリスクが高いため病院で行われる処置であり、患者さんは3年以上毎週~各週~各月で通院する必要があり、多大な労力を要しました。

 この度承認された舌下免疫療法薬は、スギ花粉エキス剤シダトレンスギ花粉舌下液」(鳥居薬品)。
 その液体を舌の下に滴下し2分間そのままの状態を維持した後に飲み込みます。
 これを1日1回、2-3年間続けるのです。
 最初の2週間は「増量期」として少量から初めて少しずつ増やし、「維持期」となる3週目からはずっと同じ量を維持します。
 皮下接種法と比較して副作用の頻度/程度ともに軽く、自宅治療が基本です。
 心配な副作用であるアナフィラキシーの報告はほとんどありません(ゼロではありませんが)。
 ただし、新薬なので最初の1年間は2週間分しか処方できないルールがあり、つまり患者さんは2週間毎に医療機関を受診しなければなりません。発売2年目にはこのルールは解除されますので、1ヶ月処方が可能になります。
 この治療法のつらいところは、春以外の症状がない季節でもずっと通院し、毎日自宅治療を続ける点です。数年間のうちに脱落者が半分以上発生しているのが現状です。
 さらに、高濃度のスギ花粉エキスなので保険診療でも治療代がそれなりにかかると囁かれています(価格未公表)。

★ 現時点で公開されている情報
 シダトレンスギ花粉舌下液200JAU/mLボトル、同2000ボトル、同2000パック(鳥居薬品):標準化スギ花粉エキス原液として、スギ花粉症の減感作療法に用いる新投与経路医薬品。類薬はないが、皮下注射液は国内承認済み。
 用法・用量は、増量期として投与開始後2週間、1週目200JAU/mL、2週目2000JAU/mLの用量を1日1回、舌下に滴下し、2分間保持した後、飲み込む。その後5分間はうがい・飲食を控える。増量期終了後、維持期として2000JAU/mLを1日1回1mL、舌下に滴下し、2分間保持した後、飲む込む。海外での承認はない。


 さて、この薬剤を処方するには医師免許の他に、学会指定の講習会を受けて処方資格を取得する必要があります。
 つまり医院・病院ならどこでも処方してもらえるわけではなく、アレルギー専門医かつ講習会受講者がいる病院でなければダメなんです。いずれ処方可能医師リストがネット上に公開される予定と聞いています。

 2013.11.30に東京で開催された日本アレルギー学会の最終日にこの講習会がありました。
 事前登録制で1000人限定。私は691人目の受付でした。学会参加費17000円の他に、さらに参加費3000円を徴収されます(高いなあ)。
 時間前に会場へ行くと、人であふれて何となくものものしい雰囲気。
 「会場に入る際は購入した青いテキストを提示してください。確認できなければ入場できません。
 と声高に叫ぶ係員の脇から行列を作ってぞろぞろ入場する医師達。
 「途中入場・退出はできませんのでトイレは事前に済ませておいてください。
 と叫んでいる係員もいました。
 「なんだなんだ?缶詰状態にして新興宗教の集会でも始まるのか?
 といぶかる私。
 定刻から遅れること約10分、ようやく講習会が始まり3人の演者の講演を聴講しました。

★ プログラム
 「舌下免疫療法の実際と対応」
  司会: 増山 敬祐(山梨大学医学部 耳鼻咽喉科頭頸部外科)
 1.舌下免疫療法のためのアレルギー性鼻炎の正しい診断法
     米倉 修二(千葉大学医学部附属病院 耳鼻咽喉・頭頸部外科)
 2.舌下免疫療法の実際
     後藤 穣(日本医科大学 耳鼻咽喉科学)
 3.舌下免疫療法のadverse effects (アナフィラキシー対策)
     中村 陽一(横浜市立みなと赤十字病院アレルギーセンター)


 基本的な知識の解説が中心で、実際のノウハウは乏しい印象。
 ちょっと肩すかしを食らった気分です。

 質疑応答で気になったQ&A;
・皮下免疫療法を行っている患者さんが舌下免疫療法への切り替えを希望された時に、どのように移行するのがよいか?
・エキスを2分間口に含ませた後に飲み込むとあるが、吐き出した方が副作用が少ないのではないか?
 しかし「これからの検討課題です」と明確な回答はありませんでした。
 講演の中で、口腔粘膜の違和感や痒みや嘔気など軽度の副作用の頻度は決して少なくはないというお話でしたが、その副作用が出た場合の対策も示されませんでした。中止すべきか減量すべきか吐き出し法に代えるべきか・・・?

 まあ、講習会は物々しい割りには実際の診療に今ひとつ直結しない感がありましたが、兎にも角にもこれで私も処方できる資格が取得できたことになります。よかったよかった。
 発売は来年予定。
 スギ花粉症に悩まされてQOLが障害されている患者さんに役立つことができれば、と考えております。
 私自身もスギ花粉症患者なので試みたいところではありますが、残念ながら禁忌事項に該当してしまいました。
 ダニに対する舌下錠も研究開発されているとの情報もあり、すると通年性アレルギー性鼻炎や喘息の診療も将来大きく変わるかもしれない・・・こちらも期待が膨らみますね。

<参考HP>
スギ花粉アレルゲンエキスを用いた舌下投与による減感作(免疫)療法薬の治験薬製造までの道(鳥居薬品)・・・エキス剤の販売元です。
花粉症の根治もある「舌下免疫療法」からiPS細胞で注目の再生医療までを全網羅 ここまで治る!“超”先端医療(ダイヤモンドオンライン)
 ・・・この中でスギ花粉エキス舌下免疫療法の有効率が示されています;
「舌下免疫療法で治療した場合治療を受けた患者の7~8割は症状が軽くなる、と大久保教授。このうちの1割は症状がなくなるという。これは根治するということだ。5割は症状が半分くらいに軽くなり、ピークの1週間だけ薬を飲んだり、症状が出たときだけ服用できる。あと2割は症状が軽くなり、残り2割は治療前と変わらない。症状が変わらない2割はアレルギーよりも過敏症など別の原因が考えられる。」
【花粉症の新対策】根本治療できる!?舌下減感作(舌下免疫)療法とは(ブログ)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「花粉症にはホメオパシーがいい」

2010年02月21日 08時37分15秒 | 花粉症
帯津良一、板村論子著(風雲舎、2006年)

この季節になると、花粉症関連本を読みたくなります。
今回は医学書からちょっと外れて「ホメオパシー」という新分野の啓蒙書を選びました。
帯津先生は癌の治療で有名な方で、よくTVにも出演されています。
癌患者を「病んだ一人の人間」としてサポートする素晴らしい存在です。

期待して読みましたが・・・正直言ってガッカリしました。
「ホメオパシー」は今から約200年前にドイツ人医師サミュエル・ハーネマンが体系づけた、近年全世界に広がりつつある施術ですが、現代科学の視点からは王道を外れている感を否めません。
西洋医学の限界の逃げ道にしか見えず「魔女の妙薬とどこが違うんだ?」と突っ込みたくなります。
一応その概要を記しておきます;

■ 基本的な考え方「プルーピング」:
 健康な人に投与するとある症状を引き起こす物質は、その症状を発現する病気を治療することができる。
(例)マラリアの治療薬キニーネを服用するとマラリアに似た症状が惹起され、その後治癒する現象。

■ 治療薬(『レメディ』と呼ばれています)は希釈を重ねても薬効が消えるどころか、かえって効力(ポテンシー)が増す。
(例)レメディには「6c」とか「30c」とかの表示がついています。「30c」とは、100倍希釈を30回繰り返したことを意味します(なんと10の6乗倍)。元の物質(薬効分子)はほとんど含まれていません。

■ 希釈した薬を激しく振ることにより薬効が高くなる(!?)。

 ・・・限りなく薄めて「ただの水」になったものを「振る」とよく効く薬になる? 
 この辺までくると「怪しい」と思わざるを得ません。

■ 治療薬(レメディ)は65%が植物由来で、その他動物や鉱物からも作られる。
 中にはトリカブトや毒ニンジンなど強い毒性のあるものも含まれ、亜ヒ酸や水銀も使用されています。
 
 ・・・実は漢方でもトリカブトを加工して毒性を無くした「附子」という生薬を用いています。一般の方は不安になるかもしれませんが、医師の私とっては「毒をも飼い慣らした医学」として逆に信頼が生まれます。歴史的には水銀やヒ素も用いられて時代がありましたが、こちらは危険なことが判明して淘汰・消滅しています。
 残念ながら「ホメオパシー」はまだそこの領域に達していないと云わざるを得ません。


 帯津先生は「場の医学、エネルギー医学」と位置づけられていますが、説得力がありません。
 私には「未完成の経験医学」に見えてしまいます。
 200年の歴史しかない未完の経験医学なら、2000年の歴史を持つ完成された経験医学である漢方を選択しますね。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「花粉症は環境問題である」

2008年09月02日 02時49分12秒 | 花粉症
奥野修司著、2008年、文藝春秋社発行(文春新書).

著者はジャーナリストであり花粉症患者でもあります.
日本国民5人に1人が花粉症の時代、著者自身の花粉症体験からふとした疑問を持ち、いろいろ調査・取材しているうちに出来上がった本です.
なぜこんなに患者が増えたのか、治療法は百花繚乱であるが根本的な治療法であるアレルゲン除去はなぜ議論されないのか?
取材を進めるうちに、スギ花粉増加は戦後に植林したスギ人工林が原因であることを突き止め、林業行政の失敗を「花粉症は国家の犯罪」ととことん追求する姿勢には脱帽しました.
この本に書かれているスギ花粉症増加の裏事情を知っていると、スギ花粉症ニュースの見方・聞き方も異なってくることでしょう.
そして、得た情報を元に、ではこれからどうすべきか?という提案もしています.

ただ、医学に関する知識の精度は今ひとつで、後半のこれからどうすべきかの議論は寄せ集めた知識を元に推論しており全体像が見えにくいのが玉にキズ.
未来の森林像については林野庁と森林学者のガチンコ議論を聞いて判断したいと思いました.

著者は自宅には8台の空気清浄機を設置し、「これは効く!」と噂を聞けば様々な民間療法を試し、花粉対策マスク収集家となり(結核患者の診療に使うN95マスクまで試したというから御立派!)、漢方も飲み・・・涙ぐましい努力の末に辿り着いたのが以下の七つ道具とのこと.
「携帯用洗眼器」「やわらかいティッシュ」「帽子」「携帯用鼻洗浄器」「ヴィックスヴェポラップ」「交換用マスク」「メガネ」
もうちょっと漢方で粘ってもよかったかなあ、というのが私の感想です.
なぜって、現代薬でコントロールできなかった患者さんが漢方の併用あるいは切り替えで結構楽になることを毎年経験しているものですから.

この本の真骨頂は第三章の「花粉症は国家の犯罪」と第四章の「スギ花粉症は公害だ」です.
前述の書「スギ林はじゃまものか」でも言及されていた「拡大造林計画」がこの本でも取り上げられ、諸悪の根源であると指摘しています.

「1955年に河野一郎農林大臣(河野洋平さんの父)は、国が責任を持って民有林を人工林に変えていく国営造林構想を打ち出した.1958年から1997年までの40年間で、森の生産力を2倍にしようというものだ.このとき全森林面積の60%を人工林にするのが目標だったという.こうして広葉樹林は役に立たない雑木林として伐採し、その跡地を人工林にしていく作業が大規模に行われた.」

「スギを植えたら銀行預金より儲かる、といわれたのがこの頃だった.その上贅沢な補助金も合ったから、国も民間も狂ったようにスギやヒノキを植えたという.カネに目がくらんで、豊かな森をモノトーンに変えてしまったのだ.」

「ところが拡大造林計画が始まって数年後、政府は木材の輸入自由化に踏み切る.そして1964年には完全自由化が実施されるのである.安い外国材がどんどん輸入され、木材の値段は下がる一方で、またたく間に国産のスギ材は太刀打ちできなくなった.こうしてスギ林は管理されること無く放置され、荒廃して暗い死の森に変貌して行った.ビジョンなき森林行政とはこのことだろう.」

「戦後復興のはずだった植林がいつの間にか『儲かる林業』に姿を変え、山を畑に見立て、大根を植えるようにスギやヒノキだけを植林していった.ヨーロッパの森林学者は日本のスギ林を見て、まるで工場みたいだ、と言ったという.」
「国土の67%が森林でありながら、日本の木材自給率は20%しかない.」


・・・「拡大造林計画」の罪は誰が責任をとるのでしょう?

「花粉問題で批判された林野庁は、スギの代わりに広葉樹を植えるのではなく、花粉の少ないスギや、遺伝的に花粉がつかない無花粉スギを植えていくと発表した.」

・・・発想がおかしいぞ!?
 広葉樹を植えると森の保水機能が高まるのでダムがいらなくなる→土建業の仕事がなくなる→選挙で自民党が勝てなくなるという裏事情が見え隠れします.

「かつての住専スキャンダルもそうだったが、最近でも食料、医療、労働、年金とあらゆる分野で国の行政に信じられないようなミスが頻発している.非は誰にあるのか明らかなのに、この国の官僚達は誰も責任をとろうとしない.花粉症もそうだ.間違いなくこの無責任体制が日本を醜悪な国に変えている.」

・・・予防接種行政でも同じことを感じている私です.

広葉樹と針葉樹の違いが詳しく記載されていて、基礎知識の更新ができました.

「一般に針葉樹(スギ、ヒノキ)は浅根性といって、地面の浅いところで網を広げたように根を張る.だから根が広がっている地表から数十センチより深いところで土砂が崩壊するとなす術が無い.反対に広葉樹(シイ、カシ、ブナ)は、ゴボウのようにまっすぐ地下に向かって根を伸ばしていく深根性だ.ちなみにシイ、タブノキ、カシなどでは、地上部が3mなら根は4m以上も深く入っているという.」

「広葉樹は伐っても根株は生き続ける.針葉樹は地上部を伐採すると根まで枯れてしまう.」


「毎年のように、台風が通過するたびに河口や海岸、とりわけダム湖などが大量の流木で埋まってしまう.流木のほとんどがスギやヒノキだ.一方広葉樹は地中深く根を張り、根の先がしっかりと岩盤をつかむから、スギのように流されることが無い.スギでも天然に育ったものの根は網目状に広がるので心配ないそうだが、人工的に植林され、とりわけ間伐などの管理が行き届かないスギの根は浅く小さくなってしまうらしい.そして、これらの流木を取り除くのに、膨大な時間と費用が費やされているのだ.これは人災ではないだろうか.」

「落葉後に広葉樹の葉は微生物により分解されやすい.一方針葉樹の葉は分解されにく久、ひどい時はした草も生えない.もちろん動物もいない.」

「森の大きな機能の一つは、緑のダムといわれる保水力である.保水力は針葉樹より広葉樹の方が勝り、中でもブナの保水力が非常に高い.」


・・・広葉樹が減少したから天然のダム機能が弱くなり、人口ダムが必要になってきた歴史が伺えます.公共事業を提供する政府の立場からは都合が良いのでしょうが.

「魚は広葉樹林で育つ」という項目も興味深い内容です.

「森が消え、腐植土層が流されると、赤土が露出した荒れ地になった.この赤土が風に飛ばされ、雨に流されて海藻につくと、海藻は死ぬのだ.北海道の襟裳岬では、森が無くなると日高コンブで知られた海藻が消え、水揚げだかも激減し、かつての好漁場は消失してしまった.」

・・・目から鱗が落ちました.

花粉症の発祥地、イギリスにも言及しています.

「15世紀の大航海時代、軍艦を造るためにナラやカシなどの落葉広葉樹をたくさん伐採し、ヨーロッパ大陸から森が消えてしまった.イギリスではその跡地を牧草地にしていった.森林が消滅したあとにできた牧草地はイギリス全土の45%にもなったという.牧草地に植えたのはイネ科のカモガヤだった.19世紀に入ると、このカモガヤを刈り取り、乾燥のためにサイロへ運んでいた農民の間で、くしゃみや鼻水、目のかゆみ、微熱などを訴える人が頻発した.調べてみると、カモガヤの枯草(ヘイ)による熱(フィーバー)ということがわかり、枯草熱(ヘイフィーバー)と呼ばれた.これが後にカモガヤの花粉に起因するアレルギー反応であることがわかり、花粉症と呼ばれるようになる.」

「カモガヤとスギの違いはあるが、どちらも単一の植物を、それも自然界では決して存在しない広大な面積に植えたということでは同じなのだ.花粉症の原因は、イギリスも日本の、自然の摂理に逆らったゆえに起こったのである.」

・・・今も昔も所変わっても花粉症は人災の要素があるのですね.

日本の原風景である里山・・・野生動物が生息する広葉樹の森、ホタルが舞う小川や田んぼを取り戻すことは無理なのでしょうか?
日本政府にスギ人工林の失敗を反省する考えが生まれない限りダメかな.
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「スギ林はじゃまものか」

2008年08月30日 23時13分42秒 | 花粉症
山岡寛人著、2007年、旬報社発行.

スギ花粉症の季節になるたびに憂鬱になります.患者さんもたくさん来ますが私自身も患者ですので.
そしてこう思います.
「なぜスギ林を切らないんだろう」

アレルギー疾患の治療の基本は原因となるアレルゲンの除去です.
食物アレルギーなら食物除去、ダニアレルギーならダニを減らす努力・・・しかし、スギ花粉は風に乗って飛んでくるので個人の力では避けようがありません.
学会での講演・シンポジウムではスギ花粉症の最新治療についての情報が得られますが、肝心のアレルゲン除去についてのコメントはありません.
以前はよく質問しました.
「なぜスギを伐採するという話が出ないんですか?」
しかし講師の誰からも納得できる答えは得られませんでした.
アレルギー学会に期待してもダメなんだ、と悟りました.

そして最近、私の疑問に答えてくれそうなこの本を見つけました.
中学生向けなので内容もわかりやすく読みやすい.
著者は理科の先生で、本業の傍ら独自に自然の研究を続けて発表してきた方だそうです.
スギ林の管理法と中高生の実習話からはじまり、明治神宮の森造りや森林の成り立ちと移り変わりなど森の基礎知識も書かれていて目から鱗が落ちました.
この本のポイントは、被害者意識のある患者やそれを煽るジャーナリストではなく、花粉症を治療して利益を得る医師でもなく、中立の立場と言うべき科学者の視点で書かれているということです.

印象に残った部分を抜粋します.

まずはスギの基礎知識.
「スギは日本原産の木で学名はクリプトメリア・ヤポニカ.常緑針葉樹で、高さが50m、大人の目の高さでの幹の直径が5mもの大きな木に育つ.スギがたくさん植林されている理由は木材の性質が優れているから.主に家屋の建築用材に使用されてきた.スギ林業は、苗を植えてから伐採するまでに最低でも30年はかかる.」

「日本の森林面積は国土面積の67%を占めている.そのうち41%は人工林でほとんどは針葉樹林であり、人工林の43%はスギである(全森林面積の約20%).森林面積の約55%は私有林.」

「スギ、ヒノキ、サワラなどの針葉樹林は大気汚染に弱いので明治神宮の森造りには使われなかった.」

「戦後復興のため日本政府は1957年に拡大造林計画を立てた.ブナ林・ナラ林・シイ/カシ林など広葉樹林・雑木林は生産性が低いとされて伐採し、スギやヒノキは生産性が高いとされて植林するという内容である.しかし、拡大造林は生産性を上げることだけが重視され、スギの植林に適さないところでも行われた.とりわけ失敗したのは、標高800mを越える山岳地帯にも植えたこと.管理が行き届かず荒れ果てたスギ林が各地に出現した.これを不成績造林地という.」

「スギがそろそろ伐採できる頃に高度経済成長の最盛期を迎えた.しかし家の工法が変化しスギの材木を必要としなくなってしまった.スギの価格は暴落し、また人件費が高騰し、伐採すればするほど赤字がかさむようになった.こうした拡大造林計画の失敗により皮肉にも荒れ果てた広大なスギ人工林が残され、山地の崩壊、土砂流出、スギ花粉症など林業以外の問題まで引き起こすこととなった.」

「スギ人工林には年齢だけは成熟した成長の悪いスギが過密にひしめいている.大量に飛ばされる花粉は、最後に子孫だけは残しておこうというスギのあがきと言えないことも無い.」
・・・作家の立花和平さんも講演で同じようなことを言っていました.「スギは自分の寿命を全うできないことを察知して大量の花粉を飛ばすのだろう.スギに悲鳴に聞こえる」と.
 スギの植林は1.5~1.8m間隔だそうですが、スギが健康に育つには物干竿を振り回せるくらい開けないと窮屈であると試み学園の園長さんも書いています.

「スギ人工林には広葉樹林のドングリのような野生ほ乳類の食べ物がほとんどない.このため、野生動物は人里まで出てきて野菜や果樹を食べ荒らしたり、人に危害を加えるようになった、いやならざるを得なかった.」

ちょっと言葉が硬いのですが、日本学術会議が提唱した「森林の機能」が紹介されています.
1.生物多様性保全機能
2.地球環境保全機能
3.土砂災害防止機能・土壌保全機能
4.水源涵養機能
5.快適環境形成機能
6.保健・レクレーション機能
7.文化機能
8.物質産生機能
これらを満たす森は広葉樹林の森です.
残念ながら針葉樹林であるスギ林が当てはまるのは8の物質産生機能のみ.材木になるだけです.
3の土砂災害防止機能が自然林に比較して弱いことは災害時によく話題になります.

著者はスギの利用法も提案しています.
しかし経費の問題から一戸建てに使うのは非現実的で、せいぜい床のフローリングや天井、建具・家具などに利用する程度.

読み終えて、暗澹たる気持ちになりました.
「拡大造林計画」という政策の失敗のツケがあまりにも大きい.
スギ花粉症の増加も、豪雨の土砂災害が目立つようになったのも、野生動物が「害獣」として射殺されるようになったのもすべてここに根っこがある.
政府はこの事態を見て見ぬ振り、ずっ~と放っておくつもりでしょうか.
政治家、何とかせい!

今朝の新聞にトラック業者の悲哀が記事にされていました.
公共事業が激減して仕事がなくなり、失業一歩手前の労働者がたくさん.
里山を削った土砂を空港建設予定地に運び、建設現場の残土を削った山に持ち帰って埋めるという、生産性の無いむなしい仕事もやらざるを得ないと記されていました(こんなことを税金を使ってやっているとは・・・あきれてしまいます).
社会の変化に伴い仕事が無くて困っている人たちに、担い手がいなくて困っている林業を紹介するのはいかがでしょう.
色々問題はあるのでしょうが、かたや人手が足りない、かたや仕事が無いとなれば、調整すれば上手くいくはずだと思います.

湿気の多い日本には鉄筋コンクリートより木の家が合うと思います.
これはアレルギー疾患の面からも指摘されていることです.
家屋の西欧化に伴い家屋の気密性が高くなり、その結果冬でも暖かいためダニが1年中繁殖し、ダニアレルギー、ひいては気管支喘息の増加の要因になったと.

さらにコンクリートの檻の中で育った動物園のチンパンジーは、本能を忘れて子育てができなくなるそうです.
この話、人間にも当てはまるのではないでしょうか?

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする