小児アレルギー科医の視線

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「舌下免疫療法~小児への適応拡大」(大久保公裕 著)

2014年08月31日 13時07分48秒 | 花粉症
先日届いた日本小児アレルギー学会誌(Vol.28, No.3 2014)に表題の論文が掲載されていました。
著者は日本医科大学耳鼻咽喉科の大久保公裕先生、アレルギー関連学会では花粉症治療のご意見番です。

2014年10月に発売予定の「シダトレン®スギ花粉舌下液」の適応年齢は12歳以上となっていますが、現在5歳以上の臨床試験の準備が進められているそうです。

免疫療法は花粉症/アレルギー性鼻炎にはほぼ確立された治療法ですが、喘息では有効/無効の両方の報告が混在し、アトピー性皮膚炎では評価されていないようですね。

今後も適応拡大の動向に注目したい治療法です。

メモ
自分自身のための備忘録。

□ 皮下免疫療法(subcutaneous immunotherapy: SCIT)と舌下免疫療法(sublingual immunotherapy: SLIT)
 SCITは100年以上の治療経験があるがアナフィラキシーの可能性や施行法が煩雑等いくつかの欠点があり日本では標準治療になっていない。これを解決すべくSLITが開発され、安全で実用化が近い方法である。

□ SCITの有効率
・国際的にHD/ダニで80%の主観的有効率
・米国におけるブタクサの治療では90%以上の有効率
・日本におけるスギ花粉症に対する効果は70%の有効率
・内科領域では中等症以下のアトピー型喘息に対して80-90%の有効率
・皮膚科領域では一般的にSCITは効果がないと考えられており、ガイドラインでも標準的治療には取りあげられていない。
・小児科領域では、喘息/アレルギー性鼻炎共に有効であるとのエビデンス、花粉症に対するSCITが喘息の発症を抑制したデータが存在する。しかし小児では成人よりアナフィラキシー様の過剰免疫反応の頻度が高いことが報告されている。

SLITの安全性
 SLITは欧州で高い有効性を示し、これを評価した二重盲検比較試験のどれをとってもアナフィラキシーの報告はない。
 しかしアナフィラキシーが生じないと断言することはできない。

□ SCIT vs SLIT
・ダニに対する喘息+通年性アレルギー性鼻炎合併症例36例をランダム化して評価し、SCITとSLITはどちらも鼻炎症状は減少させたが、喘息症状はSCITのみで改善した(1999年)。症例数が少ないのが難。
・シラカバ花粉症58例をランダム化してSCIT19例、SLIT14例、プラセボ15例に分けて検討し、SCIT、SLITとも改善し、またプラセボに対しての優位性が確認されている。症例数が少ないのが難。

□ SLITの有効性
・Wilsonらのコクラン共同メタアナリシスで明らかにSLITに効果があることが証明された。
・現在もっとも新しい評価として再びメタアナリシスを用いた評価研究では、その評価方法や否定的な論文は発表されないことなどの問題点(発表バイアス)をつき、有効だと報告している論文のいくつかSLITの試験でも状況によっては有意な有効性がないと判断されている。

□ 小児科領域でのSLITの有効性
小児のスギ花粉症に対してもSLITの効果が検証されているが、まだエビデンスはない。
・軽症/中等症の喘息小児を対象とした試験では、ダニに対するアレルギー反応を有意に抑制したにもかかわらず、SLITの追加的有用性は証明されなかった。
・喘息の症状は抑制できなかったが、花の抗原反応性は変化させたとの報告あり。
・最近の論文では小児のダニ通年性アレルギー性鼻炎に対して有効との報告。
・喘息に関しては、成人ではその有用性に関して不安視されているが、システマテェックレビューでは小児の喘息で有用であるとの報告もなされている。

□ 外国のSLIT使用状況
国際的には小児では5歳以上の適応が通年性アレルギー性鼻炎にある。その一方で、喘息に関しては小児での効果はまだ国際的に共通のコンセンサスが得られていない。
・Stellergenes社(フランス):ダニ抗原エキスによる12歳以上のアレルギー性鼻炎
・ALK ABELLO社(デンマーク):12歳以上のアレルギー性鼻炎(喘息に対しては開発中)
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