小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

スギ花粉舌下免疫療法・2年目の検証

2016年06月29日 15時21分45秒 | 花粉症
 2014年10月に認可されたスギ花粉舌下免疫療法。
 2シーズン経過後の評価は良好です。
 ダニによる舌下免疫療法にも期待したいですね。

■ スギ花粉・舌下免疫療法,実臨床2年目を検証
2016.05.14:メディカル・トリビューン
 スギ花粉舌下液を用いた舌下免疫療法(SubLingual Immuno-therapy;SLIT)が,2014年に臨床導入されて2年目となる。SLITは,スギ花粉が飛散していない時期に投与を開始し,1〜2週はアレルゲン増量期,3週以降は維持期のスケジュールで,数年間にわたる毎日の服用が必要となることから,長期継続のための患者教育が重要となる。そこで,花粉症診療のエキスパートに,SLIT実臨床の成績から,治療継続率を向上させる鍵について聞いた。

◇ ほぼ全例が治療を2年間継続,鍵はコミュニケーション
米倉氏 SLITは最低でも2年間は継続することがポイントである。千葉大学耳鼻咽喉科診療講師の米倉修二氏によると,同大学病院耳鼻咽喉科SLIT外来の約60例は,ほぼ全例が2年目(今年2月末現在)まで継続中である。

◇ 生活が不規則な患者への対応が課題
 同外来のSLIT導入例は,2014年に約30例(2年目),2015年は約30例(1年目)である。SLIT中断に至った数例がいたが,その理由は転勤や転校であった。米倉氏は「当外来でSLITを開始したほぼ全例が治療を継続できており,他院でもSLITを継続中なので,真の意味での脱落例はいない。ただ,生活が不規則であるために受診予約を頻繁に変更せざるをえない患者ではアドヒアランスが悪い傾向にある。今後の課題である」と言う。
 この点から,「当外来では患者とのコミュニケーションを重視する。薬剤の手渡しだけにならないよう,服薬忘れがないか,どのような状況下で服薬を忘れやすいかなどを意識してもらう」(同氏)。
 ある主婦の自己管理の例を挙げると,薬剤の冷所保存が必須なことから,冷蔵庫の扉の目に付くところに薬剤の袋を貼り付けている。毎日の服薬を意識付ける工夫として,毎朝,冷蔵庫の扉を開けるたびに袋が目に入るようにしている。また,同外来では患者に花粉症の症状の記録を付けることを指導している。同氏によると,症状の評価を行った記録があれば,前年の花粉シーズンと今年のシーズンで比較できる上,コミュニケーションが活性化するという。
 同大学と協力施設は2014年10月以降にスギ花粉症に対するSLITを開始した約100例に,2015年のゴールデンウイーク明けにアンケートを実施した。その結果,満足度は70%以上で「継続していきたい」は90%以上であった。同氏は「SLIT導入1シーズン目で患者がかなりの手応えを感じている」と評価する。

◇ スギ花粉特異的IgE抗体がバイオマーカーの可能性
 永倉氏ながくら耳鼻咽喉科アレルギークリニック(東京都)の永倉仁史院長は,SLIT開始1年目に実施したアンケートと,SLITによる免疫学的変化の検証結果から,「スギ花粉特異的IgE抗体の変動は,SLITのバイオマーカーとなる可能性がある」としている。

◇ 治療開始2〜3カ月目から効果発現
 永倉氏によると,2014年10月〜15年のスギ花粉シーズンまでの有害事象は19%だが軽度で,治療を要するものはなかった。2015年の花粉シーズン後においては特になかった。
 2015年6月に,治療開始1年目の効果に関するアンケートを実施した。対象は,同クリニックで2014年8月〜15年1月にSLITを開始した115例(男性60例,女性55例,年齢12〜76歳,最年長は男性73歳,女性76歳)。その結果,服薬継続率は75%であった。服薬継続例における完全継続率は平均95%で100%の症例も多かった。服薬時刻は,クリニックが対応できる日中を勧めていることもあり,「朝食前」が48%,「朝食後」が35%と多く見られた。
 SLITの治療効果は高く,日本アレルギー性鼻炎標準QOL調査票で見たQOLの自己評価は「晴れ晴れ」18%,「笑顔」45%,「普通」28%で,前年の花粉シーズンと比べた2015年シーズンの成績も良好であった。早ければ開始後2〜3カ月目から効果が現れる可能性があるという。
 また,免疫療法により特異的IgE抗体は,
①治療開始後数カ月から増加
②治療開始後,一時増加した後で減少する
--などが知られている。そこで,アンケート対象のうち65例の免疫学的変化を検証した。その結果,スギ花粉特異的IgE抗体価は,SLIT開始時には著明に上昇,最高のクラス6(100UA/mL以上)判定が約3分の1に認められた。しかし,花粉飛散期前に上昇した特異的IgE抗体価はシーズンに入ると低下した。
 同氏は「SLIT開始初期はアレルゲンの増量により特異的IgE抗体の産生を増加させ,その後,減少するよう免疫応答が変化したためではないか」と考察した。

◇ アドヒアランスの維持が重要
永倉氏 スギ花粉症に対するSLITの治療効果は皮下免疫療法とほぼ同等で60〜70%といわれるが,用賀アレルギークリニック(東京都)院長の永倉俊和氏によると,同クリニックの有効率は成人,小児とも高かったという。治療効果を高める鍵はアドヒアランスの維持であるとしている。

◇ 30日以内の処方を基本に
 2014年10月にSLITが臨床導入されて以降,同クリニックで治療を開始した症例は成人160例,小児30例である。治療途中の脱落例は,成人では10%,小児では3%。それらを除いた症例の今年2月時点の治療効果は,成人では著効50%,有効30%,やや有効15%,小児ではそれぞれ60%,20%,10%であった。
 治療効果を高めるポイントとして,永倉氏はアドヒアランスの維持と,そのための患者教育の重要性を強調。「SLITを開始しても,長期間にわたって毎日の服用を継続できないのでは意味がない。患者への事前説明で,特にSLITの仕組みについて時間をかけて,正しく理解してもらうよう努めている」と言う。自ら作製したスギ花粉症対策に関するビデオを患者に見てもらうことも実施している。
 患者への適切なフォローアップも重要である。中には,数カ月もすると,治療開始時に説明したことを忘れてしまう患者がいる。再診時には治療経過を確認するだけでなく,適宜説明を繰り返すようにしている。
 SLITによる副作用をチェックするため,同氏は30日処方を基本とする。「生活習慣病の内服薬は60〜90日処方なのに,なぜ30日処方なのか」と不満の声もあるが,小児例では保護者が監視するので治療を継続させやすい。
 こうした対策を行っても,花粉シーズンが終わると受診しなくなり,そのまま治療中断に至る患者が一部存在する。思春期の患者で治療継続を面倒がって中断するケースが少なからずあり,今後の課題である。
 また,最近は小児のスギ花粉症が急増しているが,現在のところSLITの対象年齢は12歳以上に限られる。同氏は「保護者から,小児に対するSLITについて聞かれることが多い。できれば,幼児から実施できるようになってほしい」と期待する。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「アトピー性皮膚炎 Q&A 55」... | トップ | 「診療所でみる子どもの皮膚... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

花粉症」カテゴリの最新記事