小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

「舌下免疫療法がわかる本」(大久保 公裕 著)

2015年01月31日 08時13分29秒 | 花粉症
日本経済新聞出版社、2014年発行
副題:花粉症は治せる!

話題の「スギ花粉症舌下免疫療法」を扱った本です。
著者はこの治療法のご意見番の一人、大久保先生(日本医科大学耳鼻科教授)です。

一読して舌下免疫療法の基本的なことを一通り知りたい方には、よい内容だと思いました。
新書版で量もそこそこなのでお勧めです。

医師の私が興味深く読んだのは、
・舌下免疫療法が効かない人には理由がある(「鼻過敏症」が多い)
・「鼻うがい」の具体的方法
・なぜ「舌下」免疫療法なのか
・スギ花粉症は100年後にはなくなってしまう
などの項目でした。

<メモ>
自分自身のための備忘録。

■ スギ花粉症の治療満足度は40%しかない。
 その一因は、花粉症の持つ「多様性」。

■ 花粉症患者の「モーニングアタック」
 花粉症患者では、朝起きた時に立て続けにくしゃみが出て鼻水が止まらない「モーニングアタック」という症状が出る人もいる。しかし、夜間布団に入っている時には花粉をそれほど吸い込んでいないはず。
 こうした患者の多くは、さまざまな刺激に鼻の粘膜が過敏に反応してしまう「鼻過敏症」(過敏性非感染性の鼻炎)を併せ持っていることがわかってきた。症状は花粉症と同じだが、アレルギーとは別のメカニズムで起こっている。以下のものがある;
血管運動性鼻炎:毛細血管の拡張/収縮運動を支配している自律神経、特に副交感神経の働きが異常をきたすことによる
味覚性鼻炎:熱々のラーメンやスパイスの効いたカレーなど刺激の強い物を食べた時に鼻水が出る
冷気吸入性鼻炎:スキー場など寒い場所を訪れた時に鼻がムズムズする
乾燥性鼻炎:エアコンや暖房などで部屋の湿度がカラカラに低下した時に起こる

■ 「鼻サイクル」(鼻づまりは左右の鼻で片方ずつ起こる)
 鼻閉の軽症の段階では、左右の鼻で片方ずつ起こる傾向がある。これは「鼻サイクル」という現象で、自律神経の働きによって自然と左右交互の鼻の粘膜が腫れるため。両方の鼻が詰まって呼吸に支障をきたさないようにするために体に備わった働きといえる。

■ 「鼻うがい」の方法
 「鼻うがい」とは、鼻の中に入った花粉などを刺激の少ない温めた「生理食塩水」で洗い流す方法。
・使用する水は「生理食塩水」:
 水道水は刺激が強く鼻症状を悪化させる場合があるので、生理食塩水(500mlの湯冷ましに、小さじすり切り1杯弱の食塩を溶かす)がお勧め。生理食塩水は鼻の粘膜にやさしく、しみることがない。
・生理食塩水の温度は20~30℃が適切:
 温かすぎても冷たすぎても鼻の刺激になる。
・うがいの方法:
 まず生理食塩水をペットボトルなどの口までいっぱいに注ぎ、片方の鼻の穴にあてる。そして、リラックスした状態で「あー」という声を出しながら鼻に注ぎ込むと、生理食塩水が自然に喉へと流れていく。もう一方の穴にも注ぐ。その後、軽く鼻をかむとスッキリする。
・洗いすぎに注意
 1日に数回程度で止めておく。やり過ぎると症状を悪化させるため。

■ 花粉法に対する免疫療法の歴史
枯草熱(hay fever):1870年代にイネ科の花粉が枯草熱の原因の一つであることが科学的に証明された。イギリスの医師ヌーン(L. Noon)は1911年に「枯草熱に対する予防接種」という論文を発表し、イネ科植物の花粉をすり潰したエキスを注射することで症状を緩和することができたと報告した。
◇ 日本でも1969年にスギのエキスが発売され、イネ科植物やブタクサの仲間による花粉症およびハウスダストなどが原因で起こるアレルギー性鼻炎などの病気に免疫療法を用いることが始まった。
◇ 日本医科大学による研究:這うし出す都による通年性アレルギー性鼻炎患者では、やがて花粉症を発症することが多いが、ハウスダストに対する免疫療法を行った患者では、花粉症を発症する割合が非常に少なくなることがわかった。

■ 舌下免疫療法の効果
 花粉症の症状がなくなったり、大幅に症状が軽減したという患者が80%、全く効果が得られなかった人は10%以下。
 これまで治療手段の少なかった重症の患者でも、舌下免疫療法を行うことで、症状の悪化を一定の段階で頭打ちにする効果がある。くしゃみ、鼻水などの症状がある程度出はじめても、治療前と比べて、季節中にどんどん悪化してしまうことが少なくなる。
 効果が得られなかったケースは、そもそも効果の得られにくいタイプの患者(前出の「鼻過敏症」)であった可能性が高いことがわかってきた。
 この治療法は、主にスギ花粉に特異的に反応が強い人に対する治療である。

■ スギ花粉を過量内服すると・・・
 2007年に、スギの若い雄花を採取し、粉砕加工してカプセルに詰めた健康食品を食べた40台の女性が、呼吸困難などのアナフィラキシーショックを起こし、一時重体になった。「たくさん使用したら早く効果が現れるのでは」などと自己判断で誤った使用法は厳禁である。
スギ花粉入りカプセル服用後にアナフィラキシーショックを呈した症例
厚生労働省と和歌山県が花粉加工食品との関連が疑われる健康被害事例を公表
都道府県等から報告されたいわゆる健康食品に係る健康被害事例について

■ スギ花粉症は100年後になくなる?
 世界の花粉症の多くは自然の植生が原因で起こっており、日本のスギ花粉症のような植林による花粉症は医学的にも非常に珍しいケースである。
 現在、原因となるスギ林は、国や地方自治体によって、すでに植林が中止されるなど調整され始めている。
 少なくとも2050年頃までは、スギ花粉の飛散量は増加し続けるが、2050年をピークに少しずつ花粉飛散量は減少し、その70年後、つまり今から100年後にはほとんどなくなると専門家は推測している。
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