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小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

アレルギー検査「陰性」のアレルギー性鼻炎が存在する?

2025年04月08日 05時50分17秒 | アレルギー性鼻炎
「花粉症の症状があるからアレルギー検査をして欲しい」
「鼻水・鼻づまりがつらいので何が原因なのか検査をして欲しい」
という患者さんがときどき受診されます。

そのような相談の場合、まず風邪なのかアレルギー性鼻炎なのか「問診」で判断します。
つまり「症状」ですね。
アレルギー性鼻炎であれば、くしゃみ・水様鼻汁・鼻閉が慢性的に続きます。
花粉症であれば、毎年同じ時期に上記鼻症状+眼症状(目のかゆみ、充血)が経験されているはず。

一方、アレルギー性鼻炎・花粉症以外の可能性も考慮します。
その代表の“風邪”であれば、鼻症状には起承転結があります。
つまり、最初のくしゃみ・水様鼻汁は同じで花粉症との区別は困難ですが、
何日か経過すると鼻汁は白く濁ってきて、痰が絡んで咳も出るようになり、
1〜2週間で軽快します。
治らずに鼻汁が悪化し膿性鼻汁(青っぱな)になると、
ちくのう症(副鼻腔炎)が怪しくなります。

以上を考慮し、風邪ではなくアレルギー性鼻炎・花粉症が疑われる場合にはじめて検査をします。
その結果、ダニやスギ・ヒノキ陽性になれば確定診断となります。

しかしたまに、
「これはアレルギー性鼻炎・花粉症に間違いないだろう」
と検査をしても何も陽性にならない患者さんに遭遇します。

その場合、従来は「血管運動性鼻炎」という診断名を付けました。
つまり、アレルギーではない、ということです。

と思っていたら近年、「局所性アレルギー性鼻炎」という概念が登場しました。
血液検査ではアレルギー検査陰性だけど、
鼻局所ではアレルギー反応が起きているというもの。

ではそれをどうやって診断するのか?
鼻粘膜の所見+鼻粘膜誘発テストが思い浮かびますが、
鼻粘膜誘発試験は一般的ではなく、耳鼻科専門医が行う特殊な検査です。

というわけで、私はアレルギー性鼻炎・花粉症と臨床診断し、
アレルギー検査で何も陽性にならない場合は耳鼻科受診を提案しています。

2024年に公開された「鼻アレルギー診療ガイドライン」の変更点を扱った記事が目に留まりましたので紹介します。
文中に登場する「LAR:血清IgE陰性アレルギー性鼻炎」が従来「局所性アレルギー性鼻炎」と呼ばれていた疾患です。
解説によると「典型的なアレルギー性鼻炎・花粉症の“前段階”」と捉えているようですね。

また、漢方薬をアレルギー性鼻炎・花粉症に取り入れている私にとって、
「漢方薬はアレルギー性鼻炎に有効か」
という項目が入ったことは興味深いです。


▢ 最新の鼻アレルギー診療ガイドラインの読むべき点とは/日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会
2025/04/08:ケアネット)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・花粉症診療で指針となる『鼻アレルギー診療ガイドライン-通年性鼻炎と花粉症- 2024年 改訂第10版』(編集:日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会)が、昨年2024年3月に上梓され、現在診療で広く活用されている。・・・

▶ 医療者は知っておきたいLAR血清IgE陰性アレルギー性鼻炎の概念
 今回の改訂では、全体のエビデンスなどの更新とともに、皮膚テストや血清特異的IgE検査に反応しない「LAR(local allergic rhinitis)血清IgE陰性アレルギー性鼻炎」が加わった。また、図示では、アレルギー性鼻炎の発症機序、種々発売されている治療薬について、その作用機序が追加されている。そのほか、「口腔アレルギー症候群」の記載を詳記するなど内容の充実が図られている。それらの中でもとくに医療者に読んでもらいたい箇所として次の2点を大久保氏は挙げた。

(1)LAR血清IgE陰性アレルギー性鼻炎の概念の導入:
 このLAR血清IgE陰性アレルギー性鼻炎は、皮膚反応や血清特異的IgE抗体が陰性であるにもかかわらず、鼻粘膜表層ではアレルギー反応が起こっている疾患であり、従来の検査や所見でみつからなくても、将来的にアレルギー性鼻炎や気管支喘息に進展する可能性が示唆される。患者さんが来院し、花粉症の症状を訴えているにもかかわらず、検査で抗体がなかったとしても、もう少し踏み込んで診療をする必要がある。もし不明な点があれば専門医へ紹介する、問い合わせるなどが必要。

(2)治療法の選択の簡便化:
 さまざまな治療薬が登場しており、処方した治療薬がアレルギー反応のどの部分に作用しているのか、図表で示している。これは治療薬の作用機序の理解に役立つと期待している。また、治療で効果減弱の場合、薬量を追加するのか、薬剤を変更するのか検討する際の参考に読んでもらいたい。
 実際、本ガイドラインが発刊され、医療者からは、「診断が簡単に理解でき、診療ができるようになった」「『LAR血清IgE陰性アレルギー性鼻炎』の所見をみたことがあり、今後は自信をもって診療できる」などの声があったという。

▶ 今春の飛散終息は5月中~下旬頃の見通し
 今春の花粉症の特徴と終息の見通しでは、「今年はスギ花粉の飛散が1月から確認され、例年より早かった一方で、寒い日が続いたため、飛散が後ろ倒しになっている。そのために温暖な日が続くとかなりの数の花粉が飛散することが予測され、症状がつらい患者さんも出てくる。また、今月からヒノキの花粉飛散も始まるので、ダブルパンチとなる可能性もある」と特徴を振り返った。そして、終息については、「例年通り、5月連休以降に東北以外のスギ花粉は収まると予測される。また、東北ではヒノキがないので、スギ花粉の飛散動向だけに注意を払ってもらいたい。5月中~下旬に飛散は終わると考えている」と見通しを語った。
 今秋・来春(2026年)の花粉症への備えについては、「今後の見通しは夏の気温によって変わってくる。暑ければ、ブタクサなどの花粉は大量飛散する可能性がある。とくに今春の花粉症で治療薬の効果が弱かった人は、スギ花粉の舌下免疫療法を開始する、冬季に鼻の粘膜を痛めないためにも風邪に気を付けることなどが肝要。マスクをせずむやみに人混みに行くことなど避けることが大事」と指摘した。
 最後に次回のガイドラインの課題や展望については、「改訂第11版では、方式としてMinds方式のCQを追加する準備を進める。内容については、花粉症があることで食物アレルギー、口腔アレルギー症候群(OAS)、花粉-食物アレルギー症候群(PFAS)など複雑に交錯する疾患があり、これが今問題となっているので医療者は知っておく必要がある。とくに複数のアレルゲンによる感作が進んでいる小児へのアプローチについて、エビデンスは少ないが記載を検討していきたい」と展望を語った。

★ 主な改訂点と目次
〔改訂第10版の主な改訂点〕
【第1章 定義・分類】
・鼻炎を「感染性」「アレルギー性」「非アレルギー性」に分類
・LAR血清IgE陰性アレルギー性鼻炎を追加
【第2章 疫学】
スギ花粉症の有病率は38.8%
・マスクが発症予防になる可能性の示唆
【第3章 発症のメカニズム】
・前段階として感作と鼻粘膜の過敏性亢進が重要
・アレルギー鼻炎(AR)はタイプ2炎症
【第4章 検査・診断法】
・典型的な症状と鼻粘膜所見で臨床的にARと診断し早期治療開始
・皮膚テストに際し各種薬剤の中止期間を提示
【第5章 治療】
・各治療薬の作用機序図、免疫療法の作用機序図、スギ舌下免疫療法(SLIT)の効果を追加

〔改訂第10版の目次〕
第1章 定義・分類
第2章 疫学
第3章 発症のメカニズム
第4章 検査・診断
第5章 治療
・Clinical Question & Answer
(1)重症季節性アレルギー性鼻炎の症状改善に抗IgE抗体製剤は有効か
(2)アレルギー性鼻炎患者に点鼻用血管収縮薬は鼻噴霧用ステロイド薬と併用すると有効か
(3)抗ヒスタミン薬はアレルギー性鼻炎のくしゃみ・鼻漏・鼻閉の症状に有効か
(4)抗ロイコトリエン薬、抗プロスタグランジンD2(PGD2)・トロンボキサンA2(TXA2薬)はアレルギー性鼻炎の鼻閉に有効か
(5)漢方薬はアレルギー性鼻炎に有効か
(6)アレルギー性鼻炎に対する複数の治療薬の併用は有効か
(7)スギ花粉症に対して花粉飛散前からの治療は有効か
(8)アレルギー性鼻炎に対するアレルゲン免疫療法の効果は持続するか
(9)小児アレルギー性鼻炎に対するSLITは有効か
(10)妊婦におけるアレルゲン免疫療法は安全か
(11)職業性アレルギー性鼻炎の診断に血清特異的IgE検査は有用か
(12)アレルギー性鼻炎の症状改善にプロバイオティクスは有効か
第6章 その他
Web版エビデンス集ほかのご紹介

<参考>
・鼻アレルギー診療ガイドライン 2024年版 第10版(金原出版)
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ニキビダニは人体に“寄生”しているのではなく“共生”している?

2025年03月30日 08時11分23秒 | 皮膚疾患
私は小児科医ですが、
思春期のニキビの治療も行っています。

近年、日進月歩のニキビ治療。
赤ニキビの治療にとどまらず、
ニキビ肌の治療、
つまり「ニキビができにくい肌」が手に入るようになりました。

当院ではそのような新薬のぬり薬と漢方薬内服を併用して、
「外からも中からも」治療し、効果を上げています。
詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

さて、話題は少しずれますが、時々耳にする「ニキビダニ」。
誰の顔にもいるとされていますが、
誰も気にしていません。
・・・想像すると気分が悪くなってきますね。
でも人体に寄生・共生する細菌は数限りなく存在すますので、
気にしていたらキリがありません。

その生態についての解説記事が目に留まりましたので読んでみました。
すると、意外な展開が・・・

・ニキビダニはさまざまな哺乳類の皮膚に存在しているが、動物によって種類は異なる。主にヒトの皮膚には毛包内およびその周囲に生息するDemodex folliculorumという種と、皮脂腺に生息するDemodex brevisという2種。
・ニキビダニは毛穴の内側に寄生して一生を過ごし、数が増えると宿主の皮膚に炎症を引き起こすと考えられていた。
・しかし2022年の研究で、発生の初期に細胞数を減少させるという寄生虫の特徴とは異なることが判明したほか、皮膚の炎症への影響が少ないことが示された。ニキビダニは寄生生物から共生生物に変化しつつある。ニキビダニは多くの要因から非難されてきたが、ニキビダニとヒトの長い付き合いは、ニキビダニに有益な役割を与えた可能性がある。
・免疫システムに異常をきたしているときや、ニキビダニの数がうまく調整されず増えすぎてしまったときは、皮膚の炎症につながる可能性がある。しかし、ほとんどの人にとってはニキビダニは無害である。
・ほとんどの人はオリジナル系統のニキビダニを保有しているため、ニキビダニを調べることでその人の先祖を知る研究も進んでいる。

なんと、ニキビダニは人体に“寄生”しているのではなく“共生”しつつあるとのこと。
つまり、敵ではなく味方?
それから各個人がオリジナルの系統のニキビダニを保有しているため、それを分析すると先祖がわかるかもしれない、という記述も興味深かったです。


▢ 人の毛穴に生息する「ニキビダニ」の生態とは?
2025年03月29日:Gigazine)より一部抜粋(下線は私が引きました);
 哺乳類の皮膚、特に多くのヒトの顔には、「ニキビダニ」と呼ばれるダニが寄生しています。毛穴の中で生きて食事をしたり交尾をしたり卵を産んだりしているニキビダニの生態について、イギリスのレディング大学でニキビダニを研究するアレハンドラ・ペロッティ博士が解説しています。
You might be surprised by what you'd find in your pores - M. Alejandra Perotti - 
 1841年、ドイツの解剖学者であるジェイコブ・ヘンリーがヒトの耳あかを顕微鏡で観察しているとき、小さな虫がいることを発見しました。後に、それはダニのグループに属することが判明し、「demodex(ニキビダニ属)」と呼ばれるようになりました。
 ニキビダニはさまざまな哺乳類の皮膚に存在していますが、動物によって種類は異なります。主にヒトの皮膚には毛包内およびその周囲に生息するDemodex folliculorumという種と、皮脂腺に生息するDemodex brevisという2種がいます。
 ニキビダニの一生はヒトの生活サイクルと強く結び付いています。日が暮れるとヒトの体は睡眠に関係するメラトニンというホルモンを生成します。メラトニンはニキビダニに対しては刺激信号として働くため、夜になるとニキビダニの活動は活発になります活動中のニキビダニは時速1cmほどの速度で移動し、顔の表面を横切ったり毛穴に潜んだりします。研究によると、ひとつの毛穴ごとに14匹のニキビダニを収容できるそうです。
 ニキビダニはすべてのヒトの顔に存在しており、肌が触れ合うことで乳児にも移っていきます。ニキビダニは毛穴の内側に寄生して一生を過ごし、数が増えると宿主の皮膚に炎症を引き起こすと考えられていましたが、ペロッティ氏も参加した2022年の研究では、発生の初期に細胞数を減少させるという寄生虫の特徴とは異なることが判明したほか、皮膚の炎症への影響が少ないことが示されました。そのため研究チームは「ニキビダニは寄生生物から共生生物に変化しつつあります。ニキビダニは多くの要因から非難されてきましたが、ニキビダニとヒトの長い付き合いは、ニキビダニに有益な役割を与えた可能性があります」と指摘しています。
 ペロッティ氏によると、免疫システムに異常をきたしているときや、ニキビダニの数がうまく調整されず増えすぎてしまったときは、皮膚の炎症につながる可能性があるとのこと。しかし、ほとんどの人にとってはニキビダニは無害です。また、ほとんどの人はオリジナル系統のニキビダニを保有しているため、ニキビダニを調べることでその人の先祖を知る研究も進んでいるそうです。
一方で、個人の顔に固有のニキビダニグループが繁殖を繰り返す関係上、全体的な遺伝的多様性は日ごとに減少していきます。そのため、ニキビダニが何かのきっかけで絶滅してしまう可能性をペロッティ氏は指摘しています。実際にニキビダニの絶滅は起こるのか、絶滅したら皮膚に何が起こるのかは分かっていませんが、少なくとも現在顔にニキビダニが生息していることは正常であり、健康の証拠であるとペロッティ氏は述べています。


・・・関連記事もありましたのでこちらも紹介します。


▢ ヒトの顔に寄生する「ニキビダニ」が寄生生物から共生生物に進化しつつある
2022年06月22日:Gigazine)より一部抜粋(下線は私が引きました);
多くのヒトの顔には「ニキビダニ」と呼ばれるダニが寄生しています。このニキビダニはヒトの皮膚の上で一生を過ごすのですが、あまりにも孤立した環境で世代交代が行われたことによって遺伝情報が「人間と共生する」方向へ変化しているという研究結果が報告されました。
Human follicular mites: Ectoparasites becoming symbionts | Molecular Biology and Evolution | Oxford Academic
The secret lives of mites in the skin of our faces
ニキビダニは哺乳類の皮膚に寄生するダニで、ヒトの場合は特に顔の皮膚に多く寄生することから別名「顔ダニ」とも呼ばれています。このニキビダニは誕生と同時にヒトの毛穴の内側に寄生し、ヒトの毛穴から放出された皮脂を栄養源として暮らします。ニキビダニは夜間に生殖活動を行い、新たに生まれたニキビダニもヒトの毛穴の内側に寄生します。
ニキビダニは毛穴の内側に寄生して一生を終えるため、外敵の影響をあまり受けません。このため、ニキビダニは外敵からの防御を度外視した方向に進化していることが推測されていました。そんなニキビダニのDNAを詳細に分析した結果、以下のような特徴が明らかになりました。

・ニキビダニの脚はわずか3個の筋細胞で動く
・ニキビダニの体を構成するタンパク質の種類は類似生物の中で最も少ない
・ニキビダニは「日光に応じて目覚める遺伝子」が欠落している
・ニキビダニはヒトが夜間に分泌するメラトニンを利用して夜間に生殖活動を活発化させている

また、一般的に寄生虫は発生の初期に細胞数を減少させるとのことですが、ニキビダニでは発生初期の方が成虫期よりも細胞数が多いことが確認されました。これらの研究結果から研究チームは「ニキビダニは寄生生物から共生生物に変化しつつある」と指摘しています。
さらに、これまでニキビダニは「肛門が存在しないため老廃物が体内に蓄積され、宿主の皮膚に炎症を引き起こす」とされていましたが、詳細な分析の結果ニキビダニには肛門が存在していると判明し、皮膚の炎症への影響が少ないことが示されました。研究チームの一員であるHenk Braig氏は「ニキビダニは多くの要因から非難されてきました。しかし、ニキビダニとヒトの長い付き合いは、ニキビダニに有益な役割を与えた可能性があります」と述べています。


・・・なんだか不思議な生き物ですねえ。

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ところ変われば、花粉も変わる〜フランス編〜

2025年03月30日 07時23分29秒 | 花粉症
前項目では北海道の花粉症を扱いました。
その特徴は、
・スギ・ヒノキは主役ではない、4月にスギが脇役程度に飛散。
・3〜4月はハンノキ
・GW前後はシラカバ
・夏はイネ科花粉
・秋はヨモギ
と本州と少し異なります。

海外の花粉症はどうでしょうか。
基本的知識として、スギは日本の固有種なので海外にはスギ花粉症は存在しません。
花粉症の発見はアメリカの枯草熱ですが、これはブタクサ花粉が原因とされています。
ではヨーロッパは?
私の知識では北欧中心にシラカバ花粉症が主役と記憶しています。

フランスの花粉症事情をあっ使った記事が目に留まりましたので読んでみました。
要約すると、

2月〜4月:北フランスやアルプス地方に樹木花粉(シラカバやヒノキなど)
5月〜7月:イネ科花粉(イラクサなどの干し草)がフランス全土に
8月〜10月:草本花粉(ブタクサなど)が南フランスを中心に飛散

とのこと。
スギに代わってやはりシラカバが主役、
あれ、北海道では名前が出てこなかったヒノキがありますね。
イネ科花粉はカモガヤではなくイラクサ、
秋の花粉は日本と同じくブタクサ。
まあ、ブタクサは観賞用として輸入された帰化植物なので、想定内です。

ちょっと意外だったのが、
フランスでは「花粉症」という単語はなくて、
「アレルギー性鼻炎」に含まれているということ。
有病率も日本の5割の半分程度なので、
まだ独立した病気として認識されていないのかもしれません。

この差はどうして生まれたのでしょう。
それを科学的に解明すれば、日本のスギ花粉症対策に一石が投じられるのでは?
と考えたくなる今日この頃です。


▢ スギはないけど…フランスの花粉症事情とは
2025年03月29日:tenki.jp)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・日本では春になると、主にスギやヒノキの花粉が大量に飛散しますが、筆者が住むフランスでも花粉症を発症することはあるのでしょうか?
結論から言ってしまうと、フランスにも花粉症は存在します。
この記事では、フランスにおける花粉症について、原因となる植物、気象条件との関係、フランス人の花粉症に対する意識、などを日本と比較しながらお伝えします。

▶ フランスの花粉症って?主な原因植物と飛散時期
日本では、春に多く飛散するスギやヒノキの花粉症に悩まされている人が多いですね。
スギは年が明け、2月頃からシーズンが始まり、3月頃にピークを迎えます。ヒノキはスギよりもやや遅れて飛び始め、4月頃にピークを迎えます。
スギ・ヒノキ花粉のシーズンが終わると、5月〜6月頃は北海道でシラカバ花粉が、関東から九州にはイネ科の花粉が飛散します。
その他の季節にも、8月~9月頃は東北から九州でブタクサ花粉、9月~10月頃はほぼ全国でヨモギの花粉が飛散するなど、ほぼ一年中注意が必要です。
一方、フランスで主に影響を及ぼすのは、シラカバやイネ科植物、ブタクサといった花粉です。



2月〜4月頃は、北フランスやアルプス地方に樹木花粉(シラカバやヒノキなど)が多く飛散します。
春から初夏(5月〜7月頃)には、イネ科花粉(イラクサなどの干し草)がフランス全土に、夏から秋(8月〜10月頃)にかけては、草本花粉(ブタクサなど)が南フランスを中心に飛散します。[※1]
日本では春のスギ・ヒノキ花粉が最も影響を及ぼしていますが、フランスでは原因植物や時期に違いがありますね。
フランスはとても広いので、国内の地域によってもその影響は変わってきます。

▶ フランスと日本、花粉症の有病率と意識の違い
日本では、花粉症の有病率が年々増加しており、約10年ごとに10%程度ずつ増加しています。2019年の調査では、42.5%の人が花粉症にかかっているとされており、花粉症対策が社会全体で重要視されています。[※2]
一方、フランスでは花粉症は「アレルギー性鼻炎(rhume des foins)」と呼ばれ、一般的なアレルギーの一種として認識されています。
フランスでも花粉症を含むアレルギー性鼻炎の有病率は、過去30年間で4倍に増加し、現在では人口の25%以上が発症していると言われています。
ただこの数値は、花粉だけでなく、ダニや猫などを由来とするアレルギー性鼻炎も含んだ数値なので、花粉症の有病率はこれよりも少ないと考えられます。[※3]


日本と比べるとまだそれほど有病率が高くはないせいか、あまり花粉症が社会問題化しておらず、マスクをしている人もほぼいません。
これには、文化的にマスクをつける習慣がないことも挙げられますが、そもそもフランスの花粉が日本ほど大量に飛散しないことが影響しています。
私は小学生の頃から花粉症ですが、フランスに住み始めて以来、それほど花粉に悩まされない春を過ごしています。くしゃみや目のかゆみで花粉を感じる日もありますが、日本にいた頃とは比べ物にならないほどで、かなり楽です。ただ、フランスでも都市部を中心に年々増加傾向にあるそうなので、今後はどうなるのか油断はできませんね。

▶ 花粉の飛散と気象条件との関係
花粉の飛散は、気温、風、湿度、降水量などの気象条件に大きく影響を受けます。花粉が飛びやすい条件には、主に以下の3つが挙げられます。

① 「晴れて気温が高い日」
晴れて気温が高い日は、花も開きやすくなる上、上昇気流が発生しやすく、花粉が舞い上がりやすくなります。
② 「空気が乾燥して風が強い日」
湿度が高いと、花粉が湿気を吸って重くなるため、遠くまで飛びにくくなります。一方、空気が乾燥して風が強い日は、都市部から離れた森林からも花粉が飛んできやすくなるため、いっそう注意が必要です。
③ 「雨の翌日以降や気温の高い日が2~3日続いた後」
雨の翌日以降は、雨の日に飛散しなかった分と、その日に飛散する分が重なって、より多くの花粉が飛びやすくなります。さらに、雨で地面に落ちた花粉が舞い上がることもあり、いっそう飛散量が多くなるといわれます。また、気温の高い日が2~3日続いた後も花粉がより多く飛びやすくなります。

日本では、乾燥した晴天の日に花粉がよく飛ぶのに対し、湿度が高い梅雨時期には飛散が減少します。
また、春一番などの強風が花粉を遠方まで運ぶこともありますね。
一方フランス南東部では、ローヌ川沿いに地中海に向かって吹き下ろす、冷たく乾燥した強風「ミストラル」が吹くと大量の花粉が飛散する、とも言われているそうですよ。



▶ フランスの花粉症対策とは
フランスでも日本と同様に、薬局で購入できる抗ヒスタミン薬や点鼻薬などを使用しながら症状を抑える方法も一般的ですが、フランス人は、あまり薬に頼りたくないという考えの人も多いです。
そのような方は、花粉症の症状に効果があるとされるエッセンシャルオイルを使ったケアをしたり、喉に違和感を感じる場合は蜂蜜入りのハーブティーを飲むなど、より自然な方法を取り入れているそうですよ。・・・
また、フランスでは、アレルギーリスクに影響を及ぼす可能性のある空気中の生物学的粒子の含有量を研究する国立の機関「RNSA」が花粉飛散情報を発信しており、リアルタイムの花粉情報を確認することができます。・・・

<出典>
[※1]vidal.fr
[※2]厚生労働省
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ところ変われば、花粉も変わる〜北海道編〜

2025年03月30日 06時23分03秒 | 花粉症
日本ではスギ花粉症が席巻中です。
しかし目には見えませんが、
西日本ではすでにヒノキ花粉に入れ替わり、
関東地方でもスギ → ヒノキに入れ変わり中です。

関東地方の春の花粉症はGWくらいまでとされ、
それ以降も症状が続くときは、
カモガヤを中心としてイネ科花粉症が疑われます。

さて、同じ日本でも沖縄や島々ではスギ花粉はほとんど飛びません。
そのために重症花粉症患者向けに「花粉を避ける旅行」を提案している地域もあります。

北海道はどうでしょうか。
ここも昔からスギ花粉が飛ばないとされてきました。
が、ゼロではありません。
でもメインはスギ・ヒノキではありません。

それを扱った記事が目に留まりましたので紹介します。
記事の内容をまとめると、
北海道での花粉カレンダーは以下のようになります;

3〜4月:ハンノキ
(一部道南では4月にスギ)
5月:シラカバ
6〜7月:イネ科
9〜10月:ヨモギ

やはりスギは主役ではなく脇役なんですね。
あれ、ヒノキの名前がない!?
それから秋の花粉症の代表格、ブタクサもありません。
このように、本州とはカレンダーに登場する花粉が異なります。


▢ 「花粉症」の季節到来… 北海道で症状を引き起こす花粉は5種類 アレルギーの原因は“タンパク質”にあり
2025年3月29日:日テレニュース)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・
【質問】「花粉症」の症状は出ていますか?
雪解けが進む札幌市。
(愛知県から来た人)「鼻水が止まらなくなるので鼻で息ができなくなる感じ」
(埼玉県から来た人)「北海道は思ったより感じないかなと思って来たんですけど、意外と鼻水が出ています。鼻がむずむずしてサラサラの鼻水もたれていつも鼻をすすっちゃう感じですね」
(千葉県から来た人)「寒いから花粉はないのかなと思ったら全然あって、ホテルでもやばかったよね、くしゃみ」
すでに花粉症に悩む人の声が聞かれました。

▶ はやくも花粉の季節到来… 飛散する時間帯の傾向は?
札幌にある道立衛生研究所です。
(宮永キャスター)「時間帯によって花粉が飛びやすいとかそういうものはないんですか?」
(道立衛生研究所 平島洸基さん)「やはり朝方の気温が上昇していくときにまず花粉が飛びやすいということと、あとは舞い上がった花粉が夕方にかけて下りてきますので、朝と夕方というのはそれなりに花粉が飛散しやすいと言われております」

▶ 肉眼では見えないほど小さい花粉… でも、症状を引き起こす原因は「花粉」ではない!?
実際に屋上で採取された花粉を見せてもらいました。
(道立衛生研究所 平島洸基さん)「・・・形や大きさは花粉それぞれ違うんですけれども、形状というよりは、中に含まれているタンパク質によって花粉症が引き起こされます」
さらに厄介なことがー
(道立衛生研究所 平島洸基さん)「例えばシラカバの花粉とハンノキの花粉というのは花粉症の原因になるタンパク質の構造が似ているなどがございますので、シラカバ花粉症の人が、ハンノキ花粉でも花粉症の症状が出てしまうといったケースがございます」
(宮永キャスター)「そうするとシラカバで最初に花粉症になった人は、もう今時期からハンノキにまた反応して症状が出る恐れがあるということですか?」
(道立衛生研究所 平島洸基さん)「そういう場合がございます。やはり花粉症は一旦発症してしまうとなかなか完治することは難しいと言われていますので、年々患者さんの数というのは増えていく傾向にあります」

▶ 北海道内で花粉症を引き起こす植物は5種類 カレンダーで見てみると…



道立衛生研究所の平島さんによりますと、花粉症を引き起こすと報告されている植物は、道内では5種類ほどあります。
ハンノキ、シラカバ、イネ科、ヨモギ、道南の一部ではスギです。
それぞれ飛散時期はハンノキが3月、スギも3月末ごろからといいます。
そしてシラカバが4月下旬から5月、イネ科のものが6、7月。
そのあと8月下旬から10月ごろにかけてヨモギ。
こうして見ると、雪がない時期は何かしら花粉が飛んでいる状況です。
2025年のシラカバ花粉の飛散予測です。



4月下旬ごろから5月の大型連休にかけてピークを迎えそうです。
飛散量は2024年と比べると半減する予想ですが、そもそも2024年の飛散量はここ10年で2番目に多かったので、平年比では80から120%程度の飛散量になると予想されています。
・・・

▶ 対処療法ではなく「根治」を目指すクリニックも。
医師の診察を受けるのは、札幌に住む小学校4年生の野口彰史くんです。
(野口彰史くん)「目とか鼻とかかゆくなって鼻水出たり咳出たりして。シラカバの花粉が出始める頃から4月から5月くらいまで」
彰史くんは2年ほど前からシラカバの花粉症に悩んでいるといいます。
その治療法は「免疫療法」です。イメージとしては、花粉のアレルギーを起こす成分を薬として注射し、体を徐々に慣らしていきます。
(アルバアレルギークリニック札幌 続木康伸院長)「うちだとシラカバとイネ科の治療薬をアメリカから輸入してるのでやることができる。ただ日本でこの治療できるところはほとんどないので、予約はかなり混んでます」
花粉ではスギだけが保険適用のため自由診療になりますが、このクリニックではシラカバとイネ科の花粉に対応した治療が可能です。
(アルバアレルギークリニック札幌 続木康伸院長)「5年で根治を目指す。ただ大体どれぐらいで薬の効果、要するに花粉症の時期になっても症状が出ないような状態になるのは、早い人で3カ月、長い人で半年~1年ぐらいという感じ」
クリニックによりますと、自由診療の注射の費用は初回におよそ5万円、そのあとは月1回、5千円程度だということで、国外では一般的な治療法だということです。
・・・

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小児疾患の遺伝子検査・診断・治療の進歩2025

2025年03月28日 05時30分18秒 | 小児医療
私が医師になった30数年前は“不治の病”だった疾患が、
その後の医学の進歩で“治療可能な疾患”になった例がいくつもあります。

“隔世の感”という表現がありますが、
まあ、私自身、結構長く医者をやってきたんだなあ、と感慨深くなります。

ただ、そのような疾患は遺伝性の代謝異常が多く、
私のサブスペシャリティであるアレルギー疾患にはありません。
あまり詳しく知る機会がないため、
あえて自分で情報を取りに行かなければわからない分野です。

そんな中、解説記事が目に留まりましたので読んでみました。

<ポイント>
・がんゲノム医療の対象は成人が大半を占めるのに対し、遺伝性疾患に対するゲノム医療は、小児が対象になる。今後ますます疾患メカニズムの解明が進むにつれ、ゲノム医療の適用範囲は拡大していく。
・先天異常は、生まれてくる赤ちゃんのおよそ3~5%に見られ、乳児死亡の大きな原因の一つ。
・日本では、過去10年間で「次世代シークエンサー」「NIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)」「PGT-M(着床前遺伝学的検査)」「PGT-M(着床前遺伝学的検査)」「エクソーム解析」等、小児遺伝性疾患に関する診断や治療が大きく進歩した。
・日本では196種類の疾患に対する遺伝学的検査が保険適用で実施されている。
・遺伝子やゲノムを詳しく調べる解析技術の進歩で、原因不明の病気の約半分が遺伝学的に診断できるようになり、病気の原因がわかることにより、その子どもに合った健康管理や治療方針を具体的に立てられるようになった。治療については大きな進展があり、一部の遺伝性疾患では、診断が早ければ早いほど効果的な治療が可能となった。
(例)軟骨無形成症(手足が短く、低身長になる特徴を持つ先天的な骨の病気):これまで生後数年してから治療が始まる選択肢に限定されてきたが、最近では、出生後数か月でも使える薬が登場し、診断後早期からの治療により、成長をより早期から助けることが可能になった。
(例)脊髄性筋萎縮症(筋力が弱くなり体の動きが制限される遺伝性疾患):以前は診断に時間がかかり、治療の開始が遅れることが課題だったが、現在は、拡大新生児スクリーニング検査の対象にこの疾患を含める自治体もあり、これにより、生後間もなく遺伝子検査による診断を目指せるようになった。その結果、筋力低下を防ぐ治療が早期から可能となり、子どもたちの生活の質を大きく向上させることが期待されている。
・現在、約7,000種類の遺伝性疾患が知られているが、そのうち根本的な治療が可能なものは今のところ約200種類。
・診断を受けることに対して、不安や戸惑いを感じる方もいる。たとえば、「病気の名前がつくことでレッテルを貼られるような気がする」「治らない病気なら、診断する意味がわからない」という気持ちを抱えることもある。
・遺伝情報にはいくつか特徴がある。これらは、家族が診断を受けることに慎重となる要因にもなっている;
✓ 「原因を知りたい」と思う人にとって大きな助けになる。
✓ 現時点では根本的な治療法が見つかる可能性が低い。
✓ 知らなくてもよいと思っていた遺伝情報を予期せず知らされることもある。
✓ 家族全体に影響を与える可能性がある。
✓ 病気が将来発症するリスクを知る可能性がある。
✓ 一生変わらない情報である。

予想通り、日進月歩の分野ですね。
ただ、気になったのは、新しい医療技術が登場するときの宿命ですが、
「光と影」が発生すること。

私は30年ほど前、小児医療センターNICUに勤務していました。
医療技術の発達によりそれまで救命できなかった小さな赤ちゃん達が助かるようになった時代です。
肺胞サーファクタントの効果には目を見張るものがありました。
しかし一方で、救命はできたものの障害が残り、
自宅に帰れない赤ちゃん達もいました。

遺伝情報は病気の診断・治療に役立つことはもちろんですが、
似た遺伝情報をもつ家族に病気の影を投げかけることもあり得ます。
よかれと思って行った検査の結果を報告する際、
「知りたくなかった」
「知らなければよかった」
という反応が返ってくる可能性もあるのです。

その人の遺伝情報をすぐに全解明する技術の登場も間近。
その価値を生かすも殺すも、使う人間次第・・・ということになりますか。


▢ 小児遺伝性疾患に対する医療の過去・現在・未来~専門医が考える「紡ぐゲノム医療」とは?
2025.01.20:遺伝性疾患プラス)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 ヒトゲノムが完全解読された今、遺伝子/ゲノム解析等を伴う「ゲノム医療」は遺伝性疾患の領域では欠かせない医療の一部となりつつあります。がんゲノム医療の対象は成人が大半を占めるのに対し、遺伝性疾患に対するゲノム医療は、お子さんが対象になる場合も少なくありません。また、今後ますます疾患メカニズムの解明が進むにつれ、ゲノム医療の適用範囲は拡大していくと予想されます。
 こうしたゲノム医療の進展に伴い、小児遺伝性疾患の診断や治療はどのように変わってきているのでしょうか?また、今後どのように発展していくと期待できるのでしょうか?小児遺伝性疾患と小児遺伝医療の「これまで」と「これから」について、東京都立小児総合医療センター遺伝診療部臨床遺伝科部長の吉橋博史先生に詳しくお話をうかがいました。・・・

ーー小児遺伝性疾患の診断や治療は、10年前と比べてどのように進歩してきていますか?

 10年前は、病気の原因がわからない子どもたちが多く、診断がつかないために、適切な健康管理や治療につながることが難しく、家族も不安を抱えながらの子育てが続いていたかもしれません。当時、一度にたくさんの遺伝子を調べることができる「次世代シーケンサー」という機器が、先駆的な大学病院やセンター病院の研究室で導入され、臨床の現場でも実装に向けて経験を積みはじめた頃でした。しかし、研究目的で次世代シーケンサーを利用できる施設は限られているうえに、研究目的にかなう条件を満たした方しか参加できないため、遺伝性疾患が疑われたとしても、遺伝学的に診断することは容易ではありませんでした。そのため、「いま検査するのは難しいのですが、5年後、10年後には環境が変わると思うので、そのとき、また考えましょう」と患者さんに説明し、将来の見通しをお伝えするにとどまることも少なくありませんでした。
 日本では、過去10年間で小児遺伝性疾患に関する診断や治療が大きく進歩しました。2013年には、国内で妊婦血液を用いて胎児に染色体疾患(21トリソミー、18トリソミー、13トリソミー)があるかどうかを調べる検査「NIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)」の臨床研究が始まりました。当時、さまざまな議論が起こる中、こども病院でも家族からの相談を受ける機会が増えました。2022年には、出生前検査認証制度等運営委員会が認めた地域の医療機関等が窓口となっています。
 また、2015年には、「小児未診断疾患イニシアチブIRUD-P)」という取り組みがはじまりました。このプロジェクトでは、原因がわからない病気を持つ子どもの遺伝子を全て調べることで、原因の特定や、新しい病気の発見を目指しています。さらに、2019年には、「Priority-i」という新しい取り組みが開始されました。このプロジェクトでは、重い病気をもつ新生児について、ゲノム(体の中にあるすべての遺伝情報)を迅速かつ正確に調べることで、治療法につながる病気の早期発見を目的としています。遺伝子やゲノムを詳しく調べる解析技術の進歩で、原因不明の病気の約半分が遺伝学的に診断できるようになりました
 こうして病気の原因がわかることにより、その子どもに合った健康管理や治療方針を具体的に立てられるようになりました。その結果、その時点で利用可能な最善の医療の準備や、日常生活の質を向上させる支援が可能になりました。これらの取り組みは、形を変えて2025年現在も続いており、多くの家族にとって希望となっています。
 特に、治療については大きな進展があり、一部の遺伝性疾患では、診断が早ければ早いほど効果的な治療が可能となっています。たとえば、軟骨無形成症(手足が短く、低身長になる特徴を持つ先天的な骨の病気)では、これまで生後数年してから治療が始まる選択肢に限られていました。最近では、出生後数か月でも使える薬が登場し、診断後早期からの治療により、成長をより早期から助けることが可能になりました。また、脊髄性筋萎縮症」という、筋力が弱くなり体の動きが制限される遺伝性疾患では、以前は診断に時間がかかり、治療の開始が遅れることが課題でした。しかし現在は、拡大新生児スクリーニング検査の対象にこの疾患を含める自治体もあり、これにより、生後間もなく遺伝子検査による診断を目指せるようになりました。その結果、筋力低下を防ぐ治療が早期から可能となり、子どもたちの生活の質を大きく向上させることが期待されています
 現在、約7,000種類の遺伝性疾患が知られていますが、そのうち根本的な治療が可能なものは今のところ約200種類と言われています。しかし、新しい治療法が生まれた疾患では、診断が治療への大切なステップとなり、子どもの未来に希望をもたらすものとなっています。

ーーゲノム医療の進歩が、遺伝性疾患を持つお子さんとその家族の希望につながった具体的な事例があれば教えてください

 ゲノム医療の進歩によって、これまで診断が難しかった病気の原因がわかるようになり、診断率が向上しています。ある事例では、体のいくつかの部位に先天的な異常があり、知的な発達の遅れが見られる高校生が、長年にわたり原因不明という状況にありました。その家族は「どうしてこのような状況になっているのか」を知りたいと考え、未診断疾患の解明を目指す「IRUD」(アイラッド、未診断疾患イニシアチブ)に参加しました。数年後、この病気が「突然変異」で遺伝子の変化が生じ、発症した希少疾患であることが判明しました。
 この病気は報告の少ない希少疾患で、詳しい健康管理の在り方や日常生活の様子に関する情報が乏しく、有効な治療法もありませんでした。それでも、原因が判明したことに家族は安堵された様子でした。「診断がつかないまま17年間も迷い続けていました。やっと原因があることが分かり、本当に良かったです。これでこの子を説明しやすくなりました」と話してくださいました。
 また、病気の原因が突然変異のため親や家族の責任ではないことや、きょうだいの将来の家族に遺伝する可能性がないことを知り、根拠のない自責の念から解放された様子もみられました。その結果、家族全体が気持ちを前向きに切り替えることになりました。
 一方、診断を受けることに対して、不安や戸惑いを感じる方もいらっしゃいます。たとえば、「病気の名前がつくことでレッテルを貼られるような気がする」「治らない病気なら、診断する意味がわからない」という気持ちを抱えることもあります。こうした思いは、ごく自然なものです。
 遺伝情報には、いくつか特徴があります。たとえば、以下のような点が挙げられます:家族全体に影響を与える可能性があること。病気が将来発症するリスクを知る可能性があること。一生変わらない情報であること。これらは、家族が診断を受けることに慎重となる要因にもなっています
 確かに、遺伝子検査やゲノム医療の進歩は、「原因を知りたい」と思う人にとって大きな助けになります。ただし、現時点では根本的な治療法が見つかる可能性が低いことや、知らなくてもよいと思っていた遺伝情報を予期せず知らされることもあります。そのため、検査を受ける前に「家族が今、何を知りたいのか」をじっくり伺うことはとても大切です。これは、患者さんや家族が自分たちにとって何が必要なのかを考える良い機会にもなります。
 さらに、家族が「希望」を感じられるポイントは、子どもの病状や家族の状況によっても異なると思います。お子さんが小さいうちは、子どもの成長や治療後の様子が気になると思います。お子さんが成長されると、将来の生活設計や他の家族への遺伝的な影響が心配になると思います。診断により見通しがつく可能性はありますが、その意義が家族に染み入る時機の診断でないと、希望につながらないこともあるので注意が必要です。
 ゲノム医療の進歩によって得られる「希望のかたち」は本当にさまざまです。家族が語るその時々の気持ちや考えを、真摯に受けとめることが大切です。

ーーこうした小児遺伝医療の進歩の中で、認定遺伝カウンセラー(R)の役割もますます重要になってきているのでしょうか?

 はい、こうした小児遺伝医療の進歩により、医療現場では「認定遺伝カウンセラー(R)」(以下、遺伝カウンセラー)の役割がますます重要になっています。遺伝カウンセラーは、子どもだけでなく妊娠中の家族や成長後の大人も含め、家族全体を幅広く支援しています。たとえば、妊娠中や赤ちゃんが生まれた直後に、遺伝性疾患の可能性が疑われることがあります。このようなとき、遺伝カウンセラーは家族の不安に寄り添いながら、遺伝に関する情報をわかりやすく整理し、次のステップを考える支援をしています。また、「NIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)」など出生前検査について相談を受けたり、最近は重い遺伝性疾患の原因となる遺伝子を受精卵の移植前に調べる「PGT-M(着床前遺伝学的検査)」に関する相談にも対応することがあります。こうした場面では、遺伝カウンセラーは家族の状況を理解し、倫理的な課題にも配慮しながら、中立的な立場でのサポートを心掛けています。
 さらに、原因がわからない病気を持つ子どもの診断を目指す家族には、全ての遺伝子を詳しく調べる「エクソーム解析」が検討されます。この検査は結果が出るまでに数か月以上かかることが多く、結果がわかるまでの家族の不安や悩みにも対応します。報告の少ない希少疾患であることが多いので、疾患情報を集めたり、家族が孤立感を深めることのないよう同じ境遇にある家族がいないか、探すお手伝いをすることもあります。また、遺伝性疾患をもつ子どもが成長すると、小児医療から成人医療に移るときのお手伝い「トランジッション」があります。このとき、疾患に対する子どもの理解度を確認したり、疾患の受け入れや遺伝に関する悩みを丁寧に聞き、心理的な支援を行っています。
 このように、遺伝カウンセラーは、診断を受けるまでの過程やその後の人生において、家族や本人を支える大切な存在です。小児遺伝医療の進歩に伴い、遺伝カウンセラーの役割は多様化し、医療と家族をつなぐ架け橋として活躍していくことでしょう。

ーー小児遺伝医療の分野で、日本が世界をリードしていることや、逆に遅れていることがあれば教えてください

 小児遺伝医療は、生まれつきの異常や病気(先天異常)の研究や治療において、特に注目されている分野です。先天異常は、生まれてくる赤ちゃんのおよそ3~5%に見られ、乳児死亡の大きな原因の一つとされています。そのため、小児医療における重点疾患のひとつと位置づけられています。日本の1歳未満の乳児死亡率は1.8(2022年:出生数千人あたり)であり、世界総計(27.9)と比べても非常に低いことで知られています。これは、新生児や小児向けの高度な集中治療技術、公的医療費助成制度の充実、さらに地域社会や医療従事者が協力して子どもと家族を支援してきた成果と考えられます。遺伝性疾患を持つ子どもにおいても同様の恩恵が受けられていると思います。
 一方で、いくつかの課題もあります。たとえば、小児期には医療費の助成等を受けられても、成人期以降にはその支援が引き継がれない疾患があります。遺伝性疾患を持つ患者さんが成長した後も、継続して支援が得られる仕組みを整える必要があります。また、日本でも「トランジッション」の活動は徐々に普及していますが、複数の症状を持つ遺伝性疾患の患者さんでは、先天異常に馴染みが少ない成人診療科との診療連携が難しいこともあります。
 このように、日本は小児医療の質が非常に高いため、遺伝性疾患を持つ患者さんを生涯にわたって支える体制をさらに強化することで、世界のモデルとなる可能性を秘めています。たとえば、医療と福祉が一体となった支援や、患者さんとその家族が安心して相談できる場所の整備などです。そして、遺伝医療に関する経験を有する医療者や遺伝カウンセラーの育成も、より質の高い小児遺伝医療を提供するうえで欠かせません。これらの取り組みを推進することで、遺伝性疾患を持つ子どもとその家族が、どのライフステージでも安心して医療を受けられる社会が築かれるものと、期待しています。
 また、全ゲノム解析技術が普及し、日本人の標準的な遺伝情報をまとめたデータベース「日本人全ゲノムリファレンスパネル60KJPN)」というものが研究者に向けて公開されています。このデータベースは、日本人約6万人分の遺伝情報を基に作られており、病気の原因解明や新しい薬、遺伝子治療の研究に広く役立つものです。特に、日本人特有の遺伝的特徴を考慮した診断が可能になり、より正確な診断や安全な治療薬の開発にもつながります。このデータベースは日本国内だけでなく、世界中の医療研究にも活用され得るもので、日本人のデータを通じて、病気や治療に関する新しい発見が、国際的な医療の発展につながるかもしれません。日本人全ゲノムリファレンスパネルは、私たちの健康を守り、未来の医療を大きく前進させる重要な鍵になると期待されています。
・・・
 令和6年度、日本では196種類の疾患に対する遺伝学的検査が保険適用で実施されています。一定の条件を満たせば、1回の採血で複数の遺伝子疾患を調べることも可能となりました。これにより、より多くの患者さんが遺伝学的な診断を目指すことができる時代となりました。しかし、遺伝学的検査の説明で伝えるべき情報量は増え、内容も複雑化しました。検査結果を説明するときも、高い専門性や臨床的な解釈が求められる場面が増えており、診療科や職種を超えた連携の必要性が高まっています。たとえば、2022年には「出生前コンサルト小児科医(日本小児科学会)」という称号がつくられました。NIPTをはじめとする出生前検査について、検査を受けるべきかどうか悩む妊婦さんや、検査を受けた後のさまざまな相談に、認定を受けた小児科医が対応しています。このような横断的な取り組みは、患者さんとその家族を多職種連携で支える一歩を示しています。・・・

ーーそうした同じ立場の専門家の方々の連携により、新たに始まっている取り組みなどあれば教えてください

 希少疾患の患者さんと家族を支援するウェブ上の新しいシステム「GENIE(ジーニー)」をご紹介します。GENIEは、希少疾患を持つ子どもと家族が抱える情報不足や孤立といった課題を解消するため、同じような経験を持つ家族が出会い、支え合う「きっかけづくりの場」としての取り組みです。
 このシステムは、2023年、有志の医療施設が協力して開設、現在では北海道から九州まで9施設が参加するネットワークに成長しました。オンライン会議ツールを活用し、地域の壁を越えた希少疾患の患者さんの仲間づくり「ピアカウンセリング」の実現を主な活動としています。これまでに医療スタッフも参加して2回のウェブ交流会が実施されましたが、笑顔で楽しそうに交流して下さる家族の様子に、手ごたえを感じています。
GENIEによる活動は、参加施設の医療スタッフが正確な診断の大切さを再認識する、貴重な機会となっています。小児遺伝医療に携わる医療スタッフの学びと経験を深め、さらに支援の質を高めていくことができたらと思います。この取り組みが、診療の枠組み、施設間や地域の壁を越えて、希少疾患を持つ患者さんと家族をつなぐ一つの「モデル」として、今後さらに発展していくことを期待しています。

ーー同学術集会テーマの下で「多様なこどもと家族のウェルビーイングを目指す」とありますが、ここで最も重要な要素は何であると先生はお考えですか?

 「ウェルビーイング(well-being)」とは、長く続く幸福感や満足感を意味します。この考え方を、小児遺伝医療の現場でどのように実現できるかを考えることが、大会テーマである「多様な子どもと家族のウェルビーイングを目指す」の大切なポイントです。
 遺伝医療を通じてウェルビーイングを実現するためには、いくつかの要素があると考えます。その中でも、患者さんや家族が「自分たちで決めた」と納得できることは、安心感や満足感が長く続くことを目指す意味で、特に大切だと思います。そのためには、医療者が、検査や治療についての選択肢をわかりやすく伝えること、家族の状況や考え方を深く理解すること、子どもや家族が「自分らしい選択」をできるよう意思決定の過程を支えること、などのサポートが重要と考えます。
 今回の大会では、「家族のウェルビーイングを支えるためのサポートとはどのようなものか」を、様々な講演を通じて、診断や治療の先にある、より良い支援の在り方をと一人ひとりの役割について考えてみます。

ーー小児遺伝医療では家族がお子さんの代わりに意思決定をすることが多いと思いますが、お子さんが成長した際にその決定をすんなり受け入れることができるのでしょうか?

 小児遺伝医療では、家族が子どもの代わりに意思決定を行うことが多々あります。そのため、将来子どもが成長したときに、その決定に納得できるよう、医療者側もサポートすることは大切です。
 たとえば、子どもがまだ小さく物事を理解できない時期に遺伝学的検査を受ける場面では、その検査でどのような情報が得られるのか、また、将来的にどのような課題が生じる可能性があるのかを、丁寧に説明しておく必要があります。
 子どもが成長し、自分自身の「いま」や「これから」について考えるようになったとき、家族が過去にした意思決定をどのように受け止めるかは、さまざまな要因に影響されると思います。たとえば、家族と医療者がどのように協力して子どもの成長を見守ってきたか、どのような雰囲気のもと疾患が語られてきたか、家庭内で疾患名、検査、治療について子どもに向けて説明されてきたか、などです。こうした要素が積み重なることで、成長した子どもが家族の決定に納得し、自分自身の選択肢として受け入れやすくなるかもしれません。
 また、子どもが成長したときに、その家族が胸を張って経緯を説明できる親子関係があることも大切です。医療者は、こうした親子の絆を支える役割を果たせるかもしれません。たとえば、子どもが成長し、物心がついたときに、医療者が「お母さんもお父さんも、あのとき一生懸命に考えてくれたんですよ」と伝えることで、家族の気持ちを代弁することができます。こうした言葉は、子どもが自分の病気や健康について理解を深め、「自分にとっての幸せや健康とは何か」を考えるきっかけになることがあります。
 医療者としては、こうしたサポートが子どもや家族にとって大きな励みや支えとなり、成長や将来の選択を後押しできることを願っています。

ーー遺伝性疾患を持つ子どもの多様性を尊重しつつ適切な医療を提供するためには今後どのような取り組みが必要でしょうか?
 
 「みんな違っていて、それでいい」という考え方は、遺伝医療で多様性を説明するとき、とても大切な考え方です。遺伝性疾患も、人の多様性の一部として認識しているからです。
 それに取り組む場面としては、成人医療への移行の期間を活用することが効果的と考えます。この移行支援では、子どもが自分の体や疾患について理解し、自分で健康を管理し社会で活躍するための支援をしています。当院では、中学生ごろから、その子自身に「自分の体質や病気はどのようなものか」を少しずつ説明します。そして、高校卒業までの間に、さまざまな専門職が関わりながら、外来診療を通じて理解を深めるサポートをしています。このような取り組みは、成人医療に移行した後も安心して治療を続け、健康を維持していくために欠かせないものだと考えています。
 また、遺伝性疾患を持つ子どもから、「自分の病気を広く知ってもらうために、自分で情報をSNSなどで発信したい」と、相談を受けることもあります。こうした想いは、遺伝性疾患や希少疾患への正しい理解が広がり社会啓発につながる可能性があります。小児遺伝医療では、こうしたデジタル世代の子どもたちを多面的に支えていく役割も、今後求められていくかもしれません。遺伝性疾患を持つ子どもたちが「自分らしさ」とともに、安心して生活できる環境がさらに広がっていくことを願っています。

ーー今後10年間で、小児遺伝医療はどのように発展していくと予想されますか?

 これからの10年間で、小児遺伝医療は多岐にわたり大きく発展していくと思われます。日本では、遺伝子やゲノム情報を医療に役立てるための技術や体制の整備が進むものと予想します。
 たとえば、ゲノム解析技術が進むことで、DNAの情報(設計図の文字)をより速く、安く調べられるようになるでしょう。また、日本人特有の遺伝情報を集めたデータをAI(人工知能)が活用することで、病気の原因をより早く特定できるようになるかもしれません。さらに、DNAの変化が体にどう影響するのかを調べる技術が進めば、これまで原因がわからなかった病気の解明や新しい治療法の開発が進むことが期待されています。
 生活習慣病など、複数の遺伝子や生活環境が関係する多因子遺伝病では、子どもの頃からリスクを予測して、予防に役立てることも可能になるかもしれません。もし突然お子さんが亡くなるような事態が起きたときも、遺伝情報を調べることでその原因がわかり、残された家族の健康管理や次のお子さんのリスク予測に役立つ可能性があります。さらに、遺伝子治療が進むと、これまで治療が難しかった病気でも効果的に治療できることが予想されます。
 そして、このようなゲノム医療の進歩を生かした小児遺伝医療を発展させるには、遺伝性疾患に詳しい専門家の育成も欠かせません。遺伝情報を扱う医療では、高い知識や技術だけでなく、倫理的・社会的な課題への対応も求められます。さらに、遠隔診療などでデジタル技術を活用すれば、地域を越えた専門家による医療支援が進み、医療全体の質の向上にもつながるはずです。現在、日本には臨床遺伝専門医が約2,000名、認定遺伝カウンセラーが400名以上います(2025年1月時点)。また、2022年からは難病のゲノム医療に特化した専門職を育成するプログラムも始まり、専門家の数や質がさらに充実することが期待されています。
 最後に、病気を診断・治療するだけでなく、患者さんや家族が健康で豊かな生活を送れるように支えることも遺伝医療の目標の一つです。そのため、病院だけでなく、行政、患者会、家族会、さらにはメディアとも協力し、患者さんや家族が暮らしやすい環境を整えていく必要があります。そして、技術が進歩し社会が変わっても、「心」を大切にした医療の必要性は変わりません。特に小児遺伝医療では、患者さん本人だけでなく家族全体を支える視点が求められます。遺伝医療が患者さんと家族、そして社会全体の幸福や健康(ウェルビーイング)につながるように、遺伝情報を正しく活用し、さまざまな診療科や職種と連携しながら、より良い未来を築くことに貢献できればと思います。

ーー最後に先生から遺伝性疾患プラスの読者に一言お願いします

 小児遺伝診療部門では、子どもと家族の「その人らしさを大切にする医療」を提供しています。遺伝に関する話を、病院で相談するのを少し不安に感じられることもあるかもしれません。患者さんと家族の抱える心配や不安に寄り添い、「その人らしい」生活をサポートしていくことが役割と考えています。ちょっとした疑問や心配事でも構いませんので、「こんなこと聞いてもいいのかな?」と思ったら、是非ご相談ください。一緒に考えていきましょう。・・・
 

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昼食後に眠くなる人は「血糖値スパイク」を起こしている

2025年03月26日 09時32分56秒 | 糖質制限
私自身、お昼ご飯を食べた後に眠くなるタイプです。
昔はずっと「夜の寝不足の影響」と考えてきました。

しかし今を去ること四半世紀前、
某製薬会社の漢方セミナーで、
「昼食後に眠くなる人は“気虚”です、
 補中益気湯が効きます」
と聞いて、
「そんなものかな?」
と実際に自分で試してみました。

すると明らかに眠気が軽減したのです。
このエピソードは、私が漢方沼にはまるきっかけになりました。

その後、糖質制限・炭水化物制限のブームが到来、
食後の眠気は「食後の血糖値スパイクのためである」、
と説明されるようになりました。

この考え方によると、
炭水化物中心の食生活からタンパク質・脂質中心の食生活に切り替えると、
食後の眠気が減ることが期待されます。

かく言う私、すでに5年以上「炭水化物制限」をしています。
ただ、厳格ではなく、かなり緩い制限です。
具体的には主食の穀類(ご飯、パン、パスタ、麺類)を食べないだけ。
天ぷらの衣や、とんかつの衣は食べます。
ストイックな人は、揚げ物の衣も外すらしいのですが、
そこまで食べることの楽しみを我慢する気はありません。

でもそのおかげか、
ロカボ(炭水化物制限)を始めてから今日にまで、
体重は標準体重付近で安定しています。

肝心の「食後の血糖値スパイクがないから眠気がない」点に関しては、
補中益気湯での経験ほど明らかには感じていません。

ただ、満腹感とか胃もたれが皆無なので、
食後もすぐに動けます。
「お腹いっぱいで動けない〜」
という表現は炭水化物によるものだったのです。

正体不明の食べ物を食べたとき、
食後の胃もたれ感で私は炭水化物の含有量がなんとなくわかるようになりました。

さて、「午後の耐えられない眠気」という名前の記事が目に留まりました。
私の知識以上の情報があるかどうか、読んでみました。


▢ 仕事がデキない人に共通する「午後の耐えられない眠気」、原因は“残念な食習慣”にあった!
山田 悟:北里大学北里研究所病院院長補佐・糖尿病センター長
柳本 操:フリーライタービジネス課題間違いだらけの「休み方」
2025.3.25:DIAMOND online)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 疲労のせい、寝不足のせい、と思いがちな昼食後の猛烈な眠気やだるさは、血糖値の乱高下による「糖質疲労」が原因かもしれない。

▶ ランチの後にいつも眠くなる…大事な仕事は入れたくない
「午後イチには、大事な会議や打ち合わせを極力入れないようにしています」
・・・Cさんのここ数年の悩みが「昼食後の眠気と倦怠感」・・・
「いつも昼食後には眠くなってしまうんです。頭がぼうっとするだけではなく、体もだるくなることがあります。早めに回復すれば良いのですが、夕方過ぎまでダルさが残ることもあって、困っています」
 週に3、4日は夜に会食が入っているので、朝と昼は手軽な食事で済ますことが多いというCさん。朝はギリギリまで寝ているので、出勤途中におにぎりや菓子パンなどを買ってデスクで食べることが多い。
「昼食はゆっくり食べている時間がないので、うどんやパスタ、丼ものなど単品が多いですね。食べると眠くなるので抜いたりもしてみましたが、やはり夕方にお腹が空いてしまって仕事どころじゃなくなっちゃって(笑)」
 午後の眠気に対する解決法は未だ見出せず、「これはヤバい」というときは栄養ドリンクを飲んで無理やり目を覚ますのが、目下の対策だ。
 Cさんのように「毎日決まって」とまではいかなくても、昼食後に眠くなって、午後は仕事のパフォーマンスが低下するというビジネスパーソンは少なくないだろう。
 令和元年「国民健康・栄養調査」(厚生労働省)によると、週3回以上「日中、眠気を感じた」人は男性32.3%、女性の36.9%を占め、日中の眠気は「睡眠の質」についての悩みのうち最も多い。
 日中の眠気は、寝不足だけでなく、血糖値が乱高下する「血糖値スパイク」が原因の可能性もある。しかもこの血糖値スパイクは、通常の健康診断では発見できない。食後の血糖値乱高下による眠気や疲労感といった不調を「糖質疲労」として問題視するのが、北里大学北里研究所病院院長補佐・糖尿病センター長の山田悟氏だ。
 そもそも山田氏が「食後の眠気」に着目したのは、糖尿病治療で糖質摂取を緩やかに制限する食事法(ロカボ。詳しくは後述)を指導した患者から「食事を変えたら昼間の眠気やだるさがなくなった!」という声が多く寄せられたことがきっかけだったという。

▶「低血糖状態」の予兆として眠気やだるさ、イライラが起こる
 血糖値が上がりにくくなると眠気が消える――その理由はどこにあるのか。
 食事をすると、食事に含まれる糖によって血糖値が上昇する。健康な人であれば、すい臓から分泌されるインスリンの働きによって、食後1~2時間後の血糖値は140mg/dlを超えることなく下がる。しかし、糖質を取りすぎる、インスリンが適切に働かない、といった理由から食後に血糖値が急激に上がり、140mg/dlを超えると、その反動で急激に下がる人がいる。グラフにすると血糖値の乱高下が鋭く尖った形になることからこの現象を「血糖値スパイク」と呼ぶ(下図)。

【食後2時間の血糖値はどう変化する?】


「低血糖は、冷や汗や手足の震え、意識障害などが起こる危険な状態です。低血糖状態にならないように、その予兆として起こるのが、眠気やだるさ、イライラ、飢餓感といった自覚症状です」
 低血糖状態の予兆として起こる、このような「糖質疲労」の症状は、ある意味では生き物としての正常な反応だ。
「『今は動くのをやめろ、眠れ』という脳からの命令によって眠気やだるさが起こります。さらに『今すぐ糖を摂取して血糖値を上げろ』という命令によって、何かを食べなきゃと空腹感が強まる。また、自律神経の交感神経系が優位になるために、イライラ感が生じると考えられます」
 眠くなったらプチ昼寝をすればすっきりするから大丈夫と思うかもしれないが、糖質疲労を放置するのは危険だ。
食事のたびに血糖値スパイクを起こしていると、血管に慢性的に負担がかかり、動脈硬化、糖尿病といった病気の発症リスクが高くなります

▶ 健康診断で血糖値は正常でも「問題あり」の可能性
 昼食後眠くなって小腹が空くので「手近にある甘いものを食べ、エナジードリンク(糖質が多く含まれる)で眠気を覚まそうとしている」という人は、さらなる血糖値スパイクを招く可能性があるので、要注意。なお、多くの人は昼食から1~2時間後に糖質疲労を感じるが、朝食後に血糖値スパイクが起こっている人も一定数いる。
出勤時に必ず電車で居眠りをする、という人は、朝食後の血糖値スパイクが原因かもしれません」
 健康診断のときに血糖値の項目で引っかかったことがないという人も、「一度は食後高血糖が起こっていないかどうかを確かめるべき」と山田氏は警告する。
「健康診断で調べているのは、空腹時血糖値(正常110mg/dl未満)で、文字通り空腹時に測っています。一方、食後高血糖は、食後の血糖値の上がり幅が大きく140mg/dlを超えることを言い、健康診断の数値からは判断ができません。近年の研究で、空腹時血糖値が異常になるのは糖尿病発症の1~2年前であるのに対し、食後高血糖は空腹時血糖値が異常となる10年ほど前から始まると考えられています」
 つまり、食後高血糖は10年先の糖尿病の発症を予測する重要なサインともいえる。中国で10万人を対象にした大規模研究では、成人の2人に1人が食後高血糖を起こしていた(JAMA. 2017 Jun 27; 317(24):2515-2523.)。山田氏は、日本人も同様の状態であると推測している。
 実は、食後高血糖を手軽にチェックできる方法がある。薬局やドラッグストアで「検体測定室(ゆびさきセルフ測定室)」の表示があるところを探そう。500円ほどの費用負担で、自分で指先から採取したわずかな血液を分析し、数分から10分程度で血糖値を確認可能だ。
「例えば、おにぎり2個と野菜ジュース1パックを取ると、合計の糖質量が100gほどとなり、典型的な日本人の1食程度の糖質量になります。これらをセットで食べて、食べ始めから1~2時間のタイミングで血糖値を測定してみましょう。食後の血糖値が140mg/dL以上であれば食後高血糖と推定されます。200mg/dLになるようであれば糖尿病の可能性があるのでなるべく早く医療機関を受診してください」

▶ 糖質過多の食事だけでなく日々のストレスも原因に
 食後高血糖を招きやすいのは、当然ながら「糖質の多すぎる食事」だ。丼ものや麺類を食べることが多い、間食で甘い食べ物や飲み物を取ることが多い、また、早食い傾向にある人も血糖値が上昇しやすい。今夜は残業だからしっかり食べよう、と、いつもの定食にミニ丼やうどんを追加するなどの“糖質ダブル食い”をした日は決まって午後の会議で猛烈な眠気に襲われる、という人はまさにこのタイプといえる。
 加えて、私たちが日々感じるストレスも血糖値を上昇させる要因になる。
ストレスフルな環境は、自律神経の交感神経を優位にします。これらは、カテコラミンやステロイドホルモンといった血糖値上昇に関わるホルモンの分泌を高め、日常的に血糖値が上がりやすい状態になります
  では、食事を改善すれば、昼間の眠気は減るのだろうか。山田氏は、メタボリックシンドロームまたは肥満のタクシー会社運転手とコンビニエンスストア従業員101人を対象に、食事から取る糖質量を抑える研究を実施した。1回の食事の糖質量を40g以内におさめ、おかずなどはおなかいっぱい食べて良いとする「ロカボ(Low carbohydrate)食」を続けてもらった結果、3カ月後に、平均体重が減少、肥満指数(BMI) が低下、糖尿病の指数であるHbA1cが減少、LDLコレステロールが低下。また、睡眠時無呼吸症候群(※)の指数(AHI)が大幅に改善する、という結果が得られたという(Diabetes Metab Syndr Obes. 2021 Jun 23;14:2863-2870.)。
「被験者のタクシー運転手さんにアンケートを取ったところ、運転中の眠気が減った方が3分の2を占めていました。少なくともその一部は食後高血糖が改善されたためと考えています」

▶ まずは朝食を見直すことから 糖質疲労を起こさない「食べ方」とは?
 血糖値スパイクを起こさず、昼間眠くならない「ロカボ」な食べ方とは具体的にどのようなものか。
〈ロカボ食の実践法〉
・1食あたりの糖質の目安量=20~40gに
 ごはんなら軽く半膳、食パンは8枚切り1枚が目安。
・おかず、特にタンパク質と脂質はしっかり取る。主食は最後に食べる「カーボラスト」で
 おかずに含まれるタンパク質と脂質、食物繊維は血糖値上昇にブレーキをかけ、満腹感を長続きさせるので、おなかいっぱい食べる。これらのおかずをなるべくゆっくり食べ、最後(目安は食事開始から20分後)に主食(糖質)を取る「カーボラスト」にすると、糖質が控えめの量でも十分に満足できる。毎食、満足する量を食べることが、ストレスをためずにロカボを続ける秘訣だ。
・糖質量がオーバーしなければおやつもOK!
 大福などの和菓子は内側も外側も糖質でできているので小サイズのものにしよう。一方、洋菓子は生クリームやバター、クリームチーズなどの脂質によって血糖値上昇が抑えられるメリットも。市販の低糖質おやつ(ロカボマークがついている)も利用しよう。
「朝食で血糖値を上げすぎて血糖値スパイクを起こすと、空腹感に抗えずに昼食で糖質がたくさん欲しくなり、さらなる血糖値スパイクを招きます。昼食も大事ですが、朝食で血糖値を上げないことも大事です」
 ちなみに山田氏の休日の朝食は、卵3つで作るチーズたっぷりオムレツ、ツナサラダ(オリーブオイルをたっぷり)、ブランパン(バターたっぷり)、無糖高脂肪ヨーグルト、ナッツ、コーヒーが定番。
 「タンパク質と脂質はたくさん取りましょう、とお話すると、高脂質な食事は健康を害するのでは……、と戸惑う方がいらっしゃいます。しかし、脂質を怖れないでください。肉や魚など脂質が豊富な食事を取ると、満腹感を高めつつ血糖値上昇を抑える消化管ホルモンの分泌が高まり、空腹を感じにくくなります。一方、脂質を怖れて摂取を控えると、満足感が減り、結果的にお腹が空きやすくなってしまいます
 昼食後の眠気やだるさに悩んでいるという人は、前述のように、ぜひ一度、食後の血糖値をチェックしてみよう。
「もし食後血糖値が正常であれば、睡眠不足や過労など生活面での見直しを。睡眠時無呼吸症候群などの別の病気が原因の可能性もあります。食後高血糖が判明したら、ふだん取る糖質を控えてみましょう。そのとき、くれぐれも『これからは糖質を我慢だ!』などと思わないこと。糖質を控える分、タンパク質と脂質が豊富な食事をしっかり取るよう心がけると、血糖値上昇にブレーキがかかり、午後もしゃきっと過ごせるはずです」
 糖質の取り方を見直すことで、体を「血糖値スパイク」という見えない負荷から解放できる。日々の食事も、仕事の質を高めるための重要な武器になる。


・・・まあ、私の知識の範囲でした。
 また、脂質についての疑問も解消しませんでした。

世間一般では「脂を食べると体脂肪になる」と思われていますが、
近年、「食べる脂と体の脂肪は別物」と説明されるようになり、
「体の脂肪は糖質・炭水化物の取り過ぎが原因」
という説が世界標準です。

しかし日本の糖尿病栄養指導では相変わらず、
「カロリー制限」「バランス食」
が継続されており、私の「?」はそのままです。

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“ペイハラ”にイエローカードを?

2025年03月21日 08時53分16秒 | 医療問題
近年、“カスハラ”(カスタマー・ハラスメント)という言葉をよく耳にするようになりました。
周囲から「カスハラで退職した」という話も聞いたことがあります。

さて、医療機関におけるカスハラは“ペイハラ”(ペイシャント・ハラスメント)とも呼ばれます。
診療の支障になるような迷惑な言動がこれに当たります。

医療関係者なら誰でも、経験があります。
当院でも以下のような事例がありました;

・受付で気に入らないことがあると大声ですごみ、スタッフが萎縮。
・診療時間が終了後に来院し「診てくれるまで帰らない」と居すわる。
・希望の検査をしなかったため、悪い口コミを書き込む。

各医療機関で対策に悩まされています。
傷害事件に発展した事例もありますから、
患者さんの気持ちにより添う方針だけでは不十分で、
自分とスタッフの身を守るという視点も必要です。
病院レベルでは警察OBを雇用したり・・・

そんな中、「ペイハラにイエローカードを!」という記事が目に留まりましたので紹介します。
記事を読むと、相談支援室とか顧問弁護士とか出てきますが、
零細企業の開業医レベルでは縁がないですねえ。


▢ カスハラが収まらないときの「イエローカード」
2025/03/14:日経ヘルスケア)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 医療・介護業界では、患者・利用者やその家族による迷惑行為、いわゆるカスタマーハラスメント(カスハラ)に悩むケースが少なくありません。医療機関ではペイシェントハラスメント(ペイハラ)と呼ばれることもあり、各施設での対策強化は急務です。カスハラ対策を講じる上で重要なのは、組織として対応できる体制を構築すること。病院であれば、院長直轄の部署で対応することで、組織としての判断や対応が行いやすくなります。
 日本赤十字社・長崎原爆病院(長崎市、315床)では、院長が状況をすぐに把握して対応できる体制にするため、院長直轄の「相談支援室」を設置。室長には、当時副院長で現在院長の谷口英樹氏が就きました。メンバーは、それまで兼任で患者・家族の窓口対応をしてきた事務職員を専従で再雇用したほか、警察OBを1人雇用しました。
 職員に対しては、トラブルに発展しそうな場合は早めに相談をするよう周知徹底。連絡を受けた担当者は直ちに当該患者の診療録を確認し、助言を行うほか、内容に応じて院長に状況を報告します。ペイハラ対応が必要になった場合は、主治医と担当看護師、師長が患者・家族の話を聞くようにして、主治医や担当看護師が対応困難と判断した場合は相談支援室が引き継ぐ形としています。
 注目されるのは、顧問弁護士の指導の下、「診療拒否に関する注意書」(図1)を用意し、ペイハラが収まらないときはイエローカードの位置付けで該当者に手渡している点です。「信頼関係の欠如」を根拠として、院長を含む幹部と顧問弁護士の合議で交付を決定するようにしています。相手に直接渡すのが難しい場合は内容証明付きで郵送。こうした毅然とした対応を取ることで多くは収まるとのことです。


図1 長崎原爆病院で患者に渡している「診療拒否に関する注意書」

 医師法19条1項では診療義務(応召義務)が課せられ、「正当な事由」がある場合を除き、診療拒否をしてはならないとされています。この点について、厚生労働省の通知「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」(2019年12月25日)では、「診療の基礎となる信頼関係が喪失している場合には、新たな診療を行わないことが正当化される」としており、その例として「診療内容そのものと関係ないクレーム等を繰り返し続ける等」が挙げられています。
 この通知では、緊急対応が必要なケースについては、診療を求められたのが診療時間内・勤務時間内の場合、「医療機関・医師・歯科医師の専門性・診察能力、当該状況下での医療提供の可能性・設備状況、他の医療機関等による医療提供の可能性(医療の代替可能性)を総合的に勘案しつつ、事実上診療が不可能といえる場合にのみ、診療しないことが正当化される」としています。状況に応じた判断が求められますが、前述のような書面の運用も含め、患者との信頼関係が喪失した場合の対応をあらかじめ検討しておきたいところです。


上記を読むと、医師の応酬義務とされる、
正当な事由がある場合を除き、診療拒否をしてはならない
が存在する一方で、
診療の基礎となる信頼関係が喪失している場合には、新たな診療を行わないことが正当化される
という法律があると知りました。
まあ、「信頼関係喪失」が「正当な事由」に相当する、ということですね。

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運動がダイエットに効果的でない理由

2025年03月16日 14時43分00秒 | 糖質制限
もう一つ、ダイエットの話題を。

体重を減らす方法は「食事」と「運動」と相場が決まっています。
食事は主に炭水化物・糖質を減らせば良い、ということはわかっています。

では「運動」はどのくらい有効なのでしょうか?
「運動」すれば、炭水化物・糖質を我慢しなくても良いのでしょうか?

その答えが書いてある記事が目に留まりました。
引用元の本は前項目と同じです。

なんとそこには、
「糖を摂取することによる悪影響は運動では解消できない」
と書いてありました。

ダ、ダメなんですか・・・。


▢ 走っても脂肪は燃えない?「運動すれば帳消し」の危険な誤解
サイラ・ハミード:内分泌学専門医、医学博士
2025.1.1:DIAMOND online)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・
▶ なぜ「運動でカロリーを消費させる」ではうまくいかないのか?
 まず知っておくべき重要なことがあります。それは、「運動でカロリーを消費させる」という考えから抜け出すことです。
 これは「カロリー・イン/カロリー・アウト」という考え方の一部で、「後でジムに行くから」と言ってビスケットに手を出すなど、我慢できずに甘い物を食べることの言い訳によく使われます。
 しかし、「運動すれば、甘い物を食べて増えたカロリーを帳消しにできる」というこの考えは正しくはありません
 このケースの場合なら、ビスケットは体重の増加以上に身体に悪影響を与えます。まず超加工食品は、腸内細菌にとって有害で、身体の他の部位にもダメージを生じさせます。ビスケットに含まれる砂糖も害をもたらします。
 糖の大部分は3つの燃料タンク(肝臓、筋肉、体脂肪)に振り分けられますが、一部は心臓や腎臓、脳など、身体の他の部分に沈着します。
 やがて、これらのデリケートな身体の部位は「糖でコーティング」されるようになります(このプロセスは「糖化」として知られています)。糖化は心疾患や腎機能低下などの問題を引き起こします。また現在では、脳への過剰な糖化と認知症との関連性が研究によって示唆されています。
 このことからも、「甘い物を食べてもジムに行けば帳消しにできる」という考えが正しくないことがわかります。
 こうした食べ物(糖)が与える身体へのダメージは、運動では元に戻せないのです。悪い食事がもたらす影響からは、逃れられません。

▶ 「体脂肪消費」までの遠い道のり
 また、「摂取した余分なカロリーは、運動すれば解消できる」という考えは、「ビスケットを食べて増えた分のエネルギーは、ジムに行けばすぐ使い切れる」といった思い込みを前提にしています。
 けれども実際には、3つの燃料タンクは順番に使われていきます。まず筋肉に蓄えられている燃料(300キロカロリー分)が、次に肝臓の燃料(1000キロカロリー分)が使われます。
 この2つの燃料を使い果たしたら、ようやく第3の燃料タンクである体脂肪(ビスケットを食べたことで得た余分な糖の大部分が蓄えられている場所)が使われ始めます。
 しかし、筋肉と肝臓に蓄えられた合計1300キロカロリーを消費するには、何時間も運動をしなければなりません。これは、ほとんどの人にとって現実的ではありません。
 つまり、40分間のガーデニングや30分間の水泳など、私たちが忙しい日常生活の中で行っている運動のほとんどは、体脂肪ではなく、筋肉と肝臓に蓄えられた燃料のみを使っているだけなのです。
 これを知れば、運動によって脂肪を燃やせるという考えが正確ではないことがわかるはずです。

<参考>
・『英国の専門医が教える 減量の方程式』
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脂を食べると脂肪になるから太る・・・ではない?

2025年03月16日 14時25分27秒 | 糖質制限
脂っこいものをたくさん食べると健康に悪い、
太るし中性脂肪やコレステロールも上がり、
生活習慣病・メタボリックシンドロームの原因になる、
・・・と一般に考えられています。

でもね、以前から私は疑問に思っていました。

それは自分自身が「糖質制限」「炭水化物制限(ロカボ)」に目覚めて、
啓蒙書を何冊か読んだとき、
「脂肪になるのは糖質がメイン」
「脂肪をたくさん食べても直接、カラダの脂肪にならない」
と書いてあったのです。

では脂肪を食べるとどうなるの?
という疑問が残りました。

先日、ダイエット本の紹介記事が目に留まりました。そこにはなんと、
「食べる“脂肪”とカラダの“脂肪”は別物」
と書いてあったのです。さらに、
「血液検査で測定されるコレステロールは、私たちが食べたものではありません。それは、私たちの体内(肝臓)で作られたもの」
とありました。

では、日本の栄養指導は間違っているのでしょうか?
管理栄養士さんから意見を聞きたいですね。


▢ オックスフォード大首席卒 減量専門医が明かす痩せない理由、「脂質と脂肪」のワナ
2025.03.08:Forbes JAPAN 編集部) より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・
 著者はオックスフォード大学医学部を首席卒業後、食欲や体重管理の研究でイギリスを代表する減量専門医のサイラ・ハミード氏。イギリスで深刻化する肥満人口増加を食い止めるべく、「フル・ダイエット」と呼ばれる減量プログラムを考案。参加者たちは平均16キロ減量、糖尿病の改善、血圧低下など、科学的にめざましい効果が実証された。

▶ 「脂質」を摂っても太るわけではない
 減量プログラム開始直後の段階では、参加者から「脂肪を摂ったら太りませんか?」とよく質問されます。私はその度に、答えが「ノー」であることを喜んで説明して、相手を安心させます。
 私たちを太らせるのは糖です肉や魚、オリーブオイル、乳製品、ナッツ類、種子に含まれる天然の脂質を摂っても、太るわけではないのです。
 この誤解の大きな原因になっているのが、食べ物に含まれる「脂肪」(脂質)と、私たちの身体の「脂肪」がどちらも「ファット」(fat)と呼ばれているという言葉の問題です。
 実際には、身体の脂肪(体脂肪)の正式な医学用語は「脂肪組織」(adipose tissue)と言います。
 「脂肪を摂ると太る」という考えから抜け出すため、これからは体脂肪を「脂肪組織」と考えてみてください。
 そうすれば、食べ物の中の「脂質」と身体の中の「脂肪」がまったくの別ものであり、言葉の偶然の一致が何十年にも及ぶ混乱をもたらしていることを理解しやすくなるはずです。

▶ 脂質を摂るとコレステロール値が上がる?
 他に患者からよく尋ねられるのが、「脂肪を食べたらコレステロール値が上がりませんか?」という質問です。脂質を多く摂ると動脈が詰まりやすくなり、心臓発作や脳卒中になるのではないか、と恐れているのです。
 しかし、血液検査で測定されるコレステロールは、私たちが食べたものではありません。それは、私たちの体内(肝臓)で作られたものなのです。
 コレステロールをどれだけ摂ったかは、コレステロール値にほぼ関係ありません。実際、米国政府の食生活指針では、以前はコレステロール摂取量を制限することが推奨されていましたが、現在では撤廃されています。
・・・
 患者たちは、天然の食材に豊富に含まれる健康的な脂質を摂るようになったことで、心臓に良い善玉コレステロールであるHDLコレステロールの値が増加し、中性脂肪(トリグリセリド)の値は低下していました。
 中性脂肪は血液中の脂肪粒子で、心臓発作や脳卒中のリスクが高いメタボリックシンドロームに関連しています。中性脂肪値が下がると、これらの疾患の発症リスクは減ります。
 彼らは台所から低脂肪食品を一掃し、祖父母の世代が食べていたのと同じ美味しい脂質を摂取しているにもかかわらず、コレステロール値は改善しているのです。


<参考>
・『英国の専門医が教える 減量の方程式』(サイラ・ハミード著)
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「女性へのAED」はセクハラ?

2025年03月13日 06時24分59秒 | 医療問題
「救命目的で女性にAEDを使用するとセクハラで訴えられる?」
と昨今、話題になっています。
「そのような事実はない」と当局は火消しに躍起になっています。

このような問題が話題になるたびに、
私の頭には学校健診問題が浮かんできます。

そう、あの検診の際の“着衣・脱衣問題”です。

以前、注目を集めるためにメディアが“半裸健診”という単語を使っていて、
驚かされました。

これらの問題の根底にあるのは、
「デリケートゾーンと医療」
だと思います。

医療はご存知の通り、病気を扱います。
そしてときに、命に関わります。

患者さんの命を守るため、
医師はデリケートゾーンの診察も必要に応じて許可されています。
そのため、医師には高レベルの倫理観が求められます。

「医療」を提供、あるいは「命に関わる緊急事態」に対応するためには、
免責が必要なのです。

学校健診を担当する医師の中には、
「生徒・保護者からのクレームが恐いので着衣診察にしている」
方もいます。
まあ、「女性にAEDを使用しない」と同じ考えですね。

しかし一方で、着衣診察のため病気を見逃したことで訴訟に発展した事例もあります。

これを弊害と考えるなら、
日本国民全員が社会認識を変える必要があります。
そうなるまで、学校健診では病気が見逃され続け、
救命が必要な女性にAEDが使われない事態が続くことでしょう。

もちろん、医師の中にも“変な人”はいます。
それは警察官や学校教師の中にも“変な人”がいるのと同じで、
それらのほんの一部の人たちのために、
その職種の人すべてが“変な人”扱いをされると社会安全が成り立ちません。

AEDの使用に関して、医師が意見表明をしている記事が目に留まりましたので紹介します。


▢ 「女性へのAED使用を躊躇する気持ちは理解するが、それを助長させる必要はない」
薬師寺泰匡:薬師寺慈恵病院院長
2025-03-11:日本医事新報社)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 テレビ朝日制作の配信番組「ABEMA Prime」において、1月20日放送回で「AEDで助けた女性から強制わいせつの疑いで被害届が出された」とするSNS投稿が取り上げられた。これまでAEDを使用して何らかの罪に問われたことはないが、ただ、捜査対象になるということだけでも心理的ハードルが高まってしまうことが懸念される。
 結局、被害届が出された事実は確認できないということで、ABEMAは2月25日、公式サイトを通じて「10年ほど前の事案につき、事実関係の詳細の確認が十分とはいえないまま放送していました。なお、当局への取材を含め事実関係について再取材を進めており、今後、番組で適切に対応する方針です」とする声明を発表するに至った。
 倒れている人を目撃し、声をかけ、人を呼び、救急要請をして蘇生を試みる。この行為は一般市民レベルではハードルが高いのが実際であろう。さらにAEDを装着して使用するというところまでいくと、相応の勇気が必要になる。対象が女性の場合には、性的嫌がらせととらえられたら……という心配がよぎり、介入のハードルはさらに高まる。シミュレーショントレーニングにおいても、人形が女性であった場合に衣服を脱がすのを躊躇されてしまうという研究もあるのが実情である。
 躊躇なく救命処置がなされる社会と、皆が躊躇する社会、どちらが安全かと言えば、当然前者である。心原性の心停止に市民がAEDで除細動をした場合、1カ月後の社会復帰率は45%程度まで高くなる。しかし市民救助がなければ、1カ月後の社会復帰率は3.4%とされる目の前の人に救いの手を差し伸べることは、自らも蘇生される可能性を高めることにつながっていくのである。どうにか蘇生処置を行えるよう心理的ハードルを下げる試みはあって然るべきだが、あえてハードルを上げるような情報、しかも誤情報を拡散するのは何のためにもならない。
 我々にはテレビ局ほどの影響力はないので、粛々と一次救命処置を一般市民に広げていくしかない。人をたくさん呼ぶと、女性がいる可能性が高まり、救助に加わってもらえば男性としてはありがたいことになるだろう。また、人がたくさん集まれば、野次馬の目に晒されることがないように協力者で囲んで、通称「人の壁」をつくることもできる。野次馬の目から遠ざけることもやろうと思えばできるのである。より安全な社会に向けて、ABEMAから前向きな情報が出ることを願う。

<参考文献>
▶ Kramer CE, et al:Resuscitation. 2015;86:82-7.


なお、女性にAEDを使う際、服を脱がせなくても可能です。
これらの知識をより強力に啓蒙する必要があります。
東京都が「女性に配慮したAEDの使用方法について」(東京都多摩府中保健所)を公表していますのでご一読を。



単純に「心臓を挟んだ位置にパッド」を張ればOKです。
ただし、「金属は外す」というルールがあります(やけどします)。
それから濡れていると電気がショートして無効になりますので、
屋根のある場所に移動して水分をふき取る必要があります。


・・・このブログを書く際に検索したら、以下の記事が目に留まりました。
実際に悲劇が起きてしまったていたのですね。
救命が必要な女性に躊躇なくAEDが使用されるようになるまでに、
何人の犠牲者が必要なのでしょう・・・。


▢ ゴールまで1km、倒れた女性 使われなかったAED…「抵抗なくなる社会に」考え続ける家族
2025/3/7:朝日新聞)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 ゴールまで残り1km、ひとりの女性ランナーが急に倒れました。心臓が止まっていて、すぐにAED(自動体外式除細動器)が運ばれてきましたが、使われることはありませんでした。命は助かりましたが意識障害が残り、女性は寝たきりの生活を送ります。家族は「抵抗なくAEDが使える社会にしていくにはどうしたらいいのか」と考え続けています。

▶ AEDが使われなかった理由は・・・“性別〟を理由に使われず
 「決して速くはありませんが、夫婦でマラソンを楽しむ生活をしていました」 京都府に住む柘植(つげ)知彦さん(57)は、そう振り返ります。 2013年12月、地元のマラソン大会で8.8kmのコースを走っていた妻の彩さん(50)は、ゴールまで残り1kmの地点で突発的な心停止に見舞われました。当時39歳の彩さんに持病はなく、突然のことだったといいます。 沿道にいた女性が異変に気づいてすぐに胸骨圧迫(心臓マッサージ)を始め、数分後にはAEDを載せた大会の救護車も到着しました。 AEDは車から降ろされたものの、使われなかったといいます。 のちに柘植さんが大会の主催者に確認したところ、「駆けつけた救護員が男性で、倒れていたのが女性だったから使われなかった」と説明を受けました。 AEDは素肌に直接パッドを貼るため、女性への使用がためらわれることもあります。 しかし、もっとも大切なのは命です。心臓が止まってしまった場合、AEDによる電気ショックが1分遅れるごとに救命率は約10%ずつ低下するといわれています。 下着をずらすなどしてパッドを素肌に貼ることができれば、服をすべて脱がさなくても使うことができます。 服を脱がせた場合でも、パッドを素肌に貼った後なら上からタオルや服をかけて隠しても問題ありません。 ほかにも、救助者が何人もいる場合は人垣を作って周囲の目から隠したり、救助の様子をスマートフォンで撮影しようとする人に声をかけてやめるように促したりもできます。

▶ 「どうしたら…」考え続ける家族
 彩さんが倒れてから約20分後、救急車が到着しました。救急隊によってAEDが使われ、彩さんは病院へ搬送されました。沿道にいた女性は、救急隊が来るまでの間、1人で胸を押し続けてくれたそうです。 当日は夫の知彦さんもマラソン大会に参加予定でしたが、熱が出たため彩さんだけが参加していました。知彦さんが知らせを受けて現場に着いたとき、彩さんはすでに運ばれたあとでした。 彩さんの心拍が戻ったのは、心停止から約50分後。脳の広い範囲に酸素が届かず、意識障害が残りました。 現在、まばたきで意思疎通ができるまで回復しましたが、体はほとんど動かせず、在宅で治療を続けています。 
 「どうしたら性別や年齢の区別なく、手を差し伸べられる社会を実現できるのか」 夫の知彦さんはそう考え続けています。 事故当時、4歳だった一人娘の奏恵(かなえ)さん(15)は、小学校高学年のときに初めて救命講習会に参加し、AEDの使い方を学びました。 夏休みの作文には、次のように記しました。 「決して簡単ではない内容だったが、私は母のことを考えながら一生懸命に取り組んだ」 「子どもも含め、多くの人が心肺蘇生やAEDについてもっと知るべきだと思う。そうすれば、倒れている人が男性でも、女性でも関係なく、救われる命が増えると思う」 「人が持っている優しい心に、こうした知識が加われば、お互いがお互いを助け合うことができると思う」

▶ 母の出来事と重ね…葛藤する娘
 中学生になった奏恵さんは、葛藤を抱えていました。心肺蘇生法の授業で、心停止で倒れた人を助ける動画が流れたとき、母・彩さんの体験が重なって机に伏せて泣いてしまったといいます。 中学校は地元から離れていたため、入学当時は奏恵さんの境遇を知る人はいませんでした。しかし、仲の良い友達には彩さんの事故や後遺症について伝えてきたそうです。 「みんなそれぞれ何かしらつらいことを抱えているし、自分がかわいそうだというのは発信したくないと思っています。お母さんのことは隠しているわけではないけど、聞かれたら『ついに来たな』と思いながら話しています」 「女性だから使ってもらえなかった」と伝えると、「私だったら使ってほしい」と言う女子や、「女性だからってなんで使ってもらえないのか」と話す男子もいたそうです。 奏恵さんは、小学生のときからずっと「倒れた人にはAEDを使ってほしい」と考え、自らも使いたいと思っていました。 しかし、中学3年生になった今、自分にできる具体的な行動を考えるなかで「いざ救命現場に遭遇したときに自分が使えるかどうか」、悩むようになったといいます。 「お母さんのこともあるし、前までは絶対に私がAEDを使わないとと思っていたけど……倒れている人に触れて心肺蘇生をする前に自分のなかの色んなものがこみ上げてきて、できなくなるんじゃないかなって……」 目の前で人が倒れたら、母の出来事が頭をよぎってしまって行動に移せないのではないか。そんな複雑な思いを抱えるようになったそうです。 一方で、実際に自分が胸骨圧迫をしたりAEDを使ったりできるかは分からなくても、ほかにできることはあるとも話します。 「AEDを持ってきたり、救急車や応援を呼んできたり、無責任だけど誰かに『使ってほしい』と伝えたりすることはできる。AEDを使う覚悟は普段から持っていたいけど、まずは自分にできる行動をすることが大事かなと思い始めました」

▶ 男性より低い女性への使用率
 総務省消防庁によると、心臓が原因で倒れた人のうち、通行人らに目撃された例は2023年に2万8354人でした。そのうち、AEDの電気ショックを受けたのは1407人で約5%にとどまっています。 熊本大学などが2005~2020年に心停止をし、市民に目撃された約35万人(平均年齢78歳、女性38.5%)を対象に調査(※)した結果、AEDの電気ショックを受けた割合は、男性が3.2%で、女性が1.5%でした。15~49歳の男女では、男性7.0%に対し、女性は3.8%。心肺蘇生を受けた割合も、男性56.8%に対して、女性は53.5%でした。 女性への使用について、インターネット上では「セクハラで訴えられる」という誤った投稿がありますが、意図的に危害を加えるといった悪意がない限り、罪や責任を問われる可能性はありません善意で人を助ける救命処置は刑法37条の「緊急避難」と民法698条の「緊急事務管理」にあたります。 日本AED財団は、「一刻を争う事態では相手が女性であってもためらわずにパッドを装着してほしい」と呼びかけています。妊娠中と考えられるケースでも、心停止が疑われたら命を救うために積極的に使用してほしいそうです。

▶ 「手を差し伸べられる社会」になるために
 依然としてAEDが使われていない現状について、マラソン大会で倒れた柘植彩さんの夫の知彦さんは、「そもそもAEDの仕組みがあまり知られていないのでは」と疑問を呈します。 AEDは、心臓がブルブル震える「心室細動」の状態になってしまった際、電気ショックによってリズムを元に戻すための機器です。パッドを貼るとAEDが自動で心電図を解析し、電気ショックが必要かどうかを判断してくれます。
  生物科学を専門とし、京都大学化学研究所の准教授である知彦さんは、講師として高校で生徒たちに授業をする際、彩さんやAEDについても話すそうです。そこで、AEDを人間が作り出した「魔法の道具」と表現するのだといいます。 「AEDは、何もしなかったらまず生き返ることはない人に対して、こちら側の世界に戻してあげられる科学が生んだ『魔法の道具』です。『肌に触れていいのか?』『失敗してしまったら?』とためらってしまうと、その分『魔法』が効く時間を縮めてしまうように感じます」 AEDが使われる社会になるために、柘植さんは教育に期待しているそうです。
 現在、心肺蘇生法については中学・高校の学習指導要領に盛り込まれていて、日本AED財団などは小学校の学習指導要領にも採り入れるよう求めています。 「例えば、小学校高学年から高校生まで9年間、児童・生徒に心肺蘇生講習や、命の大切さを教える授業を毎年続けたら、蘇生が必要なときに、性別に関わらず『AEDを使って!』『AEDを使おう!』と叫べる世代が現れます」 「AEDを使うことに抵抗なく、誰もが一緒に助けの手を差し伸べられる社会になってほしいと思います」


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