小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

ダイヤモンド・プリンセス騒動を振り返る

2024年08月16日 08時02分12秒 | 新型コロナ
新型コロナ・パンデミック初期の象徴的な“事件”として、
横浜港に入港したダイヤモンド・プリンセス号騒動が記憶されています。

まだ新型コロナの性質・正体が不明だった時点で、
日本政府と感染症専門家達が知恵を絞って対峙したエピソードは、
今後も起こるであろうパンデミック対策という視点からも、
反省・検証すべきものだと思います。

その渦中にいたひとり、高山義浩先生(沖縄県立中部病院感染症内科)の書かれた最近の記事を読み解いてみましょう。

当時話題になった、岩田健太郎Dr.の動向と背景が書かれていますね。
指揮系統が統一されていない混乱と、
現場の状況が十分にわからない分、
SNSでの炎上拡大が止まらず、
社会現象になった現代社会の病理が見え隠れします。

混乱の主因は、数千人単位の隔離が必要な“事件”が発生した場合の対策が、
法的にも現実的にもまったく準備されていなかったことであると感じました。

異なる感染対策を取った3つの豪華客船の比較もされています。
どれが“正解”だったのか…
やはり予定をキャンセルして乗客全員を下船させ隔離したグランド・プリンセス号でしょうか。

このエピソードを教訓に、また来るであろうパンデミックに備えることの必要性がヒシヒシと感じられました。

<ポイント>
・DP号には乗客2666人と乗員1045人、合計3711人が乗船しており、最終的に712人(感染率 19.2%)について陽性を確認し、14人(致死率 2.0%)が亡くなった。
・修正すべきシステム上の課題;
①新興感染症に感染した乗客の存在が判明してから、即座に感染対策が取られなかったこと。今回の経験を基に、国際的なルールが定められるべき。
②入港後に速やかな全員下船ができなかったこと。
・パンデミック早期におけるクルーズ船3隻のアウトブレイクから言えることは、感染拡大の規模を規定するのは、いかに早期探知できるかであり、イベント中止の決断を下せるか。
・船内で集団生活をしている乗員を守り、感染者を安全にケアするためには、速やかな全員下船が望ましいが、地域への2次感染を防ぐためにも隔離施設を整備することが望ましい。
・他の豪華客船のアウトブレイク事例;
グランド・プリンセス号
3月9日、米国カリフォルニア州のオークランドに入港したグランド・プリンセス号には、3533人が乗船していた。3月4日に感染者が乗船していることを知った船長は、その後の予定をキャンセルして、速やかに船内の感染対策を強化している。米国政府は、3月12日までに、ほぼ全ての乗客に当たる2042人を下船させて隔離した。その結果、感染者123人(感染率3.5%)と死亡 5人(致死率4.1%)に留まっている。ただし、乗客の多くが拒否したため、PCR検査が実施できたのは1103人に過ぎない。このため、感染者数は過少に評価されている可能性がある。
ルビー・プリンセス号
3795人が乗船していたルビー・プリンセス号でのアウトブレイクでは、反面教師とすべき教訓が残されている。航海中より100人を超える乗客が上気道症状を訴えていたが、船内で実施された対策は有症状者の自己隔離のみだった。3月19日にオーストラリアのシドニーへ入港したとき、港を管轄する州保健省は船内隔離を実施しないと決定した。そして、その日のうちに乗客らを下船させ、14日間の自己隔離を求めた。乗客らへのPCR検査は実施されなかった。その後、少なくとも感染者 907人(感染率23.9%)と死亡29人(致死率3.2%)が確認されている。

★ 3つの豪華客船の比較;
              (感染率) (死亡率)
ダイヤモンド・プリンセス号    19.2%   2.0%
グランド・プリンセス号      3.5%     4.1%
ルビー・プリンセス号     23.9%   3.2%


■ 2020年2月、ダイヤモンド・プリンセス号の入港
高山義浩(沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科副部長)
2024/06/28:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 ダイヤモンド・プリンセス号(DP号)が、神奈川県の横浜港へ出港したのは2020年1月20日のことだった。中国政府が「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は武漢で封じ込められる」と自信を見せており、その取り組みを世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長が賛美していたころのことだ。このクルーズ船は、鹿児島(1月22日)、香港(1月25日)、那覇(2月1日)を経由して、2月3日に横浜港沖へと到着した。
 しかし、1月25日に香港で下船した乗客が30日に発熱。さらに2月1日には新型コロナウイルスに感染していることが確認され、DP号内での感染の可能性も示された。深セン滞在歴のある香港在住の方が飛行機で来日し、片道のみのクルーズを楽しんで香港に戻ったようだ。香港で診断された乗客が下船したのは、発症する5日前のことだ。本当にそうなら、船内で感染を広げたとは考えにくい。この乗客は船内で感染しただけであって、他にインデックスケース(最初の感染者)がおり、もっと前から船内での流行が始まっていたのではないだろうか。ただ、4年たった今、もはや真相は闇の中だ。
 国際保健規則に基づいて、中国政府から日本政府にこの症例についての通報があり、2月3日、那覇検疫所は那覇港での入国検疫を失効すると船長に通告した。入国を取り消して、改めて横浜港で検疫をできるようにしたわけだ。同日20時40分、横浜港沖に停泊する同船に対して、横浜検疫所による臨船検疫が開始された。このときDP号には、乗客2666人と乗員1045人、合計3711人が乗船していた。・・・

▶ DP号から想定以上の陽性者が
 2月4日の夜、厚労省対策推進本部では、DP号の乗客のうち先行してPCR検査を実施した31人の結果を待っていた。いずれも有症状者やその濃厚接触者であり、数人の陽性者は覚悟していた。しかし、22時過ぎに国立感染症研究所から届いた報告は衝撃的なものだった。陽性者10人というのだ。 
 クロノロ(クロノロジー;経時活動記録)を記載するホワイトボードの前で、「そんなにいるのか? ヤバいんじゃないか」と幹部が声を上げた。たしかに、これはマズい……。検疫官による聞き取りは始まったばかりだが、既に症状のある者や濃厚接触者は100人を超えていると聞く。このままでは、数百人規模の集団感染が明らかになるかもしれない。
 取りあえず、DP号から下船する感染者の入院先調整を引き取った。10人の患者リストを見ると、日本人 3人、中国人 3人、米国人 2人、台湾人 1人、フィリピン人 1人という構成だった。多くが高齢者だ。COVID-19というだけでも混乱しかねない状況なのに、患者が日本語を話せないと伝えたときの病院側の困惑が目に浮かぶようだった。
・・・
 DP号の支援に関わった役人や専門家と、当時を振り返ることがある。「次に同じことがあれば、全員下船させるべきだ」との意見がほとんどだ。しかし、当時、4000人近い乗員乗客を受け入れられる施設が見付からなかった。分散して受け入れるにしても、周辺住民への説明などで困難を極めることは明らかで、船内隔離を続けざるを得なかった。 
・・・
 それから連日、乗員乗客の陽性報告が続いた。2月5日は10人だったが、2月6日は41人となり、もはや神奈川県のキャパシティーを超えてしまった。僕は、東京、埼玉、千葉、静岡と周辺都県の感染症病床を有する病院に電話をかけて、文字通り、頭を下げながら受け入れを依頼した。
・・・
 2月7日の陽性者は3人。2月8日は6人。このまま収まるかと、淡い希望的観測……。しかしそれは、2月9日、65人の陽性を確認して打ち砕かれた。この日のことは、思い出しただけでも寒気がする。これまで乗員乗客439人を検査して、実に135人が陽性だった(陽性率 30.8%)。検査能力が限られていたので、全員検査が終わるのはまだまだ先のことだ。いったいどこまで増えるのか? 医療班には、がくぜんとした空気が漂いはじめていた。
 既に感染者の搬送先は、長野や愛知にまで広がっていた。受け入れ自治体からは、「厚労省からの紹介患者で、当県の感染症病床が満床になってますが、大丈夫なんですか?」と、質問という体裁での苦情が寄せられるようになってきた。間もなく国内流行が始まろうとしているのに、DP号への対応だけで関東および近郊の感染症病床が埋まりつつあった。国内流行が始まる前から、明らかに厚労省本部は行き詰まりかけていた。

■ 2020年2月、ダイヤモンド・プリンセス号の限界
高山義浩(沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科副部長)
2024/07/22:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号(DP号)が横浜に入港して1週間が経過した。船内で隔離されている乗客の皆さんはもちろん、直接ケアする乗員や災害派遣医療チーム(DMAT)など船内で活動するチーム、厚生労働省対策推進本部から後方支援する僕たちにとっても、長い長い1週間だった。
 とにかく下船を進めなければならない。PCR検査で陰性を確認した高齢者については、希望があれば政府が用意した宿泊施設へと移動できるようになり、2月11日、まずは55人に下船していただいた。世論には「絶対に降ろすな」との声もあると聞くが、船内で新興感染症のハイリスク者たちを見守るのは限界だった。
 客室間の空気感染を防止するため、2月5日から空気循環を止めていたこともあり、窓の少ない船内の換気は悪かった。しかも、動線は狭く入り組んでいる。さらに、船は生活排水の放出や真水の精製のため、数日おきに外洋に出て半日航海しなければならない。その間は携帯電話すらつながらない状態となる。海上保安庁のヘリポート付き巡視船が並走して緊急対応に備えているらしいが、こんな綱渡りの対応で持ちこたえられるだろうか?
 悪いことは重なるもので、新たに深刻な問題が持ち上がった。高齢の乗客たちを狭い客室に1週間隔離したため、介助なしには歩けない乗客が増えてきたのだ。不安やストレスを訴える乗客も少なくない。認知症が進んでいるのか、下船の約束時間に迎えに行っても、荷造りが全くできていない乗客もいて、現場のスケジュールは混乱を極めた。
 とはいえ、この2月11日には良い動きもあった。日本環境感染学会の災害時感染制御支援チーム(DICT)が乗船したのだ。これまでも長崎大学大学院医歯薬学総合研究科臨床感染症学分野教授の泉川公一先生など専門家が乗船して指導していたが、とりわけDICTは災害対応のプロフェッショナルである。災害時感染制御検討委員会委員長(当時)の櫻井滋先生ら4人が乗船し、3日間にわたってリスクアセスメントを行い、独特の船内事情に合わせた感染対策のマニュアルを作成し、ポスターや動画を用いて現場での周知を行ってくださった。
 専門的見地に基づく感染対策がDP号に定着し、特に乗員たちが守られるようになった。彼らは、キッチン、ランドリー、ボイラー、ゴミ処理など、様々な持ち場で密集して働き、窓のない狭いデッキで集団生活を続けていた。指揮権がなく遠慮がちだった検疫官に代わって船舶会社に説明し、乗員たちを守る感染対策を受け入れてもらったことは大きかったと思う。
 その後の分析では、船内で2次感染はほとんど発生しておらず、横浜港に入港する前の感染によるものとされている1)。ただし、夫婦など同室者における2次感染は防げていなかっただろう。今となればだが、入港時に確認した濃厚接触者と有症者の273人については、先行して降ろすべきではなかったかと思う。
・・・
▶ 搬送中に容体が悪化していた初期のCOVID-19
 2月12日の早朝、神戸大学病院感染症内科教授の岩田健太郎先生からメッセージが届いた。岩田先生は、自他ともに認める感染症のプロである。「お手伝いしますよ」とのこと。既に11日からDICTが入っていたので、そちらに合流いただくことをお勧めした。この頃、多くの感染症の専門家らが、迫りくるパンデミックへの不安にかられていた。不確かな情報が飛び交い、それが不安に拍車をかけていたと思う。
 DP号から下船した患者を受け入れた病院の医師らも、診療への不安に直面していた。未知の感染症であり、治療法も暗中模索の状態だった。当時、厚労省対策推進本部に多かった問い合わせ、というかお叱りは、「軽症ということで受け入れを了承したのに、来院時のSpO2が80%台で、胸部X線は両側真っ白だ。船では一体どういうトリアージをしているのか!?」というものだった。特に、静岡県など遠方の医療機関から、「初期アセスメントと異なる」という訴えが多発していた。
 当初、僕も混乱して、船内スタッフに何度も確認の電話をかけてしまった。現場も混乱しているのだろうが、入院先に頭を下げて調整している側のことも考えてほしいものだ。しかし、確認を重ねるうちに、搬送中に容体が悪化していることが分かってきた。当時の武漢株は、陽性判明から数時間で急速に悪化し得る感染症だった。だから、横浜港から離れた場所にある医療機関ほど、到着時に重症化していることが起きていた。
 搬送先の病院での重症管理が増え、「感染症のエキスパートにつないでほしい」との相談を受けるようになった。そこで、2月13日、 国立国際医療研究センター 国際感染症センターの大曲貴夫先生や忽那賢志先生(現大阪大学大学院医学系研究科感染制御学教授)らに参加をお願いして、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者を受け入れた病院医師と感染症の専門家との意見交換のためのメーリングリストを立ち上げた。
 ロピナビル・リトナビル配合剤(商品名カレトラ)やトシリズマブアクテムラ)を使用しても良いか? ウイルス性肺炎へのステロイド使用は推奨されるか? 治験段階の薬品を公費負担で使用できるか? ICUにおける個人防護具(PPE)はどうすべきか? 退院基準はどう考えたらよいか? 当時、国内未承認だったレムデシビルベクルリー)の治験参加医療機関の募集もこのメーリングリストで行われた。同年5月下旬までに250通を超える質問や意見を交わす場として運用され、発生早期に多くの先生方の助けとなったのではないかと思う。
・・・
▶ 岩田先生が1時間余りでDP号を下船させられた背景
 DP号の話に戻る。2月15日までに930人にPCR検査をして285人が陽性であった。うち無症候者は73人であり、この感染症、重症度に大きなバラツキがあることも分かってきた。既に70歳以上の乗客全員の検査を終えていた。全ての乗員乗客の検査を目指しているが、乗員乗客の出身地は56もの国と地域にまたがっていることもあり、個別の説明に時間を要していた。とにかく、検査陰性を確認しながら順次下船させていくことだ。
 2月18日、神戸大学の岩田先生から重ねての問い合わせ。DICTへの合流は断られたようだ。本部の数人で相談して、現場を見ていただくこととした。DICTの船内活動は2月15日に終了しており、別の視点で見てもらえることには意義がある。個人で乗船することはできないが、岩田先生に確認すると「僕は神戸大学のDMATですよ」とのこと。
 同日、横浜検疫所と調整し、DMAT活動ということで乗船いただいた。ところが、残念なことに1時間余りで下船させられてしまった。現地からの連絡によると、船内の指揮系統から外れて、感染対策を指導して回ったとのこと。岩田先生は日本DMAT隊員養成研修を受講しておらず、DMAT側が船内活動を認めなかったらしい。
 岩田先生によると、DMATの担当者から「感染対策をやっていただけばいいでしょう」と言われたとのこと。ただ、船内の感染対策はDMATの担当ではないので、改めて感染対策の担当者につなぐ必要があった。やはり、岩田先生は感染症の専門家である。その立場で入れるように僕が詰めるべきだった。結果的に岩田先生をはじめとして、多くの方にご迷惑をおかけしてしまった。
 そして、その夜、岩田先生がDP号を「COVID-19製造機」であるとYouTube上で告発した。船内の感染対策がずさんであるとの趣旨であった。動画が公開されたのは夜更けだったが、僕はまだ、厚労省の本部で仕事をしていた。

[参考文献]
1)Mizumoto K, et al. Euro Surveill. 2020 Mar;25(10):2000180.

■ 2020年2月、ダイヤモンド・プリンセス号が残した教訓
高山義浩(沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科副部長)
2024/08/15:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 2020年2月18日の夜、ダイヤモンド・プリンセス号(DP号)を「COVID-19製造機」だと告発する神戸大学病院感染症内科教授の岩田健太郎先生のYouTube動画を見ながら、僕は自分のデスクでしばらく考え込んでいた。
 告発の仕方は「炎上狙い」のようで賛同できなかったが、僕自身が船内を直接見てないので、その指摘が妥当かどうか分からなかった。ただ動画を見る限り、 岩田先生が船内にいたのは2時間足らずで、ラウンジ周辺しか見てないらしい。船全体の対策について、ここまで断定的に言及することが可能なのだろうか?
 ともあれ、指摘されたことは確認すべきだ。厚生労働省対策推進本部で「船内を確認してきてもいいか?」と提案してみた。ダメと言われると思っていたが、驚いたことに翌日から船の対策指導に入れることになった。

▶ ダイヤモンド・プリンセス号に乗船して気づいたこと
 2月19日、午前8時30分、大黒ふ頭客船ターミナルからDP号に乗船した。巨大な船体だった。船の長さは300メートルもあり、高さも50メートルを超える。その白い船体には、地中海ブルーの優雅なフォントで"Diamond Princess"と書かれていた。風は冷たかったが、晴天だった。
 船の側面に設置された野営テントのレセプションで受け取った名札には、「臨時検疫官」と書かれていた。船内ミーティングに参加した後、検疫官の案内で船内の各フロアを視察し、医療室で船医らと意見交換し、彼らが有する医療情報を共有した。
 クルーズ船内では日本の法律が及ばず、乗客の生命を守る責任は船長に集中している。日本政府の役割は、その船長をサポートすることにある。検疫官ら政府職員とDMAT(災害派遣医療チーム)など外からの支援チームが、乗客の健康を見守り、検査を実施し、検疫法に基づく下船のオペレーションを運用している。
 日本環境感染学会の災害時感染制御支援チーム(DICT)が作成した感染対策ルールが、メインロビーの入り口など各所に掲示されていた。支援チームのメンバーは限られた船内環境において最善を尽くしているものの、個々人の感染対策の遂行能力は十分とは言えないこと が、ラウンジを見ただけで伝わってきた。岩田先生がツッコミを入れたくなる気持ちも理解できなくはない
 例えば、支援チームの中にフルPPE(個人防護具)を着用したままグリーンゾーンを走り回っている人もいた。もちろん、レッドゾーンから戻ってきた人ではないが、許容しているとレッドゾーンからPPEのまま戻ってくるようになりかねない。こういうところから、感染対策は崩れてくるものだ。この点は修正するようフィードバックしておいた。
 さらに、乗員の感染対策は、かなり怪しいと言わざるを得なかった。マスクをずらして鼻を出している乗員も少なくない。下層のデッキで集団生活をしており、職員食堂は混みあっていた。ただし、彼らなしでは船は維持できない。複雑な船の運用は理解しにくく、入国予定ではない乗員たちの行動に対して、検疫官も介入しづらいようだった。
 現場で活動するDMATには知り合いもいて、意見交換させていただいた。岩田先生の動画による動揺が広がっており、船内活動が続けられなくなることを懸念していた。職場からは「そんなに危険なら下船して帰ってこい」と指示され、既に下船を余儀なくされている人もいた。このままでは船を見捨てることになりかねず、乗客の命が危険にさらされてしまう。職場と現場の板挟みに苦しみ始めていた。

▶ 批判に熱中する人々と支えてくれた人々
 テレビでは、まるで見てきたかのような顔で、専門家が「船内では空気感染予防策が取られていない」とデマを流し始めていた。確かにDICTや国立感染症研究所は、「空気感染のリスクが高くない」と報告していたが、だからといってDP号で空気感染予防策を取っていないわけではない。DP号の構造と支援チームの能力に限界はあったが、可能な感染対策は取られていた。横浜港への停泊後、流行が収束したことからも明らかだった。
 厚労省の公表の仕方にも問題があった。検査によって新型コロナウイルス感染陽性が判明した数を順次公表していたが、報道で数字だけを知らされる人々に、船内で感染が拡大し続けているとの印象を与えてしまった。有症状者や接触者を優先しながら、1日に数百人ずつ検査を実施しているが、それでも全員検査が完了するのには2週間はかかる。公表日は感染日ではない。しかし、妄想は暴走していった……。説明不足は明らかだった。
 そうした中、岩田先生の動画が流出してしまったわけだ。そして、反撃がないと見ると、一斉に群がるようにたたき始める人々がいた。彼らは、後に自分が間違っていたことに気付いても、謝罪も修正もしない。「誤解させた人が悪いのであって、自分は悪くない」とのことだ。まあ、今回のパンデミックで繰り返された光景である。そういう世界に、僕たちは暮らしているのだ。
 この日は15時に下船して、霞が関の本部に戻って打ち合わせ。感染対策上必要と思われた幾つかのリソースを報告し、船内支援チームとの連携について確認した。既に野党が岩田先生にヒアリングを実施しており、国会では、DP号対応へと批判の矛先が向けられている。このまま政治問題化すると、その都度報告が求められるようになり、現場本位で臨機応変に対応するオペレーションが難しくなる。
 医療班の中には、重たい空気が立ちこめていた。自分が書くしかないだろうと思って、じっくり2時間ほどかけて岩田先生への回答を書いた。午後10時20分、Facebookに公開投稿。岩田先生の動画で「厚労省の人」と紹介された人間について、記事中で「これ、私です」と繰り返し念押しした。岩田先生の乗船に関わった医系技官らが、自らの身を案じているとは思わなかったが、心中するのは僕ひとりで十分だった。そして、最後にこう結んだ。

ーいま、私たちの国は新興感染症に直面しており、このまま封じ込められるか、あるいは全国的な流行に移行していくか、重要な局面にあります。残念ながら、日本人は、危機に直面したときほど、危機そのものを直視せず、誰かを批判することに熱中し、責任論に没頭してしまう傾向があると感じています。不安と疑念が交錯するときだからこそ、一致団結していかなければと思っています。ー

 その一致団結とは、船内のアウトブレイク対応に追われる現場だけの話ではない。既に多くの医療機関や検査機関、専門家の協力を得ながら鎮圧に向かってはいたが、それを見守る市民にも、デマに振り回されず、拡散させず、下船する人たちを差別しないという団結が求められていたと思う。
 3月1日、すべての乗員と乗客が下船したことを確認し、ジェナロ・アルマ船長が下船した。最終的に712人(感染率 19.2%)について陽性を確認し、14人(致死率 2.0%)がお亡くなりになっている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に限らず体調不良者が発生したため、769人もを救急搬送するオペレーションとなった。その半数以上が外国人だった。
 その搬送先は、宮城県から大阪府までの広範囲にわたり、160もの医療機関が受け入れて下さった。本当に多くの人々の支えの中で、この難局を乗り越えることができたと思う。

▶ クルーズ船アウトブレイクからの学び
 DP号のアウトブレイクに当たって、個々の乗員や支援者は最善を尽くしたが、修正すべきシステム上の課題は明らかだった。
 まず、新興感染症に感染した乗客の存在が判明してから、即座に感染対策が取られなかったこと。2月1日に香港当局からDP号の運航会社に感染者が乗船していたことが伝えられたが、2月3日まで乗客たちには伝えられず、船内ではショーやパーティーが通常通り行われていた。この間に、DP号では爆発的な感染が生じていたと推定されている(J Clin Med. 2020 Feb 29;9(3):657.)。今回の経験を基に、国際的なルールが定められるべきだと思う。
 次に、入港後に速やかな全員下船ができなかったこと。当初から厚労省本部でも全員下船のオペレーションが議論されたが、結局、すべての乗員と乗客を受け入れられる施設が見付からなかった。クルーズ船の大型化や災害級の検疫事態に法の運用が追い付いていなかったわけだ。今後のパンデミックや災害に備え、数千人規模が迅速に受け入れられる簡易宿泊コンテナと人員確保計画が日本には必要だと思う。
 ところで、この時期、世界では、DP号の他に2隻のクルーズ船で大規模なアウトブレイクが発生していた(Euro Surveill. 2022 Jan 6; 27(1): 2002113.)。
 3月9日、米国カリフォルニア州のオークランドに入港したグランド・プリンセス号には、3533人が乗船していた。3月4日に感染者が乗船していることを知った船長は、その後の予定をキャンセルして、速やかに船内の感染対策を強化している。おそらくDP号の経験が生かされたのだろう。
 そして、米国政府は、3月12日までに、ほぼ全ての乗客に当たる2042人を下船させて隔離した。その結果、感染者123人(感染率3.5%)と死亡 5人(致死率4.1%)に留まっている。ただし、乗客の多くが拒否したため、PCR検査が実施できたのは1103人に過ぎない。このため、感染者数は過少に評価されている可能性がある。
 一方、3795人が乗船していたルビー・プリンセス号でのアウトブレイクでは、反面教師とすべき教訓が残されている。航海中より100人を超える乗客が上気道症状を訴えていたが、船内で実施された対策は有症状者の自己隔離のみだった。3月19日にオーストラリアのシドニーへ入港したとき、港を管轄する州保健省は船内隔離を実施しないと決定した。そして、その日のうちに乗客らを下船させ、14日間の自己隔離を求めた。乗客らへのPCR検査は実施されなかった。その後、少なくとも感染者 907人(感染率23.9%)と死亡29人(致死率3.2%)が確認されている。
 パンデミック早期におけるクルーズ船3隻のアウトブレイクから言えることは、感染拡大の規模を規定するのは、いかに早期探知できるかであり、イベント中止の決断を下せるかだった。そして、船内で集団生活をしている乗員を守り、感染者を安全にケアするためには、速やかな全員下船が望ましいが、地域への2次感染を防ぐためにも隔離施設を整備することが望ましいということだ。
 さて、岩田先生との一件で、厚労省から「お前はクビだ」と言われると思ったが、残念ながらそうはならなかった。医療班では、国内における感染拡大への備えとしての医療体制構築に取り組むことになる。刻々とその時が近づいていることは誰もが理解していた。・・・

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新型コロナ・パンデミックを振り返る

2024年08月16日 07時36分56秒 | 新型コロナ
2019年末に始まった新型コロナ・パンデミック。
2023年5月に“感染症法第五類相当”に格下げされ、
季節性インフルエンザと同じような扱いとなりましたが…
今でも高齢者がかかると命に関わるし、
医療者にとっては、とても“ふつうの風邪”とは思えません。

今後、我々はこのウイルスとどう対峙していくべきでしょうか?
今までを振り返り、将来に備えることが必要です。

ご意見番の忽那先生の考えを聞いてみましょう。

<ポイント>
・欧米では、オミクロン株が出現した2021~22年に流行のピークを迎え、その後減少している。
・日本での流行の特徴は、第1波から第8波まで波を経るごとに感染者数と死亡者数が拡大し、とくにオミクロン株が拡大してからの感染者が増加していること。
・日本ではオミクロン株拡大までは感染者数を少なく抑えることができ、それまでに初回ワクチン接種を進めることができた。結果として、オミクロン株拡大後は、感染者数は増えたものの、他国と比較して死亡者数を少なくすることができた。
・日本は他国よりも感染対策の緩和が遅れたことで、新型コロナによる社会的な影響も及んでいる可能性がある。
 ✓ もともと右肩下がりだった婚姻数が、感染対策で他人との接触が制限されたことにより、2020年の婚姻数が急激に減少した。
 ✓ 新型コロナの影響で社会的に孤立する人の増加や経済的理由のために、想定されていた自殺者数よりも増加している。
・日本は医療の面では新型コロナによる直接的な被害者を抑制することができたが、このようなほかの面では課題が残っているのではないか。医療従事者としては、感染者と死亡者を減らすことが第一に重要だが、より広い視点から今回のパンデミックを振り返り、次に備えて検証していくべきだろう。
・コロナ禍では、医療逼迫や医療崩壊という言葉がたびたび繰り返されたが、現在でも医療従事者数の確保については欠落している。
・パンデミック時の医師の燃え尽き症候群に対して、医療機関で対策を行うことも重要。感染症専門医だけで次のパンデミックをカバーすることはできないので、医師全体の感染症に対する知識の底上げのための啓発や、感染対策のプラクティスを臨床現場で蓄積していくことが必要。

総じて、日本の新型コロナ対策は成功した、という論調です。
感染対策+ワクチン接種の両輪で、他国より死亡者数を抑制することができたのは事実だと思います。

その成功の影には、社会機能を麻痺させるほどの感染対策を続けたための影響が浮かび上がりました。
婚姻数減少〜出生率低下〜少子化速度進行、社会的孤立〜自殺者増加…
これらが判明した今、また来るであろうパンデミックに向けて対策を練っておく必要がありそうです。


■ 忽那氏が振り返る新型コロナ、今後の対策は?
ケアネット:2024/08/07)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・大阪大学医学部感染制御学の忽那 賢志氏は、これまでのコロナ禍を振り返り、パンデミック時に対応できる医師が不足しているという課題や、患者数増加に伴う医師や看護師のバーンアウトのリスク増加など、今後のパンデミックへの対策について、6月27~29日に開催の第98回日本感染症学会学術講演会 第72回日本化学療法学会総会合同学会にて発表した。

▶ 日本ではオミクロン株以前の感染を抑制
 忽那氏は、コロナ禍以前の新興感染症の対策について振り返った。コロナ禍以前から政府が想定していた新型インフルエンザ対策は、「不要不急の外出の自粛要請、施設の使用制限等の要請、各事業者における業務縮小等による接触機会の抑制等の感染対策、ワクチンや抗インフルエンザウイルス薬等を含めた医療対応を組み合わせて総合的に行う」というもので、コロナ禍でも基本的に同じ考え方の対策が講じられた。
 欧米では、オミクロン株が出現した2021~22年に流行のピークを迎え、その後減少している。オミクロン株拡大前もしくはワクチン接種開始前に多くの死者が出た。一方、日本での流行の特徴として、第1波から第8波まで波を経るごとに感染者数と死亡者数が拡大し、とくにオミクロン株が拡大してからの感染者が増加していることが挙げられる。忽那氏は「オミクロン株拡大までは感染者数を少なく抑えることができ、それまでに初回ワクチン接種を進めることができた。結果として、オミクロン株拡大後は、感染者数は増えたものの、他国と比較して死亡者数を少なくすることができた」と分析した。

▶ 新型コロナの社会的影響
 しかし、他国よりも感染対策の緩和が遅れたことで、新型コロナによる社会的な影響も及んでいる可能性があることについて、忽那氏はいくつかの研究を挙げながら解説した。東京大学の千葉 安佐子氏らの日本における婚姻数の推移に関する研究では、2010~22年において、もともと右肩下がりだった婚姻数が、感染対策で他人との接触が制限されたことにより、2020年の婚姻数が急激に減少したことが示されている。また、超過自殺の調査では、新型コロナの影響で社会的に孤立する人の増加や経済的理由のために、想定されていた自殺者数よりも増加していることが示された。忽那氏は、「日本は医療の面では新型コロナによる直接的な被害者を抑制することができたが、このようなほかの面では課題が残っているのではないか。医療従事者としては、感染者と死亡者を減らすことが第一に重要だが、より広い視点から今回のパンデミックを振り返り、次に備えて検証していくべきだろう」と述べた。

▶ パンデミック時、感染症を診療する医師をどう確保するか
 コロナ禍では、医療逼迫や医療崩壊という言葉がたびたび繰り返された。政府が2023年に発表した第8次医療計画において、次に新興感染症が起こった時の各都道府県の対応について、医療機関との間に病床確保の協定を結ぶことなどが記載されている。ただし、医療従事者数の確保については欠落していると忽那氏は指摘した。OECDの加盟国における人口1,000人当たりの医師数の割合のデータによると、日本は38ヵ国中33位(2.5人)であり医師の数が少ない。また、1994~2020年の医療施設従事医師数の推移データでは、医師全体の数は1.47倍に増えているものの、各診療科別では、内科医は0.99倍でほぼ横ばいであり、新興感染症を実際に診療する内科、呼吸器科、集中治療、救急科といった診療科の医師は増えていない。・・・

▶ 医療従事者のバーンアウト対策
 日本の医師と看護師の燃え尽きに関する調査では、患者数が増えると医師と看護師の燃え尽きも増加することが示されている。米国のMedscapeによる2023年の調査では、診療科別で多い順に、救急科、内科、小児科、産婦人科、感染症内科となっており、コロナを診療する科においてとくに燃え尽きる医師の割合が高かった。そのため、パンデミック時の医師の燃え尽き症候群に対して、医療機関で対策を行うことも重要だ。忽那氏は、所属の医療機関において、コロナの前線にいる医師に対して精神科医がメンタルケアを定期的に実施していたことが効果的であったことを、自身の経験として挙げた。また、業務負荷がかかり過ぎるとバーンアウトを起こしやすくなるため、診療科の枠を越えて、シフトの調整や業務分散をして個人の負担を減らすなど、スタッフを守る取り組みが大事だという。
 忽那氏は最後に、「感染症専門医だけで次のパンデミックをカバーすることはできないので、医師全体の感染症に対する知識の底上げのための啓発や、感染対策のプラクティスを臨床現場で蓄積していくことが必要だ。今後の新型コロナのシナリオとして、基本的には過去の感染者やワクチン接種者が増えているため、感染者や重症者は減っていくだろう。波は徐々に小さくなっていくことが予想される。一方、より重症度が高く、感染力の強い変異株が出現し、感染者が急激に増える場合も考えられる。課題を整理しつつ、次のパンデミックに備えていくことが重要だ」とまとめた。

▢ 参考
1)内閣感染症危機管理統括庁:新型コロナウイルス感染症 感染動向などについて(2024年8月2日)
2)千葉 安佐子ほか. コロナ禍における婚姻と出生. 東京大学BALANCING INFECTION PREVENTION AND ECONOMIC. 2022年12月2日.
3)Batista Qほか. コロナ禍における超過自殺. 東京大学BALANCING INFECTION PREVENTION AND ECONOMIC. 2022年9月7日
4)清水 麻生. 医療関連データの国際比較-OECD Health Statistics 2021およびOECDレポートより-. 日本医師会総合政策研究機構. 2022年3月24日
5)不破雷蔵. 増える糖尿病内科や精神科、減る外科や小児科…日本の医師数の変化をさぐる(2022年公開版)
6)Hagiya H, et al. PLoS One. 2022;17:e0267587.
7)Morioka S, et al. Front Psychiatry. 2022;13:781796.
8)Medscape: 'I Cry but No One Cares': Physician Burnout & Depression Report 2023


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あなたに合う食物線維は?

2024年08月13日 06時47分03秒 | 医療問題
「便秘対策には食物線維をたくさん摂りましょう」
と繰り返し言われてきました。近年は、
「不溶性食物線維だけでなく水溶性食物線維も大切です」
という論調になってきました。

そして最近ようやく、食物線維の種類について言及されるようになりました。
以下の記事を紹介します。

結論は、
「腸内細菌叢は人それぞれなので、その人に合った食物線維も人それぞれ」
(食物繊維の摂取によって短鎖脂肪酸の産生が増えるか否かは、その人の腸内細菌叢によって左右される)
という、収拾のつかないものでした。

■ 最適な食物繊維は人それぞれ
HealthDay News:2024/07/31:ケアネット)より一部抜粋(下線は私が引きました);
 これまで長い間、食物繊維の摂取量を増やすべきとするアドバイスがなされてきているが、食物繊維摂取による健康上のメリットは人それぞれ異なることが報告された。単に多く摂取しても、あまり恩恵を受けられない人もいるという。・・・
 食物繊維は消化・吸収されないため、かつては食品中の不要な成分と位置付けられていた。しかし、整腸作用があること、および腸内細菌による発酵・利用の過程で、健康の維持・増進につながる有用菌(善玉菌)や短鎖脂肪酸の増加につながることなどが明らかになり、現在では「第六の栄養素」と呼ばれることもある。また糖尿病との関連では、食物繊維が糖質の吸収速度を抑え、食後の急激な血糖上昇を抑制するように働くと考えられている。そのほかにも、満腹感の維持に役立つことや、血圧・血清脂質に対する有益な作用があることも知られている。
 本研究では、食物繊維の一種である難消化性でんぷん(resistant starch;RS)を摂取した場合に、腸内細菌叢の組成や糞便中の短鎖脂肪酸の量などに、どのような変化が現れるかを検討した。59人の被験者に対するクロスオーバーデザインで行われ、試行条件として、バナナなどに含まれている難消化性でんぷん(RS2と呼ばれるタイプ)と化学的に合成された難消化性でんぷん(RS4と呼ばれるタイプ)、および易消化性でんぷんという3条件を設定。5日間のウォッシュアウト期間を挟んで、それぞれ10日間摂取してもらった。
 解析の結果、難消化性でんぷんの摂取によって腸内細菌叢や短鎖脂肪酸などに大きな変化が生じた人もいれば、あまり変化がない人、または全く変化がない人もいた。それらの違いは、腸内細菌叢の組成や多様性と関連があることが示唆された。研究者らは、「結局のところ、ある人の健康状態を腸内細菌叢へのアプローチを介して改善しようとする場合、どのような種類の食物繊維の摂取を推奨すべきか個別にアドバイスしなければならない」と述べている。
 論文の上席著者であるPoole氏は、「過去何十年もの間、全ての人々に対して一律に食物繊維の摂取を推奨するというメッセージが送られてきた。しかし今日では、個人個人にどのような食物繊維の摂取を推奨すべきかを決定する上で役立つであろう、精密栄養学という新しい学問領域が発展してきている」と述べている。今回の研究でも、食物繊維の摂取によって短鎖脂肪酸の産生が増えるか否かは、その人の腸内細菌叢によって左右される可能性が浮かび上がった。また意外なことに、難消化性でんぷんではなく易消化性でんぷんの摂取によって、短鎖脂肪酸が最も増加していた。短鎖脂肪酸は、血糖値やコレステロールの改善に寄与することが明らかになりつつある。
 研究者らは、個人の腸内細菌叢の組成を把握することで、その人がどのようなタイプの食物繊維に反応するのかを事前に予測でき、その結果を栄養指導に生かせるようになるのではないかと考えている。「食物繊維や炭水化物にはさまざまなタイプがある。一人一人のデータに基づき最適なアドバイスを伝えられるようになればよい」とPoole氏は語っている。

<原著論文>
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思春期の発現〜学校健診に思う〜

2024年08月12日 15時17分00秒 | 予防接種
群馬県みなかみ町の小学校健診で、
「生徒のパンツの中を覗いた」
学校医が社会問題化しました。

一般市民の反応は“推して知るべし”ですが、
医師の中でも賛否両論があることに驚きました。

私は小児科医なので、
「思春期早発症」患者さんの診療経験があります。
つまり、予定より早く“陰毛発生”があるかどうかを確認することは、
診療範囲であり、私も疑わしい患者さんにはそうしています。

逆に、あの“事件”があってから、
「うちの娘(あるいは息子)に陰毛が生えているようなのですが・・・」
という相談が何件かありました。

さらに小学校の学校健診で思春期早発症をスクリーニングされず低身長に終わった患者さん、
「学校健診であの先生に担当してもらっていたら早期発見され、
 治療に結びついて最終身長がもう少し伸びたはず・・・」
という男子もいます。

確かに予告なしで全員に確認することは、
今のご時世では問題視されるかもしれません。

しかし生徒の人権を守るということは、
はずかしいからといって不十分な診察方法を選択することではなく、
しっかり診察してもらい病気のスクリーニングをすることではないのでしょうか?

そして医師の中でも、
「パンツの中を覗くなんて非常識だ!」
という方は、おそらく思春期早発症を診たことがない、
つまり小児科医以外が多いと思われます。

思春期の発現に関して、以下の論文を紹介します。
興味深い記述を列挙します;

・1900年代に性成熟の低年齢化が進んできたが、
その現象が進めば将来の低身長化につながる。
・・・と予想していること。実際にそうなってますから・・・。

・身長発育には成長ホルモンの他に女性ホルモンへの依存が男女ともに大きく、
女性ホルモンは身長発育に関してアクセルとブレーキの両方の作用を有する、
思春期の獲得身長が女性の方が小さいのは、
男性に比べて女性ホルモンの分泌量が多く、また速やかに増加するため。
・・・男女の身長差の秘密は、女性ホルモンの量と分泌パターンによることを、
初めて知りました。

・人は他の哺乳類に比べて思春期前の期間が圧倒的に長い。人が生殖能を獲得し,集団生活をおくれる身体的・ 精神的発達段階に達するための脳の発育にそれだけの期間を要する。女児の二次性徴の出現が13歳から 10 歳に 3 年早まった。昔は 13 年間で達成していた思春期前の精神発達を,今では10年間で達成しなければならなくなったということである。20%の 早熟化は個人差を拡大し,思春期における未熟性を助長した。
・・・妙に肯ける考察です。


Yamanashi Nursing Journal Vol.3 No.1(2004)より一部抜粋(下線は私が引きました);

I.思春期発現の内分泌学的機序
・思春期前は下垂体性性腺刺激ホルモン(LH,FSH)分 泌は抑制されており,LH-RH負荷にも低反応である。性 ホルモン濃度も測定感度以下と低値である。
・このような下垂体ー性 腺系に対する強い抑制はネガティブフィートバック機構 では説明がつかず,上位中枢からLH-RH非依存性の強い 抑制が働いているためと考えられる。この抑制機構に関 しては GABA 系ニューロンが重要な役割を果しており, GABA系ニューロンの抑制とグルタメイト系ニューロン の活性化が思春期発現に関与していることが明かとなっ てきた。
・思春期年齢に達すると上位中枢からの抑制が 解除されて,視床下部から脈動的に LH-RH が分泌され, 下垂体前葉からの FSH,LH 分泌増加が始まり,性腺の 発育,性ホルモンの増加が起こり,二次性徴が出現する。
・乳児期早期(1-3ヵ月)には, FSH,LHと性ホルモン の思春期に匹敵する分泌増加がおこる。2 歳以降思春期までは 下垂体ー性腺系は沈静化した状態(juvenile pause)が持続する。他の哺乳類に比べて人では思春期前が極端に長く, これは思春期発来以前に大脳皮質の発育,成熟を達成す ることが必要なためと推測している。
・二次性徴が発現する 2 年前から LH-RH の脈動的 分泌の振幅が増大し,その刺激で FSH,LH 分泌が増加 し,性腺が発育し,性ホルモン分泌が増加して思春期が 発現する。
・男性ホルモン(テストステロン)は,男児では思春期前 は 10 ng/dl 未満であるが, FSH,LH 分泌増加が始まっ た後,二次性徴が出現する前に測定可能となる。日中の テストステロン分泌は精巣容量 4 ml 以上になると(平均 11 歳)測定可能な濃度に増加し始め,性成熟度タンナー 分類(表 1)2 度から 3 度にかけて血中テストステロン濃度 は急激に上昇する。男性ホルモンは,筋肉増強,変声,発 毛など,思春期の男性化を促進する。
・女性ホルモン(エストラジオール)は,思春期前女児で は 0.6 pg/ml,男児では 0.08 pg/ml と,女児が有意に高 く,これが女児で思春期発来が約 2 年早い理由の 1 つと 考えられている。思春期に入ると男女児ともエストラジ オールは徐々に上昇するが,女児の方が全体的に高値を 示す。男児では身長のスパートが始まると低下してくる。 男女児とも思春期の身長スパートは,主としてエストラ ジオールが成長ホルモン分泌を促進するためと考えられ ており,また骨端線が閉鎖して身長発育が停止するのも エストラジオールの作用と考えられている。
・成長ホルモンはエストラジオールの刺激で分泌が増加 し,IGF-(I インスリン様成長因子)を増加させて,結果的
に思春期の身長スパートが始まる。・・・一方,成長ホルモン 単独欠損では思春期発来がおくれ,成長ホルモン投与を 行うと思春期発来が正常化することが知られている。・・・成長ホルモンは性腺の発育成熟を促進する 作用があることから,思春期の発来にも関与していると 考えられる。

II.思春期の身体変化
・思春期の身体的変化は生殖可 能となるための準備としておこってくる。その特徴的な現象は,性腺の成熟による性ホルモン分泌増加に伴う二次性徴の出現と身長の加速現象(スパート)である。二次性徴は必ず一定の順序に従って出現してくるため,出現時期と出現順序,成熟速度,完成への到達を診ていくことが,思春期の身体的変化を評価する基準となる。
1.性成熟
1-1)二次性徴
・二次性徴の評価には,Tannerの性成熟度分類が広く用いられている(表1)。陰毛,乳房,男性外性器の発育を5 段階に分けて評価するもので,Tanner 2度が思春期発来時期である。
・二次性徴のうち乳房腫大は女性ホルモン作用陰毛,陰茎,髭,変声は男性ホルモン作用である。
女児の二次性徴は乳房発育,陰毛,月経発来の順に出現するが,これらの成熟度の相互関係は個人差が大きい。 日本人では乳房発育 3 - 4 度で陰毛発育が見られるようになり,陰毛 2 - 3 度に達するころに月経発来を認めることが多い。
・乳房発育は左右同時ではなく,数カ月のずれをもって片側性に出現することもある。一見して乳房 腫大がわかり,乳房辺縁と胸部の境界が不明瞭な時期を Tanner 3度としている。乳頭径は1,2度の間は3-4 mm 位で拡大せず,3-5度にかけて4-9mmに拡大する。乳房の大きさは個人差が大きいが,乳頭輪の二次隆起が出現すればTanner 4度となる。
・陰毛は最初大陰唇の内側に 出現するため,足をそろえた仰臥位では見逃され易い。 陰毛 3 度では恥骨結合部に写真に取れる程度の陰毛がみ られ,4 度では陰毛の性状は成人型となり恥骨結合をま たいで縦長(菱型)となる。5 度では大腿内側中央部まで 拡大するが,日本人では4度に留まることも少なくない。
・膣径は白人では思春期前8cmから初経発来時11 cmに拡 大し,初経発来数か月前から透明又は白色の帯下の増加 が見られる。
・男児では睾丸容積の増加が最初の性成熟徴候である。 睾丸容積は Prader の考案した睾丸容積計 orchidometer を用いて測定する。通常,成人では睾丸は 15 - 25ml に 達し,右睾丸が左睾丸より大きく,上方に位置している。
・睾丸容積が 4 ml 以上になると血中男性ホルモン(テスト ステロン)濃度が測定可能となり(>10 ng/dl),次いで陰 嚢皮膚のしわが細かくなり赤みを帯び,陰茎長が増大し てくる。
・陰茎の増大から約 1 年で陰毛発生を認める。陰 毛が 4 度に達すると腋毛が生え始め,やや遅れて髭が生え始める。
・髭は上唇の両端から生え始めて全面にわたり, 頬上部,下唇の下,下顎へと拡大する。
・変声も思春期後半から明かとなる。
・思春期には男児にも乳房に変化が見 られる。乳頭輪径が思春期前(約 1 cm)の 2 倍となり,20 -30 %で乳頭輪下にしこりを触れ,女児のTanner 3度に相当する乳房腫大(gynecomastia女性化乳房)を認めることも稀ではない。思春期初期は相対的に男性ホルモンに比べて女性ホルモン分泌が増加するために起こる現象で,男性ホルモン分泌が増加してくると 1 - 2 年で消失してくる。
・病的な女性化乳房として,性分化異常症などの原発性精巣機能障害から女性化乳房を来す場合がある。クラ インフェルター症候群,男性ホルモン不応症,テストス テロン合成障害などである。
・二次性徴(思春期)が異常に早期に発現する場合を思春 期早発症(性早熟症)という。思春期早発症は,二次性徴 が早期に出現し,その結果身体的,精神的発達に障害を 生じるか,或いは社会生活上問題を生じる状態である。思春期早発症は様々な原因で発症するが,診断基準は二 次性徴の発現時期で決められている(表 2)。
・性成熟徴候 すなわち二次性徴の出現が明らかに遅れている場合,あ るいは出現しても 5 年以内に完成しない場合を性成熟不 全( disorder of sexual maturation, sexual infantilism ) という。
・二次性徴の出現時期は・・・現在日本では,
 男児は14歳,女児は12歳までに96%が思春期発来をみており,
 男児では 15歳,女児では13歳までに99.6%が思春期発来をみてい る。
 そこで,男児では 14 歳,女児では 12 歳になっても 二次性徴が出現しない場合には,思春期遅発と考えて性成熟不全を疑い検査を行う。一般に,二次性徴が出現し て 3 - 5 年で性成熟は完成するため,途中で停止したり, 5 年経過しても完成しない場合も性成熟不全と考える。
1-2)生殖能
・女児では月経発来(初経)と月経周期が重要な指標であ る。日本人の初経年齢は 12.4 歳で,大部分は 10 - 15 歳 の間にはいる。
・初経後1-2年は月経周期は不規則で,無排卵性の場合も多いが,5年を経過しても不規則,過少,過多月経を認める場合は無排卵性月経が疑われる。
・男児では睾丸を直接観察できるため,睾丸容積が生殖能の判定に重要である。・・・睾丸容積の増大と精子形成能は密接な関連がある。・・・睾丸からの男性ホルモン分泌が増加すると, 陰茎が発育し,同時に前立腺,精嚢も発育する。陰茎発育開始後1 年以上経過すると自然射精( 多くは睡眠中の夢精)が認められる。最初の精液は精子数も少なく,運動能 も低いとされている。日本人の自然射精発来(精通)年齢は明かでない。
1-3)成長加速現象(身長スパート)
思春期の身長スパートは男女児とも女性ホルモン(エス トロゲン)に依存している。女性ホルモンは成長ホルモン 分泌を増加させることにより身長発育を促進し,同時に骨成熟を促進することにより骨端線を閉鎖し,身長発育を停止させる。女児の方が身長発育が早く,思春期獲得身長が小さいことは,女性ホルモン分泌量の差による部分が大きいと考えられる。
・思春期身長スパート開始後最終身長に達するまでの 獲得身長は,思春期発来年齢が若いほど大きく,年長に なるほど小さくなる。身長スパー ト開始時の身長と最終身長は高い正相関を示す。
・平均的な小児では身長スパート開 始年齢を女児で 9.5 歳,男児で 11 歳とすると,その後の 獲得身長は女児 25 cm,男児 30 cm となる。
・女児では身長増加率と初経とは一定の関係があり,最大身長増加率を示した後の増加率が低下してきた時点で初経が発来する。森岡らによると,初経発来時の身長は151.3±5.5 cm,体重は 42.8 ± 5.9 kg である。
・思春期の骨成長は末梢から中心へ進み,手足の指が最 初にスパートを開始し,四肢,背骨の順になる。そのた め思春期中期では身長の割に手足が大きくなり,足長の体形となるが,背骨(座高)は20歳を過ぎても伸びるため 最終的には普通の体形になる。
1-4)その他の身体的変化
・思春期に性差が 160 明かなのは骨盤と肩である。両腸骨間幅の増加量は男女 で差がないが,身長から見ると女児で腸骨間幅が広くな る。一方,肩幅は男児が明かに大きくなる。
・皮下脂肪の年間増加量は Tanner によると,身長増加率が最大となる時点で最低となり,その後急速に増加する。女児ではどの時点でも皮下脂肪量は増加しているが,男児では身長増加率が最大となる前後 1 年間は皮下脂肪量は減少す
る。

2.思春期発現の男女差
2-1)身体成熟のテンポ
・身体成熟の指標として一般的に用いられている骨年令は,レン トゲン写真上の手骨,手根骨の形態から判定するが,同暦年令の手骨,手根骨は男児に比べ女児の方が成熟している。
・様々な成熟度の指標を用いて評価しても,女児の成熟のテンポは男児より約 20%速いと考えられる(成熟 の速度 男児 / 女児:1/1.2)。
・女児の成熟のテンポを速め ている主な因子は女性ホルモン(エストラジオール)である。思春期前の血清エストラジオール濃度は男女とも極めて低値であるが,女児の方が 8 倍高値である(女児:0.6 pg/ml,男児:0.08 pg/ml,成人女性基礎値:20 - 60 pg/ ml)。人は思春期前の期間が他の哺乳類と比べて特別長いため,低値ではあってもこの濃度差は成熟のテンポに大きく影響していると推測される。女児の成熟のテンポが速いため,思春期前の男女の身長発育は一致しているが, 結果的に女児は男児より約 2 年早く思春期を迎えることになる。そのため 9 歳 10 ヶ月から 12 歳 6 ヶ月までは女児の平均身長が男児を上回ることになる。
2-2)身体成熟の年次変化
日本人の初経発来年令は 1900 - 1930 年の間は 15 - 16 歳で推移しており(早い報告でも 14 歳以上),1930 - 1950 年の 20 年 間に初経年令は13歳まで早期化し,1960年に12.5歳とな り,その後はほぼ一定で現在は 12.4 歳である。
1900年代における日本人の早熟化は思春期前の身長発育の増加として現れており,今後さらに早熟化が進むことになれば最終身長は低下してくると予想される。
3-3)女性ホルモンと男性ホルモン
・思春期の体型の性差は性ホルモンの分泌量が男女で異 なるためである。
・身長発育に関しては男女とも女性ホルモンへの依存が大きいことが明らかになってきた。 女性ホルモンは成長ホルモンの分泌を促進し,インスリ ン様成長因子を増加させることによって身長発育を促進 させるが(身長スパート),同時に長管骨に直接作用してインスリン様成長因子(IGF-I)の合成を抑制し,成長軟骨 の骨化を促進することにより骨端線を閉鎖し,身長発育を停止させる。このように女性ホルモンは身長発育に関 してアクセルとブレーキの両方の作用を有している。思春期の獲得身長が女性の方が小さいのは,男性に比べて女性ホルモンの分泌量が多く,また速やかに増加するためである。

III.性成熟と身体像(ボディーイメージ)
・・・

IV.おわりに
人は他の哺乳類に比べて思春期前の期間が圧倒的に長い。人が生殖能を獲得し,集団生活をおくれる身体的・ 精神的発達段階に達するための脳の発育にそれだけの期間を要するということが,思春期前の期間の長さに現れ ていると考えられる。
・この思春期前の期間の長さ が個人差を拡大し,思春期に発生する様々な問題の一因 ともなっている。100 年前には 15 歳初経発来が今では 12 歳である。このことは女児の二次性徴の出現が13歳から 10 歳に 3 年早まったことを意味している。昔は 13 年間で達成していた思春期前の精神発達を,今では10年間で達成しなければならなくなったということである。20%の 早熟化は個人差を拡大し,思春期における未熟性を助長したと考えられる。

・・・この示唆に富む文章を書いた人物こそ、
みなかみ町の“パンツ覗き学校医”として話題になった大山健司医師です。
純粋に医学的理由で診察した行為だと私は信じています。

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プラスチックかが進む人体〜心臓・精巣・ペニス

2024年08月07日 12時31分47秒 | 予防接種
前項で人体に侵入しているナノプラスチックの記事を紹介しました。
引き続き局所のナノプラスチック存在に関して・・・
なんとペニスからも検出されたというショッキングな記事を紹介します。

対策としては「体にプラスチックを入れないこと」が基本、
さらに具体的には、
・プラスチック容器を使わない、生活環境から排除する
・プラスチック容器を電子レンジでチンしない
・プラスチック容器を食器洗浄機にかけない
を提案しています。

<ポイント>
・人間の心臓の中からマイクロプラスチックが見つかった。
・人間の精巣から驚くべきレベルのマイクロプラスチックが検出された。
・マイクロプラスチックは主要臓器の細胞や組織に浸潤する可能性がある。
・マイクロプラスチックがEDに関係しているのか、病理学的症状を引き起こすレベルはどの程度のものなのか、どのような種類のマイクロプラスチックが病理学的症状を引き起こすのか、現時点では不明。
・プラスチックは一般的に、人間の体の細胞や化学物質と反応はしないが、勃起や精子の生成に関与する機能を含め、体が正常に機能するためのプロセスに対して物理的に破壊的である可能性はある。
・われわれは、ペットボトルやプラスチック製の容器から水や食品を摂取することに留意し、今後の研究で病理学的症状を起こし得るレベルが特定されるまでは、そうしたものの使用を制限するよう努めるべきだ。
・人間の精巣中で検出されたマイクロプラスチックのレベルが、犬の精巣や人間の胎盤で検出されたレベルより3倍高かった。
・対策その1:可能な限りステンレスやガラスの容器を使い、プラスチックの使用量を減らす。
・対策その2:乳幼児用の粉ミルクや搾乳した母乳を含め、プラスチック製の容器に入った食品や飲料を電子レンジで温めるのはやめる。
・対策その3:熱により化学物質が溶出する可能性があるので、プラスチックを食器洗浄機に入れないようにする。

■ 人間のペニスから初めてマイクロプラスチックを検出
HealthDay News:2024/07/15)より一部抜粋(下線は私が引きました);  
 人間のペニスから7種類のマイクロプラスチックが初めて検出されたことを、米マイアミ大学ミラー医学部のRanjith Ramasamy氏らが、「IJIR: Your Sexual Medicine Journal」に6月19日発表した。この研究では、5点のペニスの組織サンプルのうちの4点でマイクロプラスチックが検出されたという。研究グループは本年5月に人間の精巣から驚くべきレベルのマイクロプラスチックが検出されたことを報告したばかりであった。研究グループは、マイクロプラスチックは主要臓器の細胞や組織に浸潤する可能性があると話している。
 Ramasamy氏はCNNの取材に対し、「今回の研究は、人間の心臓の中からマイクロプラスチックが見つかったことを明らかにした先行研究を土台にしている」と述べ、「ペニスは心臓と同様、非常に血管の多い臓器であるため、ペニスからマイクロプラスチックが見つかったことに驚きはなかった」と語っている。
 Ramasamy氏らは今回、勃起不全(ED)と診断され、2023年8月から9月の間に陰茎インプラント手術を受けるためにマイアミ大学の病院に入院していた6人の患者から採取したペニスの組織サンプルを用いて、赤外イメージングシステムによる分析を行った。組織サンプルは陰茎体部から採取され、うち5点のサンプルは洗浄済みのガラス器具に保存された。残る1点は、プラスチック容器に保存して対照サンプルとした。
 その結果、ガラス器具に保存した5点のサンプルのうちの4点と対照サンプルから7種類のマイクロプラスチックが見つかった。最も多く検出されたのはポリエチレンテレフタレートPET、47.8%)、次いで多かったのはポリプロピレンPP、34.7%)であった。また、マイクロプラスチックのサイズは20〜500µmであった。
 このような結果を踏まえた上でRamasamy氏は、「今後は、マイクロプラスチックがEDに関係しているのか、病理学的症状を引き起こすレベルはどの程度のものなのか、どのような種類のマイクロプラスチックが病理学的症状を引き起こすのかを明らかにする必要がある」と述べている。
 Ramasamy氏は、この研究が「人間の臓器内に異物が存在することについての認識を深め、このテーマをめぐる研究の促進につながる」ことを願っていると付け加えている。同氏はさらに、「われわれは、ペットボトルやプラスチック製の容器から水や食品を摂取することに留意し、今後の研究で病理学的症状を起こし得るレベルが特定されるまでは、そうしたものの使用を制限するよう努めるべきだ」と述べている。

 米ニューメキシコ大学薬学部教授のMatthew Campen氏はCNNの取材に対し、「プラスチックが体内の至る所に入り込んでいることを裏付ける興味深い研究だ」と話す。同氏は、「プラスチックは一般的に、人間の体の細胞や化学物質と反応はしないが、勃起や精子の生成に関与する機能を含め、体が正常に機能するためのプロセスに対して物理的に破壊的である可能性はある」と指摘する。
 Campen氏は、共著者として参加した人間の精巣に関する研究において、人間の精巣中で検出されたマイクロプラスチックのレベルが、犬の精巣や人間の胎盤で検出されたレベルより3倍高かったことに言及。「われわれは、体内のマイクロプラスチックがもたらし得る脅威にようやく気付き始めたところだ。マイクロプラスチックが不妊症や精巣がん、その他のがんに関与しているのかどうかを明確にするためにも、このテーマに関する研究の急増が必要だ」と述べている。
 一方、米国小児科学会(AAP)の食品添加物と子どもの健康に関する政策声明の筆頭著者である、米ニューヨーク大学ランゴンヘルスのLeonardo Trasande氏は、マイクロプラスチックがもたらす脅威が明らかになるまでの間にわれわれがやるべきこととして、「まず、可能な限りステンレスやガラスの容器を使い、プラスチックの使用量を減らすこと。また、乳幼児用の粉ミルクや搾乳した母乳を含め、プラスチック製の容器に入った食品や飲料を電子レンジで温めるのはやめること。さらに、熱により化学物質が溶出する可能性があるので、プラスチックを食器洗浄機に入れないようにすること」とCNNに対して語っている。

<原著論文>
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ナノプラスチックはすでにあなたの体に侵入している。

2024年08月06日 07時58分48秒 | 医療問題
プラスチック…もはや人類に欠かせないマテリアルです。
でも自然界で分解されないことから、
巡りめぐって人類に悪影響を及ぼすことが判明してきました。

こちらの記事を紹介します。

<ポイント>
・ペットボトル入り飲料水には、1リットル当たり平均で約24万個のナノプラスチック粒子(※)が含まれている。
・米国で人気のある3種類のペットボトル飲料水(ブランド名は非開示)を調べたところ、1リットル当たり11万~37万個のプラスチック粒子が検出された。検出された粒子の90%はナノプラスチックで、残りはマイクロプラスチックだった。
・ナノプラスチックは非常に小さいため、体内を移動し、血液や肺、心臓、脳などに入り込む可能性がある。
・ナノプラスチックは腸内で炎症反応を引き起こし、細胞や組織のバランスを崩す酸化ストレスの原因になる可能性がある。
・ナノプラスチックは代謝障害を引き起こす可能性がある。
・ポリスチレンナノプラスチックは、死亡率の増加や成長障害、生殖異常、胃腸機能障害の原因になる可能性がある。

※ ナノプラスチック:プラスチック廃棄物の処理によって生じる、長さ1マイクロメートル未満の微粒子で、マイクロプラスチックより小さい。

■ ペットボトルの水は危険? 米研究で多数のプラスチック粒子を検出
Arianna Johnson | Forbes Staff 
 ペットボトル入り飲料水には、1リットル当たり平均で約24万個のナノプラスチック粒子が含まれていることが明らかになった。米コロンビア大学の研究チームが8日、米科学アカデミー紀要(PNAS)に発表した。
 ナノプラスチックとは、プラスチック廃棄物の処理によって生じる、長さ1マイクロメートル未満の微粒子で、マイクロプラスチックより小さい
 研究チームが米国で人気のある3種類のペットボトル飲料水(ブランド名は非開示)を調べたところ、1リットル当たり11万~37万個のプラスチック粒子が検出された。検出された粒子の90%はナノプラスチックで、残りはマイクロプラスチックだった
 ボトル内からは、ペットボトルの素材であるポリエチレン(PE)やポリエチレンテレフタレート(PET)のほか、発泡スチロール容器の素材であるポリスチレン(PS)など、最も一般的な7種類のプラスチックが検出されたが、最も多かったのはナイロンの一種であるポリアミド(PA)だった。だが、この7種類のプラスチックは、飲料水の中で見つかったナノプラスチックの10%に過ぎない。今回の研究では、残り90%のナノプラスチックの種類を特定できなかったが、種類によっては、1リットル中に数千万個含まれている可能性もある。
 PETとPEはペットボトルの包装材に含まれているため、保管や輸送中に包装材から放出されると考えられているが、他の5種類のプラスチックは飲料水の製造前または製造中に混入するとされた。
・・・
 ペットボトル飲料水に含まれるプラスチックの量については、これまで複数の研究が行われてきたが、その推定値には1マイクロメートル以下のプラスチックは含まれていなかった。つまり、ナノプラスチックは研究の対象外だったということだ。例えば2018年の研究では、ペットボトル飲料水1リットル当たり平均325個のマイクロプラスチック粒子が検出されたが、ナノプラスチックは含まれなかった。
 環境保護団体アースデイによると、米国人は年間約500億本のペットボトル飲料水を購入している。学術誌「環境科学と技術」に昨年掲載された論文では、1日に2リットルのペットボトル入り飲料水を飲む人は、年間約4兆個のナノプラスチックを摂取することになるとされた。
 ナノプラスチックは非常に小さいため、体内を移動し、血液や肺、心臓、脳などに入り込む可能性がある。ナノプラスチックについてはまだ完全に解明されていないが、反応性が高く、大量に存在し、体内の多くの場所に浸透することができるため、マイクロプラスチックより危険性が高いとする専門家もいる。ナノプラスチックは腸内で炎症反応を引き起こし、細胞や組織のバランスを崩す酸化ストレスの原因になる可能性がある。2021年の研究では、ナノプラスチックは代謝障害を引き起こすとされた。ポリスチレンナノプラスチックは、死亡率の増加や成長障害、生殖異常、胃腸機能障害の原因になるとも考えられている。

<関連記事>
▢ 「BPAフリー」の哺乳瓶から大量のマイクロプラスチックが赤ちゃんに 不当表示で米2社提訴
Arianna Johnson | Forbes Staff
▢ 動脈中のマイクロプラスチック、心臓発作と脳卒中のリスクを高める可能性
Leslie Katz | Contributor

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「熱中症ガイドライン」が改訂されたらしい(2024年)。

2024年08月06日 06時53分10秒 | 医療問題
「熱中症分類」、昔は単語でした。
しばらく前に単語から数字(I度、II度、Ⅲ度)に変更されました。

しかしいくら解説を読んでも、私にはピンときませんでした。
各分類の線引きが曖昧なんです。

一時期、熱中症関連の書籍・資料を読みあさり、
納得できるものに出会ってまとめたのがこちらです。

チェックポイントは「吐気の強さ」と「意識状態」。
これが問題なければ様子観察可、
問題あれば医療機関受診(救急搬送を含めて)。

吐き気+だるさ(+意識正常) → 涼しいところで休んで少量頻回の水分補給
嘔吐頻回+グッタリ(+意識正常) → 医療機関受診し点滴を
意識レベル低下 → 無条件に救急搬送!

とシンプルなフローです。

さて、「熱中症ガイドライン」なるものが存在し、
それが今年(2024年)改定されたという情報が入ってきました。

記事を参考に紹介します。
読んでみると、I度とII度は意識障害の有無で区別し、集中力・判断力の低下がなければ現場で様子観察、怪しければ医療機関へ、とあります。
一見、わかりやすそうなのですが、臨床現場ではどうでしょう。

熱中症を心配する患者さんから訴えられることは、
・暑いところで活動していて熱が出てだるそう。
・汗をたくさんかいている、あるいはかいていないから心配。
が多いです。

ガイドライン2024の分類に「発熱」という単語を探すと・・・IV度のところにしかありません。
では熱があればすべてIV度というと、そんなことはないでしょう。
I度、II度の発熱はどうなっているんですか?と問いたい。

「発汗」という単語を探すと・・・多量の発汗がI度にあります。
ではII度〜IV度では発汗はどうなっているんですか?と問いたい。

<ポイント>
・改定されたガイドライン2024では熱中症の重症度分類や診療アルゴリズムを変更したほか、熱中症患者の身体を冷却する「Active Cooling」の定義などを見直した。
・改訂前の重症度分類では、I度(軽症)、II度(中等症)、III度(重症)の3段階としていたが、ガイドライン2024では、より重症な患者の分類として新たに「IV度(最重症)」を導入。
【I度】めまい、立ちくらみ、生あくび、大量の発汗、筋肉痛などの症状があるが、意識障害は認めない患者。
 → 現場で対応可能。
【II度】頭痛や嘔吐、倦怠感、虚脱感、集中力や判断力の低下が見られるJCS≦1の患者。
 → 医療機関での診察が必要、Passive Coolingを行い、不十分ならActive Coolingの実施のほか、経口的に水分・電解質の補給を行う(経口摂取が困難なときは点滴を利用)。
【Ⅲ度】中枢神経症状(JCS≧2、小脳症状、けいれん発作)、肝・腎機能障害、血液凝固異常のうちいずれかを含む状態。
 → 入院治療の上、Active Cooling(※)を含めた集学的治療を考慮。
【qIV度】表面体温40.0℃以上(もしくは皮膚に明らかな熱感あり)かつGCS≦8(もしくはJCS≧100)。
【IV度】qIV度に該当した患者にはActive Coolingを早期開始しつつ、深部体温の測定を早急に行い「深部体温40.0℃以上かつGCS≦8」に該当する例。
 → Active Coolingを含めた早急な集学的治療を実施。

※ Active Cooling:何らかの方法で、熱中症患者の身体を冷却すること。氷嚢、蒸散冷却、水冷式ブランケットなどを用いた冷却法、ゲルパッド法、ラップ法、(近年登場した)体温管理機器を用いる冷却方法。冷蔵庫に保管していた輸液製剤の投与(エビデンス不十分)、クーラーや日陰の涼しい部屋での休憩はActive Coolingではなく、「Passive Cooling」の範疇。

■ 日本救急医学会が「熱中症診療ガイドライン2024」を公表
加納 亜子=日経メディカル
2024/07/30:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 日本救急医学会の熱中症および低体温症に関する委員会は2024年7月25日に「熱中症診療ガイドライン2024」を公表した(日本救急医学会のウェブサイトはこちら)。改訂は約10年ぶりとなる。ガイドライン2024では熱中症の重症度分類や診療アルゴリズムを変更したほか、熱中症患者の身体を冷却する「Active Cooling」の定義などを見直した
 改訂前の重症度分類では、I度(軽症)、II度(中等症)、III度(重症)の3段階としていたが、ガイドライン2024では、より重症な患者の分類として新たに「IV度(最重症)」を導入した。
 広く用いられてきた改訂前の「熱中症診療ガイドライン2015」における重症度分類では、「(1)深部体温≧40℃、(2)中枢神経障害、(3)暑熱環境への曝露──の3つを満たすもの」を重症と定義した「Bouchama基準」に、腎障害や肝障害、播種性血管内凝固症候群(DIC)などの症状を判断基準に加えた上で、その状況に至るまでの諸症状・病態を一連のスペクトラムとして「熱中症」と総称し、必要な処置のレベルに応じてI度~III度に分類していた。だが、入院加療が必要な「III度」の定義が幅広く、軽度の意識障害(JCS 2程度)のみに該当する場合から昏睡やDICなどの多臓器不全を呈する致死的状態までを同じ範疇で定義している状態だった。
・・・ガイドライン2015の重症度分類における「III度」の重症者のうち、「表面体温40.0℃以上(もしくは皮膚に明らかな熱感あり)かつGCS≦8(もしくはJCS≧100)」をqIV度と定義。現場ではまず、qIV度に該当する患者を迅速にスクリーニングするよう求めた。その上で、qIV度に該当した患者にはActive Coolingを早期開始しつつ、深部体温の測定を早急に行い「深部体温40.0℃以上かつGCS≦8」に該当すれば「IV度」、深部体温が39.9℃以下であれば「III度」に振り分ける流れとした。
 そのほか、めまい、立ちくらみ、生あくび、大量の発汗、筋肉痛などの症状があるが、意識障害は認めない患者は「I度」と設定。頭痛や嘔吐、倦怠感、虚脱感、集中力や判断力の低下が見られるJCS≦1の患者は「II度」中枢神経症状(JCS≧2、小脳症状、けいれん発作)、肝・腎機能障害、血液凝固異常のうちいずれかを含む状態を「III度」とした。
 重症度分類の見直しに伴い、診療アルゴリズムも変更した(図1)。I度は「現場で対応可能」II度は「医療機関での診察が必要」としてPassive Coolingを行い、不十分ならActive Coolingの実施のほか、経口的に水分・電解質の補給を行うよう求めた(経口摂取が困難なときは点滴を利用)III度では「入院治療の上、Active Coolingを含めた集学的治療」を考慮し、IV度では「Active Coolingを含めた早急な集学的治療」を実施するよう求めている。

図1 熱中症診療ガイドライン2024の診療アルゴリズム(熱中症診療ガイドライン2024から引用)

 また、Active Coolingについては、改訂前の「熱中症診療ガイドライン2015」では氷嚢、蒸散冷却、水冷式ブランケットなどを用いた従来の冷却法、ゲルパッド法、ラップ法など細かく個別の冷却方法を記載していた。近年、体温管理機器を用いる冷却方法が開発されていることを受け、ガイドライン2024ではActive Coolingを「何らかの方法で、熱中症患者の身体を冷却すること」と定義。包括的な記載に統一した。
 ただし、冷蔵庫に保管していた輸液製剤の投与、クーラーや日陰の涼しい部屋での休憩はActive Coolingではなく、「Passive Cooling」の範疇だと記した。また、冷蔵庫に保管していた輸液製剤の投与は薬剤メーカーで推奨された投与方法ではなく、実際の液温が不明であり、重症熱中症患者への有効性を示すエビデンスがないことにも言及した。また、重症例(III~IV度)への治療法については、Active Coolingを含めた集学的治療を行うことを推奨(CQ3-01:弱い推奨、エビデンスの強さB〔中等度〕)している。
 なお、ガイドライン2024はMinds(Medical Information Distribution Service)診療ガイドライン作成マニュアル2020(Minds2020)に準拠した形で作成した。定義・重症度・診断、予防・リスク、冷却法、冷却法以外の治療(補液、DIC、治療薬)、小児関連の5分野から24個のクリニカル・クエスチョン(CQ)を設定。システマティックレビューの結果がそろった段階で、執筆担当者14人で推奨決定会議を行った。満場一致で合意した場合はCQからバックグラウンド・クエスチョン(BQ)やフューチャー・リサーチ・クエスチョン(FRQ)へ変更し、推奨決定会議の経過は解説文に記載した。


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シンデレラ体重(BMI≦18)は健康的ではない。

2024年08月06日 06時21分28秒 | 糖質制限
女子の間では「シンデレラ体重」という神話があり、
「BMI18は理想の体重」と囁かれているそうですが・・・
医学的には決して健康的とは言えず、
“やせすぎ”なんですね。

日本若年女子の栄養状態を扱った記事を紹介します。
結論から申し上げると、
日本人若年低体重女性は潜在的にビタミン欠乏症になりやすいことが判明した。
 将来の疾患リスクや低出生体重児のリスクを考えると、
 低体重者への食事・栄養指導が重要と考えられる。
とのこと。

<ポイント>
・BMI18未満を「シンデレラ体重」と呼び「美容的な理想体重」だとする主張がソーシャルメディアなどで見られる。
・日本人若年女性に低体重者が多い。20歳代の女性の約20%は低体重(BMI18.5未満)に該当することが示されており、この割合は米国の約2%に比べて極めて高い。
・女性の低体重は月経異常や不妊、将来の骨粗鬆症のリスクを高め、さらに生まれた子どもの認知機能や成人後の心血管代謝疾患リスクに影響が生じる可能性がある。
・極端な低体重者の摂取エネルギー量は1,631±431kcal/日であり、炭水化物と食物繊維が不足と判定された人の割合が高く、一方でコレステロールの摂取量は比較的高値だった。28.6%は朝食を抜いていて、食事の多様性スコア(DDS)は有意に低いこと。
・極端な低体重者(BMI17.5未満)は微量栄養素が不足している。96%で鉄の摂取量が10.5g/日未満やカルシウム摂取量650mg/日未満、ビタミンD欠乏症の割合が94.6%に上り、ビタミンB1やB12の欠乏も、それぞれ8.9%、25.0%存在している。40歳未満の13.6%に葉酸欠乏症が認められ、その状態のまま妊娠が成立した場合の胎児への影響が懸念された。

■ シンデレラ体重の若年日本人女性の栄養不良の実態が明らかに
HealthDay News:2023/09/18:ケアネット)より一部抜粋(下線は私が引きました);
  
 国内で増加している低体重若年女性の栄養状態を、詳細に検討した結果が報告された。栄養不良リスクの高さや、朝食欠食の多さ、食事の多様性スコア低下などの実態が明らかにされている。藤田医科大学医学部臨床栄養学講座の飯塚勝美氏らの研究によるもので、詳細は「Nutrients」に5月7日掲載された。
 日本人若年女性に低体重者が多いことが、近年しばしば指摘される。「国民健康・栄養調査」からは、20歳代の女性の約20%は低体重(BMI18.5未満)に該当することが示されており、この割合は米国の約2%に比べて極めて高いBMI18未満を「シンデレラ体重」と呼び「美容的な理想体重」だとする、この傾向に拍車をかけるような主張もソーシャルメディアなどで見られる。実際には、女性の低体重は月経異常や不妊、将来の骨粗鬆症のリスクを高め、さらに生まれた子どもの認知機能や成人後の心血管代謝疾患リスクに影響が生じる可能性も指摘されている。とはいえ、肥満が健康に及ぼす影響は多くの研究がなされているのに比べて、低体重による健康リスクに関するデータは不足している。
 飯塚氏らの研究は、2022年8~9月に同大学職員を対象に行われた職場健診受診者のうち、年齢が20~39歳の2,100人(女性69.4%)のデータを用いた横断研究として実施された。まず、低体重(BMI18.5未満)の割合を性別に見ると、男性の4.5%に比べて女性は16.8%と高く、さらに極端な低体重(BMI17.5未満)の割合は同順に1.4%、5.9%だった。
 次に、女性のみ(1,457人、平均年齢28.25±4.90歳)を低体重(BMI18.5未満)245人、普通体重(同18.5~25.0未満)1,096人、肥満(25.0以上)116人の3群に分類して比較すると、低体重群は他の2群より有意に若年で、握力が弱かった。栄養状態のマーカーである総コレステロールは同順に、177.8±25.2、184.1±29.2、194.7±31.2mg/dL、リンパ球は1,883±503、1,981±524、2,148±765/μLであり、いずれも低体重群は他の2群より有意に低値だった。一方、HbA1cは肥満群で高値だったものの、低体重群と普通体重群は有意差がなかった。
 続いて、極端な低体重のため二次健診を受診した女性56人を対象として、より詳細な分析を施行。この集団は平均年齢32.41±10.63歳、BMI17.02±0.69であり、総コレステロール180mg/dL未満が57.1%、リンパ球1,600/μL未満が42.9%、アルブミン4mg/dL未満が5.3%を占めていた。その一方で39%の人がHbA1c5.6%以上であり、糖代謝異常を有していた。なお、バセドウ病と新規診断された患者が4人含まれていた。
 20~39歳の44人と40歳以上の12人に二分すると、BMIや握力、コレステロールは有意差がなかったが、リンパ球数は1,908±486、1,382±419/μLの順で、後者が有意に低かった。また、アルブミン、コレステロール、リンパ球を基にCONUTという栄養不良のスクリーニング指標のスコアを計算すると、軽度の栄養不良に該当するスコア2~3の割合が、前者は25.0%、後者は58.3%で、後者で有意に多かった。
 極端な低体重者の摂取エネルギー量は1,631±431kcal/日であり、炭水化物と食物繊維が不足と判定された人の割合が高く(同順に82.1%、96.4%)、一方でコレステロールの摂取量は277.7±95.9mgと比較的高値だった。また、28.6%は朝食を抜いていて、食事の多様性スコア(DDS)は、朝食を食べている人の4.18±0.83に比べて朝食欠食者は2.44±1.87と有意に低いことが明らかになった
 極端な低体重者は微量栄養素が不足している実態も明らかになった。例えば鉄の摂取量が10.5g/日未満やカルシウム摂取量650mg/日未満の割合が、いずれも96.4%を占めていた。血液検査からはビタミンD欠乏症の割合が94.6%に上り、ビタミンB1やB12の欠乏も、それぞれ8.9%、25.0%存在していることが分かった。さらに、40歳未満の13.6%に葉酸欠乏症が認められ、その状態のまま妊娠が成立した場合の胎児への影響が懸念された
 これらの結果に基づき著者らは、「日本人若年低体重女性は潜在的にビタミン欠乏症になりやすいことが判明した。将来の疾患リスクや低出生体重児のリスクを考えると、低体重者への食事・栄養指導が重要と考えられる」と総括している。

<原著論文>
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アナフィラキシー対応は「注射」から「鼻スプレーへ」

2024年08月02日 08時16分39秒 | 食物アレルギー
私は小児科専門医&アレルギー専門医です。
医療医学の進歩に後れを取らないよう、
日々情報収集のアンテナを張っています。

そんな中で、画期的な記事を見つけました。
それは「アナフィラキシー」対応に、
現在の注射剤ではなく鼻スプレー剤が登場したという内容。

アレルギー症状の最重症型である「アナフィラキシー」の処置として、
現在は「エピペン」という注射剤が有名になっています。

これは医療関係者以外の一般市民でも使用可能で、
学校現場などでも教職員他が研修を受けて対応できるようにしています。

しかし実際には、ふだん扱ったことのない注射を具合の悪い子どもにするというハードルが高く、
タイミングよく使用されないことがしばしば報告されています。

そこに「鼻スプレー剤」の登場!

これは今までのハードルを一気に取り払うくらいのインパクトがあります。
実用化が待ち遠しいですね。


■ 「アナフィラキシー」に鼻にスプレーするタイプの薬で効果確認
2024年7月30日:NHK)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 重いアレルギー症状が出た場合、現在、緊急用の自己注射薬が使われていますが、鼻にスプレーするタイプの薬でも同等の効果が確認できたとする、治験の結果を開発を進めるグループがまとめたことが分かりました。この治験は、国立病院機構相模原病院と製薬会社のグループが行いました。
 食物などのアレルギーで「アナフィラキシー」と呼ばれる重い症状が起きた際には、現在、緊急用の自己注射薬が使われていますが、注射をためらうなどして投与が遅れるケースがあると指摘されています。
 グループでは、海外の製薬会社が開発を進める鼻にスプレーをするタイプの治療薬について、国内で最終段階の治験を行い、アナフィラキシーの症状が出た6歳から17歳までの子ども15人にこの薬を投与しました。
 その結果、15人のうち14人で5分以内に症状が和らぎ始め、最終的に全員の症状が治まったということで、いずれも重い副作用などはみられませんでした。
 これまでの研究で鼻からの投与で十分な量の薬が吸収されることが確認されているということで、グループでは、今回の治験で自己注射薬と同等の効果があることが確認できたとしています。
 国内で開発を進める製薬会社では、今年度中に国に承認申請を行うことを目指しているということです。
国立病院機構相模原病院臨床研究センターの海老澤元宏センター長は「注射薬は一般の人や教職員が使うときにどうしても抵抗感があるが、点鼻型の薬が実用化できる見通しがたったと考えている」と話していました。

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卵・牛乳アレルギー除去解除の安全な開始量・維持量は?

2024年07月28日 07時17分49秒 | 食物アレルギー
乳児期に発症した食物アレルギー(卵・牛乳)の治療方針は、
一旦は症状が出ないレベルで除去し、
1歳過ぎに除去解除を試みるのがふつうです。
ただし解除の時期は重症度によりアレンジされますので、
必ず主治医の指示を守ってください。

では除去解除の際、どれくらいの量を試すのが適切なのでしょう?
ガイドラインでは一応、グラム単位で量の設定がされていますが、
その数字に関してはいまだに議論の対象で、
学会に参加していると今後もエビデンスにより変わる雰囲気が感じられます。

当院では、食物アレルギーの軽症例(皮膚症状のみ)だけを診療しています。
なのでグラム単位の指導はしていません。
除去解除、あるいは再開する際は、ケースバイケースではありますが、

・少量摂取で無症状、大量摂取で症状出現
 → 無症状レベルの量から漸増していく

・微量摂取でも症状出現
 → “舐める程度”からはじめ、漸増していく

ルールとして以下のことを指示します;

・同量を複数回試して症状が出ないことを確認する
・増量する際は2倍以内とする

つまり「石橋を叩いて渡る」イメージですね。
これらを守っていただければ、安全に除去解除が進められます。
・・・少なくとも私の経験では。

そんなタイミングで、以下の記事が目に留まりましたので紹介します。

<ポイント>
・従来は域値(症状が出現する量)に近い量で開始していたが、症状が出現してしまうことが一定数いた。
・極微量開始法は、症状が出現するリスクが少ない。
・極微量開始・継続法でも、その後の耐性獲得(症状が出なくなること)が得られた。
・極微量開始・継続法は、安全に行うことができ、かつ耐性獲得もできる有効な方法である。

当院の方法との違いは、
微量摂取可能例はどんどん増量していかなくても、
症状が出現しない量を食べ続けることにより、
いずれ耐性獲得が期待できる、
という点でしょうか。

■ 経口免疫療法の至適開始量が判明〜卵・牛乳アレルギー
2023年12月06日:Medical Tribune)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 鶏卵と牛乳は即時型食物アレルギーの原因食物の上位2品目で、特に小児では割合が多く、普段の食事に悩む保護者は少なくない。長年、経口免疫療法が行われてきたが、安全な実施法は確立されていなかった。国立成育医療研究センターアレルギーセンターセンター長の大矢幸弘氏らは、鶏卵または牛乳の食物アレルギーを有する小児と青年に対し、食物経口負荷試験の閾値を基に開始量と増量を設定した5群で経口免疫療法を実施。その結果、従来法に比べ閾値の100分の1量から開始し10分の1量で維持する方法では、2回目の食物負荷経口試験の閾値上昇人数が有意に多く、アナフィラキシー症状は発生しなかったとClin Exp Allergy(2023年9月28日オンライン版)に報告した。

▶ 閾値の1万分の1~10分の1で開始
 食物経口免疫療法に関しこれまでさまざまな報告がなされているが、一般診療で実施できるものではなく、摂取時、摂取後の体調や摂取量によりアナフィラキシーが誘発されることもあり、適切な実施法の確立が課題となっていた。
 大矢氏らは、鶏卵または牛乳の食物アレルギーを有する4~17歳の小児・青年217例を対象に、経口免疫療法の至適開始量と維持量を検討した。同センターの外来で1回目の経口負荷試験を受けた後、閾値を基に原因食物の開始量と維持量を設定した5群(表)に分けて経口免疫療法を実施。電子カルテデータを分析し、安全性と有効性を比較した。

表. 開始量と維持量のパターンによる分類


▶ アレルギー診療専門家の救急対応を準備した上で実施を
 検討の結果、従来法のD群に比べ極微量開始維持法のB群では、2回目の食物経口負荷試験の閾値が上昇した患者の割合が有意に多く(56.8% vs. 88.2%、P<0.001、図-A)、食物特異的IgE値が上昇した割合は、完全除去のE群よりB群で有意に多かった(61.1% vs. 93.8%、P<0.05、図-C)。また、D群に比べ、微量開始維持法のA~C群は有害事象を経験した患者が有意に少なかった(D群70.5% vs. A群24.2%、B群13.7%、C群29.4%、図-B)。A~C群で確認された有害事象は、ほとんどが口や喉の痒みといった軽微な症状でアナフィラキシーは認めらなかった一方、D群ではアナフィラキシーを含むアレルギー症状が認められた。

図. 累積耐量増加と有害事象、食物特異的IgE減少を認めた患者割合

(表、図とも国立成育医療研究センタープレスリリースより)

 今回の結果から、大矢氏らは「従来法に比べ微量開始維持法の安全性と極微量開始維持法の有効性が示された」と結論。一方、経口免疫療法中に軽微だが症状が発症しているため「今回の治療法をそのまま実臨床で実施するのではなく、患者の症状や重症度、合併症を考慮し、症状出現時の緊急対応としてアレルギー診療を熟知した専門家と連携した上で慎重に実施してほしい」と付言している。


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