goo blog サービス終了のお知らせ 

小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

過敏性腸症候群(IBS)は“気のせい”ではない

2025年03月12日 06時28分19秒 | 医療問題
過敏性腸症候群(IBS)はストレスやプレッシャーで胃腸症状が出る病気です。
電車に乗っていると急におなかが痛くなりトイレを探す「途中下車症候群」なんて別名もあります。

お腹の症状を繰り返すので病院を受診、
諸検査に問題がないと、
「検査に異常はありません、気のせいですね」
と言われてIBSの診断が下るわけですが・・・

私は以前から「検査に異常はありません」というコメントに疑問を持ってきました。
“検査”のレベルは日進月歩ですので、
「“現在の検査レベル”では異常ありません」
という方が正しいのではないか、と。

例えば、昔の百日咳ワクチンは接種後の発熱頻度が高く、
熱性けいれんを起こすことが珍しくありませんでした。
あ、現在は改良されて激減していますよ。
中にはけいれんが長い時間止まらない“けいれん重積”状態となり、
後遺症を残すことがありました。

当然、ワクチンの後遺症が疑われ、そう診断され、
患者さんには副反応給付金が支払われてきました。

その後、遺伝子診断が発達し、
それらの患者さんの多くは「ドラベ症候群」の遺伝子異常を持っていることが判明しました。
前述の「熱性けいれん(熱性発作)ガイドライン2023」にも「従来ワクチン後脳症といわれていた患者のほとんどが本症候群であると考えられている」と明記されています。

つまり、ワクチンを接種しなくても、
いずれその子どもたちは風邪を引いて高熱を出したタイミングで発症する運命だったのです。
ワクチンの副反応で発熱したことは確かですが、半分は濡れ衣ということになります。


▢ IBSが「気のせい」ではないことを科学的に証明、VRと脳波測定で-医福大ほか
2025年03月06日:QLifePro)より一部抜粋(下線は私が引きました);

▶ IBS患者に対し、より簡便で負担の少ない検査法が求められている
 川崎学園は3月3日、仮想現実(virtual reality:VR)空間での精神的ストレス場面において 過敏性腸症候群(IBS)患者の脳活動が健常者や機能性ディスペプシア(FD)患者と異なることを明らかにしたと発表した。
・・・
 IBSは日本人の約10人に1人が罹患する一般的な疾患。ストレスなどによって引き起こされる腹痛や下痢などの症状により患者のQOL(生活の質)を低下させ、不登校や休職等の社会的損失にもつながっている。しかし、通常の医療検査では異常が見つからないため、「気のせい」「仮病」などと誤解を受けやすく、患者は二重の苦しみを抱えている。また、専門家や研究者も少なく、病気のメカニズムには不明な点が多く残されている。
 これまでの研究で、バルーンを用いた大腸伸展刺激時のIBS患者の脳活動が健常者と異なることなどが、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)などを用いて脳を評価することで確認されてきた。しかし、日常的なストレス状況における脳活動の測定や、より簡便で負担の少ない検査方法の開発が求められていた。

▶ VRを用いて精神的ストレスを再現、その状態でIBS患者の脳活動測定に成功
 研究グループは今回、VR技術を用いて精神的ストレス場面を作り出し、その際の脳活動を機能的近赤外分光法(fNIRS)で測定するという手法を開発した。fNIRSは、簡便に脳の活動を測定できる赤外線を使用した非侵襲的な検査手法。比較的自由な姿勢で測定可能で、fMRIと比べて大がかりな設備は不要な上、約100分の1のコストで導入可能で、より多くの医療機関での実施が期待されている。同研究では、参加者にVRゴーグルを装着してもらい、教室での登壇場面を体験してもらった。具体的には、
(1)「誰もいない場面」「聴衆がいるが注目はされていない場面」「聴衆全員から注目されている場面」という3段階の緊張場面を設定
(2)各場面を30秒間、2回ずつ体験してもらい、その際の脳血流の変化を測定
(3)同時に、心拍変動による自律神経反応の測定と主観的なストレス評価
ーを実施した。
 その結果、VR空間での精神的ストレス場面において、IBS患者の脳では健常者やFD患者には見られない特徴的な活動パターンが観察された。具体的には、左腹外側前頭前野での活動亢進と、左背外側前頭前野での活動低下がみられた。
 また、VR空間での緊張場面において、全参加者で高い主観的ストレス評価値と自律神経反応の変化が確認され、VRを用いて心身ともに十分な精神的ストレスを再現しつつ、その状態で脳活動を測定することに成功した。

▶ fNIRSを用いた検査法の登場で、多くの医療機関での診断実現・新規治療法開発に期待
 研究の最大の成果は、IBS患者の精神的ストレスによる苦痛を、脳活動という客観的なデータで示せた点である。これにより、IBSは「気のせい」ではなく、実際に脳の反応が健常者と異なる病気であることが科学的に証明された。
 「本研究によって、患者の苦痛の見える化が実現し、社会的理解の促進が期待される。また、fMRIより手軽なfNIRSを用いた検査方法の確立により、より多くの医療機関での診断が可能になるとともに、新たな治療法開発にもつながると考えられる」と、研究グループは述べている。


・・・今後も検査技術が発達・発展して、
「気のせいでしょう」
「精神科を紹介しましょうか」
という医師のコメントが減っていくことを期待したいと思います。

子どもの熱性けいれん重積とてんかん発症のリスク

2025年03月12日 06時07分58秒 | 小児医療
熱性けいれんは日本人の7人に1人が経験する、珍しくない病気です。
しかし中にはけいれんが長引く例(けいれん重積状態)も存在します。
私の知識では「けいれん重積が30分以上続くと脳にダメージが残る」ため、
「15分以上続く熱性けいれんを経験した子どもは予防措置を行う」
としてダイアップ坐剤を発熱時に使用するよう、ガイドライン(熱性発作診療ガイドライン2023)に記載されています。

今回、「熱性けいれん重積でてんかんの発症リスクは上昇する」という報告の記事が目に留まりました。
う〜ん、けいれん重積がてんかん発症リスクを上げるのか、逆にてんかん素質があるからけいれん重積になりやすいのか・・・いわゆる“鶏と卵”的問題がスッキリしません。

“鶏と卵”問題は小児喘息でも話題になります。
「RSウイルス感染で喘鳴が出現した子どもは将来喘息になりやすい」とされていますが、
いやいや「喘息体質の子どもがRSウイルスに感染すると喘鳴が出やすい」のではないか、
という意見もあるのです。

<要約&ポイント>
・けいれんが重積した場合としなかった場合で、その後のてんかんや発達障害の発症リスクが上昇するかを検証した結果、てんかんの発症リスクは約4倍に高まる一方、発達障害のリスクに有意な差はないことが判明。

・・・この記事でも、“ニワトリと卵”問題は解決されていませんね。


▢ 熱性けいれん重積で「てんかん発症リスク」上昇、ビッグデータ解析で判明-京大ほか
2025年03月10日:QLifePro)より一部抜粋(下線は私が引きました);

▶ けいれんが重積するか否かで、その後のてんかんや発達障害発症リスクは上昇するのか?
 京都大学は2月20日、過去最大規模となる3万8,465人の熱性けいれん患者のレセプトデータを用い、けいれんが重積した場合としなかった場合で、その後のてんかんや発達障害の発症リスクが上昇するかを検証した結果、てんかんの発症リスクは高まる一方、発達障害のリスクに有意な差はないことが明らかにしたと発表した。・・・
 熱性けいれんは、小児救急医療において頻繁に遭遇する救急疾患の一つであり、その有病率は欧米で2〜5%、日本では6〜9%とされている。その多くは強直発作が数分以内に収まる、予後の良い単純型であるが、約5%の患者ではけいれんが長時間続く重積発作が発生する。
 国際抗てんかん連盟(International League Against Epilepsy, ILAE)は、けいれん重積状態を「神経細胞死、損傷、および神経回路網の異常を伴う長期的な後遺症を引き起こすもの」と定義しており、小児においても死亡や神経学的後遺症との関連が報告されている。しかし、けいれん重積の予後を決定する主な要因はその原因であり、熱性けいれんが原因の場合や神経異常の既往がない患者ではリスクが低いとされてきた。
 つまり、健常児が熱性けいれんを起こし、それが重積発作に至ったとしても、神経学的予後は悪くならないと考えられてきた。しかし、同見解は臨床現場での実感とは異なる部分がある。そこで研究グループは今回、日本のビッグデータを用いた統計解析を行うことにより、このギャップの解明を試みた。

▶ 熱性けいれん重積群、その後のてんかんリスク「高」/神経発達障害リスク「差なし」
 研究では、日本の小児から成人までの1000万人規模のレセプトデータを利用し、その中で熱性けいれん重積を来した小児患者が、単純型熱性けいれんのみの経験の小児と比較して遠隔期にどのような病気にかかっているかを分析することで、小児期の熱性けいれん重積がその後の神経発達に及ぼす影響を検証した。
 熱性けいれんの病名を有する3万8,465人の小児において基礎疾患などで6,698人を除外した3万1,767人のうち、610人をけいれん重積群、3万1,157人を非重積群に分類。中央値2.70年の追跡期間中、熱性けいれん重積群では、その後のてんかんのリスクが有意に高いことが示された(最大約5%、ハザード比3.99、95%信頼区間2.40-6.64)。一方で、神経発達障害のリスクは両群間で大きな差は認められなかった(ハザード比1.39、95%信頼区間1.00-1.79)。

▶ 重積発作を起こした子どもに対する適切な対応が重要
 今回の研究により、熱性けいれん重積によって、てんかんを発症するリスクは重積がなかった子と比べて最大5%程度4倍程度高くなること、神経発達障害のリスクは変わらないことが示された。
 「本知見は、不安を抱える保護者に対して科学的な情報を提供し慎重なフォローアップを行う必要性を示唆するとともに、けいれん重積に対する迅速な治療介入の重要性も示しているものと考えられる」と、研究グループは述べている。

<参考>
プレスリリース(京都大学)


今年もやっぱり“成長曲線”

2025年03月02日 13時10分38秒 | 学校健診
学校医を拝命する小児科医である私はいわゆる“成長曲線”と仲良しで、
このブログに何度となく記事を書いてきました。

学校健診と成長曲線(2024.2.1)
やっぱり成長曲線!(2024.3.28)

さて先日、成長曲線についてのWEBセミナーを視聴したので、
復習&アップデートがてら、講義メモを備忘録として残しておきます。

以前から感じていることですが、
身長の評価法がSDとパーセンタイルのダブルスタンダードになっている状況は何とかならないものか?
体重の評価も日本独自の「肥満度」が採用されており、世界標準とは異なるジレンマを感じます。

ふだんの診療で、数年に1人程度、思春期早発症を経験します。
女子は胸の膨らみで母親が気づくのですが、
男子は声変わりが出るまで気づきにくく、
「中学生になったのに身長が伸びない」という訴えで受診することが多いのです。
小学生の時に発見しないと治療適応から外れてしまう可能性が大です。
これはレクチャーの中でも触れていましたね。


▢ 成長曲線は身長・体重の年齢経過を記録する曲線
・平均曲線とSD曲線がすでに描かれている
 ✓ 身長はほぼ正規分布
 ✓ 体重は重い方にすそ野が広がる分布
・描くときは「〇歳〇ヶ月」単位でプロットする。

▢ 身長・体重の評価指標は2つ存在
1.SD(標準偏差)
・低身長はSD表示で定義される。
・平均からの隔たりがわかりやすい。
2.パーセンタイル(%tile)
・SD表示より統計的に正確
・イメージしやすく患者さんに説明しやすい
・「平均よりマイナス」というSD表示は教育的に適切ではない。

▢ 「SD」と「%tile」の対応表示
(SD) (%tile)
+2.5   99.7
+2.0   97.7
+1.88    97
+1.28    90
+1.0   84.1
±0    50
−1.0    15.9
−1.28    10
−1.88    3.0
−2.0   2.3
−2.5   0.3

▢ 低身長の定義
①身長が同性同年齢の平均値の−2SD以下
②−1.5SD以下の成長率が2年間続く(どの年齢でも1年間の身長の伸びが<4cmは要注意

▢ 子どもの年齢と成長因子
・乳児期:①栄養
・小児期:①成長ホルモン、②甲状腺ホルモン
・思春期:①性ホルモン

▢ 成長率の経過
・最も大きいのは男女とも乳児期(約25cm/年)
・思春期開始・身長スパートは女子が男子より約2年早い
            (女子)  (男子)
(思春期開始年齢)    9歳     11歳
(成長率ピーク年齢)   11歳    13歳
(成長率ピーク)      8cm/年    10cm/年
(思春期の成長)     18-25cm  25-30cm

▢ 成長曲線を作成する意義
・適正な成長をしていることを確認
・低身長・肥満・やせなどの原因となる病気の早期発見
・いじめや虐待の発見につながることがある → 子どもたちからの声なきSOS

▢ 成長曲線のチェックポイント
1.身長の最新値が 97%tile 以上
2.過去の身長の最小値に比べて最新値が1Zスコア以上大きい
3.身長の最新値が3%tile 以下
4.過去の身長の最大値に比べて最新値が1Zスコア以上小さい
5.身長の最新値が −2.5Zスコア以下
6.肥満度の最新値が 20%以上
7.過去の肥満度の最小値に比べて最新値が 20%以上大きい
8.肥満度の最新値が −20%以下
9.過去の肥満度の最大値に比べて最新値が 20%以上小さい
 → 2、4、5、7、9 に該当する場合は病的可能性が高い

▢ 成長曲線で拾われた異常から考慮すべき疾患例
2.過去の身長の最小値に比べて最新値が1Zスコア以上大きい
 → 思春期早発症など
4.過去の身長の最大値に比べて最新値が1Zスコア以上小さい
 → 脳腫瘍、慢性甲状腺など
5.身長の最新値が −2.5Zスコア以下
 → 成長ホルモン分泌不全性低身長症SGA性低身長症先天症候群など
7.過去の肥満度の最小値に比べて最新値が 20%以上大きい
 → 単純性肥満、(成長率低下を伴うときは)Cushing症候群慢性甲状腺炎など
9.過去の肥満度の最大値に比べて最新値が 20%以上小さい
 → 神経性やせ症など

▢ 成長曲線異常の取り扱い
・2、4、5、9 → 医療機関紹介検討
・1、3 → 2、4、5、7、9 と重複で要紹介
・6、7 → 肥満度 ≧ 50%または4と重複で紹介
・8 → 肥満度 ≦ −30%で精査
 → 隣の曲線をまたいで成長する場合には注意が必要

◆ 例「思春期早発症
・二次性徴が早期に起こって急激な身長のスパートを認める
・周囲より身長が伸びるため背の順がうしろになっていく
最終的には低身長になる
★ ピットフォール;
・女児に多く、ほとんどは器質的疾患のない特発性
・時に脳腫瘍など器質的疾患の鑑別も必要(特に男児・乳幼児期女児)

(経験例)小学生中高学年で身長のスパートが来ると家族は喜ぶことが多く、第二次性徴は気づきにくいため(特に男児)、家族は医療機関受診が頭に浮かばない。しかしこの時点で医療機関につなげないと思春期早発症の性腺抑制療法の適応とならず、最終的に低身長になってしまう。

◆ 例「脳腫瘍、慢性甲状腺炎
・成長曲線に沿って伸びていた身長がある時点から急に伸びなくなる。
・他の症状に先行して成長率低下が早期にみられてくることがある

◆ 例「家族性低身長
・低身長の60-80%が家族亭低身長をはじめとする体質性低身長
・家族性低身長は両親の身長を参考に判断する;
①男子の目標身長(cm)=(父の身長+母の身長+13)÷2
②女子の目標身長(cm)=(父の身長+母の身長ー13)÷2

◆ 例「成長ホルモン分泌不全性低身長症
・もともと低めであった身長が2歳頃から成長曲線から離れていく
・乳幼児の場合は低血糖で見つかることがある

◆ 例「単純性肥満」と「症候性肥満
・単純性肥満:急激な体重増加+成長率維持(あるいは加速)
・症候性肥満:急激な体重増加+成長率低下(例:Cushing症候群、慢性甲状腺炎)

◆ 例「神経性やせ症
・短期間に急激な体重減少を認める
・栄養障害が強いと身長の伸びが悪くなることもある
・極端なダイエットでも同じ曲線になる

▢ (低身長精査例)チェックすべき診察所見
・甲状腺腫大の有無 → 慢性甲状腺炎
・口腔内(色素沈着、扁桃腫大など) → 副腎疾患、睡眠時無呼吸
・思春期(乳房腫大、精巣容量、陰毛発生など) → 思春期遅発症
・arm span(四肢短縮など) → 軟骨異栄養症
・指の長さ(第4中手骨の短縮) → Turner症候群
・他の形態異常:翼状頚、外反膝など → Turner症候群

▢ (低身長精査例)スクリーニング血液検査
・血算、生化学(T-cho、TG、IP、Caなど)、亜鉛、25(OH)ビタミンD
・血液ガス(必要に応じてアンモニア、乳酸・ピルビン酸)
・内分泌
 IGF-1(ソマトメジン-C)、TSH、FT3、FT4
 intact-PTH
 LH、FSH、テストステロンあるいはエストラジオール
 ACTH、コルチゾール
・❌️GH、〇 IGF-1:成長ホルモン(GH)は日内変動があるため随時採血では評価不能、スクリーニングにはIGF-1(ソマトメジン-C)を測定する(年齢ごとに基準値が異なる)
・染色体検査(女児で提案) → Turner症候群疑い例に

▢ (低身長精査例)画像診断
・X-rayで手根骨撮影 → 骨端線が閉じていると成長はすでに終了
・頭部MRI:下垂体炎や下垂体茎断裂、脳腫瘍の評価


<参考>
・成長曲線は小児内分泌学会HPで入手可能
・「児童生徒等の健康診断マニュアル」(平成27年度改訂、日本学校保健会)
・Q&A「成長曲線に基づく児童生徒の健康管理」(日本学校保健会)
・成長曲線から見える子どもの健康管理(2025.2.26:須田峻平Dr.)

ノロウイルスには感染しやすい血液型があります。

2025年03月02日 06時22分15秒 | 糖質制限
年が明けて2025年になってから、インフルエンザやコロナに混ざって嘔吐下痢の患者さんが目立ちます。
医学的に言えば「ウイルス性胃腸炎」ですね。

患者さんには
「嘔吐下痢ですから“お腹に来る風邪”ですね」
「医学的に言えば“ウイルス性胃腸炎”です」
と説明します。
「やっぱり胃腸炎ですか!?」
という反応が多いです。
患者さんの中には「嘔吐下痢=胃腸炎」とはなっていないようですね。

脱線しますが、現在スギ花粉症患者さんも多く来院されます。
WEB問診に「アレルギーの病気はありますか?」の先に「花粉症」を選択できるようになっているのですが、患者さんの中には花粉症をアレルギー疾患と考えていない方もいるようで、結構チェックが落ちてしまいがちです。
みなさん、スギ花粉症=スギ花粉によるアレルギー性鼻炎&アレルギー性結膜炎、ですよ。

話しを戻します。
冬に流行するウイルス性胃腸炎の主役はノロとロタ、
ノロは全年齢層に、ロタは乳幼児中心に広がります。
食中毒による集団発生も散見されており、現在流行しているのはノロウイルスと思われます。

さて、ノロウイルス感染は血液型によりリスクが異なる、という記事が目に留まりました。
「ホントかな?」と読んでみました。

驚くなかれ、
「血液型Oの人はノーウォークウイルス(※)に感染しやすく、B型の血液型抗原を持つ人は感染および症候性疾患のリスクが低下する」
だというのです。
私はB型・・・ラッキー?
※ ノーウォークウイルス:ノロウイルス属のウイルスの一つ。昔、「ノロウイルス」と命名される前は、この名前で呼ばれていたことを覚えています。


▢ 「ノロウイルス」にかかりやすい“血液型”が研究で明らかに 感染しやすいのは何型?
2024/3/1:Medical DOG)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・
 アメリカのベイラー医科大学の研究員らは、ノロウイルス属に分類されるノーウォークウイルス(NV)とABO組織血液型との関連性を調査しました。その結果、血液型Oの人はノーウォークウイルスに感染しやすく、B型の血液型抗原を持つ人は感染および症候性疾患のリスクの低下が示されました。この内容について吉川医師に伺いました。

▶ 研究グループが発表した内容とは?

編集部: アメリカのベイラー医科大学の研究員らが発表した内容を教えてください。 
吉川先生: 今回紹介する研究報告は、アメリカのベイラー医科大学の研究員らによるもので、その研究報告は医学雑誌「The Journal of Infectious Diseases」に掲載されています。 ノーウォークウイルスとは、ノロウイルス属に分類されるウイルスの種であり、急性胃腸炎を引き起こす原因ウイルスの1つです。ノーウォークウイルスの感染には個人差があり、一部の人は感染しにくいことが知られています。しかし、感染に対する抵抗力や感受性を決定する要因については十分に解明されていません。 この研究では、ABO組織血液型とノーウォークウイルスの感染および症候性疾患のリスクとの関係が調査されました。研究に参加した51名のボランティアの血清サンプルを分析した結果、血液型がO型の人はノーウォークウイルスに感染しやすいことが示されました。具体的には、O型の人が感染する可能性はほかの血液型よりも高く、オッズ比は11.8(95%信頼区間1.3〜103)と報告され、特にB型の人は感染する可能性が低いと確認されました。これは、遺伝的要因がノーウォークウイルスの感染および症候性疾患のリスクに影響を与えることを示した初めての研究であり、今後の研究によってさらなる検証が求められます。



▶ ノロウイルスとは?

編集部: 今回の研究テーマに関連するノロウイルスについて教えてください。 
吉川先生: ノロウイルスは、急性胃腸炎や食中毒の原因となるウイルスで、特に冬季に流行します。感染経路は経口感染が中心で、汚染された食品や水の摂取、感染者の便や吐物を介した二次感染、飛沫感染、食品取扱者を介した汚染などがあります。感染力が非常に強く、少量のウイルスでも発症するため、集団感染が起こりやすいのが特徴です。 主な症状は吐き気、嘔吐、下痢、腹痛で、軽度の発熱を伴うこともあります。潜伏期間は24~48時間で、通常1~2日で回復します。治療法としては、特効薬はなく、輸液などの対症療法が中心です。予防策としては、食事前やトイレ後のこまめな手洗い、食品の十分な加熱、調理器具や環境の消毒が推奨されます。便や吐物の処理は速やかにおこない、感染拡大を防ぐことが重要です。

▶ ノロウイルスに関する研究内容への受け止めは?
編集部: アメリカのベイラー医科大学の研究員らが発表した内容への受け止めを教えてください。 
吉川先生: この研究は、ノロウイルスの感染の感受性に遺伝的要因が影響を与える可能性を示唆しており、非常に興味深いものです。ただし、感染のしやすさは血液型だけでなく複数の要因が交絡するため、今回の結果を一般化するにはさらなる研究が必要であると考えます。

▶ 編集部まとめ
研究により、ノロウイルスの感染リスクが血液型によって異なる可能性が示されました。特にO型の人は感染しやすく、B型の人は感染リスクが低いという結果が得られました。これは、血液型がウイルス感染の感受性に関与することを示す重要な発見であり、今後の研究によりさらなる検証が求められます。ノロウイルスの感染予防には、引き続き手洗いや消毒などの基本的な対策が重要です。

テオドール®時代の終焉

2025年03月01日 06時35分47秒 | くすり
医師を長くやっていると、治療法の変遷を実体験できます。
私が医師になった1988年当時、小児喘息治療ではテオフィリン製剤の全盛期でした。
その代表薬剤がテオドール®。

有効な薬剤ではありますが、
血中濃度を測定し、微調整が必要なこと、
中毒域ではけいれん重積の副作用が出ること、
などなど、扱いづらい特徴もありました。

重症喘息患者さんは入院して点滴で投与しました。
血中濃度モニターの計算式があり、24時間血中濃度モニターも行いました(つまり研修医は眠れない)。
そこに情報をプロットすると、実際に測定した血中濃度と見事に一致、驚いたものです。

そう、当時の小児喘息治療は頻回の採血が必要であり、
開業医で診療するのは困難ではないかと思われていました。

1990年代に入り、「喘息は慢性の気道炎症である」という概念が確立し、
治療は気管支拡張薬から抗炎症薬へ切り替わりました。
そこで主役に躍り出たのは、現在も使われている吸入ステロイド薬です。

それ以前はステロイド全身投与の離脱期に一過性に使う薬でしたが、
定期吸入していると喘息発作が出なくなり、全身投与の副作用も回避できることがわかったのです。

成人喘息で実績が蓄積されると、
小児喘息治療もテオフィリン製剤から吸入ステロイド薬へ移行していきました。
それとともに、テオドール®を使う機会が漸減していきました。

吸入ステロイド薬中心の喘息診療では頻回の血化気検査は不要で、
開業医院でも診療可能な病気になりました。
私が勤務医から開業医へ切り替えるきっかけにもなりました。

あれから約20年が経過した今、
とうとうテオドール®が姿を消すというニュースが耳に入り、
老医にとって感慨深いものがあります。




▢ 日本呼吸器学会「販売中止は承諾できない」、テオドールの供給困難を受け
 日本呼吸器学会は2025年1月28日、田辺三菱製薬(大阪市中央区)によるテオフィリン徐放性製剤(商品名テオドール錠100mg、200mg)の供給継続が困難となったことについて、「供給停止、販売中止について承諾できない」という声明を発表した。
 日本呼吸器学会アレルギー・免疫・炎症学術部会と閉塞性肺疾患学術部会、常務理事会による審議では、
(1)他の薬剤では十分な治療効果が得られない喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の存在
(2)テオフィリン使用不能による全身性ステロイドの使用頻度増加と副作用のリスク増加
(3)治療選択肢の減少による医療現場における最適な処方の難化
(4)比較的安価な治療選択肢の消失に伴う医療費の上昇や患者負担の増大の懸念
(5)代替薬が確立されていない状況が患者や医療現場に混乱を及ぼす可能性
──などが指摘された。
 田辺三菱製薬は2024年12月、テオフィリン徐放性製剤の原料の製造中止により同薬の供給継続が困難となり、2024年11月の予測では2026年12月頃に在庫消尽が想定されると報告していた。なお、テオフィリン徐放性製剤の代替薬について承諾が得られているものは今のところないという。
 現行の薬価削除手続き(厚生労働省資料)では、製造販売業者が供給の停止および薬価基準からの削除を希望する場合、
(1)製造販売業者から供給停止事前報告書が提出された品目について、厚労省が関係学会に対して撤退の可否確認を行う
(2)シェアが一定の割合以上であれば、製造販売業者から提出された薬価削除願に基づき、再度、厚労省が関係学会に対して撤退の可否確認を行う
──というプロセスを経る必要がある(医薬品の承継、代替新規または後発医薬品への置き換えが進んでいる長期収載品の撤退においては、学会への確認はない)。2024年12月に発表された田辺三菱製薬の報告書では、テオフィリン徐放性製剤の販売中止に関して明言はしていないものの、同薬の将来的な販売中止を見越して、日本呼吸器学会が現時点での見解を公表した形だ。
 田辺三菱製薬のテオフィリン徐放性製剤は、速放性顆粒と徐放性顆粒を混合・打錠する方法で製造している。供給継続が困難な理由として同社は、
(1)徐放性に大きく影響している製剤原料が製造中止となり、溶出規格に適合する製品の製造が見込めない、
(2)製剤原料を変更する場合は溶出性の改善が必要、
(3)代替となる製剤原料の確保が困難、
(4)製造方法を見直し、「適切な薬剤放出の制御」と「溶出同等性の担保」を満たす難易度が高い
──ことを挙げている。

なお、文中に「代替薬がない」とありますが、
私は漢方薬(麻杏甘石湯、五虎湯)を使用しています。
結構手応えがあります。


▢ テオドール巡る企業、学会の動きに思うこと
熊谷 信:薬剤師(2025/02/18:日経DI)より一部抜粋(下線は私が引きました);
 2024年12月、田辺三菱製薬(大阪市)が販売するテオドール錠(一般名テオフィリン)について、100mg錠と200mg錠の販売継続が困難であることがアナウンスされました。徐放性に影響する原料2種(ラウリル硫酸ナトリウム、ミリスチルアルコール)の製造中止、また代替となる製剤原料の確保も困難で、2026年12月に在庫消尽見込みと、経緯や今後の見通しについて、詳細に公表されました。
 それに対して、日本呼吸器学会が「承諾できない」と田辺三菱製薬に申し入れたと発表したことが、話題になりました(テオフィリン徐放性製剤 テオドール錠100mg、200mgの現状報告(周知依頼)。このままでは製造中止になるであろう状況に対して先手を打ったのではないかとも言われています(現時点では製造中止のアナウンスはありません)。
 私もごく最近知ったのですが、薬価収載されている医薬品の販売を中止する際には、厚生労働省とのやりとりの前に、関連する学会等の承諾を得る必要があるようです。臨床の状況に照らしたり、意見を求めると言われれば、必要な手順ではあるでしょうか。
 とはいえ、医薬品の供給不安が著しい昨今、製薬会社にとっても“ない袖は振れない”というのが正直なところでしょう。一部報道によると、テオフィリン製剤を手掛ける他社ではテオドールのような原料の問題は起きておらず、製造量などを理由に代替薬リストへの掲載を固辞しているとのことです。
 学会の意見をどこまで尊重するのか、また承諾しなければ販売を中止できないというのは、考えなければならない問題でしょう。決して言葉尻を捉えるつもりはありませんが、学会が出す声明が「製造継続のお願い」ではなく「承諾できない」という表現にそもそも違和感を抱きました。このような声明を出すよりも、テオドールの代替を含め、どう治療するかを考えるのが学会の本来の役割ではないでしょうか。
 また、テオドールがなくなることで患者負担の増大を懸念しているようですが、その発想があるのなら、製薬会社の台所事情を心配することだってできるはずです。ある程度の薬価がついていれば、代替技術の開発にだって着手することができるでしょう。もしかしたら原料の“買い負け”があるかもしれません。薬価を上げるように学会からも働きかけたら良いのではないでしょうか。
 そもそも製薬会社が白旗を上げているのにそれを承諾できないと言われても、どうしようもありません。大きな目で見れば、これまで薬価を下げて診療報酬本体に充てよと言ってきたツケとも言えるのではないでしょうか。
 しばしば、製薬会社が手順書を守っていないなどと指摘されることがありますが、このように販売をやめたくてもなかなかやめられない仕組みもそれを助長している側面があります。薬価も安くなる一方、開発や製造にコストもかけられない、そんな状況で企業を存続させて行くことはかなり難しいでしょう。
 現実的な問題として、医療を取り巻く環境が厳しくなる中、こうした学会による承諾という手順は見直しをする時期に来ていると思います。製薬会社だって好んで中止したいわけではないはずです。医薬品販売から撤退する際の新たな手順を整備することが急務ではないでしょうか。


・・・上記記事は薬剤師さんの感想ですが、
医師とは視点が異なり、ぴんとこないところがありますね。

モンテルカスト(キプレス®、シングレア®)はかぜ薬ではありません。

2025年02月28日 06時17分56秒 | くすり
近年、かぜ薬として抗アレルギー薬が処方されている例が目立ちます。
特に耳鼻科開業医に多いようです。

従来頻用していた鼻水止めが「2歳未満には熱性けいれんのリスクがあるので注意して使用すべし」という情報が流れたため、それを回避た結果でしょうか。

でもザイザルシロップはアレルギー性鼻炎の鼻水には効いても、
風邪の鼻水には手応えがないと患者さんが訴えて当科を受診します。

そのザイザルシロップでさえ、添付文書の注意事項には、
「てんかん等の痙攣性疾患又はこれらの既往歴のある患者には注意」
「痙攣を発現するおそれがある。」
とあります。
これを読んだ小児科医は、熱性けいれんを起こしたことのある患者さんには処方したくないですよね。
でも実際は処方されており、私はそのような医師に?と投げかけたくなります。

それから、「抗ロイコトリエン薬」も風邪患者さんによく処方されています。
プランルカスト(オノン®)やモンテルカスト(キプレス®、シングレア®)など。
これは鼻閉対策として処方されているようです。

しかし抗ロイコトリエン薬は「アレルギー性鼻炎の鼻閉」の薬であって、
風邪の鼻づまりには手応えがありません。
さらにモンテルカスト顆粒の適応病名は「気管支喘息」のみであって、
アレルギー性鼻炎には適応はありません(錠剤はあります)。

抗アレルギー薬は「アレルギー性鼻炎」という診断をつけないと処方できません。
つまり、風邪を引いて開業医院を受診したあなたのお子さんは、
保険診療上「アレルギー性鼻炎」と病名がついていることになり、
日本全国でアレルギー性鼻炎の小児が大量に発生するという不思議な現象が起きているはず。

「風邪にアレルギーの薬を処方していいの?」
「チェックするシステムはないの?」
と聞きたくなりますよね。

日本の保険診療チェックシステムはありますが、
チェックするのは「処方と病名が一致しているかどうか」のみ。
つまり、実際の患者さんが風邪であっても、アレルギー性鼻炎と診断名をつければ、
それが真実でなくてもすり抜けてしまうのです。

また、抗ロイコトリエン薬は「1歳未満の治験データがなく安全性は確保されていません」と添付文書に記載されています。
私はこの薬が発売された時を覚えていますが、
製薬会社は「適応年齢は1歳以上です」と連呼していました。

ただし、1歳未満に処方してはいけない、というほど強力なルールではなく、
「患者さんに上記を説明して同意を得れば処方可能」レベルです。
しかし、そのことを説明された患者さんの話を聞いたことがありません。

ネットで薬の情報も容易に手に入る時代になりました。
患者さん側も知識を持って、
「自分の子どもに処方されている薬は安全なのか?」
をチェックするスタンスが必要だと思います。

モンテルカストの副作用を取りあげた記事を紹介します。

<ポイント>
・以前からロイコトリエン受容体拮抗薬の有害事象として精神神経疾患が起こり得ることが報告されている。米食品医薬品局(FDA)は念のためアレルギー性鼻炎に対するモンテルカストの使用を減らすよう勧告している。
・今回、気管支喘息やアレルギー性鼻炎でロイコトリエン受容体拮抗薬のモンテルカストを使い始めた患者を対象に、有害事象である精神神経疾患の1年後までの発症率を検討し、モンテルカスト以外の薬を使い始めた患者に比べ、不安障害や不眠症のリスクが高かったことが判明した。


▢ モンテルカストは不眠や不安のリスクを高める喘息やアレルギー性鼻炎で処方された患者のコホート研究
大西 淳子=医学ジャーナリスト
2022/06/2:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 英国Oxford大学Warneford病院のTapio Paljarvi氏らは、気管支喘息やアレルギー性鼻炎で ロイコトリエン受容体拮抗薬のモンテルカストを使い始めた患者を対象に、有害事象である精神神経疾患の1年後までの発症率を検討し、傾向スコアをマッチさせたモンテルカスト以外の薬を使い始めた患者に比べ、不安障害や不眠症のリスクが高かったと報告した。結果は2022年5月24日のJAMA Network Open誌電子版に掲載された。
 ロイコトリエン受容体拮抗薬の有害事象として精神神経疾患が起こり得ることは、観察研究から報告されていたが、交絡因子の影響を調整できていないなど方法論的に問題があり、研究によって結果も異なるため、結論が出ていなかった。しかし、米食品医薬品局(FDA)は念のためアレルギー性鼻炎に対するモンテルカストの使用を減らすよう勧告している(モンテルカストの副作用にFDAが再警告)。
 市販後の安全性に関する調査では、重症の精神神経疾患の発生が見られており、投与中止後の投与再開により、いったん消失した有害な症状が再発したという報告もあった。また、小児と思春期の患者に投与した場合の安全性に関するデータは多くあるのに対して、成人患者に関する有害事象のデータは少なかった。
 こうした状況を受けて著者らは、喘息患者とアレルギー性鼻炎の患者を対象として、モンテルカストの新規処方から1年間の精神神経疾患の発生率を比較することにした。これまでに行われた観察研究では不十分だったベースラインの交絡因子の調整を行うために、傾向スコアをマッチングさせたコホート研究を計画した。
・・・
 喘息またはアレルギー性鼻炎の患者群ではに、モンテルカストが新たに処方された日をindex dateとし、喘息患者の対照群では吸入ステロイドや吸入気管支拡張薬が新たに処方された日、アレルギー性鼻炎患者の対照群では抗ヒスタミン薬(セチリジン、フェキソフェナジン、ロラタジン)を処方された日をindex dateとした。各群のindex dateから12カ月後までの精神神経疾患の診断の有無を調べた。
・・・
 主要評価項目は、12カ月間の精神神経疾患の診断に設定し、精神病性障害、気分障害、不安/解離性/ストレス関連/身体表現性/その他の非精神病性障害、成人の人格障害と行動障害、睡眠障害、非致死的自傷について評価し、さらにより特異的な診断として、躁病エピソードまたは双極性障害、大うつ病、恐怖症性不安障害、全般性不安障害、その他の不安障害、強迫性障害、不眠症と断眠、過眠症、概日リズム睡眠障害、睡眠時異常行動(夢遊症、夜驚症、悪夢障害)、睡眠時随伴症とむずむず脚症候群、その他のまたは分類不能な睡眠障害についても調べた。
 傾向スコアがマッチする15万4946人の患者を分析対象とした。モンテルカストを処方されていた患者は7万7473人で、7万2490人が喘息患者の対照群(新規処方時の平均年齢は35歳、女性が61.7%)で、8万2456人がアレルギー性鼻炎患者の対照群(40歳、65.7%)だった。それらの人々を最長12カ月間追跡した。
 モンテルカスト使用者の、あらゆる精神神経疾患のオッズ比は、喘息患者が1.11(95%信頼区間1.04-1.19)、アレルギー性鼻炎患者では1.07(1.01-1.14)だった。最もオッズ比が高かった疾患は、喘息患者では不安障害のオッズ比1.21(1.05-1.20)で、アレルギー性鼻炎患者では不眠の1.15(1.05-1.27)だった。
 モンテルカストの使用は、あらゆる睡眠障害(オッズ比は喘息患者が1.13:1.02-1.25、アレルギー性鼻炎患者が1.10:1.01-1.20)のリスク増加に関係しており、睡眠障害の中では、不眠症(喘息1.13:1.01-1.27とアレルギー性鼻炎1.15:1.05-1.27)のリスク増加が有意だった。また、あらゆる不安関連障害(喘息1.21:1.05-1.20、アレルギー性鼻炎1.12:1.05-1.19)のリスク増加も認められ、追跡期間中に抗うつ薬の処方を受ける可能性(喘息1.16:1.07-1.14、アレルギー性鼻炎1.17:1.05-1.30)も有意に高かった。
 これらの結果から著者らは、喘息またはアレルギー性鼻炎の患者は、モンテルカスト使用開始後12カ月間に精神神経疾患と診断されるリスクが高かったと結論している。絶対リスクは小さいものの、モンテルカストを処方されている患者は非常に多いことから、医師はモンテルカスト使用中の患者の精神的な健康状態に注意し、特に既往歴がある患者は慎重にモニターすべきだと述べている。
 原題は「Analysis of Neuropsychiatric Diagnoses After Montelukast Initiation」、概要はJAMA Network Open誌のウェブサイトで閲覧できる。


進化し続けているコロナウイルス2025

2025年02月27日 06時14分16秒 | 糖質制限
最近コロナウイルスが話題にならなくなりました。
2024年末にはA型インフルエンザが猛威を振るいましたが、
年が明けてから収束に向かい、2月末現在、チラホラいる程度です。

でも、コロナもチラホラいます。
インフルエンザは“流行”というメリハリがありましたが、
コロナはダラダラ続いている印象です。

今月、知人がコロナに罹りました。
2回目だそうで、重症化こそしていませんが、
1回目より症状が長引いてなかなか体調が戻らない、
とこぼしていました。

ところで、最近の流行株はどうなっているのでしょう?
と疑問を持ったところに、東大医科研から情報がありましたので紹介します。

「XEC株による感染拡大が主流&LP.8.1株が急速拡大中」とのこと。
どちらも初めて耳にする株の名前ですね。
両方ともJN.1株の子孫だそうです。

 JN.1 →  →  →  →   XEC
    → KP.3.1.1 → LP.8.1

そしてLP.8.1株の特徴は、
「LP.8.1がJN.1よりも感染力は低いが、より高い免疫逃避能を獲得し、現在主流のXECよりも高い伝播力(実効再生産数)を有する」
「LP.8.1は今後全世界に拡大し、主流株として台頭する恐れがある」
とのこと。
注視していく必要がありそうです。


▢ 拡大中のコロナ変異株LP.8.1のウイルス学的特性/東大医科研
2025/02/27:ケアネット)より一部抜粋(下線は私が引きました);
   2025年2月現在、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のJN.1の子孫株であるXEC株による感染拡大が主流となっており、さらに同じくJN.1系統のKP.3.1.1株の子孫株であるLP.8.1株が急速に流行を拡大している。東京大学医科学研究所システムウイルス学分野の佐藤 佳氏が主宰する研究コンソーシアム「G2P-Japan(The Genotype to Phenotype Japan)」は、LP.8.1の流行動態や免疫抵抗性等のウイルス学的特性について調査結果を発表した。LP.8.1は世界各地で流行拡大しつつあり、2025年2月5日に世界保健機関(WHO)により「監視下の変異株(VUM:currently circulating variants under monitoring)」に分類された1)。本結果はThe Lancet Infectious Diseases誌オンライン版2025年2月10日号に掲載された。
 本研究ではオミクロンLP.8.1の流行拡大リスクおよびウイルス学的特性を明らかにするため、まずウイルスゲノム疫学調査情報を基に、ヒト集団内におけるオミクロンLP.8.1の実効再生産数を推定し、次に、培養細胞におけるウイルスの感染性を評価した。また、日本人の血清を用いて、オミクロン系統の流行株(JN.1とKP.3.3)の既感染もしくはブレイクスルー感染およびJN.1対応1価ワクチン接種により誘導された中和抗体が、LP.8.1に対して感染中和活性を示すか検証した。
 主な結果は以下のとおり。

・米国ではLP.8.1の実効再生産数はXECより1.067倍高かったが、日本ではLP.8.1とXECの実効再生産数の差は比較的小さく、1.019倍にとどまった。
・疑似ウイルス感染アッセイの結果、LP.8.1の感染力はJN.1よりも有意に低く(67%減少)、XECとJN.1の感染力は類似していた。
・中和アッセイを以下の3種類のヒト血清を用いて実施した:JN.1感染後の回復者血清、KP.3.3感染後の回復者血清、JN.1対応ワクチン接種者の血清。すべての血清群において、KP.3.1.1、XEC、LP.8.1は、JN.1に対してよりも高い免疫逃避能を示した。しかし、KP.3.1.1、XEC、LP.8.1の間で中和回避能力に有意な差は認められなかった。

 本結果により、LP.8.1がJN.1よりも感染力は低いが、より高い免疫逃避能を獲得し、現在主流のXECよりも高い伝播力(実効再生産数)を有することが明らかとなった。著者らによると、一部の国でLP.8.1がXECより優位になっている理由は、各国の免疫背景、SARS-CoV-2感染歴、ワクチン接種状況に依存している可能性があるという。LP.8.1は今後全世界に拡大し、主流株として台頭する恐れがある

<原著論文>
・Chen L, et al. Lancet Infect Dis. 2025 Feb 10. [Epub ahead of print]
<参考文献・参考サイト>
・東京大学医科学研究所:SARS-CoV-2オミクロンLP.8.1株 のウイルス学的特性の解明
1)WHO:Tracking SARS-CoV-2 variants



「コロナに罹っていないはず」の無症状の子どもの36%がコロナ抗体陽性。

2025年02月26日 06時15分38秒 | 新型コロナ
新型コロナが登場した当時、「子どもは罹りにくい」とされていました。
しかし遺伝子変異によりウイルス株が変化して一旦広がると、
集団生活の場で感染者が続出しました。

3年連続で生徒の血液中抗体を検査した結果、
「罹っていないと思う」生徒の36%
「罹ったかもしれないが未検査で診断されていない」生徒の84%
ーーが抗体陽性であったという報告が入ってきました。

小児の感染者数、これまで考えられてきた数字より多いようですね。

そして、
・みんなで遊ぶことを好む
・低学年児
という要因が感染リスクにつながることも判明したとのこと。
まあ、カラダをすりあわせて遊ぶ乳幼児世代に感染症が流行りやすいことの証明でもありますね。


▢ 小児COVID-19「感染に気付かない」が多い傾向-千葉大
2025年02月19日:QLifePro) より一部抜粋(下線は私が引きました);

▶ 実際にどれくらいの子が感染?どんな子が感染しやすい?
 千葉大学は2月6日、同大教育学部附属小学校の子どもたちとその卒業生から提供された血液を用いて、2020年度から2022年度の3回にわたる新型コロナウイルスの感染状況調査結果を発表した。・・・
 2019年末に発生した新型コロナウイルス感染症は、世界中で拡大し、2024年2月に世界保健機関が発表した感染者数は累計約7億7,000人を超えた。当初、子どもは新型コロナウイルスに感染しにくいと考えられていたが、その後の調査により、子どももウイルスに感染はするが、無症状や軽症で済む場合が多いことがわかってきた。国や県では、検査を行った医療機関の報告に基づいて感染者数を把握している。しかし、症状があまり見られないなど、検査を受けていない感染者を把握することはできない。そのため、実際にどれくらいの子どもが新型コロナウイルスに感染しているのか、どんな子どもが感染しやすいのかについての十分なデータがなかった。

▶ 2020~2022年度、小中学生355人へ抗体検査+保護者へ行動調査
 今回の研究は、2020年12月の調査に参加した同大教育学部附属小学校の子ども355人を対象に実施(1年目調査:1年生51人、2年生64人、3年生69人、4年生68人、5年生49人、6年生54人)。2020年度、2021年度、2022年度の冬に抗体検査を行い、新型コロナウイルスに感染したことがある子どもの数を調べた。また、それぞれの子どもについて身長体重などの身体測定に加え、新型コロナウイルス感染症にかかったかどうか、他の子どもと遊ぶ傾向が強いか、兄弟の有無などについて、保護者へ質問票調査を行った

▶ 抗体検査「陽性」2022年は60.9%
 調査に参加した子どもの保護者の報告によると、2022年1月から新型コロナウイルス感染者が急激に増え、その動向は日本全国や千葉県での報告数の動向とほぼ一致していた。抗体検査で陽性の(一定量以上の抗体を持っている)子どもの割合は、
 1年目0.6%
 2年目2.2%
 3年目は60.9%
ーーで、半数以上の子どもたちが2022年に感染していたことがわかった。

▶ 2022年「かかっていないと思う」子36%が抗体検査陽性
 子どもが新型コロナウイルスにかかったかどうかを保護者に尋ね、抗体検査の結果と比較した。2022年の質問票調査において、「かかっていないと思う」という子どものうち36%が抗体検査陽性であった。また、「調べていないが、かかったかもしれないと思う症状があった」という子どもは83%が陽性であった。この結果から、新型コロナウイルスに感染しても、症状がないか、検査を受けていないために感染に気づかなかった子どもが多くいたことがわかった。

▶ 感染と関係する要因、他の子と遊ぶことを好む/学年が低い
 3年目の抗体検査で陽性となった子どもの中で、2年目の抗体検査が陰性だった者を対象として、3年目に陽性となったこと(2022年に感染したこと)にどのような要因が関連しているのかを調べた。いくつかの考えられる要因について調べた結果、感染した子どもたちには次の2つの傾向が高いことがわかった。
・1つ目は、一人でいるよりも他の子どもと遊ぶことを好むこと。他の子どもたちとの接触を通して感染した場合が多いと考えられる。
・2つ目は学年が低いこと。この時期までにワクチンを接種した子どもが少ないことや他者との距離が近くなりやすいことが関係していると考えられる。

▶ 今後、ワクチン接種・子の生活習慣など感染症対策の研究を
 2022年は、感染力が高いオミクロン株が流行したことに加え、熱中症予防のためのマスク着用の緩和、学校内外での活動が再開されるようになった。これらの状況と、無症状や軽症で感染に気づかない子どもたちが多いことから、急速に感染が広まったと考えられる。今後も新型コロナウイルス感染症だけでなくさまざまな感染症が流行し、基本的な感染対策が重要であることは言うまでもない。一方、子どもたちは、他の人達との交流を通して成長していくため、感染しやすいからといって、遊びや交流の機会を妨げることは望ましくない。ウイルス感染が起こりにくい屋外での遊びを推奨するなどの取り組みによる感染対策が望まれる。
 今回の研究により、
・2022年に子どもたちの中で新型コロナウイルス感染症が急速に広がったこと、
・感染に気づいていない場合が多かったこと、
・他の子どもたちとの遊びなどを通して感染が広がっている可能性があること、
ーーがわかった。
 これらは、子どもたちの中での感染の実態を示す重要な成果だとしている。同研究では、子どもたちの生活の様子を詳しく調査していないため、具体的にどのような生活が感染対策に結びつくかを明らかにすることはできていない。「今後は、ワクチン接種および子どもの生活習慣を含めた感染症対策について、さらなる研究が求められる」と、研究グループは述べている。


コンゴの“新感染症”は重症マラリアではなかった?

2025年02月26日 05時44分40秒 | 感染症
昨年(2024年)末、コンゴでエボラ陰性の重症感染症で死亡者が相次ぎ、調査の結果“重症のマラリアだった”と報道されました。

▢ 謎の病気は重度のマラリア コンゴ、保健当局が発表
 【ナイロビ共同】アフリカのコンゴ(旧ザイール)南西部で広がったインフルエンザに似た原因不明の病気について、コンゴ保健当局は17日、調査の結果、重度のマラリアと判明したと発表した。ロイター通信が報じた。世界保健機関(WHO)から提供された抗マラリア薬を配布し、拡大抑止を急いでいる。
 WHOなどによると、高熱やせきを特徴とする病気が広がったクワンゴ州パンジ一帯はマラリアの流行地域。約600人の患者が発生し、9日時点で疑い例を含む70人以上の死亡が確認された。地元保健当局は、住民の栄養状態が悪く、呼吸器疾患を伴う重度のマラリアに対して脆弱になっていたと分析した。

そして2025年になった今、再度「原因不明の感染症で死亡者が相次ぐ」というニュースが入ってきました。
重症マラリアでは説明つかない病態なのでしょうか?

▢ 原因不明の病気で53人死亡 コンゴ北西部、WHO調査
2025/2/25:共同通信
 【ヨハネスブルク共同】コンゴ(旧ザイール)北西部で1月から高熱や出血を伴う原因不明の病気が広がり、24日までに53人が死亡した。AP通信が報じた。地元保健当局によると、患者から採取した検体は高致死率で知られるエボラ出血熱について陰性だったといい、世界保健機関(WHO)が原因を調べている。
 APによると、1月下旬に北西部の町ボロコでコウモリを食べた子ども3人が出血熱の症状を示して死亡。これまでに419人の患者が確認され、死者の多くは症状が現れてから48時間以内に亡くなったという。

・・・今回もコウモリが関与しているようです。エンドレスですね。


またも“新型”コロナウイルス?

2025年02月25日 08時35分08秒 | 新型コロナ
いつしか“新型コロナ”ウイルスから“新型”が消えて「コロナ」と呼ぶようになりました。
そして今回、新たなコロナウイルスの報告が入ってきました。

情報源は旧“新型コロナ”の発源地「武漢」の研究所。
今でも旧“新型コロナ”ウイルスはここから流出したのではないかと疑われている、その研究所です。

情報を隠蔽すると後で責められるため、先手を打ったような印象を受けますね。

▢ 中国・武漢で新種のコウモリコロナウイルス衝撃…「ヒトに感染可能」
2025/2/23:中央日報)より一部抜粋(下線は私が引きました);
 中国の研究陣がヒトに感染する可能性がある新たなコウモリコロナウイルスを発見したと明らかにした。 
 香港紙サウス・チャイナ・モーニング・ポストは21日、中国科学院武漢ウイルス研究所の研究員が18日に生命分野の学術誌「セル」に掲載した論文を通じて新たなコロナウイルス(HKU5-CoV-2)を発見したと伝えた。 このウイルスは新型コロナウイルスを誘発するウイルス(Sars-CoV-2)と同じくヒト受容体を通じて浸透でき、動物から人に感染する危険がある。 2012年から昨年5月まで世界で約2600人の患者が確認され、このうち36%が死亡した中東呼吸器症候群(MERS)を引き起こすコロナウイルス群とも密接な関連がある。 
 研究陣はただ、新型コロナウイルスのようにヒトの細胞には簡単に浸透できないと説明した。 研究陣は「ヒトから検出されたものでなく実験室で確認されただけ。ヒトの集団で出現するリスクが誇張されてはならない」と指摘した。 
 研究陣が属する武漢ウイルス研究所は新型コロナウイルス起源説でもよく知られたところだ。コロナ禍を生んだウイルスがこの研究所の実験室から流出したというものだ。 研究を主導した石正麗博士は中国で「バットウーマン」と呼ばれるほどのコウモリウイルスの権威だ。 ・・・

・・・今のところ、ヒト-ヒト感染して拡大するような性質はなさそうですね。今後も中止していきたいと思います。