奥野修司 文春文庫 2009年(2006年単行本)
その事件が起きたのは、1969年。高校入学間もない加賀美洋は全身をめった刺しにされた上に頸部を切断されて死に至った。犯人は同級生・少年A。40年近くの歳月を経てもなお、情け容赦なく事件を引きずらざるを得ない遺族に添って取材を進めていた著者が知った衝撃の事実とは、少年院で更生(?)した少年Aが、長じて弁護士となっていたことだった…!
少年法とは何なのか。被害者の視点を欠く法律が、犯罪により傷ついた被害者の遺族を更にどん底へと引きずりこんでいる実態を明らかにした渾身のルポルタージュ。
服役を終えた犯人が弁護士として活躍している?!
小説?
と、一瞬迷うほど衝撃をおぼえる帯広告ではありますが、本文の大部分は淡々とした独白形式。
導入部分と、その後ポツポツと母親の語りは挿入されるものの、
母親がどれほど「壊れた」のか、残された家族がどれほど「底を見た」のかを浮き彫りにするのは、
今は家庭も持ち、仕事も持つに至った、洋の妹による独白です。
さて、「心にナイフをしのばせて」いるのは誰なのか?
このタイトルの意味を知るその箇所まで読み進めた時には、その心にしのばせているナイフのあまりの鋭さに言葉をなくすしかありません。
その一瞬一点で起きた犯罪が、
どんなに長く、どんなに広く闇を投じるものなのか。
読後はただ、その闇を知らずにいられる奇跡を思うばかりです。
new84冊目(全90冊目)