オベロン会ブログ

英米文学の研究会、オベロン会の専用ブログです。

6月のオベロン会例会報告

2010-06-28 | てこな姫
6月の例会は、26日(土)に行われました。


予告のように
杉本裕代さんが
メルヴィルの "The Piazza" についてお話しくださいました。


"The Piazza" は Piazza Tales と題された作品集の巻頭の作品。


作品集の名称にもなっている "Piazza" という言葉が
19世紀のアメリカで
新しく "veranda" という意味で使われ出したという
何とも興味深い事実から、
"Piazza" 解読の新しい道筋が示されます。


もともとはイタリア語で「広場」、
その後、英語に入ってきて「屋根付きの回廊」を意味したわけですが、
19世紀のアメリカでは、
住宅のベランダ、ポーチを意味するようになりました。


同時代の住宅建築の文献によると
ベランダを表す英語は、それでも
大抵の場合 "veranda" のようで、
メルヴィルは敢えて、
マイナーな "piazza" という言葉を使っているようなのです。


杉本さんは
その辺りの文化史的文脈を、建築図版を大量に使って
実に説得的に語ってくださいます。

そんな補助線を引いてみると、
おかしな夢想男の幻想的冒険を描いた寓話にみえた "The Piazza" が
まったく別の、
建築的・美学的コンテクストの産物に見えてくるのです。



そこから杉本さんのお話しは、「piazza という空間にみられる寓話性」
さらには、
「空間と記憶」の問題へと実にスリリングな展開を見せました。


"The Piazza" は
20ページ足らずの長さの短編ではありますが、
ちゃんとメルヴィルのエッセンスが、
端々から匂い立つ作品で、
"The Piazza" を「建築」から読むという
斬新なアプローチと併せて、
一同、大いに堪能させてもらいました。


また、
オベロン会例会では、
アメリカ文学からの発表は少なめですので、
その点でも、
新鮮かつ刺激的な発表でした。


杉本さん、どうもありがとうございました! 


次回例会は、7月31日です。

来月は、第4土曜ではなく、第5土曜日になります。
お気をつけください。