尾崎洋二コメント:「津波」の言葉を同じ自然災害である「集中豪雨」と置き換えて考えてみたらどうなのだろうか?と考えてしまいました。
2018年の死者224名、行方不明者8名、負傷者459名(重傷113名、軽傷343名、程度不明3名)を出した7月集中豪雨においても、津波のみならず、温暖化が止まらない今の時代環境において、大きな災害を起こす「集中豪雨」対策が、どのように各地域でとられているのか気になるところです。
やはり、子どもと要支援者をなにがなんでも守る。そのためには家族で、地域で、学校で、そして行政でという連携が必須かと思いました。
このような視点から片田氏の著書を、前半を中心にまとめてみました。
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「命を守る教育-3.11からの教訓」PHP研究所\1,200
片田 敏孝-群馬教育大学大学院教授、広域首都圏防災研究センター長
要点抜粋箇条書き
3.11の津波発生時、学校にいた鵜住居地区(釜石市)の児童・生徒たち約570名は、全員生き延びました。
釜石市内14の小中学校の児童・生徒約3000名のほぼ全員が助かったことは津波防災教育の一定の成果といえるでしょう。P27
釜石市では、親を亡くした小学生が20名、中学生は8名でした。亡くなった親御さんは合計28名ということになりますが、釜石市の死者・行方不明者が約1,100名に及ぶことを踏まえると、犠牲になった親御さんは数としては少ないと思います。
しかし私たちは犠牲者ゼロを目指しています。P107
防波堤だけじゃダメ。「災害社会工学」が提案する津波対策とは?
災害社会工学とは?
1-災害に強い街や社会をつくる。
2-自然災害による人的被害を出さないために、地域社会や住民対応力をいかにして高めるかという研究をする。P30
3-防波堤や砂防ネットがあっても完全に食い止めることができないような、想定を超える災害が起きる可能性は常にあるから、ソフト面を非常に重視する。
4-災害が起きたとき、地域社会ではどんな対応をすればよいのか。住民はどういった行動を取れば助かるのか。社会や人の自然災害への対応力を高めること、つまり防災教育に重きを置く。
津波常襲地域で避難率わずか1.7%の現実
三陸地区での津波
1- 明治29(1986)年の明治三陸大津波では三陸地域では、約22,000人が亡くなった。
2- 宮古市の田老地区(田老町)では村人が1,859人亡くなり、生存者(沖合に出ていた漁師のみ)はたったの36人。
3- 釜石市(当時釜石町)では当時の人口6,529名のうち、4,985名、人口の約4分の3が亡くなった。
4- 昭和8(1933)年の昭和三陸津波。
5- 昭和35(1960)年のチリ地震津波
6- 2003年5月:三陸南地震が起きたとき気仙沼市での避難率は1.7%。三陸地域においてでも、気仙沼市に限ったことではない。
防災教育の目指すところ p39
1- 人はなかなか逃げないもの。
2- その人が自発的に逃げるようにすること。
3- その人が自分の命を自分で守れるようにすること。
4- 地域社会や住民の自然災害への対応力を高めること。
5- 釜石市では、津波防災を文化のレベルまで引き上げて、あえて語らなくても「地域知」として常識化することにより、津波による犠牲者をゼロにすることを目的に掲げた。
釜石市における津波防災文化の醸成 p41
1- 子どもたちを対象にすることにより、子どもたちに接する大人たちの関心を喚起できる。
2- さらに長期的な効果:小学生のうちにしっかり教育すれば、10年後、その地域には防災意識が高い大人が、20年後、その土地には防災意識の高い親が暮らすことを意味する。
3- そうなれば、防災意識の高い親が子どもを育て、災害から身を守る意識と術が家庭のなかで受け継がれていくことになる。
4- 「10年一区切りで、20年は腰を据えて教育に取り組もう」。そう決意し、大人を対象とした講演活動ではなく、学校で津波防災を教えるという方向に切り替えた。
「津波防災教育」に乗り気でない先生方に、関心をもってもらうには? P43
時間的余裕がありません。
総合学習がいっぱいなんです。
津波ばかり時間は割けません。
これらの先生方の声に対して、教育委員会にお願いして、釜石市の全小中学校の先生方に集まっていただき、講演で以下のように訴えた。
「過去の統計を見れば、子どもたちが生きているあいだに津波がやってくることは間違いありません。しかし。いまのままで、子どもたちは津波から自分の命を守れるでしょうか。
英語や国語など、先生方も子どもに教えなければいけないことはたくさんあると思いますが、津波がきたときに生き延びられる子どもにすることは、すべての教育に優先することではないでしょうか」
すると、あきらかに会場の空気が変わりました。
多くの先生方が津波防災教育の必要性を感じ取り、私の意見に賛同してくださったのです。
「君がひとりで家にいるとき、大きな地震がありました。さて君ならどうしますか?」 p53
実際に学校で津波防災教育がスタートしたのは2004年。最初の授業のとき、私は自動にアンケート用紙を配った。
「このアンケート用紙にはひとつだけ質問が書かれています。とても簡単な質問です。みなさんだったらどうるすか正直に書いてください」
生徒の回答
1- お母さんに電話する。
2- 家族の誰かが帰ってくるのを待つ。
ほとんどの子どもの予想通りの回答、否定せず、そのかわり、ひとつお願をしました。
「そのアンケート用紙に紙を貼りますので、今日おうちに持って帰って、おうちのいかたに見せてください。かならず見せてくださいね」
保護者に向けた質問状を貼り付けました。P54
「お子さんの回答を見てください。あなたのお子さんは今度大津波がきたとき、生き延びることができるお子さんでしょうか?」
小中学校の親御さんの世代は、いわば働き盛り。仕事や子育て、家事、地域活動などでもっとも多忙な世代といえます。
それはつまり、防災講演会を開いても、足を運べない人たち、足を運ばない人たちということです。
子育てに忙しくて防災どころではない。残業続きで講演会どころではない。そんなかたたちにこそ、津波防災に興味を持ってもらわなければいけない。
そこで子どもたちを仲介役にしたのです。
親御さんはどなんに忙しくても、わが子のこととなると真剣になります。自分自身のことは脇に置いても、わが子のことを最優先させます。たとえ防災講演に足を運ぶ余裕はなくても、お子さんを介すれば、こちらの話に耳を傾けてくれます。
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参考までに下記をご参照ください。
人が死なない防災-東日本大震災を踏まえて:片田敏孝氏の防災教育
なぜ人は避難しないのか?人が死なない防災2- 片田 敏孝
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