石川県の地震と豪雨・「複合災害」から学ぶべきこと
尾崎 洋二 コメント
A 重大災害が起こってからの防災だけでなく、予想される複合災害に対して、事前の準備に徹するという減災対策(以下5項目)などが必要かと思われます。
1-事前の準備・備え項目→道路整備や上下水道の耐震化、避難体制の構築
2-地震後は土砂崩れや洪水の危険性が高まるということを、大雨が降る前に住民へ丁寧に説明しておくことが必要
3-リスクは地域だけでなく家ごとにも異なるということを、きめ細かく住民に伝える仕組みづくりが必要
4-中小河川での氾濫が相次いだことを踏まえると、大地震の後は洪水ハザードマップの見直しを緊急で行うなどの対応も必要
5-浸水想定区域内にどうしても仮設住宅を建てなければならないのであれば、例えば高床式にするといった工夫も必要
---------------------------------
本文要点箇条書き
1-9月21日に発生した豪雨は、輪島市で観測史上最高の1時間雨量121ミリを記録し、気象庁は同市と珠洲市、能登町に大雨特別警報を発令した。
2-河川の氾濫や土石流により15人が犠牲となり、浸水などによる住宅被害は1800棟を超えた。
3-輪島市や珠洲市では地震の被災者が暮らす仮設住宅が床上浸水した。
4-政府は10月11日、災害が相次ぐ能登半島の復旧・復興のため、2024年度予備費から約509億円の支出を決定。
5-大規模災害後の被災地は脆弱化しており、資機材や人員なども不足しているため、中小規模の災害でも甚大な被害に発展しやすい。
6-元日の地震に豪雨の影響が重なって被害が拡大した可能性が指摘されている。
7-珠洲市の大谷地区では、地震で山の一部が崩壊していた場所で豪雨による土砂崩れが発生。
8-能登半島での地震と豪雨は、河川防災のほか、道路整備や上下水道の耐震化、避難体制の構築などの必要性を一層浮き彫りにした。
9-気候変動などの影響により豪雨災害は年々、激甚化・頻発化している。地震後の水害といった複合災害が今後、各地で起きる可能性は高まりつつあると言える。
以下は防災システム研究所 山村武彦所長
1-発災後10日目に現地に入ったが、地震で地盤の緩んだところに大雨が降り、各地で土砂崩れや洪水を引き起こしていた。
2-河川も堤防に亀裂が入っていたり、堤防自体が沈下していたりして氾濫しやすい状態になっていたようだ。
3-特徴的だったのは、中小河川の氾濫が多かったことだ。水量が少ない河川でも、流れが変わり周辺の家々を一気に押し流してしまった。
4-さらにショックなのは、地震で被災した人が暮らす仮設住宅で浸水被害が相次いだことだ。せっかく入居できたのに、またそこから避難しなければならない事態は過去にあまり例がない。
5-「恐怖を感じる」と表現される1時間雨量80ミリ以上の滝のような猛烈な雨が発生する頻度は、この半世紀で約2倍に増えている。
6-豪雨がいつ襲ってきてもおかしくない中で大地震が起きれば、必ず複合災害に発展するということを前提として事前に対策を強化することが不可欠だ。
7-今回の豪雨では、災害のリスクが住民に十分伝わっていなかったのではないかと感じている。地震後は土砂崩れや洪水の危険性が高まるということを、大雨が降る前に住民へ丁寧に説明しておくことが必要だった。
8-リスクは地域だけでなく家ごとにも異なるということを、きめ細かく住民に伝える仕組みづくりが必要だ。
9-中小河川での氾濫が相次いだことを踏まえると、大地震の後は洪水ハザードマップの見直しを緊急で行うなどの対応も求められる。
10-浸水想定区域内にどうしても仮設住宅を建てなければならないのであれば、例えば高床式にするといった工夫も今後は検討すべきだろう。
----------以下 公明新聞 11月6日2024年 本文-----------
解説ワイド
地震と豪雨、「複合災害」にどう備えるか
9月に石川県の能登半島を襲った豪雨災害は、元日に起きた大地震の被災地に追い打ちをかけるように浸水や土砂崩れなどの甚大な被害を引き起こし、復興に大きな打撃を与えた。こうした「複合的な災害」にどう備えるか。被害の状況や政府の取り組みを解説するとともに、今後の課題などについて防災システム研究所の山村武彦所長に聞いた。
<解説>
■仮設住宅が床上浸水(能登)
9月21日に発生した豪雨は、輪島市で観測史上最高の1時間雨量121ミリを記録し、気象庁は同市と珠洲市、能登町に大雨特別警報を発令した。河川の氾濫や土石流により15人が犠牲となり、浸水などによる住宅被害は1800棟を超えた。
県管理河川などが多数氾濫し、輪島市や珠洲市では地震の被災者が暮らす仮設住宅が床上浸水した。地震の傷痕が残る中、土砂崩れにより道路が寸断され、一部地域で断水も発生。地震で被災したインフラの復旧にも遅れが出るなど深刻な被害をもたらしている。
政府は10月11日、災害が相次ぐ能登半島の復旧・復興のため、2024年度予備費から約509億円の支出を決定。インフラ復旧や仮設住宅の修繕、災害廃棄物処理などに充てる考えを示した。
■土砂崩れ相次ぎ被害拡大
大規模災害後の被災地は脆弱化しており、資機材や人員なども不足しているため、中小規模の災害でも甚大な被害に発展しやすい。能登半島でも、元日の地震に豪雨の影響が重なって被害が拡大した可能性が指摘されている。珠洲市の大谷地区では、地震で山の一部が崩壊していた場所で豪雨による土砂崩れが発生。川の増水で大量の土砂が流れ込んだことにより浄水場が被災したケースもあった。
仮設住宅で浸水が発生したことを巡っては、住み慣れない地域での生活を強いられている住民の避難対策も課題だ。能登半島での地震と豪雨は、河川防災のほか、道路整備や上下水道の耐震化、避難体制の構築などの必要性を一層浮き彫りにした。
■政府、「中期計画」の策定推進
政府は大規模災害への対策として、国土強靱化に力を入れる。具体的には、18年度から総事業費7兆円の3カ年緊急対策を実施し、河川堤防のかさ上げや、ため池の改修などに重点投資。21年度からは同15兆円の5カ年加速化対策を展開し、流域治水やインフラの老朽化対策のほか、道路網の拡充、水道施設の耐震化などにも取り組んでいる。いずれも公明党が強くリードしてきたものだ。
一方で、気候変動などの影響により豪雨災害は年々、激甚化・頻発化している。地震後の水害といった複合災害が今後、各地で起きる可能性は高まりつつあると言える。
国土交通省は、50年時点で洪水や土砂災害などの危険性がある地域に住む人は全国で約7200万人いると試算する。総人口に占める割合で見ると約71%に当たり、15年時点と比べると2・8ポイント増えている。
■公明、国土強靱化さらに
そうした中で、加速化対策の終了後も取り組みを切れ目なく進めることが求められている。公明党は国土強靱化に向けた「実施中期計画」を今年度内に策定し、26年度から5カ年で20兆円規模の予算を確保するよう政府に強く働き掛ける方針だ。
また、公明党はこれまでの大規模災害の経験を踏まえ、被災自治体との連携強化を一層進めるため、各府省庁を横断的に統括する「防災庁」の創設を掲げる。最先端技術を活用した大規模災害のデータ解析・集積による予測精度の向上や、専門的な防災人材の確保・育成などを進めたい考えだ。
<インタビュー>
■防災システム研究所 山村武彦所長に聞く
――能登半島での豪雨被害をどう見ているか。
山村武彦所長 発災後10日目に現地に入ったが、地震で地盤の緩んだところに大雨が降り、各地で土砂崩れや洪水を引き起こしていた。河川も堤防に亀裂が入っていたり、堤防自体が沈下していたりして氾濫しやすい状態になっていたようだ。地震からの復興途上だった被災地を襲った、不幸な条件が重なった災害だったと言わざるを得ない。
特徴的だったのは、中小河川の氾濫が多かったことだ。水量が少ない河川でも、流れが変わり周辺の家々を一気に押し流してしまった。さらにショックなのは、地震で被災した人が暮らす仮設住宅で浸水被害が相次いだことだ。せっかく入居できたのに、またそこから避難しなければならない事態は過去にあまり例がない。
■温暖化で猛烈な雨が頻発/事前の対策強化を
――各地で複合災害のリスクが高まっていると言われる。
山村 地球温暖化などの影響で雨の降り方が変わったことが一番の原因だ。
例えば、「恐怖を感じる」と表現される1時間雨量80ミリ以上の滝のような猛烈な雨が発生する頻度は、この半世紀で約2倍に増えている。豪雨がいつ襲ってきてもおかしくない中で大地震が起きれば、必ず複合災害に発展するということを前提として事前に対策を強化することが不可欠だ。
■住民へリスクの説明丁寧に
――国や自治体はどう備えるべきか。
山村 今回の豪雨では、災害のリスクが住民に十分伝わっていなかったのではないかと感じている。地震後は土砂崩れや洪水の危険性が高まるということを、大雨が降る前に住民へ丁寧に説明しておくことが必要だった。
とはいえ、大地震の後は自治体の職員も震災対応で手いっぱいの状態であることがほとんどだ。国や県がフォローすることはもちろんだが、民間の力を活用することも提案したい。ボランティア団体やNPOには、専門のスキルを持った人材が多くいる。リスクは地域だけでなく家ごとにも異なるということを、きめ細かく住民に伝える仕組みづくりが必要だ。
■ハザードマップ見直しも
また、中小河川での氾濫が相次いだことを踏まえると、大地震の後は洪水ハザードマップの見直しを緊急で行うなどの対応も求められる。
――今後の課題は。
山村 仮設住宅の浸水被害を巡っては、能登半島では仮設住宅の建設に適した平地が少なく、リスクの高い場所に建てられたのは致し方ない面はあると思う。浸水想定区域内にどうしても仮設住宅を建てなければならないのであれば、例えば高床式にするといった工夫も今後は検討すべきだろう。
いずれにしても、複合災害には民間も含めた“オールジャパン”で備えることが重要だ。そのためにも、各府省庁を横断的に統括する「防災庁」を設置する意義は大きい。少子高齢化で崩れつつある地域コミュニティーを再構築するという観点からも、引き続き国民の命を守る国土強靱化や防災・減災対策を進めてほしい。
やまむら・たけひこ 東京都出身。1964年の新潟地震でのボランティア活動を契機に「防災システム研究所」を設立。以来60年にわたり、国内外で災害の現地調査を行っている。防災意識の啓発に取り組むほか、企業や自治体の社外顧問やアドバイザーも歴任。著書多数。