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コロナ禍が問うグローバル資本主義 日本大学危機管理学部・先崎彰容教授に聞く

2021年06月02日 14時36分48秒 | 感染症パンデミック対策

コロナ禍が問うグローバル資本主義

日本大学危機管理学部・先崎彰容教授に聞く


尾崎 洋二 コメント:

全世界共通のテーマです。

危機(コロナ禍)をチャンスとして、どのように国家観を捉えなおすのか?

また私たちはどのように世界経済(資本主義)をどのように考え直していくべきか?

マスコミに翻弄されることなく、堅実なる「中間集団」へ理想的に関与するには?
(私は防災・コロナ対策に力を入れ、実績を出している公明党を支持する団体も、立派な貴重な中間集団かと思います)

上記3項目の設問に答えている先崎彰容教授のご意見です。


------公明新聞 6月1日 要点抜粋箇条書き------------------------


1-今回の新型コロナによる感染拡大の背景

世界は、グローバル化によって大きく発展してきた。だが逆に、感染症拡大の原因となり、今日の混乱に陥っている。



2-グローバル化とは?その問題点は?

国際化などと訳されるが、端的に「移動の時代」と考える方が正確。

私たちの(グローバル化された)生活様式が今回の事態を引き起こした。

グローバル時代の資本主義経済のあり方そのものが問われている。



3-グローバル資本主義とはどういうものか?その問題点は?

構造改革の名の下に規制緩和や競争の原理を導入し、ヒトやモノ・カネを世界に環流させて障壁を取り払った経済活動をめざすもの。

障壁がなくなり、世界のどこかで起きた悪影響が一瞬で世界に広がってしまうことが、最大の問題点。

海外と国内の風通しが良いほど、いったん危機が起きれば、直接国内が打撃を受ける。

世界情勢に容易に翻弄される。



4-グローバル資本主義は誤った方向性なのか?

問題は、グローバル資本主義的な生き方、経済合理性と営利第一主義を私たちが「生の第一の価値観」に据えてしまったこと。

過度な競争は、人間関係を個人主義=利己的なものにしてしまう。他人を利害関係でしか評価、相手にしなくなる。

その典型例が所属を拒否したフリーランスに代表される働き方への評価。

競争社会は、フリーランスの一方で、所属したくてもできない、おびただしい非正規雇用も生み出した。

コロナ禍が示したように、彼らは社会構造に激変が生じれば即座に生活の糧を失う。

こうした不安定な人材を多く抱えた社会は、「社会的脆弱性」が大きい社会である。

問題は、今日でもなお、日本社会が競争をあおり、規制緩和を進めてフリーランス人材を称賛している事実である。



5-「脆弱性」が社会に与える影響は?

「個人対国家(政府)」の構図を生んでしまっていること。

個人の危機の保障は、全て国家が行うのが当然という風潮。

それが、権力を批判することこそ民主主義を守ることといった誤認にもつながっている。

まさに、グローバル資本主義がもたらした危機に弱い生き方、「社会的脆弱性」の実像と言わざるを得ない。



6-なぜ、そうした社会構造になったのか?


個人と国家の間に入るべき、中間的な別の人間関係がないから。

だから、個人がいきなり国家に不平不満をぶつけ、保障を求めてしまう。

結果的に社会が弾力性を失う。

今、日本社会に必要なのは、社会的包摂性を持つ中間集団的存在。

そもそも、国家というものは、施設などのハード面や金銭面でしか個人に対し、保障できない。

国が苦手とするのは、もっとしなやかな人間関係の構築、そして他者から存在を認められることで得られる「尊厳」の分野。



7-具体的に、中間集団はどのようなものが想定されるのか?


人工的につくるしかなく、NPO法人といった組織は非常に重要。

その点では、各地に広がっている「子ども食堂」は非常に良い例。

こうした存在を自ら発想し、展開する人たちにこそ、政府は手厚く支援していくべき。

社会も自発的・自生的に公共の福祉に関わる人たちをもっと認めていかなければならない。



8-新型コロナの拡大によって強制的に経済交流が停滞する今、政治がやるべきことは?

国際経済に翻弄され、個別案件に対処することではない。

人々の生き方や価値観そのものをグローバル市場中心から、「国内循環型」へシフトする取り組みではないか。

効率性や経済合理性を多少犠牲にしても、国内で自給自足できるような社会のあり方にも価値があるとのマインドを
国民が持てるようにすべきだ。

この点でこのコロナ禍は、政治家にとって、ワクチン接種をどうするかという目先の政務への対処も重要だが、
長期的なビジョンに立って国のあり方を議論する絶好のタイミングであることを強調しておきたい。


-----------------------以下 公明新聞 6月1日--------------------------------------

コロナ禍が問うグローバル資本主義
写真キャプション
日本大学危機管理学部・先崎彰容教授に聞く
2021/06/02 4面
 発生から短期間で拡大し、いまだ終息しない新型コロナウイルス感染症は、グローバル資本主義の脆弱性を浮き彫りにしたと指摘されている。その理由と、ポストコロナを見据えた日本の経済・社会のあり方について、日本大学危機管理学部の先崎彰容教授に聞いた。


■パンデミックの大きな原因

 ――歴史上、過去にもパンデミック(世界的大流行)は起きたが、今回の新型コロナによる感染拡大の背景をどう見るか。

 先崎彰容・日本大学教授 日本をはじめ世界は、グローバル化によって大きく発展してきた。だが逆に、感染症拡大の原因となり、今日の混乱に陥っている。

 グローバル化は、一般的には国際化などと訳されるが、端的に「移動の時代」と考える方が正確だろう。その特性が結果として日本から遠く離れた場所で発生したウイルスを、瞬く間に世界へ拡散させた。感染がヒトからヒトへと広がる性質である以上、今の私たちの生活様式が今回の事態を引き起こした。グローバル時代の資本主義経済のあり方そのものが問われている。

■「社会的脆弱性」浮き彫りに

 ――グローバル資本主義とはどういうものか。

 先崎 構造改革の名の下に規制緩和や競争の原理を導入し、ヒトやモノ・カネを世界に環流させて障壁を取り払った経済活動をめざすもので、1980年代に英国のサッチャー首相や米国のレーガン大統領の登場により、世界を席巻した。結果、地球規模で競争が活発化し、生産性が向上するなど、経済成長の恩恵を生み出したことは事実だ。

 ただ、弊害も大きい。障壁がなくなり、世界のどこかで起きた悪影響が一瞬で世界に広がってしまうことが、最大の問題点だ。海外と国内の風通しが良いほど、いったん危機が起きれば、直接国内が打撃を受ける。世界情勢に容易に翻弄される。これを私は「社会的脆弱性」と名付け、現代日本を考えるキーワードだと主張したい。

 2008年のリーマン・ショックが、日本の小さな商店にまで影響を及ぼしたことが象徴的だ。ところが、それをはるかに超える深刻な事態が、新型コロナの拡大である。金融危機は想定できても、ウイルスの拡大までは想定していなかった。

 人気業種である航空業界や旅行業界、鉄道業界などが大きな影響を被っている姿は、改めてグローバル資本主義の「脆弱性」を浮き彫りにした。逆に、移動を禁じたことで国境が持つ意味も明らかにしたと言えるのではないか。

■経済合理性が第一の価値観

 ――グローバル資本主義は誤った方向性なのか。

 先崎 グローバル資本主義には功罪両面ある。問題は、グローバル資本主義的な生き方、経済合理性と営利第一主義を私たちが「生の第一の価値観」に据えてしまったことだ。シビアな資本主義を生きている私たちにとって、競争や経済成長は不可避だ。しかし、過度な競争は、人間関係を個人主義=利己的なものにしてしまう。他人を利害関係でしか評価、相手にしなくなる。

 その典型例が所属を拒否したフリーランスに代表される働き方への評価だ。私は、こうした働き方自体を否定するわけではない。ただ、こうした人材こそ組織から自由で、かつ創造的発想を生み出すと称賛してきたのではないか。だが競争社会は、フリーランスの一方で、所属したくてもできない、おびただしい非正規雇用も生み出したではないか。

 コロナ禍が示したように、彼らは社会構造に激変が生じれば即座に生活の糧を失う。こうした不安定な人材を多く抱えた社会を、私は「社会的脆弱性」が大きい社会だと言っているのである。

 問題は、今日でもなお、日本社会が競争をあおり、規制緩和を進めてフリーランス人材を称賛している事実である。

■危機に対応できず混乱招く

 ――「脆弱性」が社会に与える影響は。

 先崎 一言で言えば、「個人対国家(政府)」の構図を生んでしまっていることだ。コロナ禍で、私たちはとかく政権批判に終始しがちである。例えば、安倍政権がマスクを全国配布すると言うと、その質を酷評し、生活困窮世帯への30万円給付を全員一律10万円給付に切り替えると、変更自体が政府の稚拙な政策決定だと糾弾した。つまり「否定という病」とでも言うべき混乱したいら立ちの言葉が日本を覆い、人々をつなげた。

 ポイントは、個人の危機の保障は、全て国家が行うのが当然という風潮だ。それが、権力を批判することこそ民主主義を守ることといった誤認にもつながっている。まさに、グローバル資本主義がもたらした危機に弱い生き方、「社会的脆弱性」の実像と言わざるを得ない。

■「包摂性」持つ中間集団必要/自給自足めざすビジョンも

 ――なぜ、そうした社会構造になったのか。

 先崎 個人と国家の間に入るべき、中間的な別の人間関係がないからだ。だから、個人がいきなり国家に不平不満をぶつけ、保障を求めてしまう。結果的に社会が弾力性を失う。

 今、日本社会に必要なのは、社会的包摂性を持つ中間集団的存在だ。簡単に言えば、人は一人では生きていけないから、近隣の人同士が自分たちの問題を話し合って生きていくイメージだ。戦後日本は、高度成長期に都市部に人口が流入したこと、多くは会社人間として郊外から都心へ通勤したことから、「地域」が個人の人生にとって無視され続けてきた。平日、「地域」に長時間滞在する人間は、子どもと高齢者である。中間集団を形成する「地域」が無視され、個人はバラバラに会社に所属してきた。今後、どのようにして人々を「地域」に取り戻し、中間集団をつくる主人公にしていくのかが問われている。

 そもそも、国家というものは、施設などのハード面や金銭面でしか個人に対し、保障できない。国が苦手とするのは、もっとしなやかな人間関係の構築、そして他者から存在を認められることで得られる「尊厳」の分野だ。友人や知人から無担保融資が受けられなくとも、声を掛け合ったりすることで自殺や餓死を免れたり、社会から孤立しないで済む。こうしたしなやかな関係構築こそ、中間集団の役割ではないか。私が主張する「国家の尊厳」とは、そういう意味である。

 ――具体的に、中間集団はどのようなものが想定されるのか。

 先崎 結論から言えば、人工的につくるしかなく、NPO法人といった組織は非常に重要だ。その点では、各地に広がっている「子ども食堂」は非常に良い例だ。こうした存在を自ら発想し、展開する人たちにこそ、政府は手厚く支援していくべきだ。社会も自発的・自生的に公共の福祉に関わる人たちをもっと認めていかなければならない。

 新型コロナの拡大によって強制的に経済交流が停滞する今、政治がやるべきことは、国際経済に翻弄され、個別案件に対処することではない。人々の生き方や価値観そのものをグローバル市場中心から、「国内循環型」へシフトする取り組みではないか。効率性や経済合理性を多少犠牲にしても、国内で自給自足できるような社会のあり方にも価値があるとのマインドを国民が持てるようにすべきだ。

 昨年、先進国日本でマスクすら自給自足できない状況が露呈したが、長い目で見た時、国内では不必要と思えることにもある程度資金をかけるような視点は必要だろう。

 この点でこのコロナ禍は、政治家にとって、ワクチン接種をどうするかという目先の政務への対処も重要だが、長期的なビジョンに立って国のあり方を議論する絶好のタイミングであることを強調しておきたい。


 せんざき・あきなか 1975年生まれ。東京大学文学部倫理学科卒。東北大学大学院博士課程修了。文学博士。2016年より現職。専門は日本思想史。最新刊に『国家の尊厳』(新潮新書)。
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感染症拡大の最前線で 国立国際医療研究センター病院・国際感染症センター 大曲貴夫センター長に聞く

2020年12月15日 09時11分54秒 | 感染症パンデミック対策
感染症拡大の最前線で 国立国際医療研究センター病院・国際感染症センター 大曲貴夫センター長に聞く
医療との距離が重症化を招く。社会的影響への対応も必要
 現在、第3波となって猛威を振るう新型コロナウイルス感染症。感染拡大が続く中、多くの重症患者を受け入れ、治療に取り組んできた国立国際医療研究センター病院・国際感染症センター長の大曲貴夫氏に聞いた。

尾崎洋二 コメント:
政府の観光支援策「Go To トラベル」は年末から全国一斉の事業停止が決まりました。本格的に冬を迎えて、
停止によって本当に、新規感染者拡大が収まるのでしょうか? 私たちは今後、油断をすることなく、コロナ
禍対応の治療に従事されている方々への感謝をし、さらに慎重にコロナ禍に対応するべきかと思います。

また社会的に弱い立場にあり、医療との距離が遠い人々への支援がさらに必要かと思います。
大曲氏は「今回の新型コロナウイルス感染症の拡大によって、現在の感染症対策では十分で
はないことがはっきりした。検査体制や治療方針、専門医の育成等々、感染症対策の充実に
力を注がなければならないことを学んだ」と言われ、対応するため「新型コロナウイルス感
染症に関する観察研究(レジストリ研究)」の代表を務められ、全国の医療機関に入院した
患者の情報を収集し、病気の特徴や経過について明らかにしようとされています。

今後「社会的影響も考え感染症対策に当たる」医師、専門家と官民との連携が更に必要かと
思われます。

----------以下 聖教新聞12月15日2020年--要点箇条書きQ&A様式で----------

流行が染み渡っている

Q1――本格的な冬を迎えましたが、新規感染者が拡大する現状をどう見ていますか?
A1

1- 夏の流行時、目立っていたのは大きな繁華街を中心に広がる感染拡大でしたが、現在は小さな繁華街でも感染が広がっています。さらに、そこから家庭や職場に拡大しています。
1- 火種はあちこちにあって、新型コロナウイルスの流行が染み渡っているという気がします。
2- また、感染拡大が長く続き、皆さん、気持ちの緩みもあり、以前ほど厳しく行動も制限しておられないようです。
3- 寒さの影響も少なくないと思います。気温が下がることで身体的にもストレスが増え、部屋の換気も難しくなり、予防対策が取りにくくなるのではないでしょうか。
そうしたことが重なり、至る所でクラスター(感染者集団)が発生しているのが現状だと思います。

Q2――重症患者数が第1波を超えて増加しています。医療崩壊を防ぐためにも、感染者の重症化を防ぐことが必要ですね?
A2

1- 高齢者などのリスクの高い人が感染しないようにすることが前提ですが、そうでない方も、感染を疑うような症状がある時は早めに医療機関に連絡し受診してほしいと思います。
2- 風邪が流行する時期で、医療機関を利用している方も多いと思いますが、厳しい労働環境で働く若者や独り暮らしの高齢者など、医療との距離が遠くなっている方の中に重症者が出ているのではないかと考えています。
3- 海外でも社会的に弱い立場にあり、医療との距離が遠い人々を狙うように、このウイルスは感染を広げています。そうした方々をどう医療につなげるのか。社会における医療全体の底上げが必要であると思います。
4- 一方、感染者の重症化を予測する因子(関連たんぱく質)が少しずつ明らかになってきています。これらが明らかになれば、感染後の早い段階で入院が必要か不要か判断でき、病床の確保に役立てられると考えています。

疫学的に明らかにする
Q3――国際医療研究センター病院では、第1波のピーク時、47人の重症患者を受け入れ、対応されました。どのような思いで取り組まれたのでしょうか?
A3

1- 一般の患者と共に、それだけの重症患者に対応するのは、もちろん初めての経験でした。 医師も看護師も、それぞれ相当な覚悟をしなければ対応できないことも多かったのですが、病院内の医師や看護師、スタッフにはこうした事態への備えが常に頭の中にあったようです。各人があわてることなく、自分は何をなすべきかを自覚し対応できたと思います。
2- 患者の受け入れから病床の確保、重症患者への対応など医療全体が回るまで3週間前後かかりましたが、医療崩壊を招くような事態は起きませんでした。その経験は現在の感染拡大にも必ず役立つと思っています。

Q4――現在、センターが進める新型コロナウイルス感染症に関する観察研究(レジストリ研究)の代表を務められています。
A4

1- 全国の医療機関に入院した患者の情報を収集し、病気の特徴や経過について明らかにすることを目的にしています。現在、研究参加施設は830施設、登録症例数も1万7000症例を超えています。
2- 現在も収束の見えない状況ですが、だからこそ、いま何が起こっているのか、第1波と第2波では何が違い、第3波では何が起きるのか、疫学的に明らかにしていく必要があると考えています。
3- また、重症例を中心に抗ウイルス薬の投与も始められています。これらを詳細に観察することで、より効果のある、治療薬の選択や投与のタイミング等の治療方針を決定することにつながると期待しています。

自らの仕事見直す機会に
Q5――日本における感染症対策の課題が明らかになってきたと思います。
A5

1- 海外に比べ、日本では比較的早く感染症を克服してきた歴史もあり、感染症対策を重視する社会的な空気はなかったと思います。SARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)も国内での流行を経験することがなかったので、想定に甘さがあったのかもしれません。
2- しかし、今回の新型コロナウイルス感染症の拡大によって、現在の感染症対策では十分ではないことがはっきりしました。検査体制や治療方針、専門医の育成等々、感染症対策の充実に力を注がなければならないことを学んだと思います。
3- 診断、治療を行うことでは感染症も他の病気と変わりません。ただ、感染症対策はそれが全てではありません。予防対策も必要ですし、感染の拡大を防ぐことができなければ、社会が不安になり、経済も立ち行かなくなります。
4- 個人レベルで感染者を診る感染症医も必要ですが、それだけでなく社会的影響も考え感染症対策に当たる医師、専門家が必要であることを知りました。さらに私自身も感染症医としての自身の仕事を見直し、捉え直す機会になっています。

 おおまがり・のりお 1971年生まれ。米テキサス大学ヒューストン校感染症科、静岡県立静岡がんセンター感染症科医長などを経て2012年から現職。医学博士。国立国際医療研究センター病院で新型コロナウイルス診療チームのリーダーとして感染者の診療、治療に従事する。東京都新型コロナウイルス感染症対策審議会委員。

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コロナ禍と社会の変容-美馬 達哉 氏―「生政治」の高まりが管理を強化:求められる市民の連帯と行動

2020年12月02日 08時15分29秒 | 感染症パンデミック対策
コロナ禍と社会の変容-美馬 達哉 氏
―「生政治」の高まりが管理を強化:求められる市民の連帯と行動

 これまで人類を何度も脅かしてきた感染症だが、現在、新型コロナウイルスの脅威が世界を覆っている。
その影響は医学や生物学の領域を超え、政治や経済など、社会にさまざまな変化を及ぼしている。
こうした社会の変容に人文知の果たすべき役割は何か。コロナ禍の社会をどう読み解けばよいのか。
『感染症社会』(人文書院)の著者で、医療社会学者の美馬達哉・立命館大学教授に聞いた。

尾崎洋二 コメント:
「新しい生活習慣ではなく、新しい政治参加こそが、グローバルな連帯を通して社会を変え、COVID―19対策を実効的にする」
という提言がとても新鮮に響きました。以下の質問に興味を持たれましたら、全文をぜひお読みください。

Q1-医学の専門家だけに、これからの社会の針路もお任せできるのか?
Q2-生物学や医学に偏った考えの限界は?この限界を乗り越えるには?
Q3-感染症の歴史から学ぶべきものは?
Q4-「生政治」とは何か?
Q5-いま日本で、コロナ対策において、成されつつある緊急事態社会や自粛社会の注意点は?
注意点からくる危険性を克服する鍵は?

----------------------------以下 聖教新聞12月1日2020年----------------------------------------

Q1-医学の専門家だけに、これからの社会の針路もお任せできるのか?
A1
医学だけでは見通せぬ事態
 新型コロナウイルス感染症(COVID―19)をウイルスによって広がる病気という側面だけで見れば、それは医学の専門分野で、ワクチンや治療薬ができるかどうかの問題という話になります。しかし、医学の専門家だけに、これからの社会の針路もお任せするのかと言えば、それは違うのではないでしょうか。
 同じウイルスでも、感染者が激増する地域もあれば、そうでない地域もあります。そこには遺伝的な形質の違いだけでなく、感染症に対する意識や清潔習慣、社会慣習も関係しています。従って医学的に見るだけでは、いま起きているパンデミック(世界的大流行)の事態は見通せないのです。

Q2-生物学や医学に偏った考えの限界は?この限界を乗り越えるには?
A2
 また、別の視点から考えましょう。日本で取られているクラスター対策には、感染者を危険人物と見る管理の発想があります。
その結果、手当てされ保護されるべき存在である感染者が排除の対象になり、感染者自身が検査拒否したり、症状を隠したりすることも生じています。
感染症対策は感染者の生活と人権を守らない限りは不可能なのです。
これは生物学や医学に偏った考えでは、どうしても抜け落ちがちな点です。
そこで大事になるのが、人文知、つまり生物学や医学ではない学問や経験です。
つまり、哲学や歴史学や社会学や人類学の視点を取り入れることの必要性です。

Q3-感染症の歴史から学ぶべきものは?
A3
服従の巧妙な仕掛け
 細菌やウイルスといった病原体が病気の原因であると発見されたのは19世紀末以降、日本でいえば明治維新の頃です。
しかし、大規模な感染症は都市文明とともに始まりましたから、人類は細菌やウイルスの知識、ましてやワクチンのない時代から感染症と付き合ってきました。
そこから学ぶべきものがあるのではないでしょうか。
そのとき、私が手掛かりとしたのが「コンスティテューション」という語です。
現在の医学からは忘れられている言葉ですが、医学史の中では重要な概念です。
体質や大気組成という訳語が当てられます。
病原体の知識がない過去の時代でも、同じ症状で人々が次々と倒れていくのを見れば、何らかの共通の原因があるはずだと多くの人々は気付きます。
それを神のたたりや天罰と考えた人もいましたが、少し合理的に考える人の中には気候や空気のよどみなど、現在でいう社会環境要因に目を向けた人もいました。
そうしたさまざまな要素が、当時はコンスティテューションと呼ばれました。
その知恵を現代の人文知とつなげ直すことがいま、大切ではないかと考えています。

Q4-「生政治」とは何か?
A4
 次に、コンスティテューションを社会制度や政治の面から見てみましょう。
COVID―19対策では、外出制限等の公衆衛生的な手法は、なるべく「自粛」であることが日本では目指されました。
そこで理想とされるのは、フランスの哲学者ミシェル・フーコーによって「生政治」と名付けられた社会の姿そのものです。
「生政治」とは、生物としての人間の生命に目を向け、人々の健康を増進することを目的に社会の秩序を維持する政治です。
従って感染症の予防を目的として政治を行うのも、「生政治」の一つの姿といえます。
そのとき、理想とされるのが自発的な服従に基づいて自ら管理する社会です。
フーコー自身は、その状態を、監視されているかどうか分からない不安の中で人々が「自発的」に服従させられる巧妙な仕掛けと考えて、監視社会のもつ不自由さを批判していました。
現代においては、情報通信基盤の発展によって、監視の社会的広がりは目を見張るほどになっています。
中国、台湾、韓国ほどではありませんが、日本のスマートフォン用アプリCOCOAも、スマホ等のモバイル機器を通じた監視によって、自発的に人々を感染予防に服従させる仕組みをつくり上げていると見ることができます。

Q5-いま日本で、コロナ対策において、成されつつある緊急事態社会や自粛社会の注意点は?
注意点からくる危険性を克服する鍵は?

A5
根本的な変革の機会に
 忘れてはならないのは、「生政治」の上昇は単なる生命としての効率的な管理を人々に押し付ける危険性があることです。
それは自律的に生きるのとは違います。
その例が難民キャンプです。食事だけは与えられるけれど、自ら何かを決めて行動する自由は極端に制限されます。
いま形成されつつある緊急事態社会や自粛社会は、それに似たものになりつつあるように思えます。
過去の感染症のパンデミックの歴史を見れば、ペストによる都市封鎖という非常事態が近代の監視の仕組みをつくり、コレラ対策が現在の都市環境の整備につながっています。
COVID―19でも社会は大きく変わることでしょう。
そのことで社会を根本的に変革するチャンスをいま、私たちは手にしているのではないかとも考えています。
感染症は一国では解決できない問題で、全世界の人類が連帯して向き合う集団的行動が求められています。
非常事態の宣言を待ち、それに従う受動的な生き方ではなく、一人一人が当事者となって、市民社会の側から関わっていくことが、コロナ禍の中では必要です。
その意味では、新しい生活習慣ではなく、新しい政治参加こそが、グローバルな連帯を通して社会を変え、COVID―19対策を実効的にするのです。

美馬達哉著『感染症社会』(人文書院)
みま・たつや 1966年、大阪府生まれ。京都大学准教授などを経て現職。
医学博士。脳神経内科医。専門は医療社会学、脳科学。
著書に『<病>のスペクタクル 生権力の政治学』『脳のエシックス』『リスク化される身体』などがある。
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感染症は環境問題:思いやりの精神が持続可能な未来をつくる。環境ジャーナリスト・石 弘之 氏

2020年11月12日 12時17分42秒 | 感染症パンデミック対策
尾崎洋二 コメント:
抜本的なコロナ対策や、温暖化・環境問題などを考える時、私たちはどうしても、全地球的規模で思考せざるを得ないと思います。
一国主義(自分の国だけが第一だ!)の国に対しては、私たちはノー!と言うべきかと思います。
「人間も含めて全ての生物が、大きな生態系の循環の中を生きているのであり、特定の種が“一人勝ち”することなど、あり得ないのだと教えてくれています」という言葉から、人類だけが欲望に任せて、地球に対して環境破壊をし、温暖化をして、自業自得の果てに今回のコロナ禍をもたらしたように思いました。
コロナ禍を最大のチャンスとして温暖化をはじめとする環境問題を根本的に全ての人々が考え、「コモンズ(共有地)の悲劇」を避けるためにも、対策の行動をするべきかと思います。
また、「人間の体内には、約380兆ものウイルスが存在していて、人間の遺伝子の約4割は、ウイルスによって運び込まれたとする説もあり、人間が生きる上で欠かせない働きをするものも、生物の進化に大きく関わってきたものもいる」ということを初めて私は知って驚きました。
-----------以下 聖教新聞11月12日2020年 より----------------------------------------------
〈危機の時代を生きる〉感染症は環境問題。思いやりの精神が持続可能な未来をつくる
 環境ジャーナリスト・石弘之さん:著書『感染症の世界史』(角川ソフィア文庫)

【プロフィル】いし・ひろゆき 1940年、東京都生まれ。東京大学卒業。朝日新聞社ニューヨーク特派員などを経て、国連環境計画(UNEP)に上級顧問として出向し、94年に退社。東京大学や北海道大学大学院の教授、ザンビア大使を歴任してきた。主な著書に『地球環境報告』、『名作の中の地球環境史』、『環境再興史』など。

 人類は誕生以来、地球環境の多様な変化の中で生きてきた。感染症と向き合う鍵は、人間と自然の関わりの歴史を見つめることにあろう。環境史を専門とする石弘之さんに、今回のコロナ禍について語ってもらった。(聞き手=志村清志、萩本秀樹)

Q1 ――コロナ禍の長期化によって、ある意味で、多くの人々がウイルスを“身近”な存在として捉えるようになりました。
A1
ウイルスは、約1万分の1ミリと非常に微小で、大気中や深海など地球上のあらゆる場所に存在しています。
遺伝子を保有するものの、生物の最小単位である細胞を持たないことなどから、生物と無生物の境界線上に位置付けられています。
ウイルスの歴史は古く、今から30億年前には誕生していたとされます。
一方、コロナウイルスが登場したのは今から約1万年前と推定されていますが、最近、6万年前の化石人類であるネアンデルタール人のDNAからも、コロナウイルスに感染した痕跡が見つかっています。  
人類は常にウイルスと共存してきた、といっても過言ではないでしょう。
ウイルスは「病気の原因」という印象が強いですが、人間に害を及ぼすものは、膨大な種類の中のごく一部です。
しかもそれらのウイルスは、決して意志を持って毒性を強めたわけではなく、遺伝子の変化の過程で、たまたま毒性が備わったと考えられます。
人間の体内には、約380兆ものウイルスが存在しています。人間が生きる上で欠かせない働きをするものも、生物の進化に大きく関わってきたものもいます。
本来なら遺伝子は、親から子、子から孫へと“垂直方向”に伝わりますが、ウイルスは、ある生物から他の生物へ、種の壁を越えて、“水平方向”に遺伝子を運ぶ役割を担っています。
それが、それぞれの生物種の遺伝子に組み込まれることで、進化を促す一因になるのです。
人間の遺伝子の約4割は、ウイルスによって運び込まれたとする説もあります。
例えば、一部の哺乳類が保有する「胎盤」は、ウイルス由来の遺伝子による進化で獲得したものです。胎児は、父親の遺伝子を半分引き継いでいるため、母親の免疫システムにとっては排除の対象となりますが、母親の体内にいるウイルスが膜を形成し、胎児を包み込むことで攻撃から守っているのです。

Q2 ――著書『感染症の世界史』の「あとがき」で、「人は病気の流行を招きよせるような環境をつくってきた」とつづられています。今回の新型コロナウイルスの世界的流行を、どのように見ていますか ?
A2
新型コロナウイルスは、“世渡り上手”なウイルスだと思います。
感染しても無症状の場合が多い上、人間の体内に抗体がつくられにくい特性を持つなど、人類の感染予防対策の網目をすり抜けるからです。
ウイルスは自らの意志ではなく、人によって広がります。私たち人類の方から、ウイルスが蔓延しやすい状況をつくり出してきたということです。
具体的な要因としてはまず、世界各地で進行する「都市化」が挙げられます。特に、ここ100年間の都市化のスピードは著しい。
20世紀初めには全体の2割程度だった都市人口が、今では約5割にまで上っています。
一定の地域に多くの人間が集まって暮らせば、その分、ウイルスは感染しやすい。
人口密度の高い地域は、彼らにとって“快適”な環境といえます。
「都市化」はウイルスが広がった要因の一つと指摘されている
さらに、都市化の中で進む交通機関の発達は、長距離かつ短時間でのウイルスの移動を可能にしました。
また、肉食文化の広がりによる家畜の増加や、森林破壊などによる野生動物の居住環境の変化も感染拡大の要因であるといえます。
今回の新型コロナウイルスの自然宿主(もともとウイルスと共生している生物)とされるコウモリも、本来のすみかを追われ、人や家畜との接触機会が増えました。
そのため、彼らの保有するウイルスが、センザンコウやジャコウネコなどの中間宿主を経て、最終宿主である人間に感染したと考えられます。

Q3 ――今後、コロナ禍を巡る状況はどのように推移するとお考えですか?
A3  
感染症の終息は、非常に複雑で判断が難しい。
過去の事例を見ても、はっきりと終息と断定できたものは多くありません。
2003年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)に対して、WHO(世界保健機関)が終息宣言を出したことは、むしろ例外に当たります。
なぜ終息を見極めるのが困難かといえば、人類と感染症との戦いは、“いたちごっこ”のようなものだからです。
いくらワクチンを開発しても、しばらくすれば、耐性を持った新種が生まれ、流行を繰り返します。
新型コロナウイルスのワクチン開発も進んでいるようですが、医学的に完全に抑え込むことは難しいでしょう。
それよりも、コロナに対する人々の捉え方が、社会的・心理的に徐々に変化していくのが、一つの収束のあり方だと思います。
「ウィズ・コロナ」という言葉があるように、何度か感染流行を繰り返す中で、インフルエンザのように、コロナウイルスとの共存が当たり前の考え方となって定着していくのではないでしょうか。
歴史を振り返ると、各世紀を代表するような感染症が猛威を振るいました。14世紀のペスト、16世紀の梅毒、17~18世紀の天然痘、19世紀のコレラと結核、20世紀のインフルエンザなどです。
21世紀に入ってからは、03年のSARS、12年のMERS(中東呼吸器症候群)、そして今回と、コロナウイルスの感染流行が相次いでいます。
これからもコロナウイルスの感染流行は、断続的に発生するかもしれません。

Q4――「ウィズ・コロナ」を生きるために必要な、視点や心構えは何でしょうか? 
A4
生物の頂点に立つ存在として繁栄を謳歌してきた人類が今、目に見えない微小なウイルスによって、かつてないほどの混乱に陥っています。  
このことは、人間も含めて全ての生物が、大きな生態系の循環の中を生きているのであり、特定の種が“一人勝ち”することなど、あり得ないのだと教えてくれています。
アメリカの生物学者G・ハーディンが提唱した、「コモンズ(共有地)の悲劇」という命題があります。
誰もが自由に利用できる牧草地(共有地)で、皆が自分の牛をより多く飼おうとし始めると、牧草が枯渇し、全員が共倒れしてしまうという話です。
今、地球という大きな共有地は、この「悲劇」の一歩手前まで来ているのではないでしょうか。私たち人類は、飽くなき知恵と欲望によって、文明を拡張し続けてきました。環境破壊は発展に伴う当然のコストとして考えられ、多くの自然が失われました。
その結果、人類は今、環境問題や気候変動など、深刻な危機に直面しているのです。
感染症も同様に、人類のいき過ぎた開発や森林破壊などに原因があるという意味で、環境問題の一つといえます。
こうした環境問題を根本的に解決するためには、人間の持つ「欲望」と、どう対峙するかを真剣に考える必要があります。
とはいえ人間の欲望を完全になくすことは、不可能に近い。一度手にした生活水準を下げ、便利な生活を手放すことも、簡単ではありません。
人間は欲を追い求める生き物であることを認めた上で、時に欲望を制御しながら、持続可能な環境との共生を志向できるかが、今後の課題になります。コロナ禍は、現代文明が方向転換できるかどうかの分岐点といえるでしょう。
かつては共同体や宗教による「規律」が、欲望を抑える役割を果たすとともに、生きとし生けるものを思いやる精神を、育んできました。
それらを、人間の自由を縛る因習として軽視してきたところに、現代社会の失敗の一因があります。
生き方の転換が求められている今、そういった存在の価値が見直されていくことを期待しています。
   
  

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パンデミックの倫理学-児玉聡(こだま・さとし)京都大学大学院准教授

2020年10月20日 11時44分57秒 | 感染症パンデミック対策
パンデミックの倫理学-児玉聡(こだま・さとし)京都大学大学院准教授
尾崎洋二 コメント:児玉氏の論評を箇条書きに質問形式にすると、以下のようになります。
質問内容と回答ごとのキーワードに興味を持たれた方はぜひアクセスしてください。
よろしくお願いいたします。

Q1-外出や移動の禁止、都市封鎖など、拡大防止策。こうした規制はどう正当化できるか? 正当化できる根拠は何処にあるのだろうか?
A1キーワード「他者危害原則」「拡大解釈」「パターナリズム(父権主義)」「社会全体の利益をその根拠とすること」

Q2-全体の利益が個人の自由を制限する根拠になったとしても、なお配慮すべき点がありますか?
A2 キーワード「情報公開と説明責任という透明性の確保」「制限によって市民が払う犠牲に見合う補償」
「クルーズ船のケース:下船を禁止された乗客・乗員の利益は適切に考慮されていたのか?」
「特措法による緊急事態宣言の発令を決定までの過程を説明する必要性は?」

Q3- 一方、緊急事態宣言後、自粛しない市民や店舗を取り締まる「自粛警察」といった現象が生じ、国の規制の在り方が問われましたが?
A3キーワード「自粛警察などといった同調圧力」「誰もが納得し協力できる説明責任」
「いずれの場合にも発生する同調圧力のコントロール」
「感染者や家族、医療従事者への差別という社会の副作用対策」

---以下---聖教新聞月日---2020年10月20日--------------------------------------------------------

児玉聡(こだま・さとし)
 1974年、大阪府生まれ。東京大学大学院講師などを経て現職。
専門は倫理学、生命倫理、政治哲学。著書に『功利と直観』(2011年度和辻賞受賞)、『功利主義入門』『実践・倫理学』などがある。

個人の自由は制限できるのか?社会との根源的な問いが実行に対する透明性の確保を!
倫理学的視点からパンデミックの中で行われる政策について


Q1外出や移動の禁止、都市封鎖など、拡大防止策。こうした規制はどう正当化できるか? 正当化できる根拠は何処にあるのだろうか?

A1キーワード「他者危害原則」「拡大解釈」「パターナリズム(父権主義)」「社会全体の利益をその根拠とすること」

倫理学のテーマの一つに、個人の自由をどこまで尊重するのか、社会は個人の自由をどこまで制限してよいのかといった問いがあります。

今回のパンデミック(世界的大流行)では、中国の武漢で都市封鎖が行われ、ヨーロッパ諸国でも外出や移動が禁止されましたが、
こうした個人の自由の制限は何を根拠として正当化できるのか、倫理学は応える必要があると考えています。

例えば、J・S・ミルは個人の自由の制限が正当でありうるのは、他人に危害を加える場合に限られると、『自由論』で論じていますが、
この他者危害原則によって、都市封鎖や外出禁止を正当化できるのかなど、倫理学的視点からパンデミックの中で行われる政策について
考える必要があると思います。

感染が明らかで他者に感染させる可能性がある人を隔離し、自由を制限することは、他者危害原則からするとやむをえない措置と考えられます。

しかし、この他者危害原則を感染していない人や感染しているか分からない人に当てはめようとすれば、拡大解釈ということになります。

一方、本人の利益の観点から、「外出すると、他人から感染させられる危険があるから外出は止めなさい」というパターナリズム(父権主義)を
根拠とすることもできます。

しかし、重症化のリスクが高い高齢者や基礎疾患のある人には当てはまっても、重症化のリスクの低い若者に対しては説得力に欠けるでしょう。

都市を封鎖し、外出や移動まで禁止するのであれば、社会全体の利益をその根拠とすることが最も納得できるものではないでしょうか。

人々の健康が危機に瀕している時、市民の義務として自らの自由を制限し、全体の利益に協力するということです。

特に新型コロナウイルス感染症では、無症状の人が感染を広げる可能性があるなど、皆が協力しなければ、拡大を防げない感染症であることを認
識しておく必要もあります。


情報公開と説明責任

Q2-全体の利益が個人の自由を制限する根拠になったとしても、なお配慮すべき点がありますか?

A2 キーワード「情報公開と説明責任という透明性の確保」「制限によって市民が払う犠牲に見合う補償」
「クルーズ船のケース:下船を禁止された乗客・乗員の利益は適切に考慮されていたのか?」
「特措法による緊急事態宣言の発令を決定までの過程を説明する必要性は?」

それは制限の範囲を必要最小限にとどめることや、対策の手続き的正義――市民への情報公開と説明責任という透明性の確保です。

さらに自由の制限によって市民が払う犠牲に見合う補償も必要でしょう。

2月、横浜港で乗客・乗員に船内待機が要請されたクルーズ船のケースでは、下船禁止は国内の感染拡大防止のために取られた対策
でしたが、船内では感染が拡大しました。

下船を禁止された乗客・乗員の利益は適切に考慮されていたのか、自由の制限を最小化する選択肢は他になかったのか、さらに対
策の決定、実行に対する透明性についても検証される必要があるでしょう。

同じことは、特措法による緊急事態宣言の発令についてもいえます。

発令までに専門家会議と政府との間でどのような議論があったのか、どのような選択肢が考えられ、最終的に宣言の発令が決定し
たのか、説明する必要があったと考えます。

しかし、そのような課題はありましたが、宣言発令後、日本では東京や大阪などの都市部でも感染が大幅に減少し、感染症対策と
しては有効に機能したようです。


差別生まない対策も


Q3- 一方、緊急事態宣言後、自粛しない市民や店舗を取り締まる「自粛警察」といった現象が生じ、国の規制の在り方が問われましたが?

A3 キーワード「自粛警察などといった同調圧力」「誰もが納得し協力できる説明責任」
「いずれの場合にも発生する同調圧力のコントロール」「感染者や家族、医療従事者への差別という社会の副作用対策」

法的強制力を持たない特措法が自粛警察などといった同調圧力を生んでいるという批判です。

しかし、同調圧力という語は多義的で、良い方向にも悪い方向にも働く作用があります。

周りの人に合わせマスクを着用する人が増えることで感染拡大の防止につながれば、それは社会にとっても個人にとっても利益になります。

重要なことは誰もが納得し協力できる説明責任を果たすことです。

また、罰則付きの外出禁止令を発令した英国でも、都市部から別荘地に来る人々に対する自警団的な動きが問題になっていました。

従って、法的強制力か自粛要請かといった選択ではなく、いずれの場合にも発生する同調圧力のコントロールが大切であるということです。

そのためには、市民が市民を力ずくで従わせるということは許されない、そうした認識の共有も必要です。

感染拡大の初期段階には、その防止策が感染者や家族、医療従事者への差別として向けられることもあります。

こうした社会の副作用に対しても、政府は事前に議論しガイドライン等を準備しておく必要があると思います。

パンデミックに限らず非常事態が生じたとき、個人の自由の制限はどこまで許されるのか、個人と社会との根源的な問いを立て、考えておく必要があります。

医療崩壊が迫るなかで、医療資源の配分を巡って個と全体の利益が相反する事態も生まれることがあるでしょう。

医療崩壊に備えることは当然ですが、それを超える事態が起きたとき、人々に公平に、そして差別を生むことのないようにするには、
どのような対策が必要か、その倫理的課題を見つけ、議論しておくことが大切です。
 

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真の平和と感染対策:ローマクラブ共同会長 マンペラ・ランペレ博士――母なる地球に生きる

2020年09月17日 09時52分05秒 | 感染症パンデミック対策
尾崎洋二 コメント:コロナ禍を一つのチャンスと捉えることはできないのだろうか?
温暖化もしかり、コロナ禍も、防御するには一国主義では無理だということは、子ども
でも分かることです。
 コロナで露呈した社会の弱さに世界全員の人々が気づきました。この意味では最大の
チャンスですが、しかしそれを実践するとなると、人間として「哲学的」な変容が必要
となることをマンペラ・ランペレ博士は教えてくれます。
 マンペラ・ランペレ博士が、マンデラ氏から学んだ「自由への闘争」を思い起こさせ
る「人間革命」。
「新たな人類文明」とは「人間革命」を実践する人間が築く文明と主張するマンペラ・
ランペレ博士の言葉は、温暖化対策、感染症対策、真の平和構築への貴重な提言です。
------------------------------------------------------------------------------------------
ローマクラブ共同会長 マンペラ・ランペレ博士――母なる地球に生きる
【プロフィル】マンペラ・ランペレ 南アフリカ出身の著名な社会活動家、医師。
ケープタウン大学の副総長、世界銀行の副総裁などを歴任。2018年のローマクラブ創
設50周年に、同クラブ初のアフリカ出身・初の女性の共同会長に就任。ナタール大学
医学部在籍中にスティーブ・ビコと共にアパルトヘイト撤廃を目指す黒人意識運動を創
始。2男の母親。著書に『A Passion for Freedom』他多数。ハーバード大学の名誉
博士号をはじめ23の大学から名誉学術称号が授与されている。
ローマクラブで初の女性、初のアフリカ出身の会長を務める博士に、未曽有の危機に直面
する世界の現状や、母国・南アフリカで身を投じたアパルトヘイト撤廃の戦いで得た教訓
などについて語ってもらいました。
聖教新聞09月17日2020年(聞き手=木﨑哲郎、歌橋智也)

この危機はチャンス

Q1――新型コロナウイルスの感染拡大をはじめ気候危機など、世界の現状をどのように見
ておられますか?

A1
私は、この危機は人間の行動を抜本的に変える稀なチャンスだと思っています。
私たちは、「このままでは母なる地球を維持できない」という事実から、目を背けること
はできません。
多くの人は、物質的な消費文化が人間の精神までも破壊していることに気付き始めています。
ゆえに今こそ、自身の内面を見つめ、自然の回復力以上に消費を拡大させてしまった行動を
見直し、自然から学ぶことを忘れた姿勢を改めなければいけない。
変革は、私たち一人一人から始まるのです。

 そしてもう一つ、人間は他者とつながり合って存在しているという自覚が必要です。
アフリカには「ウブントゥ(ubuntu)」という哲学があります。
「あなたがいて、私がいる」という人間観です。
他の人が不幸なのに、自分だけが幸せということはありえない。
今回のコロナ禍でも、周囲の人が健康でなければ、自分たちも健康ではいられないこと
に気付かされました。
不平等とは危険な状態なのです。
 人生で大切なのは、車を何台持っているとか、何回、飛行機で旅行したかではなく、
皆が、かけがえのない生命を持っているということです。
人間関係を大切にし、母なる地球を大切にすることです。
こうした意識を持つことが最も必要だと思います。

コロナで露呈した社会の弱さ

Q2――博士の母国である南アフリカが感染症の甚大な影響を受けていると報じられました。
A2
白人による人種差別・隔離政策である「アパルトヘイト」が撤廃されて四半世紀。
人権を中心に据えた憲法が制定され、人々は理想的な社会が建設されると期待しました。
ところが、その後も、裕福だった人々は裕福であり続け、貧しかった人々は今も貧しい
ままです。
政権の座についた人間は変わっても、その多くが、公僕に求められる人間としての変革が
できていないのです。
彼等は、貧しく無力な多くの国民を犠牲にして、自分たちの利益を貪り、大切な公共サー
ビスの向上を後回しにしてきたのです。
コロナ禍は、そうした社会の脆弱性を浮き彫りにしました。
身体的距離を保てるような設備もなく、衛生管理もできず、まさに国難ともいえる状況です。
家に食べる物さえない人々は、感染の危険を冒してでも生活を守るでしょう。
実際、貧困層による過激な抗議活動が起きていますが、それは生命の尊厳が踏みにじられて
いることに対する「怒り」なのです。

対談集『21世紀への警鐘』との出会い

対談集『21世紀への警鐘』英語版
Q3――昨年のローマクラブの総会で博士は、同クラブ創立者のアウレリオ・ペッチェイ氏と
池田SGI会長の対談集『21世紀への警鐘』を通し、「人間革命」について言及されました。
なぜ、この理念に着目されたのでしょうか?
A3
ローマクラブは、1972年の『成長の限界』の出版をはじめ、半世紀にわたり環境破壊
に警鐘を鳴らし、持続可能な発展を訴え続けてきました。
しかし、人間社会の破壊的な消費行動を変革できずにいました。
私は、総会を開催するに当たり、発信すべきメッセージを模索していた時、この本に出
あったのです。
ペッチェイ博士と池田会長が提唱する「人間革命」という思想に触れた時、人類が今置
かれている地球的な危機を乗り越えるには、「人間革命」を推進するしかないと確信しま
した。
私たち一人一人が、本来の生命の調和を破壊するような自らの行為と真摯に向き合い、その
行動を変えなければならないからです。
ゆえにローマクラブにとって、「新たな人類文明」を創出する鍵となる「人間革命」につい
て語り合うことが重要だと考えたのです。
「新たな人類文明」とは「人間革命」を実践する人間が築く文明なのです。
「黒人意識運動」と「人間革命」
また一方で、「人間革命」の理念は私や私たちの世代にとって、南アフリカにおける「自由
への闘争」を思い起こさせるものでした。
当初、私たちは「アパルトヘイト」という「制度」と戦っていました。
しかし1960年代後半になって、“真の変革は私たち一人一人の内面から始まるものだ”と気付
いたのです。
400年もの間、アフリカの人々は抑圧され、黒い肌の人間は「劣っている」と、刷り込まれて
きました。
アパルトヘイトは、かつての植民地主義の延長線上にあるもので、その極端な形態でもありま
した。
「黒人意識運動」は、何より私たちの心を覆う「劣等感からの解放」でした。
抑圧者に対する恐怖から自由になり、自分たちも尊厳をもった人間であると目覚めることでした。
それは「人間革命の旅路」でもあります。
自分とは何者なのか。
何世紀にも、何代にもわたって「劣等な人種だ」と言われ続けてきた人たちが、自分自身をどう見
るのか。
どのように「人間としての尊厳」を取り戻すのか。
自分にひどい扱いをしてきた人間をどう許すのか。
ひどい扱いを黙って受け入れてしまった自分をどう許すのか――。
そうした精神闘争の結果、「自分は、どこの誰にも劣らず素晴らしい人間なのだ」と自覚した時、
私たちは立ち上がり、叫んだのです。「我らは黒人だ! それを誇りにする!」と。
「黒人意識運動」とは、まさに「人間革命運動」だったのです。
それはまた、白人にも人間革命を促すものでした。
自分が他の人間よりも優れ、特別扱いされる存在だと考えることは、間違っているのですから。

マンデラ氏の“鋼の人格”

Q4――博士は、ネルソン・マンデラ氏(南アフリカ元大統領)とも深い親交がありました。
A4
マンデラ氏とは幾度も出会いを重ねましたが、まさに「人間革命」の体現者でした。
1988年、獄中の氏との初めての出会いでは、彼の人格を彷彿とさせるこんな場面がありました。
彼は、父親のように温かく私を抱擁し、親しく語り合ってくれました。
面会の時間がまだ10分ほど残っていた時のこと。
彼はすっと席を立ち上がりました。
「役人たちを待たせてはいけない。分かってくれるね。彼らは寛大にも、私たちに時間をくれました。
さあ、そろそろ終わりにしよう」と。
そして、私にあいさつした後、看守たちに「終了しました」と丁寧に言葉を掛けたのです。
私はその振る舞いに心から感動しました。
彼は看守に敬意を払い、彼らの役割を尊重しつつも、自らを完璧に律し、彼らに命令する機会を与えな
かったのです。
そんな氏に、看守たちも深い敬意を払っていました。
またマンデラ氏は、よく人の意見を聞く人でした。
たとえ相手が言うことに全面的に賛成できなくても、途中で遮ることなく、最後までじっくり話を聞くのです。
そして、「このような違った見方もできるのではないですか」と述べるのが常でした。
マンデラ氏の人格は、独房で鍛えられたものです。
苦しみは灼熱の炎のように人間を灰にも、鋼にもします。
彼は鋼鉄のように強靱な人間へと自らを鍛え上げたのです。
また氏は、本当に人々を愛していました。ひとたび会った人の名前は、必ず覚えているのです。
彼の強さは、どこまでも温かい人間性に包まれていました。 

強さを培った家庭環境

Q5――博士は、南アフリカのケープタウン大学の副総長(実質的なトップ)や、世界
銀行の副総裁なども歴任されました。
アパルトヘイト下で差別され、追放され、愛する人を奪われても、先駆の道を切り開か
れた強さの源はどこにあるのですか?
A5
幼い頃は、父方の曽祖母が子守をしてくれました。
彼女は若くして未亡人になりましたが、100歳を超えるまで生きた、パワフルで知的な女性でした。
母方の祖母も、そして母もたくましかった。
私は、こうした強い女性たちに影響を受けて育ちました。
また、小学校の校長だった父は、いつも「他の子どもと競争するのはやめなさい。
自分自身と競争するんだ。
神様が知性を与えてくれたのだから、それを使いなさい」と励ましてくれたものです。
このような家庭環境のおかげで、私は、自信に満ちた女性に成長することができました。
当時、女性には不可能といわれた医学部に進み、後に「黒人意識運動」に参加してか
らは、さらに頭と心が鍛えられました。
ケープタウン大学の副総長になった時、大学の実権を握っていたのは白人男性たちでした。
私は、彼らと対決するのではなく、「このアフリカの大学を世界レベルにするために一緒
に働いてほしい」と訴え、皆のエネルギーをこの目標へと向けるよう努めました。
必要な資金調達にも奔走し、一人一人が最善の力を発揮できるよう尽くし、改革していったのです。 

次世代との「対話」を

Q6――ローマクラブ共同会長として、今後の展望をお聞かせください。
A6
現在、五つのテーマを掲げて活動を推進しています。
① 地球的危機回避のアクションプラン
② 経済再構築
③ 金融の再考
④ 人間革命に基づく新たな人類文明の創出
⑤ 青年リーダーの育成と世代間対話による未来の構築――です。

私は、平和は人間の内面から始まるものと考えます。
自分自身が平和でなければ、平和の構築者にはなりえません。
心に平和がなければ、家庭の平和も築けないし、地域も、国も、平和にできません。
平和とは単に戦争がない状態をいうのではなく、調和した状態をいうのです。
本当の価値とは、「生命」そのものです。「人間の幸福」です。
他者の喜びに尽くしてこそ、私たち自身の幸福もある。
「新たな人類文明」とは、そうした考え方・価値観へと変革するために、人類が力を
合わせて取り組んだ結果、出現するものです。
それが「平和の文化」の建設でもあるのです。
そのためにも私は、残された人生を次の世代の人々との「対話」に費やしたい。
青年こそが、私たちが夢見た未来を築き、人間革命を推進して新たな人類文明を構築する
主役なのです。


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〈危機の時代を生きる〉 愛媛大学防災情報研究センター 二神透副センター長に聞く コロナ禍における複合災害への備え

2020年09月14日 09時17分27秒 | 感染症パンデミック対策

尾崎洋二 コメント:阪神淡路大震災の時、災害関連死の方がインフルエンザ等が
引き金となり地震発生から3カ月以内で919名にもなりました。
 2016年の熊本地震においても災害関連死の方は222名で、災害直接死の方
50名を上回っています。
 コロナ禍の今、自然災害から助かったとしても、感染症等で亡くなってしまう、
災害関連死の発生を防ぐ避難の仕方も私たちの課題となりました。
 災害関連死の方を少なくする意味でも、「3密」を回避したボランティアの方々
の協力が欠かせないかと思います。避難所運営においては、事前研修を前提として
の協力体制づくりが必要かと思います。
-----------------------------------------------
〈危機の時代を生きる〉 愛媛大学防災情報研究センター 二神透副センター長に聞く
コロナ禍における複合災害への備え


 ふたがみ・とおる 1962年、愛媛県生まれ。愛媛大学准教授。災害時の避難問題に関
する研究を続ける。災害・避難シミュレーターを開発し、学生防災士の育成にも尽力。
愛媛大学の公開講座や各地の防災士養成講座で講師を務める。
 
聖教新聞09月12日2020年 (聞き手=清家拓哉、酒井伸樹)


Q1――新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、本格的な台風シーズンを迎えた。
感染症と地震、豪雨などが重なる「複合災害」に、私たちはどう立ち向かっていけば
いいのか?

A1
2018年の西日本豪雨や昨年の台風19号、そして「令和2年7月豪雨」など、近年、
自然災害による被害が増えています。
近年の地球温暖化で、雨の降り方が変わってきています。

2014年(平成26年)8月の広島土砂災害以降、毎年のように豪雨災害が続いていますが、
これは雨雲が列をなすように次々と発生し、ほぼ同じ場所に流入して大雨をもたらす「線
状降水帯」の影響です。

局所的な大雨から土砂災害や浸水害が多発し、多くの命が失われました。
加えて、地震への備えも必要です。

日本は今、地震の活動期に入っており、いつどこで起きても不思議ではありません。
首都直下地震や南海トラフ地震の発生確率は、今後30年以内に70~80%といわれています。


自分の住む場所のリスクを知る


Q2――私たちには、どういう行動が必要でしょうか?

A2
豪雨災害に関しては、突発災害ではないということに注目すべきです。

気象情報を確認し、土砂災害警戒情報や河川水位情報に気を付ければ、行政の避難情報
が出る前に、早めに避難することができます。

そして、迅速な避難を徹底すれば、こうした被害で命を落とす人を限りなくゼロにする
ことができるのです。

地震においては、一人一人が大きな揺れへの備えを行うことが大切です。
1995年(同7年)の阪神・淡路大震災で亡くなった方は、8割が建物倒壊による圧死・窒
息死でした。

81年(昭和56年)5月以前の旧耐震基準の住宅の場合は早めに耐震診断を行い、倒壊を防
ぐために必要に応じた補強工事をすることが大事ですし、それ以外の家でも家具等が転倒
しないよう、防止策を取ることが命を守ることにつながります。

ただ、人は、いざという時になかなか避難できなかったり、耐震対策が大事と分かってい
ても行動を起こすことができません。
「正常性バイアス」といって、“私は大丈夫だろう”と脳が反応してしまうからです。

そうならないためにも、一人一人が自分の住む地域の災害リスクを知り、「正しく恐れる」
ことが重要です。

Q3――自治体がホームページなどで紹介しているハザードマップは、自分の住む地域の災
害リスクを知る手掛かりになると思います。

河川の氾濫による浸水想定区域や土砂災害の恐れのある地域、活断層の場所など、災害の
種類によって、さまざまな形で情報発信されていますので、この機会に確認することをお
勧めします。

そうした情報をもとに、日頃から“災害が起きたらどう行動するか”“どんな備えが必要
か”など、家族や地域の人と話し合っておくことが大切です。

よく災害では、「想定外」との言葉を耳にしますが、普段から考えていれば、想定外では
なくなります。

また私たちのセンターでは、火災延焼シミュレーションのソフトを配信しています。
これに国土地理院の地図データを取り入れて変換すれば、全国どの地域でも、大規模災害
時に自宅周辺で火災が起こった場合の延焼の広がりを予測し、どこに避難するのが最善な
のかを具体的に考えることができます。

Q4――最近は新型コロナウイルスの感染拡大で、「避難所に行く」といっても難しい状況
がありますね。

A4
私は先日、感染が広がる中で「令和2年7月豪雨」の被害を受けた熊本県を視察しましたが、
多くの課題を目の当たりにしました。

その一つがボランティアの不足です。
熊本では感染を防ぐため、ボランティアを県内や市町村内の人に限定しました。
そのために人手不足が指摘されました。

4年前の熊本地震では、270人を超える死者に対して200人以上の災害関連死が確認されました。
もし感染症拡大の中で大地震が起き、ボランティアを介して避難所でクラスターが発生すれば、
助かるはずの命をつなぐことができない可能性もあります。

一方、避難所でボランティア活動が制限されれば、災害関連死の増加が危惧される状況もある。

コロナ禍での自然災害という「複合災害」にあっては、感染リスクを抑えるために「3密」の
状況を回避しつつ、限られた人手で、いかに避難者をこまやかに支援できるかという、難しい
かじ取りが求められることが分かりました。

まずは避難所の「3密」を避けるためにも、親戚や知人宅、車中泊等、避難所に行かない分散
避難を平時から考えておくことが大事ですし、地震であれば、建物の耐震性を高めることで自
宅での避難も可能となるので、そうした対策をしっかり行っていくことの大切さを改めて感じ
ます。


消毒液やマスク等 持ち出し袋も変化



Q5――「災害弱者」といわれる高齢者や障がい者、その家族は、どのような点に心掛けるべき
でしょうか?

A5
ご高齢の方や障がいのある方であっても、まずは自宅や周辺の災害リスクを認識し、確認する
ことが大切です。

水害・土砂災害が想定されている地域や津波浸水エリアでは、早めの避難行動を徹底すること
が命を守ることにつながります。

同居家族が不在の時間があるような場合は、災害時に地域の自主防災組織や近所の方に配慮し
てもらえるよう、あらかじめ相談しておくことも必要でしょう。

また高齢者や基礎疾患のある方は、新型コロナウイルスによる重症化率も高いので、避難所で
感染しないよう、非常持ち出し袋に消毒液やマスク、体温計を常備しておくことも重要です。

山あいの地域では、土砂崩れで孤立する恐れもあります。

普段から薬を服用している方は、地域の孤立に備えて、医師との相談の上で1週間分の余裕を
もって薬を処方してもらうといったことも考えられます。


まずは自助 その上で共助



Q6――災害への対策にあっては、まさに「自助」が大切ですね。

A6
まずは、自分の命は自分で守る。この「自助」が、何よりも大切です。
自分の命を守れれば、周囲の人々の命を救うために動くこともできます。

大きな災害では、消防・警察・自衛隊といった公の助け(公助)は、どうしても遅れがちにな
ります。

だからこそ「自助」を第一に考え、その上で人々が互いに助け合い、命をつなぐ「共助」が大
切になります。

「共助」は地域の防災力ともいえますが、この力を育むためにも、平時から地域ごとに訓練を
行い、地域の防災計画を作っていくことが重要です。

しかし、この防災計画についても、コロナ禍を受け、変化が求められています。

例えば、働き方が見直され、普段は会社にいる人でも自宅で作業することが多くなりました。
そうした人々を、どこで受け入れるかといったことや、地域の人々がなかなか集まれないことで、
新たな事態に備えての防災計画の策定や防災訓練を行うことを難しくさせている現状もあります。

「災害の世紀」に入ったといわれ、自然災害が当たり前になりつつある今、地域のつながりをど
のように強めるのかということに、ますます目を向けていかなければなりません。

そうした中にあって、一人一人が“地域のために何ができるのか”と主体的に考えていくことが
求められています。

コロナ禍による厳しい制約下にありますが、オンラインなどで一人一人がつながり、知恵を出し
合うことで、さまざまな問題も必ず解決の糸口を見つけていけると思います。


「大切な人を守りたい」との心が地域の防災力高める


Q7――主体的に行動する心は、どうすれば育んでいけるのでしょうか?

A7
一人一人が大切にしている人のことを思い浮かべ、“どうすれば、自分の力でその人の命を守れ
るか”と考えることだと感じます。

愛媛大学では、環境防災学という講義を開講し、防災士の資格取得を希望する学生を、他大学の
学生も含めて受け入れています。

これまで1000人近い学生が受講しましたが、その学生を対象に毎年、アンケート調査を実施し、
心理的特徴を分析してきました。
その結果、一般学生と比べて「災害から家族や地域を守りたい」という意識、つまり「利他的意識」
が強いことが分かったのです。

いきなり“地域のために行動する”といっても難しいかもしれませんが、身近な人を守るためなら、
具体的に思い浮かべることもできますし、周囲の人を守ろうと思うと、想像以上の力が出るものです。


求められる「利他的意識」


Q8――高齢化が進む日本にあって、若い人たちが防災意識を高めることは特に大切ですね。

A8
各地には今、高齢化が深刻になっている自主防災組織も多くあります。

これは愛媛大学で防災士の資格を取った学生たちを見ていて思うことですが、若い人たちが地域に入
ることで、防災活動が活性化するだけでなく、地域自体も元気になってきていると感じます。

創価学会の皆さんは、災害時に青年部が中心となって「かたし隊」などを結成し、地域に根差したボ
ランティア運動を展開していると聞きましたが、こうした活動は、地域にも若々しい息吹を与えてい
ると思います。

また学会の四国青年部はこれまで、「震災意識調査アンケート」を実施し、同世代の若者に防災意識
の向上を訴えてきたことも知っています。
高い意識をもって活動していることを実感します。

ともあれ、こうした「利他的意識」が、若者はもちろん、一人でも多くの人に広がっていくことが、
これからの複合災害に立ち向かっていく上で、ますます求められていくのではないかと思います。

https://www.seikyoonline.com/article/B7E967F9C5DF5F7AADF806D7FD41E2AA



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「コロナ禍で台頭、ワクチン・ナショナリズム」 NPO法人日本リザルツ 白須紀子代表に聞く

2020年09月05日 18時05分02秒 | 感染症パンデミック対策
尾崎 洋二 コメント:「一国主義では、コロナ禍は防げない」
「全員が安全になるまでは誰も安全にならない」。これらのこ
とは、子どもでも分かることです。
 それなのに大人の世界では、ワクチン独占などのナショナリ
ズムが台頭しています。
 ワクチン価格を高騰させ、開発途上国などの低所得国の人々
が手に入れられなくなる恐れは絶対に無くすべきです。
 公平なワクチンの供給体制「COVAXファシリティー」。
この枠組みをぜひ日本がリーダーとなり、構築して欲しいもの
です。
 日本がこの国際枠組みに入ることは、低所得国への国際貢献
になるだけでなく、わが国のワクチン確保の選択肢を広げるこ
とにもなります。
 コロナ禍の敵は見えない心「利他の精神なき自己主義、一国
主義」です。 
----------------------------------------
「コロナ禍で台頭、ワクチン・ナショナリズム」
NPO法人日本リザルツ 白須紀子代表に聞く
2020/09/05 公明新聞

 新型コロナウイルスのワクチン開発・獲得を巡り、各国の競争
が加熱している。
 一部の国がワクチンを囲い込む「ワクチン・ナショナリズム」
の台頭が懸念される中、国際的な共同調達の枠組みづくりも動き
始めている。

世界の貧困問題やワクチン支援に携わるNPO法人「日本リザル
ツ」の白須紀子代表にワクチン・ナショナリズムの弊害などを聞
いた。

■(大国が開発・獲得競争)他国を顧みず自国優先で価格高騰、
入手困難の恐れも


Q1――ワクチン・ナショナリズムの問題点は?

A1
先進国を中心に現在、自国民の命を守るためワクチンを独自に開
発したり、調達する活動が活発だが、それ自体は一概に否定すべ
きではない。

ただ、一部の大国が、他国を顧みずワクチンを独占したり、国益
に利用する兆候が見受けられる。

こうした動きは、ワクチン価格を高騰させ、開発途上国などの低
所得国の人々が手に入れられなくなる恐れが非常に大きい。

Q2――過去の感染症でも同様の動きはあったのか?

A2
2009年に発生した新型インフルエンザのワクチンは、少数の
先進国が買い占め、大半の国が、すぐに供給を受けられなかった。

もし新型インフルの病原性がさらに強毒だったなら、世界中が深
刻な危機に陥っていたかもしれない。

この反省を生かす必要がある。

Q3――大国のワクチン開発の現状は?

A3
他国に先んじようと多くの国で、ワクチンの治験が最終段階まで
進んでいる【表参照】。

中でも、ロシアは8月11日、国内で開発したワクチンの認可を
発表した。

“世界初”のワクチンとなるが、治験の最終段階を経たのかは不
透明だ。

効果や安全性には疑問符が付く。

国家の威信や体面を重んじるあまり、安全性を無視する前のめり
の開発姿勢が危ぶまれる。

米国は、ワクチン開発・供給を迅速に進める「ワープ・スピード
作戦」に約100億ドルの巨費を投じている。

しかし、確保できたワクチンを自国優先で使用する態度を隠さない。

しかも、世界保健機関(WHO)への最大の資金拠出国でありな
がら、WHOからの脱退を表明した。

国際協調が求められる時に大きな痛手だ。

中国は、官民一体でワクチン開発を猛烈な勢いで進めている。

実用化されれば、東南アジアやアフリカなどへ優先供給する姿勢
を示すが、低所得国に影響力を広げようとする“ワクチン外交”
の狙いも透ける。

米中ロの大国の政治的な思惑にワクチンが利用されることがあっ
てはならない。

自国でワクチンが確保できても、他国で流行が続く限り、コロナ
禍の危機は去らない。

WHOのテドロス事務局長が「全員が安全になるまでは誰も安全
にならない」と、ワクチン・ナショナリズムに警鐘を鳴らしてい
るのは、そのためだ。

■(調達の国際枠組み)170カ国超参加、公平な供給めざす

Q4――公平なワクチンの供給体制が求められている。

A4
ワクチン調達の国際枠組み「COVAXファシリティー」が、そ
れに応える制度になるはずだ。

この枠組みは、WHOや国際団体「Gaviワクチンアライアン
ス」などが主導し構築をめざしている。

枠組みに参加する国は、研究開発費などの一定額を前金として払う。

出資金は複数の製薬企業のワクチン開発に利用される。

実用化されれば、人口の20%相当分を上限に、ワクチンを確保
できる見込みだ。

低所得国にはGaviを通じてワクチンが供給される。

Q5――何カ国が参加を検討しているのか?

A5
米国が不参加を表明し、中ロ2カ国も含まないが、170以上の
国が参加の意向や関心を示している。

参加を希望する国は、9月18日までに参加を正式表明し、10
月9日までに前金を拠出する必要がある。

この画期的な初の国際枠組みが構築できれば、各国への公平な供
給が実現し、ワクチン・ナショナリズムの弊害を大きく抑えられ
るだろう。

Q6――今月1日、厚生労働省は、日本も国際枠組みに参加する意
向を表明した。

A6
一歩前進だ。日本政府は、ぜひ正式参加を決断してほしい。

日本がこの国際枠組みに入ることは、低所得国への国際貢献にな
るだけでなく、わが国のワクチン確保の選択肢を広げることにも
なる。

日本が参加すれば、国際連携の中核として大きな期待を集めるは
ずだ。

Q7――公明党は国際枠組み参加を推進している。

A7
公明党は、山口那津男代表自ら、政府に参加を促す発言をするな
ど、政府・与党を突き動かす原動力になっている。

全ての人は尊厳を持って生きる権利がある。

まさに「人間の安全保障」を重視する政党ならではの姿勢だと評
価したい。

■(低所得国)保健衛生は脆弱、支援探れ 
   
Q8――ワクチン以外で低所得国に求められる支援は?

A8
アフリカなどの国々では、新型コロナの情報が十分に届いていない。
どう対処してよいか分からないのが実態だ。

医療や検査体制も脆弱で、手洗いやマスク着用の徹底といった、感
染症対策の前提となる保健衛生の環境すら整っていない国もある。

日本は、これまでに国際協力機構(JICA)海外協力隊の派遣な
どを通じて、教育を含めた保健衛生環境の向上に尽力してきたが、
コロナ禍で人員を引き揚げざるを得なくなっている。

人的支援が難しい中、日本はICT(情報通信技術)を活用した遠
隔での情報発信など、できる国際貢献を探ってほしい。

そうすれば、ワクチン投与に加えて新型コロナの感染対策が何倍に
も有効になると期待している。

しらす・のりこ 1948年生まれ。91年12月に「骨髄移植推
進財団(現・日本骨髄バンク)」のボランティアに参加し、骨髄バ
ンクの啓発活動などに尽力。
2006年から日本リザルツでボランティアを開始し、07年に
エグゼクティブ・ディレクター(代表)に就任。世界の貧困や飢餓、
結核感染問題などの解決に取り組んでいる。

写真キャプションロシアが開発した新型コロナウイルスワクチン
(タス=共同)#公明新聞電子版
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新型コロナ対応で問われる科学と政治の関係性 大阪大学COデザインセンター・平川秀幸教授に聞く

2020年09月02日 08時47分58秒 | 感染症パンデミック対策

尾崎洋二 コメント:今年の2月以来、私たちはコロナ報道におい
て、また政府における対応判断にたいしてすっきり割り切れないも
のを感じられたことはないでしょうか?
 まったく未知なる新型ウィルスに関することなので、政府も科
学者も“走りながら”対策を考えざるを得ないので、当然なのです
が、あらためて「新型コロナ対応で問われる科学と政治の関係性」
というテーマで「危機管理の基本」を考えることは、必要かと思い
ます。

Q1――これまでの日本の新型コロナ対策への評価は?
Q2――旧専門家会議のメンバーも政策決定で「前のめりだった」と
振り返っている。
Q3――その背景は何か?
Q4――過去に科学と政治の関係を問う機会はあったのか?
Q5――11年の東京電力福島第1原発事故でも専門家の役割が注目
された。
Q6――今後、両者の関係を健全に機能させるには?
Q7――「科学は正確な答えを出すもの」と固定的に捉えている人
は多いのではないか?
Q8――国民一人一人そして社会全体が科学に対して正しく認識す
ることが重要になる?
Q9――科学者と国民をつなぐ必要はないのか?

回答は本文を参照ください。
---------------------------------------------------------------------------------------
解説ワイド
新型コロナ対応で問われる科学と政治の関係性

大阪大学COデザインセンター・平川秀幸教授に聞く


公明新聞-09月02日2020年-要点箇条書き・Q&A方式に整理

 新型コロナウイルスの脅威に立ち向かうため、専門家の科学的知
見を生かしながら、数多くの対策が講じられている。
 同時に、科学と政治の距離や情報発信のあり方も問われている。
 危機管理における科学と政治の関係はどうあるべきか。


■専門家は事実やリスクを評価/政策判断や説明責任は政府に


Q1――これまでの日本の新型コロナ対策への評価は?

A1
専門家と政府の間で科学的なエビデンス(証拠)に基づく議論によ
って決められた政策が、一定の機能を果たしていると言える。

その意味で、専門家が果たしてきた役割は大きい。

ただ、専門家の知見を対策に反映させていく上で、両者の関係性の
難しさも露呈した。

2月に発足した政府の旧専門家会議、感染第2波に備えて7月に設
置された分科会が担うべき役割や責任の範囲といった組織の位置付
けがはっきりせず、専門家は難しいかじ取りを迫られている。


Q2――旧専門家会議のメンバーも政策決定で「前のめりだった」と
振り返っている。

A2
科学者の役割は、客観的な事実やリスク評価を示した上で、あくま
で助言を行うことだ。

そして政府は、科学的な助言に加えて経済影響なども考慮し、総合
的に政策判断を下す。

これが、科学と政治におけるあるべき関係性である。

同時に、対策は多方面に影響を与えるので、決定事項の責任は政治
が負わねばならないし、国民への説明責任も生じる。

未曽有の事態で状況の変化は激しく、政府も科学者も“走りながら”
対策を考えてきたことは間違いない。科学者が抱いた感染拡大への
強い危機感を考えれば、一定の理解はできる。

ただ国民の目には、あたかも専門家が政府に先行して決めたり、逆
に、専門家に諮らずに政府が独断で決めたりしているように映り、
政策決定の分かりにくさが不信感を抱かせた面は否定できない。


■議論の内容開示せよ


Q3――その背景は何か?

A3
その一つは、専門家会議、分科会の議事録を残さず、会議が公開さ
れていない点ではないか。

どのような議論がなされたかが明確でないため、決定した政策のど
こまでが科学的根拠に基づき、どこからが政治的判断なのかが見え
にくい。

専門家の議論は、政策に大きな影響を与えている時点で、高い公共
性を持っており、開示すべき情報である。

議論をオープンにすることで、会議の混乱ぶりが見えることを懸念
する声もある。

しかし、仮に議論が混乱したとしても、専門家同士が科学的エビデ
ンスに基づいて議論している過程であり、重要な懸念事項が十分に
議論されているかが外部から確認できる点でも意義がある。


■常設の助言組織を持つべきだ


Q4――過去に科学と政治の関係を問う機会はあったのか?

A4
近代以降、人類は科学の知見を生かして多くの困難に対応してきて
おり、日本でも新型コロナへの対応が初めてではない。

例えば、2000年代初めの「狂牛病」と呼ばれるBSE(牛海綿
状脳症)問題への対応が好例だ。

当時、停止していた海外産牛肉の輸入再開の可否を議論する際、日
本の食品安全行政は、省庁の縦割りの弊害もあって科学的エビデン
スを軽視して、行政の裁量で政策を決定しているとの指摘があった。

そこで、内閣府に食品安全委員会を立ち上げ、専門家が独立の立場
で食品の安全性を科学的に評価できるよう改革した。

議事録も全面公開され、米国産牛肉のリスク評価を行う会合では、
国民へのリスクコミュニケーションのあり方に触れ、政策決定や国
民への説明の責任は政治にあることが明確化された。

両者の関係性が健全に機能した例である。

 
Q5――11年の東京電力福島第1原発事故でも専門家の役割が注目
された。

A5
科学と政治の関係性を考える上で大きな出来事であった。

原発再稼働について安全性や経済的合理性などさまざまな観点で議
論する必要がある中、政府は原子力規制委員会を創設し、専門家の
判断を独立させて議論を全て公開した。

BSEの時の経験が生きた格好だ。

その後、科学的な助言の仕組みを恒久的な制度として担保すべきと
の議論が政府内や学術界で起こったものの、現在は停滞している。

そうした中で今回の新型コロナへの対応を見ると、過去の教訓が十
分に生かされていない。

ポストコロナに向け、やはり、常設の科学助言組織を持つべきだ。

平時から議論を積み重ねる備えがないと緊急時に専門家を集めて
も提言に役立つ論文やデータを入手するのも限界がある。

その点で、専門家だけでなく、事務スタッフの充実も必要になろう。

海外の助言組織では、事務スタッフでも博士号を持つ人が多い。

平時の備えをどうするか。今後の大きな課題だろう。


■科学の「不確実性」にも理解を/政治には現場の声伝える役割


Q6――今後、両者の関係を健全に機能させるには?

A6
まずは、議論の“見える化”が必要。

国民の信頼を得ることにつながる。

その上で、両者の責任や役割の区別を制度的に明確にし、十分議
論できる環境が不可欠だ。

さらに、忘れてはならないのは、科学にも不確実性があるという
点である。

科学には「作業中の科学」「形成途上の科学」という考えがある
ように、答えが決まって確証のある科学もあれば、そうでないも
のもある。

科学は、未知の領域を追い掛け、ともすれば誤りから新たな発見
をしていく作業とも言える。

政治もメディアもその前提に立って受け止めなければならない。


Q7――「科学は正確な答えを出すもの」と固定的に捉えている人
は多いのではないか?

A7
新型コロナの猛威を見れば一目瞭然で、状況が刻一刻と変わる現
状を踏まえても、そうした固定観念は誤りだと強調しておきたい。

本来、科学が答えを出すには相応の時間が必要だ。

このため、政治や社会が意思決定するために必要な時間とは、ど
うしても差が生じてしまう。

科学者の助言は、その時点での最善の知見であり、覆ることもあ
り得る。

だからこそ、議論の記録を残して公開し、何が誤りだったかを検
証できるようにすることが肝要だ。

当時の専門家会議が発表した状況分析や提言は、議事録が公開さ
れない中、一定程度、その役割を果たした。


Q8――国民一人一人そして社会全体が科学に対して正しく認識す
ることが重要になる?

A8
その通りだ。

例えば、感染拡大の初期に新型インフルエンザ薬の「アビガン」
に治療薬としての効果があるといわれ、安倍晋三首相はじめ政治
が承認に向けてかなり積極的に動き、新型コロナに感染した著名
人がアビガンで回復したとの報道などで国民も一気に期待したこ
とがあったが、当時はまだ治験の中途段階にすぎなかったし、現
在も有効性は十分に示されていない。

要するに、統計的に有意なエビデンスがないと科学的根拠が確立
されたとは言えない。

この点で、科学の現場におけるプロセスを正しく知られる必要が
あるし、一人一人が「確証バイアス」と呼ばれる、無意識のうち
に自分の考えを肯定するような情報にばかり目を留め、否定する
ような情報は無視したり軽視したりする傾向に陥っていないか、
常に問うことが求められる。

あえて異なる主張をしている専門家や情報にも目を向ける態度が
大事だ。

科学者自身も科学と政治・社会の間に生じる時間のギャップに引
きずられてはならない。

断言できない情報を断定的に発表したり、論文にする前の情報を
記者会見で発言したりするケースは少なくない。

科学者の倫理も問われている。


Q9――科学者と国民をつなぐ必要はないのか?

A9
今後、政治の側が対策によって影響を受ける人の声をよく聞き、
専門家にも伝えるべきだ。

例えば、東京都新宿区の歌舞伎町で感染拡大が収まらなかった
際、新宿区長がホストクラブ経営者らの声を直接聴取して対策
に生かした。

こうした現場の声を国レベルでも積極的に聞いてほしい。

その声を専門家に伝えることで効果的な提言につながることも
期待できる。

科学と政治の関係性にも好影響を与えるはずだ。


 ひらかわ・ひでゆき 1964年生まれ。国際基督教大学大
学院比較文化研究科博士後期課程・博士候補資格取得後退学。
博士(学術)。
 京都女子大学助教授、大阪大学コミュニケーションデザイ
ン・センター教授などを経て、2016年より現職。専門は
科学技術社会論。

 写真キャプション新型コロナウイルス対策を検討する政府
の分科会=8月24日 東京・霞が関



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コロナ禍〈危機の時代を生きる〉  川崎市健康安全研究所 岡部信彦所長に聞く

2020年08月30日 08時18分33秒 | 感染症パンデミック対策

尾崎 洋二 コメント:つくづく「少しでも多くの人に感染症を
防ぐ正しい知識が広がれば、この感染症は必ず乗り切ることがで
きる」と痛感しました。コロナ禍報道をされているマスコミ関係
の方々には、私たちが「正しく恐れる」ために、くれぐれも慎重
に、不安をただ煽り立てることなく、科学的な冷静な報道をお願
いしたいところです。
----------------------------------------
〈危機の時代を生きる〉 
川崎市健康安全研究所 岡部信彦所長に聞く

これまで政府の専門家会議の要として国内の対策

に当たり、現在も分科会の一員として走り続ける

川崎市健康安全研究所の岡部信彦所長にインタビ

ューした。
(聞き手=加藤伸樹)

〈プロフィル〉
 おかべ・のぶひこ 東京慈恵会医科大学卒業。医学博士。
専門は小児科学、感染症学、感染症疫学。米国テネシー州バン
ダービルト大学小児科感染症研究室研究員、WHO(世界保健機関)
西太平洋地域事務局伝染性疾患予防対策課長、
国立感染症研究所感染症情報センター長などを経て現職。

2020年8月29日30日  聖教新聞


正しい情報見極め「正しく恐れる」とは?


Q1――感染症対策の最前線に立ち続けてきた専門家は、新型コロナ
ウイルスの感染拡大をどう見ているのか?

A1

メディアでは連日、各地の新型コロナウイルス感染症(COVID―19)
の感染者数を報じており、その増減に一喜一憂する人もいます。
  
この感染症が一般にも知られてきたのは、2月から3月くらいのこと
です。

その時は“未知のウイルス”でしたが、この半年で多くのことが分
かってきました。

最近の感染者数だけで見れば、緊急事態宣言を出した時を上回った
地域もありますが、それを気にする方の多くは2、3月くらいの分か
らない状況のままで、数字が増えていると感じているのではないで
しょうか。

もちろん、数が増えるのは好ましくありませんが、この間、疫学情
報や検査体制の拡充、診断方法の精度の向上、集団感染の調査、診
療の経験とノウハウなどが積み重ねられていますし、無症状感染者
をはじめ、これまで分からなかった人の感染も把握できるようにな
りました。

そうした数も含まれていることに目を向けないと、「正しく恐れる」
の「正しく」が抜け、いつまでも「恐れる」ということになってし
まうと思います。
 
また今、数として報じられているのは、その日の検査で感染が分か
った人数です。

集団感染が疑われる人を大勢検査すると数も増えますが、これは、
あくまで検査した日であり、“その日に感染者が急増、あるいは
減少した”ことを指すわけではありません。

感染者の増減を正しく理解するには、感染者がいつ発症したのか
を見る必要がありますが、この発症日ごとで見ると、日本での
7~8月の増え方は、いわば高止まりのような状況で、一部では微
減傾向になっていることも分かります。
  

Q2――ほかに分かってきたことは、何でしょうか?
  
A2
世界的にも10代以下の子どもたちの感染者数は明らかに少なく、
高齢になるほど重症化率、致死率が高くなることから、この感染
症は目下、“大人の病気”と言えます。

また高齢者でも糖尿病や腎臓病などの基礎疾患のある方が重症化
しやすい一方、発症者の約8割の方は軽症で済むことや“発症した
人の約8割は他人に感染させていない”ということも分かっていま
す。


「3密」回避やマスク着用などの基本が命

Q3――どういう状況で広がっているのでしょうか?
  
 
A3
最近は会食や職場、家族など、さまざまな状況が挙げられています
が、共通した条件としては、換気の悪い密閉空間に多くの人が密集
し、密接して大きな声で会話したり、歌を歌ったりすることで感染
が広がっています。

ここから「3密」という言葉が生まれましたが、この「3密」が回避
されない時に感染が広がっています。

また、そのような状況下で手洗いやマスク着用などの対策が行われ
ないと、感染リスクが高まることも分かっています。
  
Q4――やはり、「3密」の回避や手洗いといった基本が大事ですね?
  
 
A4
そうです。
私は毎年、インフルエンザの流行時期には“人混みに出る時は注意
し”“くしゃみや咳が出る時はマスクを着け”“帰宅したら手を洗
いましょう”と呼び掛けています。

「3密」という言葉自体は今回の対策で出たものですが、感染症対
策の基本は変わっていません。

ただ取り巻く環境は、時代とともに変化してきていると感じます。


Q5――どんな変化があったのでしょうか。
  
A5
特に大きいのが、人の動きと情報量の変化です。
 
新型インフルエンザが流行した2009年ごろ、海外からの訪日客は年
間で1000万人を下回っていましたが、新型コロナウイルスが流行す
る前には3000万人を超えていました。
 
情報量については、SARS(重症急性呼吸器症候群)が問題となった
2003年に比べ、2009年の新型インフルエンザの時には、多くの人が
インターネットで情報を得るようになり、メールで情報交換するこ
とが普及してきました。

そこから10年以上が経過し、今では多くの人がSNSで既成メディア
以外の情報を目にし、自らも広く情報発信できるようになりました。

そこで個人の見解を述べることは自由ですが、それが全て正しい情
報とは限らないので、一人一人には、どれが正しい情報かを見極め
る力が求められています。
 
また、そうした力はマスコミの側には一層、求められています。

出回っている情報の中で何が真実かを見極め、専門家の意見などを
踏まえて報道していくことが大切です。


Q6――報道の中には、PCR検査について、“やみくもに行うことを
是”とするものもあると感じます。
  
A6
PCR検査は私の研究所でも毎日行っていますが、今日やって陰性だ
とすると、それは「今は陰性です」ということしか言えず、明日
やると陽性となるかもしれない。

また、もし検査で陰性となった人が“感染していないから”と油断
した行動を取ってしまえば、逆に感染を広げるリスクがある。

「それなら毎日やればいい」と言う人がいるかもしれませんが、
そうなっては、きりがありません。
 
PCR検査はウイルスそのものではなく、ウイルスの遺伝子の一部が
あるかどうかを調べるものですが、たとえ壊れたウイルスのかけら
が少し体内にあるだけでも陽性になります。

壊れていれば感染力はありませんが、それでも陽性になるのです。

だから、やみくもに検査してしまうと、既に他人に感染させる心配
のない人が陽性として隔離されてしまったり、不当な差別を受けて
しまったりするなど、誤った行為につながる可能性もあるのです。
 
そもそも日本の検査の精度は高く、数個のウイルス遺伝子があるだ
けで陽性になります。

数百という遺伝子がないと感知できないものを使用する国もありま
す。

そうした精度の違いを見ずに、日本も海外と同様に大々的な検査を
行政が担うとすると、技術的にも費用的にも、効率性からも無理が
あると思うのです。


Q7――そもそも、何のために検査するのでしょうか?
  
感染を疑われる人が“陽性か陰性か”を速やかに判断し、医療現
場が適切な処置を行うためにあります。

その検査を北から南まで統一した方法で実施することによって、
正確な統計が出せるのです。

それが臨床現場と行政の行う検査です。
 
その上で、数をこなさないといけない場面があることも承知して
います。

一方、現在はPCR検査よりも簡易な診断法も出てきています。

例えばPCR検査よりも感度はやや落ちますが、PCR検査と同様、
“今、感染しているか”を30分程度で診断できる抗原検査という
ものがあります。

インフルエンザの迅速診断キットと似たようなもので、ウイルス
の量が少ないと陰性になりますが、ウイルス量が少ないというこ
とは他人にうつしにくいということなので、使い方次第では役に
立つと思っています。
 
また感染後に体内でつくられる抗体(ウイルスへの抵抗力)を検
査する方法もありますが、これで分かるのは「以前にそのウイル
スに感染したことがあるか」ということだけで、たとえ抗体があ
っても再感染の危険がないかはまだ十分に分かっていないため、
現状では個々人の感染の診断に用いる検査ではないと思います。

ともあれ、全てをPCR検査で行うのではなく、目的に応じて使い
分け、上手に組み合わせることが大切だと考えます。


必要な医療を全ての人に――この体制確保が重要


Q8――前回の緊急事態宣言は、医療崩壊を防ぐために行われた
ものでした。その方針に変わりはないのでしょうか?
  
A8
変わっていません。私はもともと、緊急事態宣言という激しい
方法を全国一律に取る必要はないと言っていましたが、やらな
いといけないと感じたのは、医療機関の方々から「あと数日で
患者さんを断らないといけないかもしれない」との声が上がっ
てきたことでした。

ここがパンクしてしまったら、新型コロナウイルスの患者だけ
でなく、他の病気で苦しむ患者も診られなくなってしまうと思
い、賛成しました。
 
分科会でも今、再度の緊急事態宣言ということは常に頭の中に
置いていますがホテルなどでも受け入れが進んでおり、医療崩
壊を防ぐことができています。

ですので、今すぐやることはないと感じています。

ともあれ、全ての人に対し、万が一、重症化したとしても、必
要な医療を届けることができる体制を守り続けることが重要だ
と考えます。

 
Q9――WHO(世界保健機関)は、新型コロナウイルスと長期間に
わたって共存する覚悟が必要であるとの見方を示しました。

そうした中、岡部所長は分科会のメンバーとなりましたが、今、
感じていることを教えてください。
  
 
A9
どう感染症を防ぐのかといった医学的な議論を中心に進めてき
た専門家会議は、自主的に何度も勉強会を重ねる中で、いろい
ろなことを遠慮なく言い合える良いチームになっていきました。

分科会では、経済や社会学、リスクコミュニケーションの分野
といった専門家も交え、今後の社会のあり方を議論していくこ
とになりますが、専門家会議の時よりも、バランス力が問われ
ると思っています。
 
教育とのバランスで言えば、マスク着用などの感染対策を取る
ことを前提として、“子どもたちの人間性を育む機会をいかに
守っていくのか”などを考えていかないといけません。
 
分科会の一人として、そうした議論を一つ一つ、丁寧に重ねな
がら、建設的なものになるように努力したいと思っています。


感染症は必ず克服できる!――希望信じて共々に

 
Q10――これまで新型コロナウイルスの感染経路では、感染者
の飛沫からうつる「飛沫感染」が主な原因とされてきました。

A10
その通り、咳やくしゃみ、会話の時に吐き出す飛沫に含まれた
ウイルスを、他の人が取り込んでしまう「飛沫感染」が主な感
染経路です。

飛沫は細かい水滴で重さもあり、すぐに地面に落ちるので、人
と人の距離を1メートル以上(余裕を持って2メートル以上)に
保つことで、感染を防ぐことができます。
 
人との距離が近い場合にはマスクの着用が有効で、マスクが飛
沫の拡散を防ぐので、感染リスクを減らすことができます。

これは感染者がマスクをすることで他の人にうつさないことが
主な目的ですが、実際には誰が感染しているか分からないので、
近寄る際は“互いのためにマスクを”ということになるのです。
 
また、この飛沫に関し、例えば感染者がくしゃみを押さえた手
で物を触り、それを他の人が触ってうつることがあります。

「接触感染」と呼ばれますが、そうならないためにも、不特定
多数が触るような物を触った場合は、その手で顔を触らないこ
とや、小まめに手洗いやアルコール消毒を心掛けることも必要
です。


Q11――国立感染症研究所は濃厚接触者の定義を、マスク着用
などの必要な予防策なしに「手で触れることのできる距離
(目安1メートル)で、15分以上の接触があった」場合として
います。

この1メートルが人との距離の目安ということでしょうか?

また互いにマスクをしていれば、道端で会話したり、満員電車
に乗ったりしても、感染リスクは抑えられると考えてよろしい
でしょうか?

A11
距離を保てれば、感染リスクはかなり防げます。

ただ1メートルといっても、常に距離を測ることは難しい。

向かい合う人が互いに腕を伸ばして触れない距離を保つと、そ
の間隔は、ほぼ1メートル以上になります。

ですので分かりやすいように「手で触れることのできる距離」
という表現になりました。

こうした人と人の距離の近い場面で、かつマスクなどの予防策
を取っていない際に、感染リスクが高いと言えます。

だからといって人とすれ違うだけの瞬間的なことでうつるかと
いうと、そうではありません。

互いにマスクをしていれば、会話程度でうつるリスクは著しく
低下します。
 
満員電車については、1メートルの距離の確保が難しいという
状況があるかもしれませんが、公共交通機関では今、エアコン
をガンガン付け、一部の窓を開けて空気を入れ替えながら走っ
ています。

あの状態なら風も常に流れるし、ウイルスもすっ飛んでしまう
はずです。

混んでいるところでゴホゴホと咳をする人がいたら、限界があ
るかもしれませんが、基本的には体調の悪い方は休むという流
れが浸透してきていますし、日本の場合は乗っている人が大声
でしゃべるということも少ないし、あまり心配することはない
と思います。


Q12――科学者の間で最近、飛沫の水分が蒸発した小さな粒子を
吸い込むことでうつる“空気感染”の可能性が指摘されています。

これが本当であれば、飛沫よりも長い時間、空気中を浮遊する
ことができるので、これまでの感染対策では足りないことにな
ります。

A12
空気感染が全く否定できるわけではありませんが、もし新型コ
ロナウイルスが結核やはしか、ペストのような空気感染を起こ
す病気なら、今のような感染者数に収まるはずがなく、もっと
拡大しているはずです。

空気感染するとしても、その場合の感染レベルは飛沫に比べて
低く、実際に感染が起きている場面も極めて少ないと考えます。

そもそも医学や科学というのは、全体と同時に裾野にある細か
い事象、例外的なことも必ず追い掛けます。

それが科学的探究です。

その裾野を見れば、飛沫感染、接触感染もあり、空気感染もあ
るということになりますが、これは科学的にあり得ることを言
っているだけで、それがメジャーかというとそうではありませ
ん。
 
これまで日本での感染対策がかなりの効果を発揮してきたこと
を踏まえると、やはり主な原因は飛沫感染であると言えるでし
ょう。


Q13――空気感染も踏まえると、密閉対策としての「換気」が
重要と思います。

この換気について、基本的な考えはあるのでしょうか?

A13
建物によって状況は変わるので、明確な基準と言われると難し
い面がありますが、大事なのは、それぞれの環境で、どうすれ
ば空気が同じ場所にとどまらず、空気中に飛び出たウイルス濃
度を薄められ、希釈してちりぢりにさせられるかを考えること
でしょう。

理想を言えば、窓を開けっ放しにしておくことが一番でしょう
が、この猛暑では、エアコンも使わないと熱中症のリスクを高
めてしまいます。

また“1時間に何回、窓を開けましょう”といっても、そもそ
も窓のない場所だってあります。

扇風機やエアコンを回して空気の流れを良くするとか、ここの
扉は開けておこうとか、それぞれができる範囲で感染リスクを
低くする工夫をしていくことが大切です。


Q14――置かれた状況が違うからこそ、一人一人の応用力が求
められていますね?

A14
日本人はまじめで、マスク着用などの基本を大勢の方がしっか
りやってくださったから、日本は海外に比べて感染を抑えられ
ているのだと思います。

その一方、具体的に伝える難しさも感じます。例えば“レジで
の支払いは電子決済で”など、専門家会議が提言した「新しい
生活様式」も、あくまで「こういうことをやってみたらいかが
ですか」という例で示したつもりでしたが、これをすべきであ
り、しかも全部守らないと感染してしまうと受け取られてしま
うこともある。
 
私はもともと小児科医ですが、子どもは「あれもダメ、これも
ダメ」と言うと委縮してしまって、伸び伸びとは育ちません。

それは大人も同じで、窮屈になってしまいます。

もちろん感染への一定の注意は必要ですが、一人一人が「こう
いうことならできる」「ここまではできる」という応用力を働
かせていくことが重要だと感じます。


Q15――高齢者や基礎疾患のある方々の中には、感染を恐れて
家に閉じこもる人もいます。

運動不足などにつながり、かえって死亡リスクを高めてしまう
のではないかと懸念されます。

A15
家に閉じこもってしまうと、運動不足だけでなく、うつうつし
た状態になり、食事が偏ってしまうリスクもあります。

それで退屈になってテレビを見ても、入ってくる情報は新型コ
ロナウイルスの話ばかり。これは、健全ではありません。
 
今、川崎市では“人があまりいない場所に行ったらマスクを外
し、良い空気をいっぱい吸ってください”と呼び掛けています。

それこそマスクを着け、友人たちと2、3人くらいで公園に行っ
て話すくらいなら、うつる可能性も少ないですし、互いの顔を
見れば元気になります。

でも、いくら元気になるからといって、皆で“昼カラオケ”に
行けば、密閉した空間で飛沫も飛ぶので危ないわけです。
 
外出のリスクもありますが、人間は握手をしたり、肩を組んだ
り、人との触れ合いの中で生きていくのが自然な姿です。

人との距離を保つことが重要といっても、心身の健康に良いこ
とばかりではないということも考慮していくべきです。


心と心の絆を強める地域ネットワークを


Q16――人と人の絆を強めるために、地域ネットワークが重要
だと考えます。

創価学会では、このコロナ禍の中でも、一人一人が地域の絆を
強めるためにメールや電話などで励ましを送ってきました。

また学会青年部も今、「savelife(命を守る)プロジェクト」
という取り組みを進め、SNSを活用して感染対策に関する情報
を発信しています。

A16
感染状況は地域によって違うので、全国一律で対策を取るとい
っても難しいものがあります。

それぞれの場所に応じた対策を取るためにも、地域ネットワー
クの存在というのは、ますます大切になると考えます。
 
私は特定の宗教団体に入っているわけではありませんが、きち
んとしたコミュニケーションのネットワークを持っているとい
うことは、どこにあっても強いと思います。
 
また、専門家会議で話題に上ったのは、“私たちの声が若者に
届いていない”ということでした。

それで有志の会としてホームページを立ち上げたのですが、あ
の時は若者たちに頼んで作成してもらいました。

私たち“年寄り”の言葉では届かないところに、若者たちが彼
らの感性で情報発信しているというのは、ものすごく大事なこ
とであり、ありがたいことです。
 

Q17――最後に、読者にメッセージをお願いします。

A17
現在は「新しい生活様式」と言われており、これが一生続くの
かと不安に感じる方もいるかもしれません。

流行が収まらない現段階では、人との距離を保たなければいけ
ない状況ですが、私は、やがてこの距離は縮めていくようにす
るのがいいと思っています。

人間は触れ合い、直接話をし、そして互いの絆を育んでいくも
のだからです。
 
もちろん我慢し、耐えなければならない時もありますが、少し
でも多くの人に感染症を防ぐ正しい知識が広がれば、この感染
症は必ず乗り切ることができると思います。

一日も早く平穏な日常を取り戻せるよう、希望を信じて共々に
頑張っていきましょう。
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