津波・浸水想定にどう向き合うか!日本・千島海溝巨大地震
内閣府の「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震モデル検討会」の佐竹健治座長(東京大学地震研究所教授)に聞いた。
公明新聞5月20日2020年-要点抜粋箇条書き
尾崎 洋二 コメント:フクシマ第一原発での失敗の原因は、地震・津波災害というものをたかだか人の一生の時間軸でしか、考えなかった点にあると思います。
地震対策には地球の歴史という長い時間軸で考えないところに悲劇が生まれるのではないでしょうか。
人間だけの時間軸(親、子、孫など三世代のみの時間軸)を中心とした、目先の経済的価値だけで、地震対策をすると必ず失敗します。
この点「869年の貞観地震も踏まえて、津波が発生した間隔は約300~400年だ」と地球という時間軸を入れての、東日本大震災の教訓を踏また「あらゆる可能性を考慮した最大クラスの巨大な地震・津波の検討、最大想定を見直す方針転換」に私は大賛成です。
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1- 政府は従来の想定を超えた東日本大震災の教訓を踏まえ、あらゆる可能性を考慮した最大クラスの巨大な地震・津波を検討し、最大想定を見直す方針に転換。
2- 今回の見直し推定では、最大クラスの地震として、十勝・根室沖の千島海溝モデル(M9・3)と、三陸・日高沖の日本海溝モデル(M9・1)という二つの領域での地震に分けて分析した。
3- 見直しは、南海トラフ巨大地震、首都直下地震に続く3例目となる。
4- この想定に基づくと、千島海溝沿いの巨大地震では、北海道厚岸町と浜中町で震度7、同えりも町から東側の沿岸部では震度6強の激しい揺れに襲われる。
津波の高さは、えりも町では最大27・9㍍、釧路市では最大20・7㍍などとされ、根室市からえりも町付近の広い範囲で20㍍を超えるとみられている。
5- また、日本海溝のうち北海道の南から岩手県沖の領域で起きる巨大地震では、青森県や岩手県南部の一部が震度6強に見舞われる。津波の高さは各地で10㍍を超え、岩手県宮古市では最大29・7㍍、青森県八戸市で26・1㍍となるなど、東日本大震災の津波高を超える地域もあるという。
宮城、福島両県では5~10㍍を超え、茨城県で約5㍍、千葉県でも高いところで5㍍以上の津波が押し寄せる。
6- さらに推計では、岩手県以外の6道県で浸水想定図を公開し、少なくとも4道県32市町村の庁舎が浸水する恐れがあるとした。
該当する自治体数は北海道が24で最も多く、青森県の4、宮城県3、茨城県で1と続く【表参照】。
■佐竹健治・東京大学地震研究所教授(政府モデル検討会座長)に聞く
Q-今回の推計の特徴は?
A1-東日本大震災は日本海溝で発生した最大級の地震だ。
現時点では、宮城県沖で再び同程度の巨大地震が起きる可能性は低いと考えられるが、その北側領域である岩手県以北では巨大地震が起きる可能性があるので、その最大級を想定したのが今回の結果だ。
A2-逆に、南側領域の福島県以南でも巨大地震の可能性はあるが、調査の進ちょくが不十分なため検討から外している。
A3-その上で今回は、北海道から岩手県までの沿岸部の過去約6000年間におよぶ津波堆積物を調査し、起こり得る地震の最大規模を千島海溝モデルでM9・3、日本海溝モデルでM9・1と推定した。
これは、東日本大震災のM9や、想定される南海トラフ巨大地震のM9・1を超えるほどの巨大地震だ。
A4-この二つの海溝沿いでは、12~13世紀、または17世紀に発生した津波による堆積物が確認され、4世紀前後にも巨大地震の痕跡がある。
869年の貞観地震も踏まえれば、津波が発生した間隔は約300~400年だ。
17世紀の津波からすでに約400年が経過しているため、両海溝沿いで最大級の地震・津波の発生が切迫していると考えられる。
今回の推計は、実際に過去に起きたデータを用いている点が一番の特徴だ。
A5-例えば、南海トラフ巨大地震は、想定し得る最大級の地震といっても、実際に起きたという証拠はなく、あくまで科学的に考えられる最大級の想定だ。
一方、日本海溝・千島海溝については、津波堆積物という科学的根拠に基づく津波データを使って推定している。
その意味で蓋然性(確実性)はこちらの方が高いということが言える。
「まとめ→■発生時期「切迫している」/6千年間の痕跡調査、確度高い」
Q2-多くの自治体庁舎で浸水の恐れがあるとの結果をどう見るか?
A1-推計で示した浸水想定図を見ると、北海道を中心に青森市なども含めて広範囲で広く浸水する。
東日本大震災の時も、岩手県大槌町などで庁舎が津波にのまれ、当時の町長も亡くなってしまった。
A2-災害時に庁舎が浸水すると、機能不全となって被災者支援や復旧作業に甚大な支障が出る。
これも大事な教訓の一つであり、浸水想定図を参考に各地域ごとの対策が必要だ。
A3-2018年の北海道胆振東部地震では、国内初のブラックアウト(全域停電)が起きたが、その原因となった北海道電力苫東厚真発電所は浸水の恐れがある。
その意味では、再びブラックアウトは起こり得る。こうした懸案に迅速に対処していくことが求められる。
「まとめ→■人の命が最優先。地域の特性考慮して対策検討を」
Q3-今後の防災対策で必要な視点は?
A1-東日本大震災後、政府の専門調査会の報告では想定し得る津波について、「発生頻度は極めて低いが、甚大な被害をもたらす最大クラスの津波」と「発生頻度が高く津波高は低いが大きな被害をもたらす津波」の二つのレベルを示したが、今回の想定は前者である。
A2-最大クラスの津波に対しては、ハードとソフト対策を組み合わせた「多重防御」が基本で、人命を助けることが優先される。
防潮堤の建設や土地かさ上げなどのハード面だけでは限界があるので、広範囲での被害を前提に、各地域のBCP(業務継続計画)や避難マニュアルを見直す必要があるだ
ろう。
特に、想定の対象地域は寒冷地なので、冬季に巨大地震が起きた場合など、地域の特性を考慮するべきだ。
さたけ・けんじ 1958年東京都生まれ。北海道大学大学院理学研究科修士課程修了。米ミシガン大学助教授、工業技術院地質調査所主任研究官、産業技術総合研究所活断層研究センター地震被害予測研究チーム長など歴任。2008年1月から現職。
内閣府の「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震モデル検討会」の佐竹健治座長(東京大学地震研究所教授)に聞いた。
公明新聞5月20日2020年-要点抜粋箇条書き
尾崎 洋二 コメント:フクシマ第一原発での失敗の原因は、地震・津波災害というものをたかだか人の一生の時間軸でしか、考えなかった点にあると思います。
地震対策には地球の歴史という長い時間軸で考えないところに悲劇が生まれるのではないでしょうか。
人間だけの時間軸(親、子、孫など三世代のみの時間軸)を中心とした、目先の経済的価値だけで、地震対策をすると必ず失敗します。
この点「869年の貞観地震も踏まえて、津波が発生した間隔は約300~400年だ」と地球という時間軸を入れての、東日本大震災の教訓を踏また「あらゆる可能性を考慮した最大クラスの巨大な地震・津波の検討、最大想定を見直す方針転換」に私は大賛成です。
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1- 政府は従来の想定を超えた東日本大震災の教訓を踏まえ、あらゆる可能性を考慮した最大クラスの巨大な地震・津波を検討し、最大想定を見直す方針に転換。
2- 今回の見直し推定では、最大クラスの地震として、十勝・根室沖の千島海溝モデル(M9・3)と、三陸・日高沖の日本海溝モデル(M9・1)という二つの領域での地震に分けて分析した。
3- 見直しは、南海トラフ巨大地震、首都直下地震に続く3例目となる。
4- この想定に基づくと、千島海溝沿いの巨大地震では、北海道厚岸町と浜中町で震度7、同えりも町から東側の沿岸部では震度6強の激しい揺れに襲われる。
津波の高さは、えりも町では最大27・9㍍、釧路市では最大20・7㍍などとされ、根室市からえりも町付近の広い範囲で20㍍を超えるとみられている。
5- また、日本海溝のうち北海道の南から岩手県沖の領域で起きる巨大地震では、青森県や岩手県南部の一部が震度6強に見舞われる。津波の高さは各地で10㍍を超え、岩手県宮古市では最大29・7㍍、青森県八戸市で26・1㍍となるなど、東日本大震災の津波高を超える地域もあるという。
宮城、福島両県では5~10㍍を超え、茨城県で約5㍍、千葉県でも高いところで5㍍以上の津波が押し寄せる。
6- さらに推計では、岩手県以外の6道県で浸水想定図を公開し、少なくとも4道県32市町村の庁舎が浸水する恐れがあるとした。
該当する自治体数は北海道が24で最も多く、青森県の4、宮城県3、茨城県で1と続く【表参照】。
■佐竹健治・東京大学地震研究所教授(政府モデル検討会座長)に聞く
Q-今回の推計の特徴は?
A1-東日本大震災は日本海溝で発生した最大級の地震だ。
現時点では、宮城県沖で再び同程度の巨大地震が起きる可能性は低いと考えられるが、その北側領域である岩手県以北では巨大地震が起きる可能性があるので、その最大級を想定したのが今回の結果だ。
A2-逆に、南側領域の福島県以南でも巨大地震の可能性はあるが、調査の進ちょくが不十分なため検討から外している。
A3-その上で今回は、北海道から岩手県までの沿岸部の過去約6000年間におよぶ津波堆積物を調査し、起こり得る地震の最大規模を千島海溝モデルでM9・3、日本海溝モデルでM9・1と推定した。
これは、東日本大震災のM9や、想定される南海トラフ巨大地震のM9・1を超えるほどの巨大地震だ。
A4-この二つの海溝沿いでは、12~13世紀、または17世紀に発生した津波による堆積物が確認され、4世紀前後にも巨大地震の痕跡がある。
869年の貞観地震も踏まえれば、津波が発生した間隔は約300~400年だ。
17世紀の津波からすでに約400年が経過しているため、両海溝沿いで最大級の地震・津波の発生が切迫していると考えられる。
今回の推計は、実際に過去に起きたデータを用いている点が一番の特徴だ。
A5-例えば、南海トラフ巨大地震は、想定し得る最大級の地震といっても、実際に起きたという証拠はなく、あくまで科学的に考えられる最大級の想定だ。
一方、日本海溝・千島海溝については、津波堆積物という科学的根拠に基づく津波データを使って推定している。
その意味で蓋然性(確実性)はこちらの方が高いということが言える。
「まとめ→■発生時期「切迫している」/6千年間の痕跡調査、確度高い」
Q2-多くの自治体庁舎で浸水の恐れがあるとの結果をどう見るか?
A1-推計で示した浸水想定図を見ると、北海道を中心に青森市なども含めて広範囲で広く浸水する。
東日本大震災の時も、岩手県大槌町などで庁舎が津波にのまれ、当時の町長も亡くなってしまった。
A2-災害時に庁舎が浸水すると、機能不全となって被災者支援や復旧作業に甚大な支障が出る。
これも大事な教訓の一つであり、浸水想定図を参考に各地域ごとの対策が必要だ。
A3-2018年の北海道胆振東部地震では、国内初のブラックアウト(全域停電)が起きたが、その原因となった北海道電力苫東厚真発電所は浸水の恐れがある。
その意味では、再びブラックアウトは起こり得る。こうした懸案に迅速に対処していくことが求められる。
「まとめ→■人の命が最優先。地域の特性考慮して対策検討を」
Q3-今後の防災対策で必要な視点は?
A1-東日本大震災後、政府の専門調査会の報告では想定し得る津波について、「発生頻度は極めて低いが、甚大な被害をもたらす最大クラスの津波」と「発生頻度が高く津波高は低いが大きな被害をもたらす津波」の二つのレベルを示したが、今回の想定は前者である。
A2-最大クラスの津波に対しては、ハードとソフト対策を組み合わせた「多重防御」が基本で、人命を助けることが優先される。
防潮堤の建設や土地かさ上げなどのハード面だけでは限界があるので、広範囲での被害を前提に、各地域のBCP(業務継続計画)や避難マニュアルを見直す必要があるだ
ろう。
特に、想定の対象地域は寒冷地なので、冬季に巨大地震が起きた場合など、地域の特性を考慮するべきだ。
さたけ・けんじ 1958年東京都生まれ。北海道大学大学院理学研究科修士課程修了。米ミシガン大学助教授、工業技術院地質調査所主任研究官、産業技術総合研究所活断層研究センター地震被害予測研究チーム長など歴任。2008年1月から現職。