トリチウム水放出には疑問-福島県漁業の再生
-森田貴己氏・中央水産研究所 海洋・生態系研究センター放射能調査グループ長-「水圏の放射能汚染」共著
尾崎 洋二のコメント「災害が起こる前から、発災直後、その後の復旧・復興までの一連の災害対応を一貫して考え、検証する仕組みが日本にはあるのだろうか?
特に原子力災害においては、断片的な対策は傷口に絆創膏を貼るようなものであってはならない。誰の為の復興か?このことを考えさせられました。」
以下 聖教新聞2月7日2019年 要点抜粋箇条書き
安全面からは十分回復
沿岸海域で実施する海産物の放射性セシウム検査では、2015年4月から全検体が基準値(1キログラム当たり100ベクレル)を下回るなど、安全性も確認されているが、風評被害は根強く、本格操業には至っていない。
試験操業を始めた漁業者でも出魚するのは2,3日。全体の水揚げ量も震災以前の約2割とどまっている。水揚げした先にある流通機能が回復せず、停滞していたため。
震災以前、相馬双葉漁協には約180人の仲買業者がいたが、現在は20人余りしかいない。以前のように水揚げしても、それを扱うだけの能力がない。
原発事故後、福島県の海産物の水揚げがなかったことと、福島県の水産物に対する風評被害が固定化し、多くの仲買業者が離れた。
福島県漁業が現在も本格操業に至らないのは、魚が汚染されているとか、漁業者の生産能力が回復していないということではなく、事故後の風評被害によって、水産物の流通構造がゆがめられ、固定化したことに原因がある。
この状況に追い打ちをかけるように、現在、持ち上がっているのが、トリチウム水の海洋放出問題。
トリチウム水は、原発の廃炉作業で発生した汚染水を浄化処理した後に残る放射性物質トリチウムを含んだ水のことだが、この問題は、突然出てきたものではなく、事故炉の冷却を始めた時から既に存在していた。
トリチウムは、人体への影響は極めて軽微とされ、通常稼働の原発でも海洋に放出されていることから、合意形成は容易と考えられているかもしれないが、漁業者からすれば、事故の影響による風評被害でゆがめられた構造をそのまま放置しておいて、”海洋放出の影響は、セシウムに比べて小さいですから”ではすまされない問題。
漁業者から強い反対の声が起きるのは当然。受け入れられる話ではない。
合意形成といっても、それは国や東京電力の責任逃れでしかない。批判や風評被害の影響は全て漁業者が受け止めることになる。これも漁業者が受け入れられない大きな」理由となっている。
また、風評被害について、現在、政府の小委員会で議論しており、被害対策を行うとしていますが、現状を見れば、それがいかに空虚なもであるかが分かる。
トリチウム水の環境放出は、林立するタンクを処理し、廃炉作業をする上で重要なことかもしれないが、それが本当に「復興」につながるのか、疑問。
現在あるトリチウム水を希釈し全て放出するには数十年の期間が必要。そうなれば、新たな風評被害も重なり、福島県の水産業が回復することはなくなる。それを「復興」と呼べるのか?