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Boise on my mind

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論理的な推論の方法は教科書に書ける,しかし「論理的に議論する態度」を学ばせるには…

2010-07-02 | アカデミック
教科書も講義もクイズ(ペーパーテスト)も説教も無力,最も効果的なのはマンツーマンのセミナー,次善の策が少人数での演習形式授業…

1年次前期の授業「集合と論理」(受講者50人の講義形式)が終わりに近づいた今頃になって,こんな無力感というか絶望感でいっぱいで,暗澹たる気持ちになっています.
以前に「1年次前期に少人数(10--15人程度)の演習形式で『数学の記法と考え方』を鍛える授業を導入すべし」と主張してカリキュラム改革を提案したことがありましたが,提案はあっさり無視されました.

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(追記)…と,ぼやいてばかりいてもしかたないので,こんな演習問題を作ってみました.さて,効果はいかに.

命題も述語も集合もベン図も,何もかもぐちゃぐちゃ,何とかして!

2010-06-27 | アカデミック
昨日,お人好しにもOKWaveの質問に回答したついでに,数学関係のいくつかの質問を見てみての感想が,この記事のタイトルです.

具体例はいろいろ見つかりましたが,いちいちリンクする元気はありません.

あぁ,どうか,この本が爆発的に売れてその内容が数学教育現場に浸透するか,さもなくば,誰かがもっと優れた本を書いて数学教育現場に浸透させてくれますように…

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…などと,しょせん他人事の愚問愚答を自らの罪悪であるかのように背負い込むのは,人生における大いなる損失ですね.これからはウェブ検索で見つけてもスルーしないと,身がもちません.OKWaveのアカウントも削除するのが身のためかなぁ.

高校数学で教わる行列っていったい何をしたいのか分かりません!

2010-06-25 | アカデミック
高校数学で教わる行列っていったい何をしたいのか分かりません!(OKWave)

↑…だそうです.私はOKWaveにID新規登録してまで答える元気はないので,この記事が目にとまった方,どうぞご回答を.

全然答えにならない不謹慎な意見ですが,この質問に対する私の第一印象は「そのとおり,何をしたいのかわからなくて当然!」でした.高校数学で扱う行列の内容は1次変換とか線形方程式とかの実質的な内容が伴わない議論に終始してしまっているので,何をしたいのかわからないのが当然です.
次の指導要領では高校数学から行列がなくなるそうですが,私はこれに「消極的賛成」です.「何をしたいのかわからない」状態で中途半端に行列を教えるぐらいなら,全く教えないほうがマシです.逆に,高校で行列を教えるのなら,かつての「代数・幾何」のように1次変換の幾何的意味と結びつける議論にまで深入りすべきです.

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(追記)↑…と言いつつ,結局,回答してしまいました.

双対性(duality)

2010-06-17 | アカデミック
「命題代数(論理代数,2値ブール代数)の双対性」に関連しての,私の授業脱線雑談小ネタ集「双対性とはなんぞや?」.

まずは哲学「ものがあるということは空間に穴があいているということだ」.

次はアート,ルビンの壷

数直線での閉区間と開区間の表し方を説明.「閉区間は端点を黒丸で表す,開区間なら端点は白丸…」と語りながら黒板に(白チョークで)図を描いて… ん,何かおかしくない? みなさんのノートは白い紙に黒鉛筆だけど…

サッカーワールドカップの盛り上がりに乗じて,「サッカーの目的は球を『相手のところに入れる』ことだと皆思ってる,でも『自分のところに持ち帰る』と思ったら? 実はそれでも結局同じゲームになる.つまりサッカーというゲームは self-dual ということ!」 このネタのバリエーションで,マダカスカルのサッカーの珍事を引き合いに出して「もしサッカーで両チームがオウンゴールを競い始めたら(お互いに相手を勝たせようと努力したら)どうなる? キーパーとかオフサイドとかの違いは出てくるけど,結局は普通のサッカーと似たゲームになるのでは…」

うーん,もっと面白いネタがあったら教えてください…

講義の悪ノリにもほどがある(←自戒)

2010-06-03 | アカデミック
離散数学の授業で同値関係と商集合を扱った流れで,整数剰余環 Z/mZ について講義しましたが,そこで,「剰余類どうしの加法と乗法を定義しようとするときには well-definedness に留意する必要がある」と話そうとした時,ついついアドリブで…

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剰余類からの代表元の選び方は一意でない,だから,代表を誰にするかによって結果が変わるか,それとも結局同じになるかを気にしなきゃいけない.

ところで,昨日(6月2日)鳩山首相が辞めたでしょ! そして明日は民主党の代表選挙でしょ! 民主党の代表,そして日本の首相というのは,誰を選ぶかによって結果がものすごく変わる.だから民主党は今,代表選で大騒ぎになっている.

でも,数学はそうじゃない.数学の世界では,『同値類の中から誰を代表に選び出しても結果は変わらない』ようになっていてほしいわけで,そういうのをwell-definedと言うんだよ!
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0は自然数か否か?

2010-05-29 | アカデミック
某所で「0は自然数か否か」という議論が一部の数学研究者を巻き込む形で起こって消えた形跡がありますが…

私の本では「太文字の N は『自然数全体の集合』を表す」ことを説明した直後に,
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なお,自然数の定義については,0を自然数に含める流儀と含めない流儀がありますが,本書では,0は自然数に含めない,すなわち N の要素でないとします.
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と宣言しています.

私自身の結論としては,「0は自然数とすべきか否か」という問いに対して,私は「両方の流儀がありますよ」という答え方以上の主張をすることは放棄するという立場をとります.

たしかに,私の研究上の専門分野では 0 は自然数とみなすのが標準ですし,もう少し広い立場から見ても,0 を自然数に含めるほうが都合が良い局面は多数あります.実際,私の本でも,有限集合の定義を述べるときに「0以上の整数 n を使って,持っている要素の個数を『n 個』と言い表せる集合」と書かざるを得なかったのは,ちょっと惜しい気もしています.

しかし,その事実のみを根拠として,「0 を自然数とする立場を正統とみなして,初等中等教育を含めた数学教育全体への普及,標準化に努めるべきだ」と主張したとしたら,それは極端な飛躍と言わざるを得ません.
数学を学び始めれば 0 が自然数であるほうが好都合と思える場面に多く出会うのは確かです.しかし,初等中等教育に目を向けてみると,初等中等教育における数学の範囲で「ぜひ 0 を自然数に含めべきだ」と明言できるほどの根拠を見出すのは難しいと思います.まして,「0 を自然数に含めない」で統一されている現状の初等中等教育の流儀を,あえて(現場の混乱をいとわず)変更する動機は無きに等しいでしょう.
そういうわけで,初等中等教育では「0 を自然数に含めない」で統一しておいて,大学の授業や研究者の世界では「0 を自然数に含めるかどうかは議論の都度宣言する」という立場は,まあ妥当な落としどころだと思います.「いちいち念押しするのは面倒」というのは確かにそうですが,数学では,議論を始めるにあたってさまざまな記法や用語や議論の前提のセッティングをするのはどのみち必要なことなので,「自然数」とか「太文字 N」の定義の確認が不要になるというのは,「0 を自然数とする立場を正統とみなして普及を図る」ことの理由としてはあまりにも弱すぎます.

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(追記)0は自然数か? に限らず,こういう,論理で決められない,歴史的経緯や現場の慣習や価値観が入ってくる問題を議論するときには,「偏見を排除する」という態度が(難しいけれど)最も重要だと思います.「数学の理論構築がスムーズになる」という理由で「0を自然数に含めよ」と主張するのは,数学研究という立場での「偏見」である可能性が高いと考えます.

分かりやすくて斬新な述語論理の記述(?)

2010-05-10 | アカデミック
松井知己先生のブログで,ありがたいことに私の本について
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述語論理に関して,分かりやすくて斬新な記述がされていて,目からウロコが落ちるようです.
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と言及してくださっていますが,いやはや,「斬新」とは恐れ入ります.

私の本の述語論理の記述が類書と大きく異なる点は,「述語」という術語(←ややこしい)を大々的に使っていることだと思います.
私の本では,述語論理式のうち閉論理式を「命題」,自由変数がある論理式を「述語」あるいは「条件」と呼ぶという立場をとっています.

「述語」という言葉自体は新しいものでもなんでもありません.命題と述語を明確に区別して導入したうえで述語を論理の説明の中心に据えるのは,私の指導者の一人でもある本橋信義先生の流儀で,私のオリジナルではありません.「『述語』と『条件』は同義語である」「述語の自由変数に値を代入すると命題になる」「『十分条件』『必要条件』という語は命題でなく『条件』すなわち述語に対して用いるべき」などのアイデアも,学生時代に本橋先生の授業で学んだものです.

それで,述語を前面に出すとなると,自由変数と束縛変数の考えも説明しないといけない,命題の意味値が T/F なら述語の意味値は「真理集合」であるべき,真理集合を扱うとなると全体集合としての「変数の変域」の考えが必要になる… というふうに,説明しなければならないことが芋蔓式に出てきて,それらをなんとかまとめて教科書的記述に落とし込んだのが第3章「述語と真理集合」というわけです.
そういう意味で,私の本の述語論理の説明は「必然的にそういう筋書きになった」という感じで,新しいわけでも,きわだって独特なわけでもなく,「斬新」と評されるのは予想外でした.

もっとも,「なんで今までこういう論理の本を誰も書かなかったの?」という思いはあって,その意味では「独特で新しい」本となっているのでしょうが…

数理論理学―使い方と考え方:超準解析の入口まで/江田勝哉

2010-05-08 | アカデミック
数理論理学―使い方と考え方:超準解析の入口まで/江田勝哉著/内田老鶴圃
Amazon.co.jp
内田老鶴圃
ついに数理論理学の本が出版できた(著者による紹介)

出版社から職場に届いたダイレクトメールで知りました.
まだ本の内容は見ていませんが,この本で学部4年の卒研ゼミをやってみたい気がします.

集合論の(集合知ならぬ)集合愚

2010-05-02 | アカデミック
次の集合は可算集合ですか?不可算集合ですか? 1000以下の自然数の集合から集合{...(Yahoo! 知恵袋)
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次の集合は可算集合ですか?不可算集合ですか?
1000以下の自然数の集合から集合{0,1}へのすべての関数
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これはひどいです.正解が提示されているのにスルーされて,駄目な回答がベストアンサーに選ばれています.

もちろん,質問者が { 0, 1 } と表記した集合が実は実数直線の閉区間 [ 0, 1 ] の誤記であった可能性はありますが,そうであれば,まずその誤記を指摘して,答えようとする問いを正確に確定してから答えるのが当然です.

今年度は学部2年次の授業で(時間の余裕があれば)可算集合に言及しようと思っていますが,この問答をレポート課題として出題しようかな…

祝日改正法案とエコを考える,あるいは「当世大学研究費事情」

2010-03-13 | アカデミック
祝日改正法案とエコを考える……以前に実現可能なの?(NIKKEI NET:一斗ちゃんのエコ噺(山内史子))

次の話題だけに注目してブログしておきます(カテゴリを「アカデミック」にしておきます).
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先日、某国立大学の環境系学部で働く友人から研究費を聞いて、わたくしはぶっ飛んだ。ホルモン焼き屋で一杯やっていたのだが、カシラの大きな塊が喉につまって咳き込んだ。なんと年間の予算が、一般の月給並なのだ。結果として、身銭を切ることもあるという。2004年4月に法人化されて以降、どこも似たような状況なのだそうだ。「国立」は、看板のみ。1年に数十万、しかも光熱費や電話代も引かれてしまうというのに、いったいなにすりゃいいのよ。
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集合と論理

2010-03-11 | アカデミック
ウェブで大学のカリキュラムやシラバスをいろいろ調べていると,「集合と論理」という題目の授業を設定している大学が,私の予想よりかなり多いことに気づきました.そこで,ちょっと情報を集めてみました.

まだ見つかると思います.随時追加します.

授業名がズバリ「集合と論理」
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学習院大学
京都産業大学
龍谷大学(シラバス見当たらず)
群馬大学(シラバス見当たらず)
電気通信大学(サイエンス学系数学コース)
弘前大学(シラバス見当たらず)
大阪府立大学

信州大学(2010年は見つからない)
北海道教育大学(2010年は見つからない)
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授業名が似ている,または内容が似ている(と思われる)科目
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数学と論理:慶応義塾大学・湘南藤沢
自然科学入門(数学):岡山大学
集合入門:茨城大学
数学入門:広島大学
数学基礎数学基礎セミナー:九州大学
数学入門演習:関西学院大学
数学入門・数学入門演習:立教大学
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(追記:2010年8月7日)

COE

2010-03-09 | アカデミック
…といっても,これとかこれじゃなくて…

野球やサッカーの総当たり戦のスケジュールを計画する問題(スポーツスケジューリング)で考慮すべき要素として,COE=carry over effect という概念があります.強豪チームと対戦したチームは激戦ゆえ選手の疲労や故障を次の試合に持ち越してしまうので,「強豪チームと対戦した直後」の状態にあるチームの対戦相手は有利になる,というわけで,そのような有利不利の要因(carry over effect)が分散されている,つまり「特定チームと対戦した直後のチーム」の対戦相手の偏りが少ないスケジュールが公平性の高いスケジュールであると考えられています.

4月に大学院でオムニバス集中講義が行われ,学生は数学・情報科学・融合領域の多くのトピックの授業を連続して受講することになっています.私は融合領域の担当の一人として3回授業を担当します.
で,時間割を見ると,私の担当は3回とも「数学」の直後! ほとんどの学生は情報科学出身で数学を苦手としているので,私は数学の carry over effect をまともに受けて,疲弊した学生を相手に授業しなければなりません.スポーツなら相手が疲れているのは有利ですが,学生に理解してもらうための授業となると…

この手の問題は,学校(小中高)の時間割で「体育の直後」とかでも起こりそうですけど,どうなんでしょう.