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Boise on my mind

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日本数学会:「大学生数学基本調査」に基づく数学教育への提言

2012-02-24 | アカデミック
とりあえずメモ.

日本数学会:「大学生数学基本調査」に基づく数学教育への提言

以下,思いつくままに書きます.

-- 平均についての問題は,「身長」という問題設定があまりよくなかったのでは.正規分布に近い分布だと,結果として平均値に近い値の相対頻度が高くなる蓋然性が高いので,○をつけたことを単純に「論理性がない」と切り捨ててよいものかどうか.(使い古されたネタではあるが)会社の給料とか,明らかにいびつな分布で問題を設定したら違う結果になったかもしれない.

-- 命題論理の問題は,公務員試験に出されている問題と同じレベル(むしろそれより難度が高いような…問題文に否定語の使用頻度が高いので混乱しやすい)で,決して「できて当たり前」ではない.これに短時間で正答することを期待するのはむしろ「厳しい」.実は公務員試験でも正答率は大差ないのでは.

-- 放物線の問題は,何を「重要な特徴」として指摘すべきか,数学者ですら迷う.

-- 作図(線分の3等分)は,そもそも覚えていないと,短時間で「その場で思いつく」のは難しいと思う.報告書には「ほとんどの中学3年数学教科書で取り上げられている」とあるが,大学生にそれを思い出せることを期待するのは無理では?

-- 私自身が担当している「集合と論理」という授業の学生アンケートで「数学というより国語の授業のように思えた」という回答があった(もちろん私の思いは「まさにその通り!」ですが).この調査の設問はもっと徹底して「国語力を問う」ものになっていて,
「なかなかやるな」と思うと同時に「やっぱり数学力・論理的思考力の根底は国語力」ということを再認識させられた.たぶん,「数学力の根底は国語力」という意識が小中高の算数・数学の教育現場にないことが問題なのだと思う.

-- 全体として,この調査結果が語るのは「小中高の数学教育が『機能不全』に陥っている現状」であって,実際,日本数学会もそのように総括している.でも,世間ではたいがい「大学生のだらしなさをなじる」方向に曲解されるんだろうなぁ…

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(追記)
あらためて調査の設問を吟味してみると,なんというか… 調査の主体に属する特定の人の個性というか主義主張(悪く言えば「偏見」)というか,そういう偏りが設問ににじみ出ているような気がしなくもありません.日本数学会の名のもとに行った調査として,また,日本数学会の権威を借りて記者発表した結果報告および提言として,バランスというか客観性というか「公正さ」が十分に確保できていたかというと,ちょっとねぇ…

sinθ ≦ sin(θ1) + sin(θ2)

2012-02-16 | アカデミック
タイトルだけでは意味不明になってしまいますが,問題は次のとおり.

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R^3 の0でないベクトル a,b,c を任意にとり,
a,b のなす角を θ1
a,c のなす角を θ2
b,c のなす角を θ
で表す.このとき,不等式
sinθ ≦ sin(θ1) + sin(θ2)
が成り立つことを証明せよ.
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3つの角 θ, θ1, θ2 が「3つの空間ベクトルの2つずつがなす角」という関係になっているところがミソです.そのことさえ頭においておけば,高校数学の知識で解ける,ちょっと気の利いたパズル的問題です(数学的論法の運用能力を試す問題と言ってもいいかも).

解答は後日コメントに記します.

センター試験トラブルは「不手際」「失態」か?

2012-01-21 | アカデミック
世間ではいろいろ騒がれていますが,関係者から漏れ聞いた話としてちょっと.

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試験監督者(に限らず試験実施側)に何の落ち度もなくても,試験開始の遅延は起こる.実際,ある試験室では,地歴・公民の問題を配っている最中に,受験者から想定外の質問が続出して対応に追われたため,開始が10分遅れて,報道機関には「試験トラブル」の件数にカウントされた.しかし,質問の多くは「受験者自身が科目選択の制度を理解していない」ことを露呈するもので,受験者に正確な情報が周知されていないことは明らかに現場の試験実施者の責任外(大学入試センターの責任)である.そういう原因による遅延まで「監督者の失態」といわんばかりに報道されてはたまったものではない.
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なお,センター試験の実施マニュアルでは,問題の配付に予想外に手間取るなどの理由で試験開始が遅れることは,当然発生しうる事象として想定済みで,遅延が生じた場合の取り扱い方法は細かく取り決められています.特に,リスニング試験は開始前のハプニングの可能性が高いので,マニュアルや現場での研修でも,監督者に「試験室ごとの判断で5分単位で遅らせてよいので,慌てず確実に手順を実施すること」と周知しています.

教科書参考書採用ウォッチング:東邦大学理学部情報科学科

2012-01-15 | アカデミック
東邦大学授業概説(シラバス)2011年度

456ページ,「情報数理IB」で参考書としてご採用いただいています.まいどありぃ.

授業計画を見ると,各回の授業内容説明が拙著16章のうち13章分の章の表題そのまま,しかも本の順番通りです(抜けているのは4,5,8章で,まぁ,たしかにそのへんは1時間かけなくても…という内容).
特筆すべきは6章「述語と数学的論証」をとばさずに扱ってくれていることで,うれしいです.

それにしても,拙著まえがきでは
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一般的な大学の通年科目(90分授業30回)であれば,本書のすべての章を順番通りに授業することも可能でしょうが,半期科目(90分授業15回)の場合…(中略)…いくつかの章を選び出して授業を構成するとよいでしょう.
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と書いたのですが,まさか15回で(ほぼ)全部授業するとは…

x > y であることは √x > √y であるための何条件か?

2011-10-20 | アカデミック
タイトルのとおりの質問を某質問サイトで見かけ,長文の回答を書こうとしたら,回答を書いている間に解答受付が締め切られて,回答できませんでした.

締め切られる前に3件の回答が投稿されていましたが,それは私にとっては非常に不満なものでした(だからこそ回答を試みたのですが).3件の回答の趣旨はほぼ共通で「後者の条件には暗黙的に x, y が0以上という条件が付加されるので『必要条件(だが十分条件でない)』が正解」というものでした.

腹の虫がおさまらないので,用意した回答をここに載せます.

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(質問)
x>yであることは√x>√yであるための何条件か?

という問題で答えは必要条件なのですが何故だか分りません。
分かる方いらっしゃいましたら教えて下さい。お願いします。
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(用意していた回答)
この問題は,変数 x, y の変域(とりうる値の範囲)について明示的な指定がどこにもないとすれば,問題の欠陥であって,出題者が非難されるべきです(実は変域の指定がどこかに書かれていて質問者さんがその部分を質問文に含めなかったとしたら、質問者さんの落ち度です).

《考察1》 一般に,変数を含む2つの条件が書かれているとき,それらの間の必要条件,十分条件という関係は,「その条件を論じている文脈」(変数の取りうる値の範囲や,条件に出現する用語や記号の解釈)が定まっていないと判断できません.
たとえば,「x > 3 であることは x ≧ 4 であることの何条件か?」という問いに対して,x のとりうる値の範囲が自然数全体なら「必要十分条件である」が正解ですが,x のとりうる値の範囲が実数全体ならそうではありません.

【帰結1】 考察1だけを考慮するなら,質問文中の問題は「数学の試験問題として不適切であり,正解が何かを議論するのは無意味」といえます.

《考察2》 ただし,数学における慣習として,「変数の変域が明示されていない場合,その変数が使われている式や文が『意味を持つ』ように,かつ,なるべく広く,推定して解釈する」ということがしばしば行われます.
x > y という式は不等号が使われているので,「大小関係」が意味を持つ,なるべく広い数の範囲となると,x, y の変域は実数全体と推定するのが妥当です.
√x > √y という式になると,両辺が実数でなければならないことから,x, y の変域としては0以上の実数全体を考えるのが妥当です.x, y に負の実数や複素数を代入したとしたら,「その式自体が意味を持たなくなる」(真か偽かを議論することすらできなくなる)と考えるべきです.

《考察3》 2つの条件の間の必要条件・十分条件という関係を議論するにあたっては,変数の変域は「狭いほうに合わせる」(正確には,両方の条件が意味を持つ範囲に設定する)のが当然でしょう.代入される値によっては一方の条件が意味を持たなくなる(真か偽かを議論することすらできなくなる)ようなセッティングで,必要条件だの何だの言うのは奇妙です.
言い方を変えれば,「x > y」「√x > √y」という2つの条件を『同一の文脈で』扱おうとするときに,後者にだけ恣意的に変域の制約を追加するのはおかしいのです.変数の変域というのは,議論を始める前提として,文脈全体の外側で決まっていなければならないもので,「x > y」と「√x > √y」を『同一の文脈で』扱うのなら,変域の制約としては,「狭いほう」である「x, y の変域は0以上の実数全体」という制約を『文脈全体に』適用すべきです.

【帰結2】 考察2および考察3により,「x > y であることは √x > √y であるための何条件か?」と問われたときに,この問いが意味を持つように変数 x, y の変域を推定するとしたら,「0以上の実数全体」を x, y の変域と推定するのが最も妥当です.この推定を前提とするなら,「必要十分条件である」が正解となります.

(最後に,私の意見) 最初に述べたとおり,これは問題そのものが悪問であって,出題者は非難されるべきだと考えますが,同時に,こういう悪問が作られる背景として,高校までの数学での集合や論理の扱いが「いいかげん」であることを批判すべきだと思います.
たとえば,高校数学では,「条件を扱うときの変数の変域」について,ものすごく粗雑に扱われています.私に言わせれば,たとえば,問題文のどこかに log x という式を書いておいて解答者に「真数条件より x > 0」などと書かせるなどというのは最悪です.log x という式を問題文中に書こうとする出題者の側が,解釈が破綻しないように,問題の最初に「x は正の実数とする」と明示的に宣言して,x > 0 という制約が文脈全体に適用されるようにしておくのが当然でしょう.
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(追記)同じ質問投稿サイトに,こんどはこんな質問が.

a,b,cを正の数とし、a+b>cを仮定する。このときa,b,cを三辺の長さにもつ三角形が存在するための必要十分条件は、仮定のもとでは a+c>bかつb+c>aである論理がわかりません。どなたかぜひわかりやすい解説をお願いいたします!

…必要性は簡単だけど,十分性は? 事実としてはそうだけど,明らかとはいえないような.それをわかって回答する人はいないだろうなぁ… まぁ,ほっときます.


数学のテストの問題の「求めよ」

2011-07-31 | アカデミック
べつに誰からも問われてはいませんが,見解を書いておきます.

て日々 - 2011年7月29日(金)
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数学のテストの問題の決まり文句「求めよ」が嫌いだ。テストにおいて何かを「求めて」いるのは出題者であり、解答者はその求めに応じて解答を「与え」なければならない。「求めなさい」なんて要求があるものか。おそらくは文語の「求む」が口語に置きかえられる過程で何かが捩れてしまったのだろう。
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この意見は,数学のテストで「求む」なり「求めよ」というときの「求」の字をもっぱら「要求」「請求」の意味に解釈することが前提になっています.言い方を変えれば,「求める」とは「出題者が解答者に(解答を)差し出すよう命じる」,という解釈です.

ところで,「求」という字には,「希求」「探求」「追求」などのように,「手に入れようと(あるいは,見出そうと)欲して努力する」という別の意味もあります.この意味での「求める」の対象は,人ではなく,「探す範囲」あるいは「可能性の世界」です.
て日々で言及されている,和算での「求積」の用法も,「希求」「探求」「追求」などの「求」だと思えば,納得がいきます.

数学のテストという文脈での「求める」を,「出題者が,解答者に請求する」という意味でなく,「解答者が,数学知識の世界の中を探って見出す」という意味に解釈すれば,「求めなさい」という言葉遣いに難癖をつける理由はなくなるはずです.

震災で科学研究費補助金3割カット? 通知で学者ら混乱(asahi.com)

2011-07-15 | アカデミック
震災で科学研究費補助金3割カット? 通知で学者ら混乱(asahi.com)

この記事は舌足らずで,日本学術振興会が「7月時点では7割入金」だけでなく「今後減額の可能性あり」と同時に通知していることに言及していません.

現時点で想定しうる今後の可能性としては,理論的には

(1) 今後,年度内に残りの3割が入金される(当初予算通り執行)
(2) 今後,年度内に3割より少ない金額が入金される(減額幅3割未満)
(3) 今後は入金されない(減額幅3割)
(4) 予算が3割を超えて削減され,年度内に一部の金額の国庫返納を求められる(減額幅3割超)

があるわけです.
もっとも,さすがに(4)はないと思いますが…

記事の論調は「(3)で決定済みと早とちりしている研究者が多く,混乱している」という立場ですが,それは「半分あたり,半分はずれ」ぐらいだと思います.たしかに,現時点で(3)と決まったわけではありませんが,日本学術振興会が(2)または(3)の可能性を示唆しているという事実があって,そのことに記事が言及していないのは問題があります.研究者たちの混乱の原因は「(1)(2)(3)のどれになるのかわからず,どう研究を進めてよいかわからない」という先行きの不透明さにあるのです.

研究機関としては,(2)(3)の可能性が示唆されている以上,研究者に対して7割を超えた経費執行に待ったをかけるのはしかたないでしょう.

座長のパラドックス

2011-07-11 | アカデミック
対角線論法がらみで授業中に話した小ネタ.
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学生20人,教員5人で合宿研修に行った.
合宿の最後に,学生と教員の全員が成果発表のスピーチを行うことになった.
そこで,発表会のプログラムを作る必要がある.
プログラムの作り方は次のように決めた.

-- 5人ずつ,5つのセッションに分ける.
-- セッションごとに座長(司会進行役)を決める.

座長の選び方は,次のように決めた.

-- 座長は教員でなければならない.
-- セッションの発表者は,そのセッションの座長になれない.

プログラムの編成を任されたKさんは,とりあえず発表者をセッションに分けることを考えて,座長はあとで決めることにしたが…

「あ,教員がちょうど5人いる,それなら教員は1つのセッションにまとめて『教員セッション』を作っちゃえ!」

と思いついて,5つのセッションのうちの1つに教員全員を集めてしまった.

さて,「教員セッション」の座長は,誰にすればよい?

教科書参考書採用ウォッチング:熊本大学教育学部

2011-07-04 | アカデミック
コンピュータ理論 - 熊本大学シラバス

ありがたいことに,例の本を,「参考文献のどちらか一つを購入することが望ましい」の参考文献2冊のうちの1冊として推薦してくださっています.
教育学部(の,たぶん数学教職コース)で,3年次後期・選択となっています.
授業内容との重なりをみると,例の本は授業計画の半分ぐらいカバーできてるかな… という感じです.

「結び目理論」をゲームに 数学知識不問 大阪市立大学 (asahi.com)

2011-06-17 | アカデミック
「結び目理論」をゲームに 数学知識不問 大阪市立大学 (asahi.com)
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清水さんや河内明夫教授らが開発したのは「領域選択ゲーム」。ひもの輪が絡まったような曲線の図形を使う。輪のように両端がつながった線で、一筆書きで描ける図形なら、どんなに複雑でも必ずクリアできる。それを清水さんが「結び目理論」で証明した。
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おもしろい!
昔あったLightsOutというゲームの派生と考えると理解しやすいかも.

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(追記)
結び目理論を応用した領域選択ゲーム(大阪市立大学数学研究所)

「です/ます」ですが,何か?

2011-05-11 | アカデミック
て日々 - 2011年5月9日 より
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だけど、文章のスタイルの話については、やっぱり「なんでやねん」と言いたくなった。「です/ます」を使わず「だ/である」を使えとか、感覚的な「ざらざらしている」といった表現を言わずに、同じことでも「表面は顆粒状の微細な起伏に富んでいる」と言えとか。そう言わないと通用しないことはおそらく事実だし、「シキタリだから」と言ってくれればまだいい。けれども「です/ます」をやめて「だ/である」を使うことまで「論理的な表現のため」と理由づけするのは、かえって論理を欠いておりはせんか。…
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はははっ,例の本もそうですが,それより何より,当のご本人のこの本だって,定義・定理・証明などを除いた「地の文」は「です/ます」で統一されています.もちろん,どちらの本も,「論理的な表現」は徹底して貫かれています!
(同僚に「数学教科書で『です/ます』とは珍しい」と言われたことはありますが…)

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(追記)そういえば,この本も「です/ます」ですね.


教科書参考書採用ウォッチング:東京都市大学

2011-04-26 | アカデミック
まいどありぃ.
東京都市大学環境情報学部の「情報数学」(1年後期:大谷紀子先生)で,例の本を参考書指定してくださっています.
教科書指定ではありませんが,「教科書なしの参考書」の扱いなので,ありがたいです.

授業計画を見ると,例の本との相性がわりとよさそうな授業内容です.カバーできていないのは,命題論理の推論,述語論理の推論,情報量とエントロピー,誤り訂正といったところ.